遙か6夢(長編)
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意識が浮上する。何の苦もなく、光を自ら取り込むように自然に瞼が開いた。起き抜けの癖で視線を右上に動かせば、開けたままのカーテンからはまだ朝焼けは見えない。
部屋の掛け時計は短針が4を指していた。あと小一時間もすれば部屋中に朝日が満ちるだろう。
早く目覚めてしまった、と寝そべったまま真琴は嘆息する。寝直すか否か。しばし躊躇って、しかし少女は身体にかかっていた掛布を剥いだ。今寝直したら寝坊してしまう自信が勝ったのだ。
手早く身支度をして、慎重に自室のドアを開閉する。真琴から見れば古い造りの邸は、木材の軋む音がいつ大きく響いてしまうか気が気でない。足音を立てないよう廊下を進んでいく。
心配は杞憂に変わり、真琴は階下に着いた。そのまま足を進めて居間に顔を出す。やはり誰もいない。そりゃそうだ、とひとりごちる。
置いてある椅子の一脚を持ち上げて、手前に下ろす。かたん、と床と擦れる音が室内に響き、真琴は反射で身を固くした。おそるおそる周囲を見渡すも、変わった様子はない。そのことに息をつき、今度も慎重に腰をおろした。
わずかに目に留まった窓辺のカーテンを開けようか悩んで、やはり腰を上げるのをやめる。
頬杖をついて視線だけで辺りを見回すも、灯りもつけていないため薄暗い空間が漂うばかりだった。耳に痛いほど静寂が残る。
「……ひまだな」
当然、その呟きに何かが返ってくるわけもなく。迷子のように独り言が暗闇に溶ける。
ついていた頬杖をくずし、ずるずると机に伏せれば、頬にひんやりとした机の温度が伝わる。
(…気持ち良いな……)
思いのほか心地よく、硬質な温度に身を任せる。誰かが来たらすぐに起きればいい。そんな気持ちで、真琴は目を閉じた。
ルードハーネからの手厳しい言葉で目を覚ました梓は、下に降りる階段の前ではたと立ち止まった。
(そういえば、真琴はもう起きたのかな?)
真琴の部屋に行ってみようか。しばし逡巡した後、先に一階に顔を見せることが先決だと階段に足を向ける。もし自分と同じように寝坊していたのなら、ルードという少年は平等に声をかけているだろうと踏んだからだ。
梓が階段を降りると、ルードとダリウスはテーブルの隅を囲んで話し合っていた。何かあったのだろうか。そう思いながら、おそるおそる声をかける。
「あの…おはよう、二人共。遅れてごめんなさい」
青年と少年は同時に振り向いた。ダリウスは穏やかに笑みを浮かべており、機嫌を損ねた様子はない。梓は心中息をついた。自分が悪いとはいえ、立て続けに叱られるのはできれば避けたい。
「おはよう、梓。よく眠れたかい?」
「ええと…おかげさまで。二人は何をしてたの?」
「…丁度良いところに。彼女を起こしてあげてください」
「……彼女?」
梓にも見えるように、ルードは半身をずらした。二人の影に隠れていたテーブルが見えて、梓は軽く目を見張った。
「真琴?」
梓の従姉妹は机に突っ伏していた。寝間着ではなく、昨日と同じ服を身に纏って、くうくうと寝息を立てている。そのままにしておくのは忍びなかったのか、ルードハーネの外套が肩にかけられていた。
「私が来た時には既にこのような状態でした。声をかけても起きる様子がなく…どうしたものかと」
厳しい顔は鳴りを潜め、ルードは眉を下げて困惑していた。
「真琴はあまり寝起きが良くないのかな?」
「うーん…あ。でも確かに、朝に強くないって自分で言ってたかも」
とはいえ、梓にそういった印象はない。二人揃って幼い頃から祖母の家でお泊り会を何度もしているが、特別寝起きが悪いなどと言った思い出はなかった。
(真琴を起こす方法……)
いくつか方法を思い描いて、最後に思いついたことに悪戯な笑みが自然、浮かぶ。
「梓? 良い方法でも?」
「うん。怒られるかもしれないけど。多分すぐ起きるよ」
子猫のように目を細める梓。未だ眠りこける従姉妹に向き直り、こほん、と小さく咳払いをした。直後、大きく息を吸って。
「『真琴! 起きなさい!』」
「っ!?!?」
家具が大きな音を立てた。真琴が弾かれたように立ち上がったからだ。
「――…めんお母さん! かえってくるのはやかったね? ご飯できてな……」
覚束ない足取り、瞼をこする姿。ふにゃふにゃと舌足らずに喋る姿は、明らかに寝ぼけていた。言葉を途中で途切れさせて、こすっていた手を下ろす。
「……あず?」
「おはよう、真琴」
「おはよ…あれ、何であずが家に…」
床を見て、自分の靴を見下ろした。黙りこくった真琴を皮切りに、数秒、沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのもやはり真琴だった。ややはっきりしてきた目付きで、確かめるように口にする。
「……家じゃない…ね…?」
「おはよう、真琴。刺激的な目覚めのようだね」
「……ええと……ダリウス…? ……ああ…そっか…」
目元を覆い、うつむく。
視界は光が反射してろくに目が開かない。まな裏は点滅して、ひどい気分だった。切れかけの電球が目の前いっぱいに広がるような、何かしようとしても足が動かないような焦燥感。
それでも視界に入れなければいけなかった。
「家じゃないね…こっちが現実だ……」
ため息混じりに吐き出した言葉。現実を認識するための台詞が、重苦しく場に残る。
部屋の掛け時計は短針が4を指していた。あと小一時間もすれば部屋中に朝日が満ちるだろう。
早く目覚めてしまった、と寝そべったまま真琴は嘆息する。寝直すか否か。しばし躊躇って、しかし少女は身体にかかっていた掛布を剥いだ。今寝直したら寝坊してしまう自信が勝ったのだ。
手早く身支度をして、慎重に自室のドアを開閉する。真琴から見れば古い造りの邸は、木材の軋む音がいつ大きく響いてしまうか気が気でない。足音を立てないよう廊下を進んでいく。
心配は杞憂に変わり、真琴は階下に着いた。そのまま足を進めて居間に顔を出す。やはり誰もいない。そりゃそうだ、とひとりごちる。
置いてある椅子の一脚を持ち上げて、手前に下ろす。かたん、と床と擦れる音が室内に響き、真琴は反射で身を固くした。おそるおそる周囲を見渡すも、変わった様子はない。そのことに息をつき、今度も慎重に腰をおろした。
わずかに目に留まった窓辺のカーテンを開けようか悩んで、やはり腰を上げるのをやめる。
頬杖をついて視線だけで辺りを見回すも、灯りもつけていないため薄暗い空間が漂うばかりだった。耳に痛いほど静寂が残る。
「……ひまだな」
当然、その呟きに何かが返ってくるわけもなく。迷子のように独り言が暗闇に溶ける。
ついていた頬杖をくずし、ずるずると机に伏せれば、頬にひんやりとした机の温度が伝わる。
(…気持ち良いな……)
思いのほか心地よく、硬質な温度に身を任せる。誰かが来たらすぐに起きればいい。そんな気持ちで、真琴は目を閉じた。
ルードハーネからの手厳しい言葉で目を覚ました梓は、下に降りる階段の前ではたと立ち止まった。
(そういえば、真琴はもう起きたのかな?)
真琴の部屋に行ってみようか。しばし逡巡した後、先に一階に顔を見せることが先決だと階段に足を向ける。もし自分と同じように寝坊していたのなら、ルードという少年は平等に声をかけているだろうと踏んだからだ。
梓が階段を降りると、ルードとダリウスはテーブルの隅を囲んで話し合っていた。何かあったのだろうか。そう思いながら、おそるおそる声をかける。
「あの…おはよう、二人共。遅れてごめんなさい」
青年と少年は同時に振り向いた。ダリウスは穏やかに笑みを浮かべており、機嫌を損ねた様子はない。梓は心中息をついた。自分が悪いとはいえ、立て続けに叱られるのはできれば避けたい。
「おはよう、梓。よく眠れたかい?」
「ええと…おかげさまで。二人は何をしてたの?」
「…丁度良いところに。彼女を起こしてあげてください」
「……彼女?」
梓にも見えるように、ルードは半身をずらした。二人の影に隠れていたテーブルが見えて、梓は軽く目を見張った。
「真琴?」
梓の従姉妹は机に突っ伏していた。寝間着ではなく、昨日と同じ服を身に纏って、くうくうと寝息を立てている。そのままにしておくのは忍びなかったのか、ルードハーネの外套が肩にかけられていた。
「私が来た時には既にこのような状態でした。声をかけても起きる様子がなく…どうしたものかと」
厳しい顔は鳴りを潜め、ルードは眉を下げて困惑していた。
「真琴はあまり寝起きが良くないのかな?」
「うーん…あ。でも確かに、朝に強くないって自分で言ってたかも」
とはいえ、梓にそういった印象はない。二人揃って幼い頃から祖母の家でお泊り会を何度もしているが、特別寝起きが悪いなどと言った思い出はなかった。
(真琴を起こす方法……)
いくつか方法を思い描いて、最後に思いついたことに悪戯な笑みが自然、浮かぶ。
「梓? 良い方法でも?」
「うん。怒られるかもしれないけど。多分すぐ起きるよ」
子猫のように目を細める梓。未だ眠りこける従姉妹に向き直り、こほん、と小さく咳払いをした。直後、大きく息を吸って。
「『真琴! 起きなさい!』」
「っ!?!?」
家具が大きな音を立てた。真琴が弾かれたように立ち上がったからだ。
「――…めんお母さん! かえってくるのはやかったね? ご飯できてな……」
覚束ない足取り、瞼をこする姿。ふにゃふにゃと舌足らずに喋る姿は、明らかに寝ぼけていた。言葉を途中で途切れさせて、こすっていた手を下ろす。
「……あず?」
「おはよう、真琴」
「おはよ…あれ、何であずが家に…」
床を見て、自分の靴を見下ろした。黙りこくった真琴を皮切りに、数秒、沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのもやはり真琴だった。ややはっきりしてきた目付きで、確かめるように口にする。
「……家じゃない…ね…?」
「おはよう、真琴。刺激的な目覚めのようだね」
「……ええと……ダリウス…? ……ああ…そっか…」
目元を覆い、うつむく。
視界は光が反射してろくに目が開かない。まな裏は点滅して、ひどい気分だった。切れかけの電球が目の前いっぱいに広がるような、何かしようとしても足が動かないような焦燥感。
それでも視界に入れなければいけなかった。
「家じゃないね…こっちが現実だ……」
ため息混じりに吐き出した言葉。現実を認識するための台詞が、重苦しく場に残る。
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