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Liella!

 日番だったから四季達を先に行かせて、仕事を終えたあと部室に行こうと机の中に手を入れた瞬間だった。
「……ん?」
 なんか入ってる。教科書やプリントとは違うやつが。出してみるか。
「……手紙」
 机の中に入っていた一通の便箋だったみたいだな。今日が手紙の日ってことにちなんでなのかは知らないけど。これっていわゆるファンレターってやつじゃないのか。間違いとかドッキリじゃないよな、そう思うも書かれた名前があたしの名を示していて。綺麗な文字で『米女メイ様』と書かれた薄緑の封筒の口をそっと開けてみた。
――拝啓、米女メイ様。
 拝啓という挨拶から始まり、すごく丁寧に書いてくれているあたしの名前。そこからはLiella!の活動を褒めたたえてくれる内容だった。
「……照れんだけど」
 誰も周りにいなくて良かったと思う。部室に行けば、かのん先輩だけじゃなく四季達にも見られてしまう。そうなると自然と腰は自分の椅子に降りていた。
「ふーん……」
――ステージでキラキラしている姿が大好きです。
「……小っ恥ずかしいな」
 思わず心の声が飛び出す。とは言え、イヤとかそういうんじゃなくて、嬉しさと幸せな気持ちと……眩しい気持ちというか。
――昔のあたし、だな。
 文面から伝わる感情に懐かしさを覚える。スクールアイドルが好きで、かのん先輩達のステージに感動して。それで結ヶ丘に入りたいと思って。それで、入学してから色々あって。
「でも、うん」
 悪くないと思う。というか、毎日が刺激的で飽きる日なんてこれっぽっちもありはしない。だから、かつてのあたしと今の姿が手紙の主と重なるようで。嬉しくなるんだよ。
――もっと頑張らないと、な。
 口角が上がる。可愛いって言われるのはまだ慣れないところはあるけどさ、応援してくれる人たちの気持ちがあればもっと頑張れる。どこまでも飛んでいける。
「――メイ、遅い。何してるの」
「ん、悪い四季」
 思った以上に手紙に夢中になっていて時間を忘れてしまっていたみたいだ。いつまで経ってもやってこないあたしを心配してか、四季が教室の入口からあたしを呼んでいた。手紙をしまいこんで立ち上がる。
「……何かいいことでもあった?」
「まぁ、な」
「……」
 するとなんかよくわかんないけど四季がムスッとした顔になって、あたしを睨んできた。大方教えてないのがカチンときたんだろうけどさ。
――ったく、しょうがねぇな。
「……後で教えてもいいけど、かのん先輩たちには絶対言うんじゃねーぞ」
「口は硬いから、任せて」
 ブイサインを見せてきて調子のいいやつ。でも、そうだな。四季ぐらいなら言ってもいいか。そんな思いになっていく。
――星に、なるんだ。
 追いかけての星じゃなく、誰かの星になること。その一人目が手紙の主だとしたら、それはあたしにとって。
――すごく幸せなことじゃねーか。
「いくぞ、四季」
「……みんな、待ってる」
「……あぁ!」
 笑いあって走り出す。遅れたのは少しだけ大目に見てくれよな。
 足取りは軽くて、本当に今なら何でもできそうな気がする。
――ありがとな。
 どこかの誰かとそっくりで気持ちを伝える方法を選べた過去のあたしとは違う人。なんでもできるわけがないのに、そんなことをあたたかくなった心の中で思ったのだった。
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