酔っ払いはお好き?
新宿の帝王と崇められ、数多き女性達にどんなに迫られてもクールな顔色ひとつ変えなかった憂夜。
しかし今、たった一人の女性に翻弄され、こうやって人間臭い表情をさらけ出している。
何が彼の心を揺り動かしたのか・・・
多分、自分と寸分違わぬ部分なんだろうと思うと、空也も他人事とは思えなかった。
「もう、いたあいーっ!」
テンションが上がりきっている晶が憂夜に捕まって騒ぎ始めた。
「大きな声を出さないで下さい!落ち着いて・・・」
焦った憂夜が掴んだ手を緩めると、その隙をついてまた逃げようとする。
───どこまでも、罪な人だ。
不要なオーディエンスが注目し始めたのを見て、空也は天を仰ぐと二人に向かって歩き出した。
晶は晶で、素直にindigoに帰るつもりなんて更々ないんだろう。
無論、無数にある店の中で牙を隠して待ち構えている店はそうないことを空也も知っている。
しかし、オーディエンスの中に何匹かのハイエナが紛れて待ち構えているのを目に留めていた。
そしてこの街の色濃い闇の部分を肌身に染み込ませている憂夜もそれに気づき、易々と晶を手放す事が出来ないでいる。
もし今ここで彼女を見失えば、平和だった昨日と同じ明日は二度とやってこない。
──今、たった今、危険な目にあったばかりだというのに───
「うちにお越し下さい。高原さん」
憂夜の手を逃れた晶を待ち構え腕に捕らえると、空也は顔を覗き込みホストスマイルで笑いかけた。
「ここで貴女とお逢いできたのも何かの運命です。出逢えた記念に、シャンパンでお祝いさせて戴けませんか?」
シャンパンというキーワードに、飲み足りない晶の食指がピクリ動いた。
途端に大人しくなり、空也を訝しげに見上げてくる。
「もちろん貴女にご負担は一切おかけしません。何でもお好きなものをご馳走しますよ。僕のささやかな気持ちです…受け取って下さいますよね?」
満面の笑みを湛えて、真っ直ぐに晶を見据える。
晶が少し考え込み・・・コクリ頷いた。
憂夜が戸惑った様に空也を見た。
「おい、空也・・・」
「そちらが引けたら迎えにいらして頂ければ結構です。それに」
空也も少し声のトーンを下げて憂也を見る。
「貴方もこれ以上は目立たない方がいい。そんな滑稽な姿を知ってる顔に見られるのも困るでしょう」
その言葉に、憂夜が一瞬躊躇した。
今日の憂夜は珍しくカジュアルなジーンズ姿。肌にあたるのはシルクのブラウスだがアクセサリーも地味で、ジャケットも押さえ目の色をチョイスしている。
時が経っているとはいえ、今もまだ彼の武勇伝が囁かれるこの街でトラブルを起こすのは、彼にとって最も避けたいことだった筈だ。
「責任を持って、お預かりします。ご安心下さい」
「───すまない」
大きく息を吐き出した憂夜の肩が少し下がった。
「しかし、どうやってここが?」
「途中、お前の彼女に間違って手を出したと怯えていた二人組に会った───後で迎えに来る」
そう言うと空也に支えられ立っている晶に視線を流し、足早に路地裏に消えて行った。
───貴方の勘も相変わらず鋭い。
空也は肩をすくめ苦笑した。
「さあ、参りましょうか」
ようやく素直になった晶の肩を抱き、空也は自分のホームに向かって歩き出した。
が…。
しかし今、たった一人の女性に翻弄され、こうやって人間臭い表情をさらけ出している。
何が彼の心を揺り動かしたのか・・・
多分、自分と寸分違わぬ部分なんだろうと思うと、空也も他人事とは思えなかった。
「もう、いたあいーっ!」
テンションが上がりきっている晶が憂夜に捕まって騒ぎ始めた。
「大きな声を出さないで下さい!落ち着いて・・・」
焦った憂夜が掴んだ手を緩めると、その隙をついてまた逃げようとする。
───どこまでも、罪な人だ。
不要なオーディエンスが注目し始めたのを見て、空也は天を仰ぐと二人に向かって歩き出した。
晶は晶で、素直にindigoに帰るつもりなんて更々ないんだろう。
無論、無数にある店の中で牙を隠して待ち構えている店はそうないことを空也も知っている。
しかし、オーディエンスの中に何匹かのハイエナが紛れて待ち構えているのを目に留めていた。
そしてこの街の色濃い闇の部分を肌身に染み込ませている憂夜もそれに気づき、易々と晶を手放す事が出来ないでいる。
もし今ここで彼女を見失えば、平和だった昨日と同じ明日は二度とやってこない。
──今、たった今、危険な目にあったばかりだというのに───
「うちにお越し下さい。高原さん」
憂夜の手を逃れた晶を待ち構え腕に捕らえると、空也は顔を覗き込みホストスマイルで笑いかけた。
「ここで貴女とお逢いできたのも何かの運命です。出逢えた記念に、シャンパンでお祝いさせて戴けませんか?」
シャンパンというキーワードに、飲み足りない晶の食指がピクリ動いた。
途端に大人しくなり、空也を訝しげに見上げてくる。
「もちろん貴女にご負担は一切おかけしません。何でもお好きなものをご馳走しますよ。僕のささやかな気持ちです…受け取って下さいますよね?」
満面の笑みを湛えて、真っ直ぐに晶を見据える。
晶が少し考え込み・・・コクリ頷いた。
憂夜が戸惑った様に空也を見た。
「おい、空也・・・」
「そちらが引けたら迎えにいらして頂ければ結構です。それに」
空也も少し声のトーンを下げて憂也を見る。
「貴方もこれ以上は目立たない方がいい。そんな滑稽な姿を知ってる顔に見られるのも困るでしょう」
その言葉に、憂夜が一瞬躊躇した。
今日の憂夜は珍しくカジュアルなジーンズ姿。肌にあたるのはシルクのブラウスだがアクセサリーも地味で、ジャケットも押さえ目の色をチョイスしている。
時が経っているとはいえ、今もまだ彼の武勇伝が囁かれるこの街でトラブルを起こすのは、彼にとって最も避けたいことだった筈だ。
「責任を持って、お預かりします。ご安心下さい」
「───すまない」
大きく息を吐き出した憂夜の肩が少し下がった。
「しかし、どうやってここが?」
「途中、お前の彼女に間違って手を出したと怯えていた二人組に会った───後で迎えに来る」
そう言うと空也に支えられ立っている晶に視線を流し、足早に路地裏に消えて行った。
───貴方の勘も相変わらず鋭い。
空也は肩をすくめ苦笑した。
「さあ、参りましょうか」
ようやく素直になった晶の肩を抱き、空也は自分のホームに向かって歩き出した。
が…。