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幸の記憶

これは200年ほど昔の話____


「やよう!」

名前を呼ばれて綺麗な笑顔で振り返る、少女の様に華奢で優しげな少年、彼が今の夜桜 紫樹(よざくら しき)であり、昔の夜桜(やよう)である。
彼の容姿は、今のように白い髪や紅い瞳は無く、漆黒の髪と左目、そして濁りのない湖のように綺麗な青い色の右目を持っていた。
幼くても女性のように美しく整った顔を持ち、色んな事を知っていて、独りぼっちでいる子にもすぐに気づいて話しかけてあげる優しい彼は、子供たちに大人気であった。親にもたくさんの愛を与えられ、幸せに暮らしていた。

そんな素敵な彼だが、村の大人は皆彼の事を何度も殺そうとしていた。彼の持つ美しい碧眼は、彼の村では呪われた目だ、悪魔の子だと言われ、忌み嫌われていたからだ。
しかし、彼は子供たちや両親に守られていたので、殺される事も傷つけられる事もなかった。

「なに、どうしたの?」

「やようもいっしょにあそぼ!」

「おれも入れてくれるの?」

嬉しげに笑い、子供たちに付いていく夜桜。皆の兄のような存在の彼は1人でいるとすぐに遊びに誘われた。

「いかのぼりしよー!」

「だめー!きのうやったでしょ!きょうはおにんぎょうするの!」

「追いかけっこは?これなら皆でできるでしょ」

「「「おいかけっこするー!!」」」

満場一致。夜桜の一言で子供たちは追いかけっこで遊ぶことにした。
だが、遊び始めて20分も経たない内に、子供たちが夜桜と遊んでいる所を大人2人が見つけた。

「ちょっと!いつまで遊んでるの!」

「もうお夕飯の時間よ!早く帰って準備しないと!」

そう言って子供たちを連れていく大人たち。

(まだ夕飯には早いんだけどなぁ)

上を見上げるとまだまだ高い所にある太陽。空は明るく、夕方と言うにはまだ数時間は早い時間帯だ。

(…帰ってお店を手伝おう)

彼の家は茶屋、というよりは甘味処だろうか。甘いお団子やお饅頭など、色んなお菓子を売り、サービスにお茶を付けるとても人気なお店である。
そろそろ丁度忙しい時間だろうと、先程の出来事を記憶から振り払うように頭を振り、急ぎ足で家に帰るのだった。
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