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酔っ払いはお好き?

「礼を言う、空也」

空也の隣に無事でいる晶を確認した途端、強張っていた憂夜の表情がするりとほどけた。

「店長、戻りましょう」

息を切らしながら晶を促す。

「なぎさママが心配されてらっしゃいました。嫌な思いをさせて申し訳なかったと」

「・・・やだ」

表情を固くして、晶が憂夜に背を向けた。

「戻らない。あの女が土下座するんなら考える」

「お気持ちは分かりますが・・・」

憂夜が困り果て、息をついた。

どれだけ探し回ったのか、彼のウエーブの髪が散らかり、額にも汗が滲んでいる。

空也が知る冷淡な切れ長のダークブラウンの瞳は、今はもどかしさを湛えて晶だけを見つめていた。

「お気持ちはよくわかります。ですが───」

「先に帰ってる。そう塩谷さんに言っといて」

「いけません!オーナーからは連れ戻すよう命を受けています」

憂夜も引き下がらない。

「子供じゃないんだから大丈夫!お店に帰って一人寂しく飲み直すわよ」

目も合わさずそう言った晶の言葉に、聞いていた空也の口元が思わず緩んだ。

ふらつく足で踵を返した晶の前に立ち塞がる。

「───どちらへ?」

「聞いてたでしょ、帰るのよ」

「大通りは向こうですよ」

「どっから行こうが勝手でしょ!どいてよ」

酒の影響で少し弱まった眼光を飛ばしながら空也を押しのけ先に行こうとするが、晶の意図が丸見えな空也は頑として譲らない。

「店長、気を静めて頂けませんか」

憂夜も晶を逃がすまいと挟み撃ちにするように立ち塞がった。

「お願いですから私と一緒にお戻り下さい。先方には後で私からお詫びを・・・」

「何で憂夜さんが謝るのよ!」

晶が憂夜に向かって毅然と言い放った。

「あの女、あいつらの事バカにしたんだよ?Indigoを侮辱したの!」

潤んだ瞳に怒りを湛えて、晶が真っ直ぐ憂夜を睨むように見た。

「あたし悔しい!憂夜さんは悔しくないの?あいつらはあいつらなりに頑張ってお客様と向き合ってるのにさ」

気の強い丸い瞳がますます潤み、涙が盛り上がる。

「普通ってなに?王道じゃないから何だっての?確かにindigoは異色だしあいつら全然ホストらしくないよ。でもお客様に夢を見せる、幸せにする仕事だってのは全然変わんないんだよ!・・・お気楽だって?遊びの延長だって?あの子達が毎日どんだけ頑張って笑顔作ってんのか全然知りもしないくせに!」

怒りのボルテージが分かりやすいほど上がっていく。

「努力してる人を馬鹿にする奴なんてやっぱり土下座したって許さない!二度と会いたくない!」

顔をしかめ涙を落とす晶に、憂夜が優しく諭すように声をかけた。

「分かりました。では顔を会わせないよう別のフロアをお取りします。少しだけお待ち頂ければ…」

「ちゃんと一人で帰るわよ。心配しないで」

憂夜の必死の説得にも耳を貸さず涙を拭うと、晶はまたふらつく足で間をすり抜け歩き出した。

「店長!待ってください!」


───全く、この人は───


恐らく、立場的に今すぐ抜け出し晶をindigoに送り届ける事が難しいのだろう。

晶に必死で追い縋る憂夜を眺めながら、空也はため息をついた。
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