ひろがるスカイプリキュア
──ソラ・ハレワタール、かつてないほどのピンチです……!
いえ、今はプリキュアになってカバトンやランボーグと闘っているわけではないのですが。とても強い眼差しを向けられて、私はどうしたらいいのか必死に考えていました。その理由は他でもない。
「ね、ソラちゃん……もう一回がんばってみよ?」
「ま、ましろ……さん」
「もー、またましろさんって言った……」
「す、すみません……っ」
ましろさんの力強さに圧倒されつつも、お願いを叶えようと思っていた。それで呼吸を整えて、失敗して。それを何十回も繰り返して今に至ります。そもそもの始まりは、ましろさんのとある発言がきっかけでした。
◇
「ねえ、ソラちゃん」
「はい、なんですか?」
ましろさんと一緒にいるエルちゃんのところに行こうかな、と思っていた時にふわりと優しい声が私の名前を呼んだ。振り返るとそこにはましろさんがエルちゃんを抱いて立っていた。ずいぶんと仲良くなった二人を見ていると微笑ましい気持ちになる。するとましろさんがもう一度私の名前を呼んだあと、聞きたいことがあるんだけど、そう言った。
「今って忙しいかな? トレーニングとかしたかったりする?」
「いえ、特には。ヨヨさんからも頼まれていることもありませんし……お二人のところに行こうかと思っていたところでした」
「そっかあ、ちょうどよかった。じゃあ少しお話しようよ」
ましろさんからの提案は私にとっても嬉しいものだった。ヒーローになるための訓練も大事だけれど、この世界で初めての私の、友だち。お話したいことはたくさんあるんです。
「いいですよ、どこでお話しましょうか」
「リビングはどう? あそこなら広いし、お日様のおかげでぽかぽかで気持ちいいんだよ」
「はい、それじゃあ行きましょう!」
スカイランドにはなかったものや、知らないこと。ましろさんに教えてもらったひらがなとカタカナというもの以外に何やら難しい文字があるそうで。ましろさんが言うには『うーん、私にとってのスカイランドの文字なのかもしれないね』ということらしいですが。
「さて、今日は何をお話しますか?」
「うんとね……」
私は友だちと話すということが本当に嬉しくてやりたかったことでもあった。だから、ましろさんの知りたいことや話したいことは私も一緒だった。エルちゃんをなでながら考えていたましろさん。心が決まったかのように見えたのと、私を見たと思ったのは一緒でした。
「ソラちゃん」
「はい」
まず私の名前、そして。
「私は、誰でしょう?」
「……え、え?」
「……える?」
突然笑顔で聞かれたことが一瞬理解できなくて、とても間抜けな声をあげてしまいました。エルちゃんはそんな私を見て不思議そうな声を出しています。その間もましろさんはにこにこと笑っていて。その顔を見ながら思いました。
──誰なんて、聞くまでもないのに。
「ましろさん、ですよね」
「うん、そうだよ。私は虹ヶ丘ましろだよ」
「? ですよね?」
「えーるっ」
ご機嫌なエルちゃんの声を聞きながら私は考えていた。スカイランドにも家の名前がついているように、ソラシド市のみなさんも名字というものがあった。別にそれが特別に気になるということではなく、むしろ初めての友だちの名前をどうして聞くのかということがわからなかった。
──ましろさんは何を知りたいんだろう。
そう思う私を知ってか知らずか、ましろさんは「じゃあね」と言いながら次の聞きたいことを私に告げた。
「ソラちゃんの……キュアスカイのパートナーは誰でしょう?」
「……っ!」
少し顔が熱くなる。だって無理もありません。傷つけたくなくて遠ざけようとしたのに、変わらないまっすぐな気持ちを伝えてくれた人。一緒に戦いたいと、私を友だちだと言ってくれた、私の……初めての、パートナー。
──その名前は。
「……キュア、プリズムです」
「大正解だよっ」
「……っ?」
──やっぱり、少し恥ずかしいです……。
首を傾げながらも湧き上がる想い。嬉しくて、恥ずかしくて、照れくさくて。ましろさんがプリズムでよかったという気持ちはこれからもずっと私の心の中で残る気がしています。初めてプリズムとましろさんのことを呼べた時、今まで頑なになっていた自分自身の『ヒーロー』が少し変わったような気もしましたから。ふたりはプリキュア、なんですから。
「それがどうかしたんですか、ましろさん……私、変な風に呼んでいましたか?!」
「ううん、そうじゃないよ」
そう言って首を横に振ったましろさんだった。その言葉に胸を撫で下ろす。良かった、ましろさんに嫌われでもしたら……と思ったけれど心配しすぎだったのかもしれません。
──でも、それならどうして?
「私……ましろさんの名前を間違えること、ないと思うのですが……」
「うん、だってソラちゃんだもんね」
「?」
結局ましろさんは何を、と私の中に疑問が生まれた瞬間でした。
「私はましろさん、プリキュアではプリズム……だよね」
「そう、ですね?」
「じゃあ……『ましろ』って呼んでみない?」
「!?」
思わずましろさんの言葉に目が飛び出てしまうほど驚いた反応をしてしまいました。失礼かもしれないけれど、そんな態度を取ってしまいました。でもましろさんは、怒るどころかにこにこと笑っていた。
「え、え、あの……えっと……!」
「プリキュアの時に『プリズム』って呼んでくれるのなら、今もそんなふうに呼んでほしいなー……なんて思っちゃって。ほら、私たち友だち……でしょ?」
「うっ……」
「……える?」
体がすごく熱い。これほど熱くなることなんてスカイランドでヒーローの特訓をしていた時にも、ソラシド市にやってきてからもなかった。友だち、ましろさんから改めてそう言われて嬉しい気持ちになる。だけど、お願いに対してはとても緊張してしまう私がいました。
「だめ、かな」
「だ、ダメじゃないです!」
決してましろさんは私にいじわるを言っているわけじゃないんです。とっさに返した言葉は自分自身でも驚くぐらいに高い声だっただけです。エルちゃんを驚かせてしまったかと思いましたが、私の心配もなんのそのでした。きゃっきゃと笑う姿は、無性にありがたさを感じるほどです。
──ただ。
「え、っと、その……ま、まし……」
「……」
期待しているましろさんの目が眩しい。
「……ろ、さん」
「あはは……」
「……え、るぅ」
その眼差しに私の中の何かが頑張れなくて、いつもの呼び方をしてしまった。そんな私のことをましろさんは決して怒るということはありませんでしたが。それでも、友だちのことを呼び捨てるというのは……こんなに緊張してしまうものなのでしょうか。
──助けてくださいヨヨさん、エルちゃん、えっとえっと……あげはさんっ。
住まわせてくれているましろさんのおばあさんであるヨヨさんやエルちゃん、ましろさんのお姉さんのようなあげはさんの名前を心の中で叫ぶも、当然ながら私の声が届くはずもない。ヨヨさんはお買い物、エルちゃんは目の前でお眠になって、あげはさんはそもそもこのおうちの人ではないのだから。
「す、すみません、ましろさん! もう一度言わせてもらってもよろしいでしょうか!」
「うん、もちろんだよソラちゃん」
「で、では……いきます!」
──さあ、もう一度です。今度こそましろさんをさん付けせずに呼ぶのです、私ならできます。
「ま、ま……」
「……ドキドキ」
「ましろ、さん……」
「ん~」
──そう思っていたのは別の私だったのでしょうか。名前までは呼べたのに、ましろさんを見ているとどうしても『さん』をつけてしまいました。ましろさんも首を傾げています。
「……言いづらい?」
「そんなことはないかと思うのですが……」
言いづらいというよりは、言ったことがないというのが正しい気がします。初めてましろさんを『プリズム』と呼んだ時のように。
「……すみません、もう一度……!」
「うん、ソラちゃんが言いたいのなら私はいくらでも」
そんなましろさんの優しさに甘えながら何度目かの名前呼びを頑張ることにした。
──したのですが。
「……うぅ、どうして」
「……うーん、プリキュアの時と今は別なのかなあ?」
「……そうなので、しょうか」
ましろさんの疑問に首を傾げながらも、もしかしたらという思いがありました。だって、気づいたらこの話し方が当たり前になっていて、ヒーローたるものと自分に言っていたのですから。
──それが関係してるということですか?
「ソラちゃん?」
「ましろさん……あっ」
「難しいのかも、しれないね」
「……すみません」
呼びたくないわけではないと思います。ましろさんは私の……初めてのお友だちだから。その友だちから嬉しいことを言われて、呼べないことがモヤモヤしてしまうだけなんです。
「ううん、ソラちゃんが私のことたくさん呼ぼうとしてくれたのが分かったから……今はそれで十分だよ」
「ましろさん……」
「でも、そうだなあ……」
ましろさんは本当に優しいと思います。見ず知らずだった私とエルちゃんをお家に連れてきてくれて、ヨヨさんを説得してくれて。そしてこの前も、今この時も。
「ソラちゃんが呼べないのなら、反対に私がソラちゃんをちゃん付けしないことをやってみる?」
「えっ!」
ましろさんの優しさをかみ締めていた瞬間の呟きに本日二回目の驚きの反応をしてしまいました。
つまりそれは、ましろさんが私のことを……呼び捨てにする、ということですよね。
「……どう、かな」
「やってみましょう」
もしかしたら呼んでもらったら私も呼び返せるかもしれません。スカイ、プリズムとあの時は自然にできたのですから。
──よし。
「いつでもどうぞ……!」
「よーし、いくよ……!」
深呼吸を一つしてましろさんからの呼び名に備えました。大丈夫です、ちゃんが取れるだけですから。
「そ、そ、ソ……」
「……っ」
──な、なんですか……この気持ちは!
私がましろさんを呼ぼうとした時と同じくらい、いいえ。もしかしたらそれ以上かもしれない緊張が私の中を駆け巡りました。震えるましろさんの声を聞いていると、背中がとてもむずむずしてしまいます……!
「~~っ! ごめん、ソラちゃん! 私も呼べない……っ!」
「っ!」
直後に叫んだましろさん。その顔は真っ赤になってしまっていました。エルちゃんのことを考えて声はかなり小さめでしたが、それでも恥ずかしいと口にする姿は少し前の私を見ているようでした。
「……同じ、ですね」
「……同じ、だったね」
真っ赤になった私たちは、お互いの顔を見ながら笑うしかありませんでした。決して嫌いだから呼べないのではない。むしろ、特別だから呼ぶことが難しいのかもしれません。少なくとも私にとっては、ましろさんは……初めての、大切な友だちなのですから。
「いつか、お互いに呼べるといいね」
「……がんばり、ます」
私らしく、ましろさんを呼ぶ今を大切にしつつ、私は心の中で願いました。いつかは、ましろさんのことを、プリズムと同じくらい自然に呼べる日がきますように、と。
──その時は、私も呼んでもらえたら嬉しいな。
そう思ったのでした。
いえ、今はプリキュアになってカバトンやランボーグと闘っているわけではないのですが。とても強い眼差しを向けられて、私はどうしたらいいのか必死に考えていました。その理由は他でもない。
「ね、ソラちゃん……もう一回がんばってみよ?」
「ま、ましろ……さん」
「もー、またましろさんって言った……」
「す、すみません……っ」
ましろさんの力強さに圧倒されつつも、お願いを叶えようと思っていた。それで呼吸を整えて、失敗して。それを何十回も繰り返して今に至ります。そもそもの始まりは、ましろさんのとある発言がきっかけでした。
◇
「ねえ、ソラちゃん」
「はい、なんですか?」
ましろさんと一緒にいるエルちゃんのところに行こうかな、と思っていた時にふわりと優しい声が私の名前を呼んだ。振り返るとそこにはましろさんがエルちゃんを抱いて立っていた。ずいぶんと仲良くなった二人を見ていると微笑ましい気持ちになる。するとましろさんがもう一度私の名前を呼んだあと、聞きたいことがあるんだけど、そう言った。
「今って忙しいかな? トレーニングとかしたかったりする?」
「いえ、特には。ヨヨさんからも頼まれていることもありませんし……お二人のところに行こうかと思っていたところでした」
「そっかあ、ちょうどよかった。じゃあ少しお話しようよ」
ましろさんからの提案は私にとっても嬉しいものだった。ヒーローになるための訓練も大事だけれど、この世界で初めての私の、友だち。お話したいことはたくさんあるんです。
「いいですよ、どこでお話しましょうか」
「リビングはどう? あそこなら広いし、お日様のおかげでぽかぽかで気持ちいいんだよ」
「はい、それじゃあ行きましょう!」
スカイランドにはなかったものや、知らないこと。ましろさんに教えてもらったひらがなとカタカナというもの以外に何やら難しい文字があるそうで。ましろさんが言うには『うーん、私にとってのスカイランドの文字なのかもしれないね』ということらしいですが。
「さて、今日は何をお話しますか?」
「うんとね……」
私は友だちと話すということが本当に嬉しくてやりたかったことでもあった。だから、ましろさんの知りたいことや話したいことは私も一緒だった。エルちゃんをなでながら考えていたましろさん。心が決まったかのように見えたのと、私を見たと思ったのは一緒でした。
「ソラちゃん」
「はい」
まず私の名前、そして。
「私は、誰でしょう?」
「……え、え?」
「……える?」
突然笑顔で聞かれたことが一瞬理解できなくて、とても間抜けな声をあげてしまいました。エルちゃんはそんな私を見て不思議そうな声を出しています。その間もましろさんはにこにこと笑っていて。その顔を見ながら思いました。
──誰なんて、聞くまでもないのに。
「ましろさん、ですよね」
「うん、そうだよ。私は虹ヶ丘ましろだよ」
「? ですよね?」
「えーるっ」
ご機嫌なエルちゃんの声を聞きながら私は考えていた。スカイランドにも家の名前がついているように、ソラシド市のみなさんも名字というものがあった。別にそれが特別に気になるということではなく、むしろ初めての友だちの名前をどうして聞くのかということがわからなかった。
──ましろさんは何を知りたいんだろう。
そう思う私を知ってか知らずか、ましろさんは「じゃあね」と言いながら次の聞きたいことを私に告げた。
「ソラちゃんの……キュアスカイのパートナーは誰でしょう?」
「……っ!」
少し顔が熱くなる。だって無理もありません。傷つけたくなくて遠ざけようとしたのに、変わらないまっすぐな気持ちを伝えてくれた人。一緒に戦いたいと、私を友だちだと言ってくれた、私の……初めての、パートナー。
──その名前は。
「……キュア、プリズムです」
「大正解だよっ」
「……っ?」
──やっぱり、少し恥ずかしいです……。
首を傾げながらも湧き上がる想い。嬉しくて、恥ずかしくて、照れくさくて。ましろさんがプリズムでよかったという気持ちはこれからもずっと私の心の中で残る気がしています。初めてプリズムとましろさんのことを呼べた時、今まで頑なになっていた自分自身の『ヒーロー』が少し変わったような気もしましたから。ふたりはプリキュア、なんですから。
「それがどうかしたんですか、ましろさん……私、変な風に呼んでいましたか?!」
「ううん、そうじゃないよ」
そう言って首を横に振ったましろさんだった。その言葉に胸を撫で下ろす。良かった、ましろさんに嫌われでもしたら……と思ったけれど心配しすぎだったのかもしれません。
──でも、それならどうして?
「私……ましろさんの名前を間違えること、ないと思うのですが……」
「うん、だってソラちゃんだもんね」
「?」
結局ましろさんは何を、と私の中に疑問が生まれた瞬間でした。
「私はましろさん、プリキュアではプリズム……だよね」
「そう、ですね?」
「じゃあ……『ましろ』って呼んでみない?」
「!?」
思わずましろさんの言葉に目が飛び出てしまうほど驚いた反応をしてしまいました。失礼かもしれないけれど、そんな態度を取ってしまいました。でもましろさんは、怒るどころかにこにこと笑っていた。
「え、え、あの……えっと……!」
「プリキュアの時に『プリズム』って呼んでくれるのなら、今もそんなふうに呼んでほしいなー……なんて思っちゃって。ほら、私たち友だち……でしょ?」
「うっ……」
「……える?」
体がすごく熱い。これほど熱くなることなんてスカイランドでヒーローの特訓をしていた時にも、ソラシド市にやってきてからもなかった。友だち、ましろさんから改めてそう言われて嬉しい気持ちになる。だけど、お願いに対してはとても緊張してしまう私がいました。
「だめ、かな」
「だ、ダメじゃないです!」
決してましろさんは私にいじわるを言っているわけじゃないんです。とっさに返した言葉は自分自身でも驚くぐらいに高い声だっただけです。エルちゃんを驚かせてしまったかと思いましたが、私の心配もなんのそのでした。きゃっきゃと笑う姿は、無性にありがたさを感じるほどです。
──ただ。
「え、っと、その……ま、まし……」
「……」
期待しているましろさんの目が眩しい。
「……ろ、さん」
「あはは……」
「……え、るぅ」
その眼差しに私の中の何かが頑張れなくて、いつもの呼び方をしてしまった。そんな私のことをましろさんは決して怒るということはありませんでしたが。それでも、友だちのことを呼び捨てるというのは……こんなに緊張してしまうものなのでしょうか。
──助けてくださいヨヨさん、エルちゃん、えっとえっと……あげはさんっ。
住まわせてくれているましろさんのおばあさんであるヨヨさんやエルちゃん、ましろさんのお姉さんのようなあげはさんの名前を心の中で叫ぶも、当然ながら私の声が届くはずもない。ヨヨさんはお買い物、エルちゃんは目の前でお眠になって、あげはさんはそもそもこのおうちの人ではないのだから。
「す、すみません、ましろさん! もう一度言わせてもらってもよろしいでしょうか!」
「うん、もちろんだよソラちゃん」
「で、では……いきます!」
──さあ、もう一度です。今度こそましろさんをさん付けせずに呼ぶのです、私ならできます。
「ま、ま……」
「……ドキドキ」
「ましろ、さん……」
「ん~」
──そう思っていたのは別の私だったのでしょうか。名前までは呼べたのに、ましろさんを見ているとどうしても『さん』をつけてしまいました。ましろさんも首を傾げています。
「……言いづらい?」
「そんなことはないかと思うのですが……」
言いづらいというよりは、言ったことがないというのが正しい気がします。初めてましろさんを『プリズム』と呼んだ時のように。
「……すみません、もう一度……!」
「うん、ソラちゃんが言いたいのなら私はいくらでも」
そんなましろさんの優しさに甘えながら何度目かの名前呼びを頑張ることにした。
──したのですが。
「……うぅ、どうして」
「……うーん、プリキュアの時と今は別なのかなあ?」
「……そうなので、しょうか」
ましろさんの疑問に首を傾げながらも、もしかしたらという思いがありました。だって、気づいたらこの話し方が当たり前になっていて、ヒーローたるものと自分に言っていたのですから。
──それが関係してるということですか?
「ソラちゃん?」
「ましろさん……あっ」
「難しいのかも、しれないね」
「……すみません」
呼びたくないわけではないと思います。ましろさんは私の……初めてのお友だちだから。その友だちから嬉しいことを言われて、呼べないことがモヤモヤしてしまうだけなんです。
「ううん、ソラちゃんが私のことたくさん呼ぼうとしてくれたのが分かったから……今はそれで十分だよ」
「ましろさん……」
「でも、そうだなあ……」
ましろさんは本当に優しいと思います。見ず知らずだった私とエルちゃんをお家に連れてきてくれて、ヨヨさんを説得してくれて。そしてこの前も、今この時も。
「ソラちゃんが呼べないのなら、反対に私がソラちゃんをちゃん付けしないことをやってみる?」
「えっ!」
ましろさんの優しさをかみ締めていた瞬間の呟きに本日二回目の驚きの反応をしてしまいました。
つまりそれは、ましろさんが私のことを……呼び捨てにする、ということですよね。
「……どう、かな」
「やってみましょう」
もしかしたら呼んでもらったら私も呼び返せるかもしれません。スカイ、プリズムとあの時は自然にできたのですから。
──よし。
「いつでもどうぞ……!」
「よーし、いくよ……!」
深呼吸を一つしてましろさんからの呼び名に備えました。大丈夫です、ちゃんが取れるだけですから。
「そ、そ、ソ……」
「……っ」
──な、なんですか……この気持ちは!
私がましろさんを呼ぼうとした時と同じくらい、いいえ。もしかしたらそれ以上かもしれない緊張が私の中を駆け巡りました。震えるましろさんの声を聞いていると、背中がとてもむずむずしてしまいます……!
「~~っ! ごめん、ソラちゃん! 私も呼べない……っ!」
「っ!」
直後に叫んだましろさん。その顔は真っ赤になってしまっていました。エルちゃんのことを考えて声はかなり小さめでしたが、それでも恥ずかしいと口にする姿は少し前の私を見ているようでした。
「……同じ、ですね」
「……同じ、だったね」
真っ赤になった私たちは、お互いの顔を見ながら笑うしかありませんでした。決して嫌いだから呼べないのではない。むしろ、特別だから呼ぶことが難しいのかもしれません。少なくとも私にとっては、ましろさんは……初めての、大切な友だちなのですから。
「いつか、お互いに呼べるといいね」
「……がんばり、ます」
私らしく、ましろさんを呼ぶ今を大切にしつつ、私は心の中で願いました。いつかは、ましろさんのことを、プリズムと同じくらい自然に呼べる日がきますように、と。
──その時は、私も呼んでもらえたら嬉しいな。
そう思ったのでした。
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