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酔っぱらいはお好き? ~2~

「潰すかっつーの!!」

ママの店で散々堪能したワインやらシャンパンやらのアルコールを原動力に、エンジン全開の晶が塩谷にメンチを切りながらまた迫ってきた。
ジリジリ下がる塩谷の肩をがっちり掴み見下ろしてくる。

売り上げが悪い、というほぼ日常の挨拶と化した嫌味を軽く流せるまでなった晶も、リアルな現実を目の当たりにし《潰れる》というワードには黙っていられなかったらしい。

『───いーわ、話し合いましょうよ、徹底的に!』

だいぶ出来上がっていた晶を迷惑になる前にママの店から引きずり出し、多少の迷惑をかけても大丈夫なこの焼き鳥屋に引っ張り込んだのが2時間前。

それからindigoの経営方針やホスト達がいかに頑張っているかを熱々と語られ、銘酒を遠慮なくどんどん頼む晶に比例し、塩谷の口数が段々減っていった・・・。

「わかってんのかよーっ!あんたオーナーだろうが!ずぇーったいにぃ」

急にするりと手が離れた。

片手にあった盃が落ち、固い音を立てカウンターに転がる。
椅子にすとんと腰を降ろすと、晶はそのまま突っ伏すように倒れこんだ。

「ぜぇったいー・・・なくさないっ」

呂律の回らない口調で、それでもまだ言いたりない顔を塩谷に向ける。

「なくしちゃだめなのっ──テツが戻って──くんだからあ───」

晶の視点がだんだん合わなくなり、カウンターから片手がずり落ちた。

「いばしょ…まもってやる…」

呟きがそのまま寝息に変わる。

やがて無邪気な顔で眠り込んだ晶をじっと見つめ、塩谷がふっと微笑んだ。

「誰が潰すかよ」


───お前の居場所でもあるし、な。


手を伸ばし、そっと晶の頭に手を乗せる。

なんでこんな気の強い女、好きになっちまったんだろうな、俺は。

小さく上下する頭をくしゃっと撫でると、塩谷は手酌酒で晶の寝顔を肴に暫し、一人ごちた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

出逢った頃から曲がったことが大嫌いで、筋の通らない事は誰にだろうと容赦なく噛みついてくる女だった。

美人でプライドも高く仕事もできる自信家で…

その癖、色恋ざたにはさんざ弱く結局、司みたいな偽善者にコロッと騙され、傷ついて。

こいつは虚栄心とか利己私欲ってもんは二の次で、ただ他人のためだけに心を砕く。だから―――

まっさらな心は、守るもんがいなきゃ傷だらけになる……。


───あんたには無理だよ───


司に言われた言葉は、今でも蟠って引っ掛かり、跳ねる。

分かってるさ、そんな事。

手に入れようなんざ思わない。

ただ、居てくれるだけでいい。


───手離したくないだけだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「こんな跳ねっ返り、こっちからお断りだ」

近くに転がっていた徳利を寝ぼけながら抱き締めた晶を見て、塩谷はあきれ顔で、しかし愉しげに笑った。
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