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かずれん

「いよっし、ヒュージ全滅っと!」
「お疲れ、恋花」
「瑤も、お疲れ」
 出撃要請が出て、殲滅に向かったあたし達。ラージ級はいなくてよかったんだけど、ミドル級とスモール級がわんさかいて。藍はめちゃくちゃ生き生きと倒していたし、千香瑠は藍が動きやすいように立ちまわっていたし。一葉も的確に動いていて。
「さっすが、あたし達」
「うん……みんな、無事でよかった」
「だね」
 混戦を極める中で、あたしは瑤と目配せをして。我ながら息の合った感じでヒュージを倒して、以心伝心ってやつで。いくよ、っていうあたしの声に、いつも通りついてきてくれた。そんな瑤には感謝してもしきれない。
「終わったし、パフェ食べに行こうよ」
「……」
「どうした、瑤」
 頼れる親友に誘いをかけるも、その瑤自体から返事がなく。瑤があたしの言葉を無視するってことはまずないから、なんか考えてるんだろうけど。
「何考えてんの」
「……恋花、あっち」
「あっち、って」
 瑤に指摘された方向を向くと、そこにいたのは我らがリーダー、一葉の姿。
「一葉しかいないじゃん」
「……うん、でも」
 なんだか一葉が難しい顔してる。そう続ける瑤に倣って一葉を見ると、一葉が一層難しく眉を寄せていた。瑤と目を合わせた後、一葉へと近づく。またしょうもないことを考えてやしないかと思いながら。すると。一葉はあたしがそこそこの距離に近づいた瞬間。
「瑤様と共闘ですか……、いいんじゃないですか、お似合いですよ恋花様」
「う、うん?」
「私となんかより、ずーっと息が合ってるじゃないですか」
「……」
 お小言かと思っていたら、なんか様子が違う感じがして。聞かせるつもりでもないんだろうけど。なんというか、そう。今の一葉のことを端的に言うと、子どもみたいに拗ねている。
「別に、私との連携が一番ではなくても気にしませんよ。私とよりも瑤様との共闘の方が回数を重ねていますものね」
「え、ん?」
「いいんです、いいんです。恋花様、さっきとても動きやすそうでしたし……瑤様と目配せをしていましたし」
「……」
 そこまで聞いてわからないあたしじゃない。
(うわ、一葉が明らかに拗ねてる……!)
 それこそ、特型ヒュージ並かそれ以上のレア度を誇りそう。少なからず感情を出すものの、序列一位として自分を律している一葉がここまで拗ねるなんて。八つ当たりのようにぶつけるなんて、誰が予想できただろうか。少なくともあたしは相当に驚いている。瑤だってぱっと見はかわってないように見えるけど、結構驚いているもんね。
(恋花、早くフォローしないと)
(わかってるって)
 でも、そこはあたし達。瞬時にアイコンタクトを取って千香瑠達のことをお任せして。あたしはバツが悪そうにしてブツブツと拗ねモードを隠さない一葉に抱きついた。
「えいっ」
「うわ! なんで抱きつくんですか、恋花様! 離してください!」
 いつもの一葉だったら軽くあしらうのに、今日は拗ねっこモードと言うか、本当に子どもみたいだった。じたばたともがいてあたしから抜け出そうとするけど、そうはいかない。珍しさもあるけれど、今の一葉がかわいくてかわいくて仕方がなかったから。下手すれば、この先拝めないかもしれないから。
「よしよし、わかったわかった。次はお姉さんと闘おうね」
「わかってないです! そういうことじゃありません!」
 なだめながら指通りのいい髪を撫でる。爽やかな香りが鼻をくすぐって、一葉もいいやつ使ってんじゃん、とも思ったりして。あたしが人知れず一葉の髪の毛の触り心地を堪能しているとわかってない、そういうことじゃない、という言葉。どういう意味なんだろ。
「え、何が分かってないっていうのさ」
「……言いたくありません!」
 うーむ、わからん。あたしはあいにく心を読めたりはしないから。疑問に拒否をされるだけで傷つきはしないけど、原因がわからないとどうしようもないというか。別に作戦通りにできなかったことってわけでもないし。あたしが一葉の気持ちをないがしろにしたわけでもない。ただ、瑤と連携というか共闘をして、快適だっただけ。
「それなら、さ。別に今度も瑤と共闘しても問題ないじゃん? それに一葉とだって連携するんだしさ」
「それは、そうですけど」
「けど?」
 もごもご。竹を割るようにハッキリと物申す代表の一葉にしては、本当に珍しすぎる。なんでまたこんなに拗ねちゃってんだか。
「あたしと一緒に戦いたかったんでしょ?」
「それ、は」
「それなら一緒に戦うし、連携だってするじゃん。一葉と一緒だけど?」
 あたしと共闘したかったんだろうって気がしてるし、それは多分事実なんだろう。顔は抱きついているから見えないけど、聞こえる声がそんな雰囲気だから。あと、もう少し。
「連携だけでは、私が、嫌……です」
「……なんで?」
「……っ」
「なんで、そんなに嫌なわけ?」
 連携だけは嫌だ。そして拗ねる一葉の顔。あたし、どうしよう。今顔が絶対緩んでる。
「私だって……恋花様と、一緒に戦いたいんです」
「……」
「瑤様ばかり、ずるいです」
 う、わぁ。これ、やばい。めったにない一葉のわがまま。やばすぎでしょ。本当に子どもみたい。あたしと一緒に闘いたいって。一番がいいってことじゃん。そういうことじゃん、本当にもう。普段そういうこと言わないくせに。ヤキモチ焼いて。
「もういいでしょう!? いい加減離してください!」
 あたしに全部ばれたのが恥ずかしいんだ。さっきよりも暴れる一葉。でもあたしも恥ずかしいよ。瑤とあたしにヤキモチ焼いてた一葉がかわいいから。今だらしない顔してるから。
「やだ」
「やだ!?」
「今の一葉、すっごくかわいいからやだ」
「私ばかりずるいです!」
 ずるいな、今はそれすらかわいい。あたしとしても顔を見られるわけにはいかないから、必死に力を入れて一葉の体を抱きしめた。
「あ! 一葉と恋花、まだぎゅってしてる〜!」
「あらあら、二人とも仲良しね。うらやましいわ」
「うん、そうだね」
「!」
 三人の声がはっきりと聞こえた瞬間、一気に離れたあたし達だけど。でも、離れる直前に目に入った一葉の耳は。
 誰が見ても明らかなほどに、真っ赤になっていたのだった。
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