酔っ払いはお好き?

「離して!どいてってばっ!」

酒が入っているらしく足元はおぼつかないものの、気合いの入った瞳は真っ直ぐに腕をつかんでいる輩共を睨み付けている。

「じゃあさ、カラオケ行かない?カラオケ」

「そーそー、お姉さんの可愛い声もっと聞きたいなー」

───全くもって、めげない奴ら。

空也は思わず苦笑した。

茶髪に鼻ピアスと焦げた肌のツンツン頭・・・確か、この通りにある小さなクラブの中堅ホスト達だ。

この間もうちの新人と客の争奪戦でトラブルを起こしていたのを空也は思い出した。

何とか晶を近くのカラオケボックスに連れ込むべく策略する男達に空也は後ろから近づいていった。

「やだ、離して!」

「大丈夫、さー行こ・・・ぎゃっ」

一人の男の手が晶の腰に回った瞬間、空也がその手を捻り上げた。

「痛ででっ!離せよ・・・ひっ!」

「てめえ何やって───げっ、空也!?」

振り向き様啖呵を切った輩達が、空也を見たとたん声をひっくり反らせた。

「・・・俺の客に、何してくれてんのかな?」

垂れた前髪の間から氷の様な鋭い瞳に突き刺され、二人の表情が一変した。

この歌舞伎町で、空也に喧嘩を売るホストは皆無だ。

ナンバーワンホストのオーラに加え、腕っぷしの強さと何事にも動じない度胸の据わった空也の名は、この界隈の隅々まで轟いていた。

「こんな御法度な真似するくらいだ。落とし前つける覚悟ぐらい、当然有るんだろうな?」

空也が発した空気をも震わす低い据わった声に、狼狽した輩達の瞳孔が開いた。

「───空也!」

晶が心底ほっとした顔で空也の後ろに逃げ隠れる。
背中に晶の温もりが広がった。

「消えろ。今度は無いぞ」

毛穴が逆立つような摂氏零度の声で言い放つと、二人の輩は転がるようにして裏通りの路地にあっという間に消えていった。
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