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ひろがるスカイプリキュア

 まだまだ私はヒーローとしては未熟なんだと思う。なりたいものが見つかったわけでもないし、強くあろうともしていなかった。
──だけど。
 あげはちゃんはずっと気づいてくれていて、ソラちゃんは出会って少ししか経っていないのに知ってくれていた。そんな気持ちの高ぶりがなかったら。
「いけ、ランボーグ!」
「ランボーグッ!」
「きゃああっ」
 は、と気づいたときにはランボーグの攻撃を受けていた。これを変身もしないで戦ったソラちゃんは、本当にすごかったんだ。
「……い、たた」
 立ち上がらなきゃだよ、私。まだ、ランボーグとカバトンがいるんだから。
──それに。
「プリズムっ」
「スカイ……」
 スカイがまだ、戦っている。立って、私。私も、ヒーローなんだから。なのに。
「……う、ぐ」
 力が入らない。思ったよりすごい攻撃を受けてしまったみたいだ。これ、ちょっとピンチかもと私でも思うくらいなんだから。
「チャンスだ、ランボーグ! あいつを先に倒せ!」
「ランボーーグ!」
「……ぅ、ぁ」
 勢いよくランボーグが迫ってくる。それを避けなきゃと思うのに身体が言うことをきかない。悔しいな、情けないなって感じながら攻撃が目の前まで迫ってきた瞬間だった。
「……させないっ!」
「!」
「ランボーグ!」
 声を出す暇もなかった。私とランボーグの間に入り込んできた影。ゆっくりとスローモーションで動く景色の中、マントが目の前を隠して。そして。
「きゃあああああぁぁぁっ!」
「っ、スカイッ!」
 痛いなんて思ってる場合じゃない。私が立ち上がったときにはスカイが遠くまで飛ばされていた。だけど。
「ランボーグ!」
「させません!」
 すぐに体勢を立て直したスカイは、焦るカバトンの声なんか聞こえていないようだった。そして。
「……ひーろーがーる……っ、スカイパーンチッ!」
「スミキッター……」
「……っ」
 スカイの技がランボーグに当たって浄化された。カバトンはというと。
「つ、つえええぇっ」
 いつものセリフを口にして、どこかへと消えていった。街が何事もなかったかのように元に戻っていく。いつも通りの光景だった。
「……っ、ぁ……」
「スカ……ソラちゃんっ!」
──スカイが……ソラちゃんが倒れるまでは。
「……無事で、よかったです」
「ソラちゃん、ソラちゃん!」
──どうしよう、どうしよう。
「……」
「っ!」
──迷ってる場合じゃない!
「待ってて、ソラちゃん……すぐに手当てするからね……!」
 いつかの逆だなんてのんきなことを考えている場合じゃない。早くお家に帰らないと。

 ◇

「大丈夫よ、ましろさん。ケガは手当てしたから……あとはソラさんが起きるのを待つだけよ」
「……う、ん」
「ましろさんはどうする?」
──私、は。
 ベッドで眠るソラちゃんを見た。大きなケガにならなくて済んだのは本当によかったと思う。でも、私の心は沈んだままだった。
 あの時、私が攻撃を受けなかったら。ランボーグを避けることができていたら。ソラちゃんはこんな目にあわなかった。
──やっぱり、悔しいよ。
「あなたのせいじゃないわ、ましろさん」
「……うん、わかってる」
 おばあちゃんの言葉もわかる。多分ソラちゃんも私のせいだとは言わないと思うし。だけど、でも。
「おばあちゃん、私ソラちゃんのそばにいたいよ」
「……ええ、わかったわ。私はエルちゃんと下にいるから何かあったら呼んでちょうだい」
「……ありがとう、おばあちゃん」
 そう言ってソラちゃんの部屋を出て行ったおばあちゃんの背中を見送ってから、私は椅子をベッドの近くに置いてソラちゃんのそばに座った。私はソラちゃんの左手を握って温もりを感じつつ、苦しい気持ちになっていた。
──ごめんね、ソラちゃん。
 私がもっと強かったら。あなたのようなヒーローだったなら。心配をかけることも、こんなことも起きなかったのに。
「強く、なりたい」
 そして、ソラちゃんを……キュアスカイを守れる私になりたい。そう思った。
「守られるだけなんて、私はいやだよ……」
「……ぅ」
「っ、ソラちゃん!」
 そんな中、ソラちゃんの声が聞こえて私は思わず名前を呼んだ。よかったという気持ちがやっと心の中に浮かんできた。
「……ましろ、さん?」
「うん、私だよソラちゃん」
「ここ、は」
「お家のソラちゃんのお部屋だよ」
「……そう、ですか」
 ゆっくりと状況を確認しながらも、どこかぼんやりとしているソラちゃん。無理もないよね、だって起きたばかりなんだから。
「……よい、しょ」
「まだ、起き上がっちゃ……!」
「いえ、平気です」
「でも……!」
 だけどソラちゃんは起き上がった。さっきのように、負けない強さがそこにあった。
「……情けないです」
「……え」
 だけど直後に聞こえた泣きそうな声に聞き返してしまう。そんな声は、今までに聞いたことがなかったから。
「ましろさんを傷つけたくなかったのに、守れなくて。気絶して、運んでもらって。そして……」
「……? ソラ、ちゃん?」
 黙り込んだソラちゃんの右手が私に伸びてきて、私が困惑していると。一層苦しそうな顔になったソラちゃんが口を開いた。
「ましろさん、あなたを泣かせてしまいました」
「……え、ぁ」
 ソラちゃんの言葉でやっと私は泣いていることに気がついた。安心した自分の心が、そうさせているのかもしれない。それだけ、私の中でソラちゃんの存在が大きくなっているんだと思った。
──違う、違うよソラちゃん。
「そんな私は……とてもじゃないけど、ヒーローとは言えませんね」
「……っ、そんなこと!」
 ソラちゃんの言葉がソラちゃんらしくなくて、とっさに違うって言ってしまう。だって、そんなこと私は一度だって思ったことがないんだから。
──でも、ソラちゃんは。
「だって! ましろさんを巻き込んで! 私がもっと強かったらこんなことにはならなかったのに!」
「違うよ、ソラちゃん……!」
 泣いた私の分まで自分を責め立てるソラちゃんの声が涙の色になってくのを聞きたくなかった。私の、大切な人だから。
──だめっ!
「ソラちゃん!」
「っ!」
「……聞いて、ソラちゃん」
「ましろ、さ」
 だから私はソラちゃんの言葉をかき消すように抱きついた。硬くなるソラちゃんの身体を解きほぐすように声をかける。私が初めてキュアプリズムになったときのように。自分のことなんて放っておいてと言った友達に。
「……私にとっては、ソラちゃんがヒーローなの」
「……ぇ……」
 そんなこと、なんて声が聞こえてきそうなソラちゃんの感情のこぼれたものを私は気づかないふりなんてしないよ。
「何になりたいかわからなかった私の前に現れたソラちゃんは、誰がなんと言おうとヒーローなんだよ」
「……そんなこと」
──そんなことないよ。
「戦う力がなくてもランボーグに立ち向かったのがヒーローじゃないんだったら、私はヒーローなんていないと思うよ」
「……っ」
 ソラちゃんが息を飲む気配がする。
「私は、あの時思ったよ……ヒーローだ、って」
「っ、……っ」
──だからね、ソラちゃん。
 あなたは、私にとってすごい人なんだよ。そして。
「……私だけのヒーロー、なんだよ」
「っ!」
 ぎゅ、とソラちゃんのケガに響かないように抱きしめる。エルちゃんのために頑張っているけど、ソラちゃんだって同じなんだから。
「私がいるよ」
「……ましろ、さん」
「大丈夫だから」
「……はいっ」
 私のヒーローは、いつだって頑張り屋さんだから、だから私も頑張りたいの。
──あなただけの、ヒーローになりたいって、そう思うんだよ。
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