2018~2020
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【無垢が白無垢でやってきた】
・哀絶 ほのぼの
・人間で幼女な夢主
「なにしてるの?」
血生臭い事を終え、投げられた幼気な声へ目を向けた。
そこに居たのは、女童。
――久方ぶりに本体から離れられたは良いが、哀しい程弱い相手で。
あっさりと事が終わり、拍子抜けしていたところであった。
鬱蒼とした山奥、茂みの向こうからそっと出てきた人影。
古びも新しくも無い寝間着の裾を握って、十も満たない娘が現れ、あどけない目を向けてきた。
怯えもしない態度で呆けた顔でじっと見てくる。
他の連中――可楽についている積怒と、飛ばした鬼狩りを追いかけた空喜――がこの場に居れば、怯えもしただろうか。
槍を持つ男が、角のある顔を向けた時点で怯えてもおかしくはないとは思うのだが。
怯えられ、がなられればこちらが哀しくなってくるのも簡単に予想はついていたから言わぬが花。
まだ細く短い脚を跳ねさせ、儂へ向かって距離を近付けてくる女童を見下ろし、様子を見た。
「こんな宵闇時の森で何をしておる」
「お兄さん、お耳長いねぇ」
「……それよりもっと気になるとこはありはせんのか……?」
こちらの問い掛けに全く違う質問で返されるのは幼さ故の未熟さか。
不意を取られるような言動をされるのは面倒だとは思ったがどうせ子供のすること。
気にする物ではないと無理矢理に話を続ける。
「童一人で何をしておる」
言葉を換えて、同様の質問を繰り返した。
童が居心地悪そうにうつむき、上目使いで見てくる。
叱られるとでも思っているのか、今度はまともに返してくれるようだ。
「森で騒がしい音がしたからつい」
「親は」
「家で寝てると思う!」
「とんだじゃじゃ馬のお転婆だの……嫁に行けぬぞ」
ころころと変わる表情に少々呆れる。
眉を下げていたというのに返事だけですぐに瞼を笑ませる。
幼さの特権を活用しているのか、移った興味のまま喋り出して……
……儂も律儀に付き合う必要は無かろうにと内心過った。
「角あるねぇ 鬼みたいねぇ」
「言い得て妙じゃ。よく怖がらないものだ。
ある意味見所があると言えなくもない童だのう」
「鬼なの?」
「そうだ。そんな近寄るものでない。無垢とは哀しいのう……喰ろうてしまうぞ」
内心に過れど、たった一人の童。気にする必要も無いと思った。
現に脅かしてみても、笑ったまま首を傾げている。
わかっておらんのか。
器量は悪くないというのにこんなにも人懐っこいとは。
利点と言えばそれまでだが、これはこれで碌な目に遭わんだろうな。
ままならぬ物だの。哀しいことだ。
哀れで愚かな。せめて一瞬で殺してやろう。
槍を使うまでも無い。頚を掴むだけでも。爪で裂くだけでも。
こちらから枯れた葉を踏みならし、おもむろに近付いていく。
ぼやけた顔を釣られるように儂へ向け、首を真上へもたげるほど近付いた頃に、童は眉を下げた。
「……悲しそうなお顔。大丈夫?」
「……お前の方がよっぽど哀しい顔をしているように見えるが」
全く持って度し難し。
己の目尻も眉も下がった顔を指摘されるとは思いもせなんだ。
分裂した時からこのような顔だというのに。
子の気分ままに振り回されるようで、どうも歯痒い。まさか心配を掛けられるとは。
……毒気が抜かれてしまった。
まぁ、良い。柔い肉も悪くは無いが、量の多い大人の方が効率が良いのは確かだ。
匂いからして特別な血というわけでもない。
ならばたかが小さな童を喰う必要も無いだろう。
溜め息を吐いて、槍を手放す。
細胞が崩れ、消失していく槍を見やれば、視界の端に童の驚いた顔。
「どうした」と聞けば、「すごいね!」なぞ無邪気に言う。
本当に哀しいほどに愚かしい。無垢が過ぎるのにも程がある。
「槍、どうしたの? なんで槍なんてもってたの?」
「野蛮な連中に追い回されてな……もう必要無い」
「だ、大丈夫なの? 鬼さん、怪我してない?」
「いらぬ世話じゃ。それと……儂は、哀絶じゃ」
むず痒さに名乗る。気紛れというのもあったが、
回りくどい上に鬼と雑に呼ばれるのは、どうも鬼狩りの連中のようで良い気もしない。
「あいぜつ さん?」幼い声はそっくり繰り返し、そして下げた眉のまま話続ける。
「私はひまり。哀絶さん、危ない人はもう大丈夫?」
ああ、と頷いてやれば、なら良かったと笑う。むず痒い。
大概、怯えられてばかりで、怒鳴られてばかりで。
気にはならんが哀しくなるのは性(さが)というもの。
未だに続く自らの気紛れのまま、頭を撫でるという行為を行った。
返されたのは無垢な笑みであった。
儂が駆り出されるのは戦場(いくさば)。このような笑みを向けられたことは無い。
……恐らく、人の頃の本体もだろう。
「そろそろ、行かねばならんな……」
手を下ろして誰に向けるでもなく小さく呟く。
独り言に「ええっ」と困惑の反応をされればこちらも参る。耳聡いのう。
しかし、行かねばならぬのは事実。
早く行ってしまわんと、積怒らが戻ってくるだろう。
そうすれば、可楽や空喜もついてくる。
仔鼠のような童――ひまりを、弄り殺してもおかしくない。
せっかくの気紛れなのだ。このまま続けてしまえ。
今、死なれては締まりが悪く、哀しくなるのが我ながら目に見えた。
「怒鳴り散らす奴も居れば、楽しみながら追い回すのも、暴れ喜ぶのも居てな
家に帰って藤でも焚くと良い……あるかは知らんが」
「ええと……無いと思う。うん」
「なら、仕方あるまい 気を付けて帰れ」
他の連中がどこ行ったか大体把握はしている。
運が悪くなければ儂の方が先に遭遇するだろう。ならどうとでもなる。
身を翻し、その場を去ろうとすれば呼び止められた。
「もういっちゃうの?」惜しむ声だ。
「言うたろう。仕方あるまい」
「哀絶さん、また会える?」
「儂はいつ出てこれるかわからぬからな……
次会ったとしても、お前が媼(おうな)になっているかもしれんの」
「うーん……」
「まぁ次会った時にでも考えれば良い事柄じゃ」
もう二度と会うことは無いかもしれんが、とまでは言わないでおいた。
出てこられたとしても、会える場所とも限らない。
その時にはひまりが死んでいるのも在り得る話だ。
そんなことは露とも思っておらんであろう顔で、ひまりは儂へ手を振った。
「またねー!」
去ろうとした儂の足が、動きを止める。
何か返すべきかと瞬く間に考えてしまい、咄嗟に拙く声を出した。
「……また、の」
そういえば、またなど言うのは初めてだ。
「そういえば そんなこともありましたねぇ」
「とって喰われんとも限らんのに、よく寄ってくるものだと思うたわ」
「今なら考えられませんね……子供心はわかりません。何を考えていたのやら」
「昔のお前のことじゃ」
「ふふ 哀絶さんがあまり怖くなかったのかな」
「言うてくれるの、ひまり」
まさかたかだか十五年で再会し、後々添うことになるとは
儂も考えせなんだ。
執筆2019/02/02
・哀絶 ほのぼの
・人間で幼女な夢主
「なにしてるの?」
血生臭い事を終え、投げられた幼気な声へ目を向けた。
そこに居たのは、女童。
――久方ぶりに本体から離れられたは良いが、哀しい程弱い相手で。
あっさりと事が終わり、拍子抜けしていたところであった。
鬱蒼とした山奥、茂みの向こうからそっと出てきた人影。
古びも新しくも無い寝間着の裾を握って、十も満たない娘が現れ、あどけない目を向けてきた。
怯えもしない態度で呆けた顔でじっと見てくる。
他の連中――可楽についている積怒と、飛ばした鬼狩りを追いかけた空喜――がこの場に居れば、怯えもしただろうか。
槍を持つ男が、角のある顔を向けた時点で怯えてもおかしくはないとは思うのだが。
怯えられ、がなられればこちらが哀しくなってくるのも簡単に予想はついていたから言わぬが花。
まだ細く短い脚を跳ねさせ、儂へ向かって距離を近付けてくる女童を見下ろし、様子を見た。
「こんな宵闇時の森で何をしておる」
「お兄さん、お耳長いねぇ」
「……それよりもっと気になるとこはありはせんのか……?」
こちらの問い掛けに全く違う質問で返されるのは幼さ故の未熟さか。
不意を取られるような言動をされるのは面倒だとは思ったがどうせ子供のすること。
気にする物ではないと無理矢理に話を続ける。
「童一人で何をしておる」
言葉を換えて、同様の質問を繰り返した。
童が居心地悪そうにうつむき、上目使いで見てくる。
叱られるとでも思っているのか、今度はまともに返してくれるようだ。
「森で騒がしい音がしたからつい」
「親は」
「家で寝てると思う!」
「とんだじゃじゃ馬のお転婆だの……嫁に行けぬぞ」
ころころと変わる表情に少々呆れる。
眉を下げていたというのに返事だけですぐに瞼を笑ませる。
幼さの特権を活用しているのか、移った興味のまま喋り出して……
……儂も律儀に付き合う必要は無かろうにと内心過った。
「角あるねぇ 鬼みたいねぇ」
「言い得て妙じゃ。よく怖がらないものだ。
ある意味見所があると言えなくもない童だのう」
「鬼なの?」
「そうだ。そんな近寄るものでない。無垢とは哀しいのう……喰ろうてしまうぞ」
内心に過れど、たった一人の童。気にする必要も無いと思った。
現に脅かしてみても、笑ったまま首を傾げている。
わかっておらんのか。
器量は悪くないというのにこんなにも人懐っこいとは。
利点と言えばそれまでだが、これはこれで碌な目に遭わんだろうな。
ままならぬ物だの。哀しいことだ。
哀れで愚かな。せめて一瞬で殺してやろう。
槍を使うまでも無い。頚を掴むだけでも。爪で裂くだけでも。
こちらから枯れた葉を踏みならし、おもむろに近付いていく。
ぼやけた顔を釣られるように儂へ向け、首を真上へもたげるほど近付いた頃に、童は眉を下げた。
「……悲しそうなお顔。大丈夫?」
「……お前の方がよっぽど哀しい顔をしているように見えるが」
全く持って度し難し。
己の目尻も眉も下がった顔を指摘されるとは思いもせなんだ。
分裂した時からこのような顔だというのに。
子の気分ままに振り回されるようで、どうも歯痒い。まさか心配を掛けられるとは。
……毒気が抜かれてしまった。
まぁ、良い。柔い肉も悪くは無いが、量の多い大人の方が効率が良いのは確かだ。
匂いからして特別な血というわけでもない。
ならばたかが小さな童を喰う必要も無いだろう。
溜め息を吐いて、槍を手放す。
細胞が崩れ、消失していく槍を見やれば、視界の端に童の驚いた顔。
「どうした」と聞けば、「すごいね!」なぞ無邪気に言う。
本当に哀しいほどに愚かしい。無垢が過ぎるのにも程がある。
「槍、どうしたの? なんで槍なんてもってたの?」
「野蛮な連中に追い回されてな……もう必要無い」
「だ、大丈夫なの? 鬼さん、怪我してない?」
「いらぬ世話じゃ。それと……儂は、哀絶じゃ」
むず痒さに名乗る。気紛れというのもあったが、
回りくどい上に鬼と雑に呼ばれるのは、どうも鬼狩りの連中のようで良い気もしない。
「あいぜつ さん?」幼い声はそっくり繰り返し、そして下げた眉のまま話続ける。
「私はひまり。哀絶さん、危ない人はもう大丈夫?」
ああ、と頷いてやれば、なら良かったと笑う。むず痒い。
大概、怯えられてばかりで、怒鳴られてばかりで。
気にはならんが哀しくなるのは性(さが)というもの。
未だに続く自らの気紛れのまま、頭を撫でるという行為を行った。
返されたのは無垢な笑みであった。
儂が駆り出されるのは戦場(いくさば)。このような笑みを向けられたことは無い。
……恐らく、人の頃の本体もだろう。
「そろそろ、行かねばならんな……」
手を下ろして誰に向けるでもなく小さく呟く。
独り言に「ええっ」と困惑の反応をされればこちらも参る。耳聡いのう。
しかし、行かねばならぬのは事実。
早く行ってしまわんと、積怒らが戻ってくるだろう。
そうすれば、可楽や空喜もついてくる。
仔鼠のような童――ひまりを、弄り殺してもおかしくない。
せっかくの気紛れなのだ。このまま続けてしまえ。
今、死なれては締まりが悪く、哀しくなるのが我ながら目に見えた。
「怒鳴り散らす奴も居れば、楽しみながら追い回すのも、暴れ喜ぶのも居てな
家に帰って藤でも焚くと良い……あるかは知らんが」
「ええと……無いと思う。うん」
「なら、仕方あるまい 気を付けて帰れ」
他の連中がどこ行ったか大体把握はしている。
運が悪くなければ儂の方が先に遭遇するだろう。ならどうとでもなる。
身を翻し、その場を去ろうとすれば呼び止められた。
「もういっちゃうの?」惜しむ声だ。
「言うたろう。仕方あるまい」
「哀絶さん、また会える?」
「儂はいつ出てこれるかわからぬからな……
次会ったとしても、お前が媼(おうな)になっているかもしれんの」
「うーん……」
「まぁ次会った時にでも考えれば良い事柄じゃ」
もう二度と会うことは無いかもしれんが、とまでは言わないでおいた。
出てこられたとしても、会える場所とも限らない。
その時にはひまりが死んでいるのも在り得る話だ。
そんなことは露とも思っておらんであろう顔で、ひまりは儂へ手を振った。
「またねー!」
去ろうとした儂の足が、動きを止める。
何か返すべきかと瞬く間に考えてしまい、咄嗟に拙く声を出した。
「……また、の」
そういえば、またなど言うのは初めてだ。
「そういえば そんなこともありましたねぇ」
「とって喰われんとも限らんのに、よく寄ってくるものだと思うたわ」
「今なら考えられませんね……子供心はわかりません。何を考えていたのやら」
「昔のお前のことじゃ」
「ふふ 哀絶さんがあまり怖くなかったのかな」
「言うてくれるの、ひまり」
まさかたかだか十五年で再会し、後々添うことになるとは
儂も考えせなんだ。
執筆2019/02/02