酔っ払いはお好き?

無事、エルドラドに晶を連れ込めたのはいいが、この店のナンバーワンがいつまでも晶だけにくっついているわけにもいかない。
指名はどんどん入ってくる。

とばっちりを被ったのは、必然的に空也のヘルプについたホスト達だった。

「特別なお客様だ。決してご機嫌を損ねてお帰り頂くことのないように」

という、かなり難易度の高いミッションを投げられたヘルプ達。

今までホストとして培ってきた経験やマニュアルが、気持ちいいほど通用しない晶。
ひたすら説教の嵐を食らいながらも、今日の分は全て空也持ちという異常事態に晶が腰を浮かさないよう、どんどんもてなした結果・・・。


「お待ちしておりました」

恭しく、空也が憂夜を出迎えた。

「すみません。ちょっと───計算を間違えまして」

空也の誤魔化すような眼差しを一瞥し、憂夜が見ると

───ソファーの上でジャケットを頭から被り、くたりと横になって眠る晶の姿があった。

頬に赤みを湛えて唇を少し開き、無邪気に寝息をたてている。

「・・・こんなになるまで飲ませろと誰が頼んだ?」

地鳴りのような憂夜の声にも怯む事なく、あどけない表情で眠る晶にわざと頭から被せていたジャケットをそっと外す。

「すみません。高原さんをお引き留めするためには、このくらいでないと足りなくて・・・」

申し訳なさそうに憂夜を見る。

テーブルにはドンペリに始まり、ロマネにエノテーク、滅多に出ないだろうリシャールまで空いていた。

「高原さん、起きてください」

「ん・・・」

空也が晶の肩を揺すり起こそうとするが、晶の唇から吐息が零れ落ちただけで動じない。

「───どけ」

憂夜が凍るような視線を空也に投げつけ退かせると、晶の身体を起こし、そのまま軽々と腕に抱きかかえた。

「タクシーを捕まえてくれ」

「はい」

晶を抱えた憂夜が空也を引き連れ歩いていく。

他の女性客の羨望の眼差しとホスト達の嫉妬が入り交じる店内を抜け出し、晶は空也が止めたタクシーに無事、保管された。
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