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酔っぱらいはお好き? ~2~

数ヶ月程前、駅の反対側にindigoに似たカジュアルさを売りにするホストクラブがオープンし、一時ガタッと客足が落ちた。

ビラ配りやブログSNS等で集客を計ったものの、新人ホストの募集も辞めざるを得なくなり、いよいよ人件費との闘いになりつつあった年の瀬。

そんな中、服役中のテツからindigoに手紙が届いた。

何気ない近況報告だったが、その中に刑期が少し短くなる可能性を匂わせた文章があり、晶たち一同目を細めて喜んだ。

だが、店長として右肩下がりな売上を実感していた晶にとっては、仲間とはいえ犯罪者の札が付いてしまったテツの処遇を不安がり塩谷に談判していたが、のらりくらりと交わされるばかり。

一方でホスト達のモチベーションは上がり一致団結した刹那、今回のママの店の閉店話・・・

『悪い憂夜。晶が帰るまで店に居てくんねえか?』

本来なら一人でいく筈だったラストオープンパーティーにわざわざフラストレーションの溜まりまくった晶を連れ出し、出掛けに解りきったかのようにわざわざ自分を足留めして───。


「──かえって───くるよ──ね──」

不意に、寝惚けた晶が誰にともなく問いかけた。

「ぜったい──つぶさないから──ねえ──がんばる──から──」

片腕を高く振り上げ、何もない空を掴む。


・・・まだ告げられていないようですね、オーナー


そうそして、憂夜も全く知らなかった事実・・・

塩谷は、テツの出所後の身元保証人を自ら引き受け、なんと住む部屋までこっそり探していた。

『晶には黙ってろよ!すぐつけあがるからな』

自分の店にとってマイナスになりかねないテツがいつ帰ってきてもいいようにと、自分にも内緒で準備を進めていた塩谷の心意気に、憂夜も脱帽するしかなかった。

「元気かなあ──テツ──」

宙を泳いでいた手が、パタリと布団に落ちた。

「まって──るんだ──から──」

最後は言葉にならない呟きで夢の中に戻った晶に、憂夜は温かい眼差しを注いだ。


大丈夫ですよ、晶さん。


憂夜は晶の顔にかかった髪の毛をそっと指で払った。


皆、貴女の笑顔が見たいんです。


いくら恋い焦がれていても、無防備な彼女を無理矢理手に入れようとは思わない。

ただ───

憂夜は晶に屈み込むと、そっと柔らかい唇に自分の唇を落とした。


・・・残業代は戴きますよ、店長。


じっと動かずにいると晶が無意識に身を捩る。

「おやすみなさい……良い夢を」

やっと晶から唇を離した憂夜は、暫くの間無邪気な晶の寝顔を堪能していたがやがて立ち上がると、静かにオーナールームを後にした。


……裏口の扉が閉まり鍵を掛ける音が響いた後には、晶の寝息だけが優しく溢れる。

目が覚めれば、塩谷オーナーから嬉しいニュースが届くはずだ。

──ホストとしては当面復帰は出来ないが───

今日、模範囚のテツの仮釈放が決まったと塩谷本人から憂夜に連絡があった。

明日にでも、朝礼でオーナーの口から発表される筈だ。

晶やホスト達がずっと待ち望んでいた朗報……

そしてきっと、テツ自身も。



インディゴの夜は、様々な人達の想いを吸い込みながら今日も確かに、静かに更けていく……。

~END~
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