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かずれん

「……ん?」
 夜が深まった二十一時、本を読んていた私の集中を解いたのは横から訪れた衝撃だった。衝撃とはいってもヒュージと戦うようなときの痛みはなく、温かくていい香りがした。顔を見ずとも、わかる。顔が緩くなってしまうのを抑えられない。
「どうかしましたか、恋花様」
「……」
 ぐりぐり、と無言で私の肩に頭を押し付ける恋花様。いつもなら私をからかうような言動で、私から本を取り上げたりして。あとは、1個上ということを強調して私の頭を撫でてきたり。それが私たちの日常で、当り前で。でも、それは他のみんなには少しだけ内緒の話で。
「痛いですよ」
「かずはが、わるい」
 痛いとは言うけど、くすぐったさが勝っている。直後に恋花様が私が悪いと言ってきて、一瞬時が止まったけど、いつもの明瞭な恋花様らしからぬ物言いに、愛おしい気持ちがふわりと膨らんできた。
「すみません」
「ねむ、い」
「……じゃあ、寝ていいんですよ」
 記憶がないわけではないのでしっかりと気持ちを込めて謝ると、頭を押し付けることを止めた恋花様が、ぽつりと本音をこぼしていた。やっぱり。予想するまでもなく、恋花様は眠かったようだ。
「や、だ」
「やだ、じゃないですよ」
 申し訳なさもあって、早めの就寝を促すと、返事はノー。ふるふると首を振って、私にもっとくっつく恋花様が相当に珍しく、少しばかし目が丸くなるのを抑えることはできなかった。だって、恋花様はこういう感情を見せるようでいて、あまり私には見せてくれない。
(頼ってほしいのに)
 公私ともに、私は恋花様の。そこまで考えていたところに、私の名前を呼ぶ声がして。なんですか、と隣に問いかけた。すると。
「一葉も、ねようよ……」
「もう少しだけ、だめですか」
 睡魔に抗う中で見せた恋花様の気持ち。ちょっとだけ意地悪したくなったと打ち明けたら、怒られてしまいそうだけど。
「やだ。一葉もねるの。一緒にねるの……」
「っ」
 私の気持ちを知ってか知らずか。恋花様のスキンシップは続いていて。普段のスキンシップとは違う、私にだけ向けられるそれが、心地よくて。少しだけ気恥ずかしくて。そして、それを誰にも見せたくなくて。
「じゃあ、寝ましょうか」
「……ん」
 私に突撃をしてきた時点でかなり、恋花様の限界点は近かったらしい。寝息が小さく聞こえてきた。
「……よし」
「……ん、ぅ」
 抱え込んだ恋花様の温かさを噛みしめる。私の心音が聞こえたのか、幼い笑顔を見せた恋花様。どうか、いい夢を見てもらいたいと思いながらベッドの方へと足を向けた。
 願わくば、夢の中に私の居場所も欲しいなと、そう思いながら。
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