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「っはぁ…!…は、…くそ、またか…、」
大シマロンの王都。
悪夢で目が覚めたコンラートは、重たい上半身を持ち上げて汗でぐっしょり濡れた髪をかき上げた。
こうして魘されて夜中に起きるのは、もう何度目だろう。
毎晩、同じ夢を見る。
はじめは血盟城から程近い丘。よくフローレンスを馬に乗せて訪れた場所だ。足元には花が咲き、心地よい風が通り抜ける。鈴の音のような笑い声。手を伸ばせばいつでも届く距離にいる。
名前を呼ばれて振り返ると、隣にいたはずのフローレンスが居ない。
辺りを見回せば眼前に広がるのは荒れ果てた大地と、砂埃と、死屍累々。20年前、戦場で見た地獄そのものだ。
コンラートはフローレンスを必死で探す。何処だ、無事なのか。
ふと自分の姿を見ると、手には血の付いた剣、身に纏うのは大シマロンの軍服。どうして俺がこんな物を着ているんだ。
「コンラート、どうして…!!」
胸を突き刺すような悲痛な声。
声の方を見ると、フローレンスが俺の千切れた腕を抱きしめて泣きじゃくっている。
「フローラ!」
駆け寄ろうとするが、脚がまるで地面に根を張っているかのように動かない。
「俺はここだ!生きてる!」
どれだけそう叫んでも、彼女には届かない。
その時、足元が急に崩れ始める。
「フローラ!フローラ!」
叫びながら、コンラートは暗く深い谷底へと堕ちていく。夢とは思えないそのリアルな感覚で、いつも飛び起きるのだ。
夢で見た彼女の姿が、目が覚めた後もしばらく頭から離れない。華奢で、繊細で、いまにも壊れてしまいそうな。
いや、あれは現実なのかもしれない。事実、あの場所に片腕だけを残して、俺は忽然と姿を消したのだから。
「フローラ、すまない、すまない…」
辛い思いをさせるくらいなら、何故あの日あんな約束をしてしまったんだろう。
ベッドサイドに置かれたテーブルに手を伸ばす。
あの日、指輪のお礼にとフローレンスがくれた懐中時計だ。チッチッと小さな音を立てて、今も正確に時間を刻み続ける。
一緒に居られたら、どんなに幸せだっただろう。今頃きっと抱き合って眠っていた。
コンラートはそれを手のひらで抱きしめて、横になる。鼻を近づければ、彼女がいつも付けていた香水が、金属の匂いに混じって微かに香りを放つ。
それを掻き集めて、頭の中で彼女の姿を模るのだ。柔らかい肌を。滑らかな髪を。美しい瞳を。指を。唇を。記憶している全てを。
自分から行方をくらましておいて、情けないのは自覚している。だが、毎夜悪夢に魘され眠れない日々が続き、こうして頭の中の彼女に縋らないと精神がもたない。
「フローラ…。」
呼んでも呼んでも、彼女には届かない。
それでもその名を声に出さずにはいられない。
やがて窓の外がうっすらと白み始める。
結局今夜もまともに熟睡できぬまま、朝を迎えた。
コンラートはゆっくりと起き上がり、シャツを羽織ると時計のチェーンをベルトに通してポケットに仕舞った。
振り返ってはならない。
国のため、誇りのため、そして彼の理想のため。眞王陛下からこの身に与えられた宿命を、果たさなければならない。
ただ、フローレンス、俺は君を愛してしまった。
想いを告げてしまった。
この先もずっと共にいようと、約束してしまった。
どうかいっその事、俺を憎んでくれたら良い。憎んで恨んで、あんな身勝手な男などもう知ったことかと忘れてくれれば良いけれど、優しい君にそんな事ができるはずがない。
時間が解決するだろうか。
辛い想いをさせて、すまない。
部屋のドアをノックする音が、コンラートを現実に引き戻す。ベラール直属の臣下が呼びに来たのだろう。
「おはようございます、ウェラー卿。陛下がお呼びです。」
「分かった。直ぐに行く。」
行かなければ。”陛下”の元へ。
コンラートは部屋を出る直前、ほんの一瞬だけベッドを振り返るとそっと瞼を閉じて、誰にも聞こえぬ声で「おやすみ」を告げる。
それは、後悔と願望が見せた、あまりにも優しい幻だった。
大シマロンの王都。
悪夢で目が覚めたコンラートは、重たい上半身を持ち上げて汗でぐっしょり濡れた髪をかき上げた。
こうして魘されて夜中に起きるのは、もう何度目だろう。
毎晩、同じ夢を見る。
はじめは血盟城から程近い丘。よくフローレンスを馬に乗せて訪れた場所だ。足元には花が咲き、心地よい風が通り抜ける。鈴の音のような笑い声。手を伸ばせばいつでも届く距離にいる。
名前を呼ばれて振り返ると、隣にいたはずのフローレンスが居ない。
辺りを見回せば眼前に広がるのは荒れ果てた大地と、砂埃と、死屍累々。20年前、戦場で見た地獄そのものだ。
コンラートはフローレンスを必死で探す。何処だ、無事なのか。
ふと自分の姿を見ると、手には血の付いた剣、身に纏うのは大シマロンの軍服。どうして俺がこんな物を着ているんだ。
「コンラート、どうして…!!」
胸を突き刺すような悲痛な声。
声の方を見ると、フローレンスが俺の千切れた腕を抱きしめて泣きじゃくっている。
「フローラ!」
駆け寄ろうとするが、脚がまるで地面に根を張っているかのように動かない。
「俺はここだ!生きてる!」
どれだけそう叫んでも、彼女には届かない。
その時、足元が急に崩れ始める。
「フローラ!フローラ!」
叫びながら、コンラートは暗く深い谷底へと堕ちていく。夢とは思えないそのリアルな感覚で、いつも飛び起きるのだ。
夢で見た彼女の姿が、目が覚めた後もしばらく頭から離れない。華奢で、繊細で、いまにも壊れてしまいそうな。
いや、あれは現実なのかもしれない。事実、あの場所に片腕だけを残して、俺は忽然と姿を消したのだから。
「フローラ、すまない、すまない…」
辛い思いをさせるくらいなら、何故あの日あんな約束をしてしまったんだろう。
ベッドサイドに置かれたテーブルに手を伸ばす。
あの日、指輪のお礼にとフローレンスがくれた懐中時計だ。チッチッと小さな音を立てて、今も正確に時間を刻み続ける。
一緒に居られたら、どんなに幸せだっただろう。今頃きっと抱き合って眠っていた。
コンラートはそれを手のひらで抱きしめて、横になる。鼻を近づければ、彼女がいつも付けていた香水が、金属の匂いに混じって微かに香りを放つ。
それを掻き集めて、頭の中で彼女の姿を模るのだ。柔らかい肌を。滑らかな髪を。美しい瞳を。指を。唇を。記憶している全てを。
自分から行方をくらましておいて、情けないのは自覚している。だが、毎夜悪夢に魘され眠れない日々が続き、こうして頭の中の彼女に縋らないと精神がもたない。
「フローラ…。」
呼んでも呼んでも、彼女には届かない。
それでもその名を声に出さずにはいられない。
やがて窓の外がうっすらと白み始める。
結局今夜もまともに熟睡できぬまま、朝を迎えた。
コンラートはゆっくりと起き上がり、シャツを羽織ると時計のチェーンをベルトに通してポケットに仕舞った。
振り返ってはならない。
国のため、誇りのため、そして彼の理想のため。眞王陛下からこの身に与えられた宿命を、果たさなければならない。
ただ、フローレンス、俺は君を愛してしまった。
想いを告げてしまった。
この先もずっと共にいようと、約束してしまった。
どうかいっその事、俺を憎んでくれたら良い。憎んで恨んで、あんな身勝手な男などもう知ったことかと忘れてくれれば良いけれど、優しい君にそんな事ができるはずがない。
時間が解決するだろうか。
辛い想いをさせて、すまない。
部屋のドアをノックする音が、コンラートを現実に引き戻す。ベラール直属の臣下が呼びに来たのだろう。
「おはようございます、ウェラー卿。陛下がお呼びです。」
「分かった。直ぐに行く。」
行かなければ。”陛下”の元へ。
コンラートは部屋を出る直前、ほんの一瞬だけベッドを振り返るとそっと瞼を閉じて、誰にも聞こえぬ声で「おやすみ」を告げる。
それは、後悔と願望が見せた、あまりにも優しい幻だった。
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