ヘルヴォル
- (ようれん)世界で一番愛される日 -
恋花への誕生日プレゼントは、何にするかということは大分前から決めていた。絶対にこれにするんだって、そう思っていた。
「……」
「瑤さん、そろそろ休憩しませんか?」
「え、千香瑠?」
千香瑠の声にふと顔を上げると、時間がかなりいいところまで来ていた。そんなに集中していたんだと驚いてしまう。
「私が部屋をノックしたときも返事がないぐらいでしたよ」
「……それは、ごめん」
──やっちゃったな。
少し自分の中での反省会をする。千香瑠だって恋花のお祝いをするために色んな準備をしているのに。すると千香瑠は私の言葉に首を横に振っていた。
「私のプレゼントは、明日じゃないとできないものですし。それに、今ここに恋花さんがきたら瑤さんのフォローに回れるかなと」
「……うん、そうだね」
──千香瑠の気遣いが嬉しいな。
優しさに甘えることにして、一旦作業を止めて、首と肩周りをぐるぐると動かす。いい感じに凝り固まっていたせいで、ものすごい音がしたけれど。
──そういえば。
「一葉と藍は? 二人とも準備できたのかな……?」
「一葉ちゃん達ね、ふふ」
「? 千香瑠?」
なんせ恋花の誕生日プレゼント選びに気合いが入っていた我らが隊長である一葉と、私たちの癒やし的存在である藍は自分たちで選ぶ、ということで別行動をとっていた。明日には間に合わせるって言ってたけど。
「……大丈夫ですよ、ほら」
「……あ、本当だ。ふふ」
くすくす。端末を見せてくれた千香瑠と笑い合う。なんだろう、皆すごく恋花のことが好きだよね。こうして皆でお祝いしようってなるぐらいには。
「当たり前ですよ、瑤さん。だって私たち仲間じゃないですか」
「うん、そうだね」
明るくて、太陽みたいに私たちを照らしてくれて。困ったときには背中を押してくれる。誰かのためなら、自分がどんなに大変でもそれを伝えずにいる、私の大好きな人。
「……うん」
──頑張ろう。
後もう少しで完成だから。後輩みたいに気合いを入れなきゃ。さすがに血反吐は吐かないけれど。
「千香瑠、外のこと少しだけお願いしてもいいかな」
「お安いご用です」
千香瑠にもお願いしたし、これで安心して作業に取りかかれる。
──待ってて、もう少しだからね。
藍が描いてくれたおかげでプレゼントを何にするか決めることができた。きっと、恋花も喜んでくれる。そう思うと、一葉のかけ声が頭の中に響き渡る。やる気が出てくる。
「……」
針を持つ右手が軽い。だけど、一針を丁寧にしていきたい。自分用で作る時以上に気持ちを込めて作るんだ。だってあげるのは他でもない恋花なんだから。
「……よし、と」
幸いなことに誰も来客がなかったみたい。完成した安心感と、誰も来なかった安堵の息がほっと出てきた。当然それに気がつかない千香瑠じゃない。
「瑤さんも準備できましたか?」
「……うん、見て」
「……かわいい」
「でしょ」
──自信作、だもん。
最後に、恋花の色のリボンをつけて。これで完成。
「とっても素敵だわ」
「うん……喜んでくれると嬉しい」
渡したときの恋花の反応を想像するだけで笑顔になる。準備は大変だと思ってたけれど、違うんだ。
──恋花のために準備するのが、楽しかったんだ。
自分が準備をして初めてその気持ちに気がついた。やっぱり恋花はすごいや。もっと抱きしめたいと思ったけれど、そこはぐっと我慢する。だってそれは私の役目じゃないから。
「明日が、すごく楽しみ」
「ええ、私も気合いを入れて頑張りますね」
「恋花、どんな反応するだろうね」
明日が待ち遠しいと思ったのは、今日が初めてかもしれない。晩ごはんの支度をするために部屋を後にした千香瑠の背中を見送りながら、そんなことを思ったのだった。
◇
「恋花様、おめでとうございます!」
「恋花、おたんじょうびおめでとう~」
「恋花さん、お誕生日おめでとうございますっ」
「恋花、誕生日おめでとう」
四つのクラッカーの音に驚いた恋花の顔が印象的になって、誕生会が始まった。
「もう、みんなあんがとね!」
髪にクラッカーのテープがたっぷりかかった主役は、私たちの熱烈なお祝いに満面の笑みを浮かべていた。中でも、さすが恋花というべきか。
「うわっ、めちゃくちゃ料理あるんだけど! え、これもしかして……全部千香瑠が?」
「もちろんです。今日は恋花さんのお誕生日だから、たくさんごちそうを作りましたよ」
「わ……! ありがとう!」
まずは千香瑠のプレゼントから。恋花は本当に千香瑠のごはんが好きだからな。テーブルから落ちそうなほどに乗った料理の数を見て驚いていたけど。
ケーキも、恋花が食べられるポテトサラダも、もちろん大好物のラーメンも。目をキラキラさせて嬉しそうだった。
「こんなことじゃプレゼントにならないかもしれないけれど……」
「そんなことないって! あたしにはすごいプレゼントだよ!」
お行儀よくとかは今日は言いっこなし。恋花は心ゆくまで千香瑠の料理を堪能していた。
次に。
「恋花様、私からはこちらを」
「なになに~?」
「栞です、最近本をよく読まれているみたいなので」
「……よく見てたね、あたしが本読んでるって」
恋花の反応は驚きだった。多分一葉らしく奇想天外な贈り物を想像していたのかも。いつだって全力で特訓メニューを考えるもんね。私は結構、一葉のトレーニング楽しいけど。みんなでやるんだし。そう思っているとなんだか一葉がもじもじしてる。すごく珍しい。
「……その、まだ別にあるので……それは後で渡します」
「別に今でもいいのに」
「だ、だめですっ」
私を見ても答えられないからだめだよ、恋花。私もさっぱりわからないから。もしかしたら別に渡したい物はここでは見せられない物かもだし。恥ずかしそうにしている一葉と入れ替わりに恋花の前に現れたのは藍。なんだか大きい紙袋を持ってる。
「恋花、恋花。らんからのプレゼントあげるね」
「お、ありがとう藍。何をあたしにくれるのかな~?」
「たい焼きだよ!」
──なるほどね。
藍らしいチョイスに私も、他のみんなも笑みが浮かぶ。自分のお金をたい焼きにして、それを恋花にっていう藍の優しさが溢れてるね。それは恋花も感じたみたい。
「うん、ありがと。ただあたし一人じゃ食べきれないからさ。あとでみんなで一緒に食べよっか」
「! うん、らんもたい焼き食べる!」
「よーし、オススメ選んでいいからね!」
「だめ、今日だけは恋花が先にえらぶ!」
本物の姉妹みたいなやり取りに心があたたかくなったのは私だけじゃないはず。その証拠にほら。
「藍、よかったね……」
「二人とも優しいわ……」
一葉も千香瑠もうんうんと頷いていた。私も頷くけれど、いよいよだと思うと少し緊張する。藍とのやり取りに満足した恋花が、くるりと私を見つめてきた。心臓の鼓動が少しだけ、早くなる。
──下手だとは思っていないけど。
自分でもどうしようもないぐらい、そこだけは慎重すぎていた。恋花の綺麗な目が期待の眼差しを向けていた。観念して、ソファーの後ろに隠していたプレゼントを抱える。そして。
「恋花、お誕生日……おめでとう」
「うん、ありがとう瑤」
ゆっくりと恋花の手にプレゼントが渡っていく。『開けていい?』と聞く恋花が真面目だなと思いながら。
「恋花へのプレゼントなんだから、もうそれは恋花のものだよ」
「あはは、それもそっか」
包装に使ったリボンをゆっくりと解いていく恋花。
──どうしよう、喜ぶプレゼントじゃなかったら。
やっぱり作り直し、したほうが。
「えっ、ぬいぐるみ……!」
「!」
「かわいい!」
「ほん、とに?」
可愛いって言った?
今、可愛いって言ったの、恋花だよね。私の聞き間違いじゃないよね?
「すごいすごい、可愛い! 嬉しい!」
「ありがとう瑤!」
「……う、うん」
眩しい笑顔ってこういうことを言うんじゃないかな。可愛いと嬉しいを連続で叫ばれて、こっちが恥ずかしくなってくる。しかも恋花だけじゃなくて。
「瑤様、さすがです!」
「瑤がつくったの? すご~い」
「よかったですね、瑤さん」
「……うぅ」
他のみんなまで手放しで褒めちぎってくるから、これじゃ誰の誕生日会なのかわからなくなってくる。だから、私がちゃんと言う。
「恋花、おめでとう」
「ありがとね! ほんとに嬉しい!」
恋花に抱かれるくまさんへ、これから恋花をよろしくね。そんな思いを込めてもう一度おめでとうを言った。
恋花はとびっきりの笑みを浮かべていて、みんなに愛されているなって思ったんだ。
◇
楽しかった時間はあっという間にすぎて、恋花は私と恋花の部屋でゆっくりと過ごしていた。私からのプレゼントのくまのぬいぐるみをとても大事そうに抱えながら。
「はー、楽しかった!」
「それはよかった」
「でもさ、あたし片付けしなくてよかったわけ?」
──そういうところは本当に恋花だね。
どこまでも、なところがあるけれど口には出さないでおいた。
「今日の主役が手伝っちゃだめって言われたでしょ」
「うーん」
「その代わり、私が一緒だから」
「んじゃ、瑤を独り占めしちゃおっと」
そう言うと、恋花は左手をくまのぬいぐるみから解いて私の腕に絡めてきた。温もりに驚いた心臓がトクン、と音を立てる。
「……恋花、お誕生日おめでとう」
「ん、ありがと……ふふ」
何度でも言いたくなる今日だけ使える魔法の言葉。恋花は肩を揺らしていた。
「どうしたの」
「んーとね、なんかさ……あたし、みんなから愛されてるんだなあって。ふと、そう思っただけ」
──愛されてる、か。
恋花の言葉を心の中で繰り返す。いっぱいのおめでとうと大好きを告げられた今日の恋花。ごちそうを食べて、たい焼きをわけっこして、栞をさっそく本に挟んで。私からのプレゼントを大事に抱きしめて。
照れくさそうに笑っている恋花。
──そうだよ、恋花。
みんな恋花のことが好きなんだよ。一葉も、藍も、千香瑠も。
「私も、好きだよ」
「……うん、知ってる」
ぽす、と柔らかい栗色が私の肩に乗ってきた。いい香りがする。重みが嬉しいと、そう思うんだ。
「部屋に飾ってね」
「今日から一緒に寝る」
うん、ありがとう。大切にしてね。
「瑤」
「なに、恋花」
「……あたし、すっごく幸せ」
「よかったね」
私も幸せな恋花を見ることができて嬉しいよ。今こうして隣にいられることもその一つ。ねえ、恋花。
──ずっと一緒にいようね。
どこへでも、そして。どこまでも。
恋花への誕生日プレゼントは、何にするかということは大分前から決めていた。絶対にこれにするんだって、そう思っていた。
「……」
「瑤さん、そろそろ休憩しませんか?」
「え、千香瑠?」
千香瑠の声にふと顔を上げると、時間がかなりいいところまで来ていた。そんなに集中していたんだと驚いてしまう。
「私が部屋をノックしたときも返事がないぐらいでしたよ」
「……それは、ごめん」
──やっちゃったな。
少し自分の中での反省会をする。千香瑠だって恋花のお祝いをするために色んな準備をしているのに。すると千香瑠は私の言葉に首を横に振っていた。
「私のプレゼントは、明日じゃないとできないものですし。それに、今ここに恋花さんがきたら瑤さんのフォローに回れるかなと」
「……うん、そうだね」
──千香瑠の気遣いが嬉しいな。
優しさに甘えることにして、一旦作業を止めて、首と肩周りをぐるぐると動かす。いい感じに凝り固まっていたせいで、ものすごい音がしたけれど。
──そういえば。
「一葉と藍は? 二人とも準備できたのかな……?」
「一葉ちゃん達ね、ふふ」
「? 千香瑠?」
なんせ恋花の誕生日プレゼント選びに気合いが入っていた我らが隊長である一葉と、私たちの癒やし的存在である藍は自分たちで選ぶ、ということで別行動をとっていた。明日には間に合わせるって言ってたけど。
「……大丈夫ですよ、ほら」
「……あ、本当だ。ふふ」
くすくす。端末を見せてくれた千香瑠と笑い合う。なんだろう、皆すごく恋花のことが好きだよね。こうして皆でお祝いしようってなるぐらいには。
「当たり前ですよ、瑤さん。だって私たち仲間じゃないですか」
「うん、そうだね」
明るくて、太陽みたいに私たちを照らしてくれて。困ったときには背中を押してくれる。誰かのためなら、自分がどんなに大変でもそれを伝えずにいる、私の大好きな人。
「……うん」
──頑張ろう。
後もう少しで完成だから。後輩みたいに気合いを入れなきゃ。さすがに血反吐は吐かないけれど。
「千香瑠、外のこと少しだけお願いしてもいいかな」
「お安いご用です」
千香瑠にもお願いしたし、これで安心して作業に取りかかれる。
──待ってて、もう少しだからね。
藍が描いてくれたおかげでプレゼントを何にするか決めることができた。きっと、恋花も喜んでくれる。そう思うと、一葉のかけ声が頭の中に響き渡る。やる気が出てくる。
「……」
針を持つ右手が軽い。だけど、一針を丁寧にしていきたい。自分用で作る時以上に気持ちを込めて作るんだ。だってあげるのは他でもない恋花なんだから。
「……よし、と」
幸いなことに誰も来客がなかったみたい。完成した安心感と、誰も来なかった安堵の息がほっと出てきた。当然それに気がつかない千香瑠じゃない。
「瑤さんも準備できましたか?」
「……うん、見て」
「……かわいい」
「でしょ」
──自信作、だもん。
最後に、恋花の色のリボンをつけて。これで完成。
「とっても素敵だわ」
「うん……喜んでくれると嬉しい」
渡したときの恋花の反応を想像するだけで笑顔になる。準備は大変だと思ってたけれど、違うんだ。
──恋花のために準備するのが、楽しかったんだ。
自分が準備をして初めてその気持ちに気がついた。やっぱり恋花はすごいや。もっと抱きしめたいと思ったけれど、そこはぐっと我慢する。だってそれは私の役目じゃないから。
「明日が、すごく楽しみ」
「ええ、私も気合いを入れて頑張りますね」
「恋花、どんな反応するだろうね」
明日が待ち遠しいと思ったのは、今日が初めてかもしれない。晩ごはんの支度をするために部屋を後にした千香瑠の背中を見送りながら、そんなことを思ったのだった。
◇
「恋花様、おめでとうございます!」
「恋花、おたんじょうびおめでとう~」
「恋花さん、お誕生日おめでとうございますっ」
「恋花、誕生日おめでとう」
四つのクラッカーの音に驚いた恋花の顔が印象的になって、誕生会が始まった。
「もう、みんなあんがとね!」
髪にクラッカーのテープがたっぷりかかった主役は、私たちの熱烈なお祝いに満面の笑みを浮かべていた。中でも、さすが恋花というべきか。
「うわっ、めちゃくちゃ料理あるんだけど! え、これもしかして……全部千香瑠が?」
「もちろんです。今日は恋花さんのお誕生日だから、たくさんごちそうを作りましたよ」
「わ……! ありがとう!」
まずは千香瑠のプレゼントから。恋花は本当に千香瑠のごはんが好きだからな。テーブルから落ちそうなほどに乗った料理の数を見て驚いていたけど。
ケーキも、恋花が食べられるポテトサラダも、もちろん大好物のラーメンも。目をキラキラさせて嬉しそうだった。
「こんなことじゃプレゼントにならないかもしれないけれど……」
「そんなことないって! あたしにはすごいプレゼントだよ!」
お行儀よくとかは今日は言いっこなし。恋花は心ゆくまで千香瑠の料理を堪能していた。
次に。
「恋花様、私からはこちらを」
「なになに~?」
「栞です、最近本をよく読まれているみたいなので」
「……よく見てたね、あたしが本読んでるって」
恋花の反応は驚きだった。多分一葉らしく奇想天外な贈り物を想像していたのかも。いつだって全力で特訓メニューを考えるもんね。私は結構、一葉のトレーニング楽しいけど。みんなでやるんだし。そう思っているとなんだか一葉がもじもじしてる。すごく珍しい。
「……その、まだ別にあるので……それは後で渡します」
「別に今でもいいのに」
「だ、だめですっ」
私を見ても答えられないからだめだよ、恋花。私もさっぱりわからないから。もしかしたら別に渡したい物はここでは見せられない物かもだし。恥ずかしそうにしている一葉と入れ替わりに恋花の前に現れたのは藍。なんだか大きい紙袋を持ってる。
「恋花、恋花。らんからのプレゼントあげるね」
「お、ありがとう藍。何をあたしにくれるのかな~?」
「たい焼きだよ!」
──なるほどね。
藍らしいチョイスに私も、他のみんなも笑みが浮かぶ。自分のお金をたい焼きにして、それを恋花にっていう藍の優しさが溢れてるね。それは恋花も感じたみたい。
「うん、ありがと。ただあたし一人じゃ食べきれないからさ。あとでみんなで一緒に食べよっか」
「! うん、らんもたい焼き食べる!」
「よーし、オススメ選んでいいからね!」
「だめ、今日だけは恋花が先にえらぶ!」
本物の姉妹みたいなやり取りに心があたたかくなったのは私だけじゃないはず。その証拠にほら。
「藍、よかったね……」
「二人とも優しいわ……」
一葉も千香瑠もうんうんと頷いていた。私も頷くけれど、いよいよだと思うと少し緊張する。藍とのやり取りに満足した恋花が、くるりと私を見つめてきた。心臓の鼓動が少しだけ、早くなる。
──下手だとは思っていないけど。
自分でもどうしようもないぐらい、そこだけは慎重すぎていた。恋花の綺麗な目が期待の眼差しを向けていた。観念して、ソファーの後ろに隠していたプレゼントを抱える。そして。
「恋花、お誕生日……おめでとう」
「うん、ありがとう瑤」
ゆっくりと恋花の手にプレゼントが渡っていく。『開けていい?』と聞く恋花が真面目だなと思いながら。
「恋花へのプレゼントなんだから、もうそれは恋花のものだよ」
「あはは、それもそっか」
包装に使ったリボンをゆっくりと解いていく恋花。
──どうしよう、喜ぶプレゼントじゃなかったら。
やっぱり作り直し、したほうが。
「えっ、ぬいぐるみ……!」
「!」
「かわいい!」
「ほん、とに?」
可愛いって言った?
今、可愛いって言ったの、恋花だよね。私の聞き間違いじゃないよね?
「すごいすごい、可愛い! 嬉しい!」
「ありがとう瑤!」
「……う、うん」
眩しい笑顔ってこういうことを言うんじゃないかな。可愛いと嬉しいを連続で叫ばれて、こっちが恥ずかしくなってくる。しかも恋花だけじゃなくて。
「瑤様、さすがです!」
「瑤がつくったの? すご~い」
「よかったですね、瑤さん」
「……うぅ」
他のみんなまで手放しで褒めちぎってくるから、これじゃ誰の誕生日会なのかわからなくなってくる。だから、私がちゃんと言う。
「恋花、おめでとう」
「ありがとね! ほんとに嬉しい!」
恋花に抱かれるくまさんへ、これから恋花をよろしくね。そんな思いを込めてもう一度おめでとうを言った。
恋花はとびっきりの笑みを浮かべていて、みんなに愛されているなって思ったんだ。
◇
楽しかった時間はあっという間にすぎて、恋花は私と恋花の部屋でゆっくりと過ごしていた。私からのプレゼントのくまのぬいぐるみをとても大事そうに抱えながら。
「はー、楽しかった!」
「それはよかった」
「でもさ、あたし片付けしなくてよかったわけ?」
──そういうところは本当に恋花だね。
どこまでも、なところがあるけれど口には出さないでおいた。
「今日の主役が手伝っちゃだめって言われたでしょ」
「うーん」
「その代わり、私が一緒だから」
「んじゃ、瑤を独り占めしちゃおっと」
そう言うと、恋花は左手をくまのぬいぐるみから解いて私の腕に絡めてきた。温もりに驚いた心臓がトクン、と音を立てる。
「……恋花、お誕生日おめでとう」
「ん、ありがと……ふふ」
何度でも言いたくなる今日だけ使える魔法の言葉。恋花は肩を揺らしていた。
「どうしたの」
「んーとね、なんかさ……あたし、みんなから愛されてるんだなあって。ふと、そう思っただけ」
──愛されてる、か。
恋花の言葉を心の中で繰り返す。いっぱいのおめでとうと大好きを告げられた今日の恋花。ごちそうを食べて、たい焼きをわけっこして、栞をさっそく本に挟んで。私からのプレゼントを大事に抱きしめて。
照れくさそうに笑っている恋花。
──そうだよ、恋花。
みんな恋花のことが好きなんだよ。一葉も、藍も、千香瑠も。
「私も、好きだよ」
「……うん、知ってる」
ぽす、と柔らかい栗色が私の肩に乗ってきた。いい香りがする。重みが嬉しいと、そう思うんだ。
「部屋に飾ってね」
「今日から一緒に寝る」
うん、ありがとう。大切にしてね。
「瑤」
「なに、恋花」
「……あたし、すっごく幸せ」
「よかったね」
私も幸せな恋花を見ることができて嬉しいよ。今こうして隣にいられることもその一つ。ねえ、恋花。
──ずっと一緒にいようね。
どこへでも、そして。どこまでも。