酔っ払いはお好き?
新宿歌舞伎町でも最大を誇るホストクラブ【エルドラド】は、ただいま絶賛好評営業中。
空也は、この夜自分に金をしこたま落としてくれた太客を熱い抱擁のプレゼント付きでタクシーまで見送り、一息つこうと裏口に回った。
細い裏路地にあるそこは、生ゴミやアルコールの饐えた臭いが満ちていて全く落ち着ける場所ではないのだが、空也はいつもここに来る。
この店に出勤すれば、必ず誰かが周りに侍る。
引っきりなしに指名を受け、一人になれるのはトイレの中だけ・・・
そんな現実がステータスであり、ある意味、空也の心を荒ませる原因でもあった。
「───離してよっ!」
ドアの前で煙草を出そうとした時、路地に女性の声が響いてきた。
「いらないってば・・・どいて!」
また女が客引きに捕まってるのか
やれやれと言った顔で空也は煙草を一本くわえた。
一昨年位からの条例で客引きは禁止になった・・・筈なのだが、ここ歌舞伎町では未だに隠れキャッチが後を断たない。
オーナーが食っていくのさえ四苦八苦している場末の店は、時世の波に抗うように生き残ろうと懸命に足掻く。
空也の店のように、待っていれば客が蛍のように飛んでくる所は本当に少ないのだ。
「お姉さんの怒った顔、ちょー俺の好み!運命感じちゃった」
「機嫌直してさ、俺達と楽しく飲もうよ、ねっ?」
───ベタなセリフがますます自分を安っぽく見せるって事、知らないのかね。
Dupontのライターがカチリと鳴った。立ち昇る紫煙の向こうに裏通りが見える。
とりあえず、止めなきゃな。
空也はこれからを思案しながら、煙草を吸い込んだ。
老若問わず、この世の女性全員が自分の恋人、が空也の信念。
ただそれを抜きにしても、自分の目の届く範囲で好き勝手されては新宿ナンバーワンの沽券にも関わる。
「そんな嫌わなくったっていいじゃん?うちの店、リーズナブルだし絶対ハマるってば」
「ホストなんてもう見飽きてんの!ついてこないで!」
反響した声が段々近付いて、また通り過ぎ・・・行き交う人に隠れて、一瞬ふわりとロングの巻き毛が靡いた気がした。
空也の視線が自然とそこに向く。
まさか・・・な。
「気安く触んなっつってんだろ!しっつこいんだよ!」
ドスの効いた気っ風のいい啖呵が響いた瞬間、空也は煙草を投げ捨て、通りに飛び出していた。
「もういい加減にしてよっ!」
───諦めの悪い輩に捕まり、身を捩って逃げようとしている高原晶の姿がそこにあった。
空也は、この夜自分に金をしこたま落としてくれた太客を熱い抱擁のプレゼント付きでタクシーまで見送り、一息つこうと裏口に回った。
細い裏路地にあるそこは、生ゴミやアルコールの饐えた臭いが満ちていて全く落ち着ける場所ではないのだが、空也はいつもここに来る。
この店に出勤すれば、必ず誰かが周りに侍る。
引っきりなしに指名を受け、一人になれるのはトイレの中だけ・・・
そんな現実がステータスであり、ある意味、空也の心を荒ませる原因でもあった。
「───離してよっ!」
ドアの前で煙草を出そうとした時、路地に女性の声が響いてきた。
「いらないってば・・・どいて!」
また女が客引きに捕まってるのか
やれやれと言った顔で空也は煙草を一本くわえた。
一昨年位からの条例で客引きは禁止になった・・・筈なのだが、ここ歌舞伎町では未だに隠れキャッチが後を断たない。
オーナーが食っていくのさえ四苦八苦している場末の店は、時世の波に抗うように生き残ろうと懸命に足掻く。
空也の店のように、待っていれば客が蛍のように飛んでくる所は本当に少ないのだ。
「お姉さんの怒った顔、ちょー俺の好み!運命感じちゃった」
「機嫌直してさ、俺達と楽しく飲もうよ、ねっ?」
───ベタなセリフがますます自分を安っぽく見せるって事、知らないのかね。
Dupontのライターがカチリと鳴った。立ち昇る紫煙の向こうに裏通りが見える。
とりあえず、止めなきゃな。
空也はこれからを思案しながら、煙草を吸い込んだ。
老若問わず、この世の女性全員が自分の恋人、が空也の信念。
ただそれを抜きにしても、自分の目の届く範囲で好き勝手されては新宿ナンバーワンの沽券にも関わる。
「そんな嫌わなくったっていいじゃん?うちの店、リーズナブルだし絶対ハマるってば」
「ホストなんてもう見飽きてんの!ついてこないで!」
反響した声が段々近付いて、また通り過ぎ・・・行き交う人に隠れて、一瞬ふわりとロングの巻き毛が靡いた気がした。
空也の視線が自然とそこに向く。
まさか・・・な。
「気安く触んなっつってんだろ!しっつこいんだよ!」
ドスの効いた気っ風のいい啖呵が響いた瞬間、空也は煙草を投げ捨て、通りに飛び出していた。
「もういい加減にしてよっ!」
───諦めの悪い輩に捕まり、身を捩って逃げようとしている高原晶の姿がそこにあった。