遙か6夢(長編)
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ぐんぐんと、景色を追い抜いていく。
洋装姿の女学生二人が疾走する様は、例え近代化が進んだ帝都と言えど確かに浮いていた。馬車も寝静まる東京駅周辺。見覚えのある景色に、二人が更に足を動かした時。
突然、眼前に黒い影が立ちはだかる。
冷静に立ち止まる真琴とは対照的に、急ブレーキのせいで薄紅のフィッシュテールがたたらを踏んだ。
それでも真琴は彼女よりも数歩前に出て、銅鏡を抱え直した。この世界に落ちてからいつの間にか抱えていた、古い鏡だ。
「良かった、人がいたみたい。あの、すみません──」
「待って、だめ」
遮るように手で制する。不思議そうな顔をするあどけない従姉妹に、真琴は内心頭を抱えたくなった。
……どう見てもあれは普通じゃない。予感よりも確信。この不気味な空気では、人かどうかすらも怪しい。
見定めんと、夜闇の中で目を凝らす。呼吸の音が耳についた。走っていた汗のせいで、背中がやけに冷たい。
『ァァァ!!』
逃げ出したくなるような悲鳴。生ぬるい風が少女達の髪を弄ぶ。……これは、だめだ。
「…梓、武器の使い方分かりそう?」
「……うん。不思議と、何となくだけど」
真琴が声をかけると、梓は不気味な存在から目を逸らさずに短銃を構えた。その目付きは鋭く、臨戦態勢に入っていることが伺える。
「それは奇遇。私もなんとなく分かる気がするんだ」
身につけていた鏡を取り出して並び立つ従姉妹。その鏡は宙に浮いている。一瞬瞠目した梓は、しかし目の前の異形と相対することが先決だともう一度得物を構え直した。
狙いを定めて、撃鉄を起こす。後は人差し指で引き金を引くだけ。これで本当に良いのだろうか。つかの間、高塚梓は逡巡する。
瞳を彷徨わせていると、標的と視線が合った。同時に、耳に無数の嘆きが飛び込んでくる。否、嘆きというにはあまりにも禍々しい怨嗟、憎悪。
(……鎮めなきゃ、いけない)
自然、その言葉が脳裏に浮かぶ。グリップを握る手に力が籠った。
「…どうか、安らかに──」
嘆きをかき消し、応えるように鈴の音が梓の脳裏で響いた、その時。
「梓、危ない!」
『キシャアアッ!!』
「っ!?」
引き金を引くのがいま一歩遅かった。迷っている間に異形は梓に飛びかかる。の手は届かず。
「…鏡よ! 梓を守って!!」
いつの間にか鏡は梓の前にあった。少女を庇う如く怨霊の前に立ちふさがり、光を一直線に放つ。
『…グオォオ…』
「梓、怪我は!?」
「っ…大丈夫! それより…」
苦悶の声を上げる敵を見据えて、真琴は忌々しいとばかりに呟く。
「…仕留めきれないんだ」
「私がやるよ。はっ!」
梓は今度こそ迷わなかった。銃口を正面に向けて、勢いのまま引き金を引く。聞き慣れない音が夜の街に響いて、これが銃声なのかと頭の片隅で妙に納得した。
「…消え、た?」
その存在は大気に溶けるように霧消した。残らない遺骸を訝しんで、真琴が一歩、前に出る。
「一件落着、でいいのかなー…って、あれ…?」
異形が在った場所から、黒い光が漂っていた。嫌な気配はしなかったが、あれはいつからそこにいたのだろうと疑問がまた一つ生まれる。
怖いもの見たさでもう一歩、真琴が踏み出した。同時に、黒い光が真っ直ぐに飛ぶ。
「う、わっと……!」
咄嗟にしゃがみ込んだ真琴は、そのまま自身を通り過ぎる光の行方を目で追った。
黒曜の輝きは梓の前でしばし漂った後、胸の中央――心臓に吸い込まれて消えた。まるでそこに還ることが自然とでも言うように。
「え…ちょ、大丈夫?」
「う、うん…いま何か、入っていった…よね」
「入っていったよ…我が物顔で侵入していったよ…え、身体大丈夫?」
「今のところは…うん。何ともないよ」
困惑する少女たちに、硬い靴音の群れが近付く。振り仰げば、それぞれ種類の違う美貌の男達が三者三様の表情で佇んでいた。
「今ので決まりだね」
中央の男、ダリウスが満足そうに微笑む。隣でルードハーネが追従して頷く。
「召喚陣に二人の女性が現れた時は驚きましたが…やはり力の性質で見極めがつきましたね」
「ああ。梓、君がこの帝都を救う…龍神の神子だ」
洋装姿の女学生二人が疾走する様は、例え近代化が進んだ帝都と言えど確かに浮いていた。馬車も寝静まる東京駅周辺。見覚えのある景色に、二人が更に足を動かした時。
突然、眼前に黒い影が立ちはだかる。
冷静に立ち止まる真琴とは対照的に、急ブレーキのせいで薄紅のフィッシュテールがたたらを踏んだ。
それでも真琴は彼女よりも数歩前に出て、銅鏡を抱え直した。この世界に落ちてからいつの間にか抱えていた、古い鏡だ。
「良かった、人がいたみたい。あの、すみません──」
「待って、だめ」
遮るように手で制する。不思議そうな顔をするあどけない従姉妹に、真琴は内心頭を抱えたくなった。
……どう見てもあれは普通じゃない。予感よりも確信。この不気味な空気では、人かどうかすらも怪しい。
見定めんと、夜闇の中で目を凝らす。呼吸の音が耳についた。走っていた汗のせいで、背中がやけに冷たい。
『ァァァ!!』
逃げ出したくなるような悲鳴。生ぬるい風が少女達の髪を弄ぶ。……これは、だめだ。
「…梓、武器の使い方分かりそう?」
「……うん。不思議と、何となくだけど」
真琴が声をかけると、梓は不気味な存在から目を逸らさずに短銃を構えた。その目付きは鋭く、臨戦態勢に入っていることが伺える。
「それは奇遇。私もなんとなく分かる気がするんだ」
身につけていた鏡を取り出して並び立つ従姉妹。その鏡は宙に浮いている。一瞬瞠目した梓は、しかし目の前の異形と相対することが先決だともう一度得物を構え直した。
狙いを定めて、撃鉄を起こす。後は人差し指で引き金を引くだけ。これで本当に良いのだろうか。つかの間、高塚梓は逡巡する。
瞳を彷徨わせていると、標的と視線が合った。同時に、耳に無数の嘆きが飛び込んでくる。否、嘆きというにはあまりにも禍々しい怨嗟、憎悪。
(……鎮めなきゃ、いけない)
自然、その言葉が脳裏に浮かぶ。グリップを握る手に力が籠った。
「…どうか、安らかに──」
嘆きをかき消し、応えるように鈴の音が梓の脳裏で響いた、その時。
「梓、危ない!」
『キシャアアッ!!』
「っ!?」
引き金を引くのがいま一歩遅かった。迷っている間に異形は梓に飛びかかる。の手は届かず。
「…鏡よ! 梓を守って!!」
いつの間にか鏡は梓の前にあった。少女を庇う如く怨霊の前に立ちふさがり、光を一直線に放つ。
『…グオォオ…』
「梓、怪我は!?」
「っ…大丈夫! それより…」
苦悶の声を上げる敵を見据えて、真琴は忌々しいとばかりに呟く。
「…仕留めきれないんだ」
「私がやるよ。はっ!」
梓は今度こそ迷わなかった。銃口を正面に向けて、勢いのまま引き金を引く。聞き慣れない音が夜の街に響いて、これが銃声なのかと頭の片隅で妙に納得した。
「…消え、た?」
その存在は大気に溶けるように霧消した。残らない遺骸を訝しんで、真琴が一歩、前に出る。
「一件落着、でいいのかなー…って、あれ…?」
異形が在った場所から、黒い光が漂っていた。嫌な気配はしなかったが、あれはいつからそこにいたのだろうと疑問がまた一つ生まれる。
怖いもの見たさでもう一歩、真琴が踏み出した。同時に、黒い光が真っ直ぐに飛ぶ。
「う、わっと……!」
咄嗟にしゃがみ込んだ真琴は、そのまま自身を通り過ぎる光の行方を目で追った。
黒曜の輝きは梓の前でしばし漂った後、胸の中央――心臓に吸い込まれて消えた。まるでそこに還ることが自然とでも言うように。
「え…ちょ、大丈夫?」
「う、うん…いま何か、入っていった…よね」
「入っていったよ…我が物顔で侵入していったよ…え、身体大丈夫?」
「今のところは…うん。何ともないよ」
困惑する少女たちに、硬い靴音の群れが近付く。振り仰げば、それぞれ種類の違う美貌の男達が三者三様の表情で佇んでいた。
「今ので決まりだね」
中央の男、ダリウスが満足そうに微笑む。隣でルードハーネが追従して頷く。
「召喚陣に二人の女性が現れた時は驚きましたが…やはり力の性質で見極めがつきましたね」
「ああ。梓、君がこの帝都を救う…龍神の神子だ」
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