この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
七章、共同任務
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アンヌがカミーノまでの航行順路をナビゲーター通りに設定しようとしていると、突然冷たい何かに触れて我に返った。それは、グリーヴァスの手だった。用事を阻まれたことに気分を害したアンヌは、黙って彼の両目を見ている。程なくして、耳障りな機械音のような合成音声が響いた。彼の声だった。
「───その経路で行けば、我々が設置した巡視システムにみつかる。こっちへ行け」
「それは海賊たちがよく使うルートじゃない。勘弁して」
「俺の方が戦術的に上だ」
「あなたの戦術はいつも冷酷だった」
関係のないことだ。それはアンヌも知っていた。だが、何故かいつもグリーヴァスと話をすると、必ずと言っていいほどに反論したい気分になる。
「それはそうだ。俺の部下はほとんどがドロイドだからな。だが、お前は違う。お前は生きているやつらを俺が部下を扱うのと同様に────」
グリーヴァスが言い終わる前に、アンヌは航行順路を提案通りに設定し直し始めた。それを見届けた彼は、満足げに笑みを浮かべている。マスクの上からでは感情が読み取りづらいものの、今回だけはアンヌにでも笑っていることが手に取るように理解できた。
「宜しい。これで従うというタスクはクリアできそうだな」
──ムカつくやつ。
アンヌは軍師訓練を受けて以来と言っても良いほど、久々に感じる怒りを覚えながらデュラスチールのサイボーグを睨み付けるのだった。
グリーヴァスの示唆した航行順路では何の問題も起きず、一同は次の作戦を練り始めていた。ドゥークーはどこからともなく持ち出してきたホログラムを取り出すと、机の上に置いて投影した。
「それは────」
「カミーノにある、機密施設の見取り図じゃないか!!」
「閣下。一体どうやって持ち出されたのですか?」
「どうやら、あなたの知らない戦術もあるようね」
アンヌとグリーヴァスが互いに敵意の視線を交わす中、ドゥークーは進行順路を示した。
「スクラップに紛れて行こう」
それを聞いたアンヌは、目を丸くしてグリーヴァスを指差した。
「スクラップ?この人はできると思うけど、他はどうするの?」
「俺を指差すな!」
グリーヴァスが憤慨しながら、アンヌを殴るために構える。ドゥークーは失笑すると、今度はホログラムをダクトルートの画面に切り替えた。丁度ダクトはラマ・スーの執務室に繋がっており、警戒区域も脱することができる。するとドゥークーは自らに手錠をかけ、にこりと一同に微笑んだ。
「私が逃げたということにしよう」
「なるほど。それで僕とマスター・ケノービがあんたを追えばいいわけだ」
「恐らく、カミーノアンたちは私を保護して君たちを追うだろう。だが、案ずるな。私が救う」
その言葉を聞いて、アナキンが鼻で笑った。
「随分と"心強い"お言葉ですね、マスター」
「ああ、とてもな」
こうして、アンヌたちの最初の共同任務が始まった。
オビ=ワンとアナキンはドゥークーに手錠を付けると、何食わぬ顔で歩きだした。耳元でアナキンが伯爵に囁く。
「あんた、裏切ったら叩き切るからな」
「どうだか。君はやはり短気だな」
「二人とも、やめないか」
オビ=ワンに諭され、二人はようやくいがみ合いを止めた。アナキンは面白くないのか、すっかり不機嫌だ。彼のマスターは不機嫌な元弟子を掴んで釘を刺した。
「情勢にかこつけて、ドゥークーをブラスターの海に放り込むのだけは止めるんだぞ」
「はいはい、わかりましたよ。マスター」
そう言うと、アナキンはずかずかと大股で歩いていってしまった。オビ=ワンが後ろから肩をすくめてついていく。
すると、さっそくカミーノアンたちがやって来た。彼らは計画通り、ドゥークーを捕らえて移送したと思い込んでいる。
「ドゥークー伯爵をこちらに引き渡されると?」
「そうだ。頼めるか?」
カミーノアンたちはオビ=ワンの言葉に何かを相談し始めると、大きな目を細めて突然ショックブラスターを放った。これには想定外だったアナキンが、正面からスタンを食らって床に倒れる。
「何の真似だ!」
この言葉は芝居ではない。オビ=ワンはこのような状況でも尊大で清々しいドゥークーを見た。
────しまった。裏切られたか!?
だが、既にそこにドゥークーの姿はなかった。慌てて辺りを見回したオビ=ワンは、手錠を付けられた状態で宙返りをし、隠し持っていたライトセーバーをフォースで起動させているのを目撃した。宙に浮いたライトセーバーを器用に指先で持ち直したドゥークーは、そのまま自ら手錠を焼き切って唖然とするカミーノアンたちの居る中央に降り立った。
「────生憎ながら、私は捨て駒にはならないよ」
その瞳には、オビ=ワンも見たことがない怒りと哀しみ、そして決意が宿っていた。ドゥークーはライトセーバーを構え、オビ=ワンに言った。
「さぁ、始めよう」
赤と青。二本の光刃が舞い始めた。
一方、グリーヴァスとアンヌはダクトの入り口まで到着していた。アンヌは入り口をアゴで示した。
「それはどういう意味だ、小娘」
「先に行って」
「何だと?」
すると、アンヌは頬を真っ赤にして俯いてしまった。グリーヴァスにはさっぱり意味がわからない。
「だって!その……いいから!早く進みなさい!」
「……それも作戦のうちか?」
「そ、そうよ!作戦のうち!だから早く行って!」
グリーヴァスは首をかしげながらも、渋々節足動物のように足を変形させると、そのままナナフシのようにダクトを進み始めた。アンヌも慌ててその後ろについていく。だが、内心ではホッとしていた。
彼女が言いたかったこと。それはつまり、自分がダクト恐怖症だから先に行けということだった。まだ軍師になる前のある日、アンヌはジェダイ聖堂でダクトの掃除をしていた。だが掃除中であることを知らなかったアナキンが入り口をネジで止めて閉め直してしまい、彼女は閉じ込められたことがあるのだ。後々気づいたオビ=ワンたちが探してくれたが、見つかったときには埃と汚れと涙で顔がぐしゃぐしゃだった。
ダクトが嫌いだなんて、あのサイボーグにだけは知られたくない。
アンヌがそんなことを思いながらダクトを進んでいると、ラマ・スーの執務室上に出た。何やら通信をしているので、二人は息をのんで耳をそばだてた。
「────はい。そうです。ドゥークーが裏切ったようです」
二人は顔を見合わせた。ドゥークーとオビ=ワンたちが侵入に成功したのだ。だが、通信には続きがあった。
『了解。そちらにクローン兵を送る。第212アタック・バタリオンとコマンダー・コーディをそちらに派遣した。あと15分ほどで着く』
アンヌはそれを聞いた瞬間に青ざめた。グリーヴァスも目を細めている。
「……どうするのよ」
「それを考えるのが、軍師の仕事では?」
そう言って、グリーヴァスは目的地であるダクトの出口から顔を出した。下には既に何体かの護衛がいる。彼は指と足先の磁気を利用して天井に張り付いた。
一方アンヌは、そんな芸当ができるはずもないため、グリーヴァスを凝視した。彼が飛び降りろと言いたげに首を動かす。ため息をついたアンヌは、フォースを使って着地することをしっかりとイメージしてからダクトを飛び出した。
思い描いていた着地とは若干違ったが、アンヌは一体の警備ドロイドを真上から踏みつけて着地に成功した。すぐに警戒体制に変貌したドロイドを倒すべく、彼女はライトセイバーを起動させた。同時にグリーヴァスも床に降り立って、二本のライトセイバーで戦い始める。
「そのライトセイバー、誰のものなの!?」
「ふん。死人には必要ないだろう?」
アンヌは呆れながらも、グリーヴァスの攻撃の素早さと正確さに感心していた。見事な連携プレイであっという間に警備網を突破し、二人は制御室の前まで来た。力づくで解除しようとするグリーヴァスを制し、アンヌはポシェットから一本のコネクターを取り出した。
「何をする気だ?」
「ハッキングするの」
驚くグリーヴァスをよそに、コネクターを刺しただけで扉は開いた。
「……随分楽そうだな」
「でしょ?」
得意気に笑うアンヌだったが、再び遠くから銃撃の音が聞こえてきたため、ライトセイバーを構え直した。ブラスターを振り切りながら廊下を走って来る人物たちの姿に、二人は見覚えがあった。アナキンとオビ=ワン、そしてドゥークーだ。アナキンはアンヌに気づくと、空いた方の手を振って叫んだ。
「アンヌ!扉の解除コードを変更しろ!」
「え?でも────」
「早く!」
作戦を何となく理解したアンヌは、解錠コードを変更する手続きに入った。扉の外ではアナキンたちが全力疾走している。
「アナキン、私がフォースで押す。先に行け!」
本人の返事も待たずして、オビ=ワンはアナキンの背をフォースで押した。綺麗に真っ直ぐ制御室へ飛び込んだ彼は、床を滑りながら思わず痛みで悪態をついた。だが今、そんな余裕はない。彼は次にオビ=ワンをフォースで引っ張りこんだ。
ここでようやく解除コード変更完了の電子音が鳴り響いた。アンヌは迫る敵と、孤軍奮闘するドゥークーを見比べて次の手を考えた。するとドゥークーは意外なことを言った。
「閉めるんだ!」
「でも……」
躊躇うアンヌをおしのけ、グリーヴァスが開閉ボタンを押した。ドゥークーは大きく跳躍し、転がり込むようにして閉まる扉に突撃を試みた。普段の華麗さからは完全にかけ離れた飛び込みかただったが、何とか彼も制御室へ入ることができた。
「さぁ。早くコードを解除するんだ」
「わかっているよ、アナキン・スカイウォーカー。少し時間がかかるかもしれないが、やってみよう」
その言葉にアナキンが食いついた。
「やってみよう?初めから出来ると保証していなかったか!?」
「100%のものなど、この世には存在しないよ」
アナキンは青筋を浮かべながらも、口をへの字に曲げて怒りを堪えた。アンヌは小型端末で警備システムをハッキングしながら、ホログラムに投影されている監視カメラを睨んでいる。
「あとどのくらいかかるの?」
「そうだな……あと多めに見積もっても5分かな」
涼しげな面持ちで笑うドゥークーに対し、珍しくオビ=ワンが急かした。
「急いでくれ。時間がない」
「どうして分かるんですか?」
不思議そうに首をかしげるアナキンに、オビ=ワンは目を閉じて答えた。
「嫌な予感がする」
アナキンが、そんな馬鹿なと言おうとしたときだった。アンヌの声が制御室に響いた。
「警告!アタック・バタリオン接近!3分ほどで到着するかも」
「何だと!?」
「ドゥークー!急げ!!」
「ちょっと静かにしていてくれ」
アナキンとオビ=ワンは、攻撃に備えて扉の前に待機した。ドゥークーは口でこそ余裕ありげなことを言っているが、その表情は切迫している。アンヌがモニターを見て戦略を巡らしていると、隣にグリーヴァスがやって来た。
「こういうときは、出たとこ勝負というのも悪くないぞ」
「撤退ルートを確保しないと。あなたみたいに部下を見捨てて逃げられないの」
グリーヴァスは何かを反論しようとしたが、暫くして口を閉じた。一方、扉の外では既にクローン・トルーパーたちが勢揃いしていた。
「こじ開けろ!」
「ドゥークー!」
「……もう少しだ」
アナキンがライトセイバーを起動させる。アンヌも端末を仕舞ってライトセイバーに手を掛けた。その数秒後、扉が爆破される音が部屋に響く。そして、大量のブラスターの雨が降り注いだ────
はずだった。しかし、何も起こらない。その代わり、トルーパーたちの突入と同時に電子音が響いた。
「……え?」
アナキンが拍子抜けした声を出しながら顔を上げた。オビ=ワンもライトセイバーを下ろしている。そして、目の前のトルーパーたちは、自分の上司であり友であるジェダイらに銃口を向けている状況に狼狽している。
「……解除、出来たの?」
「みたいだな」
「まだ終わりではない。チップの摘出をしなければ」
それでも、一山は越えたのだ。アンヌは思わず床に座り込んだ。そんな彼女に手を差し伸べたのは、意外にもグリーヴァスだった。
「……ありがとう」
「立て。帰るぞ」
素直に礼を述べられたのが照れ臭かったのか、グリーヴァスはそっぽを向きながら吐き捨てるように返事した。オビ=ワンはライトセイバーを仕舞いながら、ジェダイ聖堂へ連絡を取るべくコムリンクを起動させた。
「そうだ。シディアスの処断もまだだからな」
「いや、その機会は当分訪れんだろうな」
ドゥークーの言葉に、一同は耳を疑った。アンヌがすかさず質問を投げ掛ける。
「どうして?」
「恐らく、奴は逃げた。オーダー66を起動させて、さっさと逃げたのだろう」
「僕でもそうするさ。当然だ」
「つまり、また振り出しに戻る……というわけか」
ため息をつくオビ=ワンたちに対し、アンヌは首を横に振った。
「そんなことない。確かに新たな始まりになるかもしれない。けど、昨日よりは良い世界になっていると思うよ」
輪とした横顔でそう言ったアンヌに、アナキンとオビ=ワンが温かな眼差しを送る。そしてドゥークーもまた、優しい表情を向けている。しかし、その瞳の穏やかさは他の誰とも違っていた。グリーヴァスだけはその違いに気づいていたが、それが何を意味するかまでは理解できなかった。
銀河の運命が、大きく変わった。こうして、誰も見透かすことの出来ない未来への歯車が回りだした。
「───その経路で行けば、我々が設置した巡視システムにみつかる。こっちへ行け」
「それは海賊たちがよく使うルートじゃない。勘弁して」
「俺の方が戦術的に上だ」
「あなたの戦術はいつも冷酷だった」
関係のないことだ。それはアンヌも知っていた。だが、何故かいつもグリーヴァスと話をすると、必ずと言っていいほどに反論したい気分になる。
「それはそうだ。俺の部下はほとんどがドロイドだからな。だが、お前は違う。お前は生きているやつらを俺が部下を扱うのと同様に────」
グリーヴァスが言い終わる前に、アンヌは航行順路を提案通りに設定し直し始めた。それを見届けた彼は、満足げに笑みを浮かべている。マスクの上からでは感情が読み取りづらいものの、今回だけはアンヌにでも笑っていることが手に取るように理解できた。
「宜しい。これで従うというタスクはクリアできそうだな」
──ムカつくやつ。
アンヌは軍師訓練を受けて以来と言っても良いほど、久々に感じる怒りを覚えながらデュラスチールのサイボーグを睨み付けるのだった。
グリーヴァスの示唆した航行順路では何の問題も起きず、一同は次の作戦を練り始めていた。ドゥークーはどこからともなく持ち出してきたホログラムを取り出すと、机の上に置いて投影した。
「それは────」
「カミーノにある、機密施設の見取り図じゃないか!!」
「閣下。一体どうやって持ち出されたのですか?」
「どうやら、あなたの知らない戦術もあるようね」
アンヌとグリーヴァスが互いに敵意の視線を交わす中、ドゥークーは進行順路を示した。
「スクラップに紛れて行こう」
それを聞いたアンヌは、目を丸くしてグリーヴァスを指差した。
「スクラップ?この人はできると思うけど、他はどうするの?」
「俺を指差すな!」
グリーヴァスが憤慨しながら、アンヌを殴るために構える。ドゥークーは失笑すると、今度はホログラムをダクトルートの画面に切り替えた。丁度ダクトはラマ・スーの執務室に繋がっており、警戒区域も脱することができる。するとドゥークーは自らに手錠をかけ、にこりと一同に微笑んだ。
「私が逃げたということにしよう」
「なるほど。それで僕とマスター・ケノービがあんたを追えばいいわけだ」
「恐らく、カミーノアンたちは私を保護して君たちを追うだろう。だが、案ずるな。私が救う」
その言葉を聞いて、アナキンが鼻で笑った。
「随分と"心強い"お言葉ですね、マスター」
「ああ、とてもな」
こうして、アンヌたちの最初の共同任務が始まった。
オビ=ワンとアナキンはドゥークーに手錠を付けると、何食わぬ顔で歩きだした。耳元でアナキンが伯爵に囁く。
「あんた、裏切ったら叩き切るからな」
「どうだか。君はやはり短気だな」
「二人とも、やめないか」
オビ=ワンに諭され、二人はようやくいがみ合いを止めた。アナキンは面白くないのか、すっかり不機嫌だ。彼のマスターは不機嫌な元弟子を掴んで釘を刺した。
「情勢にかこつけて、ドゥークーをブラスターの海に放り込むのだけは止めるんだぞ」
「はいはい、わかりましたよ。マスター」
そう言うと、アナキンはずかずかと大股で歩いていってしまった。オビ=ワンが後ろから肩をすくめてついていく。
すると、さっそくカミーノアンたちがやって来た。彼らは計画通り、ドゥークーを捕らえて移送したと思い込んでいる。
「ドゥークー伯爵をこちらに引き渡されると?」
「そうだ。頼めるか?」
カミーノアンたちはオビ=ワンの言葉に何かを相談し始めると、大きな目を細めて突然ショックブラスターを放った。これには想定外だったアナキンが、正面からスタンを食らって床に倒れる。
「何の真似だ!」
この言葉は芝居ではない。オビ=ワンはこのような状況でも尊大で清々しいドゥークーを見た。
────しまった。裏切られたか!?
だが、既にそこにドゥークーの姿はなかった。慌てて辺りを見回したオビ=ワンは、手錠を付けられた状態で宙返りをし、隠し持っていたライトセーバーをフォースで起動させているのを目撃した。宙に浮いたライトセーバーを器用に指先で持ち直したドゥークーは、そのまま自ら手錠を焼き切って唖然とするカミーノアンたちの居る中央に降り立った。
「────生憎ながら、私は捨て駒にはならないよ」
その瞳には、オビ=ワンも見たことがない怒りと哀しみ、そして決意が宿っていた。ドゥークーはライトセーバーを構え、オビ=ワンに言った。
「さぁ、始めよう」
赤と青。二本の光刃が舞い始めた。
一方、グリーヴァスとアンヌはダクトの入り口まで到着していた。アンヌは入り口をアゴで示した。
「それはどういう意味だ、小娘」
「先に行って」
「何だと?」
すると、アンヌは頬を真っ赤にして俯いてしまった。グリーヴァスにはさっぱり意味がわからない。
「だって!その……いいから!早く進みなさい!」
「……それも作戦のうちか?」
「そ、そうよ!作戦のうち!だから早く行って!」
グリーヴァスは首をかしげながらも、渋々節足動物のように足を変形させると、そのままナナフシのようにダクトを進み始めた。アンヌも慌ててその後ろについていく。だが、内心ではホッとしていた。
彼女が言いたかったこと。それはつまり、自分がダクト恐怖症だから先に行けということだった。まだ軍師になる前のある日、アンヌはジェダイ聖堂でダクトの掃除をしていた。だが掃除中であることを知らなかったアナキンが入り口をネジで止めて閉め直してしまい、彼女は閉じ込められたことがあるのだ。後々気づいたオビ=ワンたちが探してくれたが、見つかったときには埃と汚れと涙で顔がぐしゃぐしゃだった。
ダクトが嫌いだなんて、あのサイボーグにだけは知られたくない。
アンヌがそんなことを思いながらダクトを進んでいると、ラマ・スーの執務室上に出た。何やら通信をしているので、二人は息をのんで耳をそばだてた。
「────はい。そうです。ドゥークーが裏切ったようです」
二人は顔を見合わせた。ドゥークーとオビ=ワンたちが侵入に成功したのだ。だが、通信には続きがあった。
『了解。そちらにクローン兵を送る。第212アタック・バタリオンとコマンダー・コーディをそちらに派遣した。あと15分ほどで着く』
アンヌはそれを聞いた瞬間に青ざめた。グリーヴァスも目を細めている。
「……どうするのよ」
「それを考えるのが、軍師の仕事では?」
そう言って、グリーヴァスは目的地であるダクトの出口から顔を出した。下には既に何体かの護衛がいる。彼は指と足先の磁気を利用して天井に張り付いた。
一方アンヌは、そんな芸当ができるはずもないため、グリーヴァスを凝視した。彼が飛び降りろと言いたげに首を動かす。ため息をついたアンヌは、フォースを使って着地することをしっかりとイメージしてからダクトを飛び出した。
思い描いていた着地とは若干違ったが、アンヌは一体の警備ドロイドを真上から踏みつけて着地に成功した。すぐに警戒体制に変貌したドロイドを倒すべく、彼女はライトセイバーを起動させた。同時にグリーヴァスも床に降り立って、二本のライトセイバーで戦い始める。
「そのライトセイバー、誰のものなの!?」
「ふん。死人には必要ないだろう?」
アンヌは呆れながらも、グリーヴァスの攻撃の素早さと正確さに感心していた。見事な連携プレイであっという間に警備網を突破し、二人は制御室の前まで来た。力づくで解除しようとするグリーヴァスを制し、アンヌはポシェットから一本のコネクターを取り出した。
「何をする気だ?」
「ハッキングするの」
驚くグリーヴァスをよそに、コネクターを刺しただけで扉は開いた。
「……随分楽そうだな」
「でしょ?」
得意気に笑うアンヌだったが、再び遠くから銃撃の音が聞こえてきたため、ライトセイバーを構え直した。ブラスターを振り切りながら廊下を走って来る人物たちの姿に、二人は見覚えがあった。アナキンとオビ=ワン、そしてドゥークーだ。アナキンはアンヌに気づくと、空いた方の手を振って叫んだ。
「アンヌ!扉の解除コードを変更しろ!」
「え?でも────」
「早く!」
作戦を何となく理解したアンヌは、解錠コードを変更する手続きに入った。扉の外ではアナキンたちが全力疾走している。
「アナキン、私がフォースで押す。先に行け!」
本人の返事も待たずして、オビ=ワンはアナキンの背をフォースで押した。綺麗に真っ直ぐ制御室へ飛び込んだ彼は、床を滑りながら思わず痛みで悪態をついた。だが今、そんな余裕はない。彼は次にオビ=ワンをフォースで引っ張りこんだ。
ここでようやく解除コード変更完了の電子音が鳴り響いた。アンヌは迫る敵と、孤軍奮闘するドゥークーを見比べて次の手を考えた。するとドゥークーは意外なことを言った。
「閉めるんだ!」
「でも……」
躊躇うアンヌをおしのけ、グリーヴァスが開閉ボタンを押した。ドゥークーは大きく跳躍し、転がり込むようにして閉まる扉に突撃を試みた。普段の華麗さからは完全にかけ離れた飛び込みかただったが、何とか彼も制御室へ入ることができた。
「さぁ。早くコードを解除するんだ」
「わかっているよ、アナキン・スカイウォーカー。少し時間がかかるかもしれないが、やってみよう」
その言葉にアナキンが食いついた。
「やってみよう?初めから出来ると保証していなかったか!?」
「100%のものなど、この世には存在しないよ」
アナキンは青筋を浮かべながらも、口をへの字に曲げて怒りを堪えた。アンヌは小型端末で警備システムをハッキングしながら、ホログラムに投影されている監視カメラを睨んでいる。
「あとどのくらいかかるの?」
「そうだな……あと多めに見積もっても5分かな」
涼しげな面持ちで笑うドゥークーに対し、珍しくオビ=ワンが急かした。
「急いでくれ。時間がない」
「どうして分かるんですか?」
不思議そうに首をかしげるアナキンに、オビ=ワンは目を閉じて答えた。
「嫌な予感がする」
アナキンが、そんな馬鹿なと言おうとしたときだった。アンヌの声が制御室に響いた。
「警告!アタック・バタリオン接近!3分ほどで到着するかも」
「何だと!?」
「ドゥークー!急げ!!」
「ちょっと静かにしていてくれ」
アナキンとオビ=ワンは、攻撃に備えて扉の前に待機した。ドゥークーは口でこそ余裕ありげなことを言っているが、その表情は切迫している。アンヌがモニターを見て戦略を巡らしていると、隣にグリーヴァスがやって来た。
「こういうときは、出たとこ勝負というのも悪くないぞ」
「撤退ルートを確保しないと。あなたみたいに部下を見捨てて逃げられないの」
グリーヴァスは何かを反論しようとしたが、暫くして口を閉じた。一方、扉の外では既にクローン・トルーパーたちが勢揃いしていた。
「こじ開けろ!」
「ドゥークー!」
「……もう少しだ」
アナキンがライトセイバーを起動させる。アンヌも端末を仕舞ってライトセイバーに手を掛けた。その数秒後、扉が爆破される音が部屋に響く。そして、大量のブラスターの雨が降り注いだ────
はずだった。しかし、何も起こらない。その代わり、トルーパーたちの突入と同時に電子音が響いた。
「……え?」
アナキンが拍子抜けした声を出しながら顔を上げた。オビ=ワンもライトセイバーを下ろしている。そして、目の前のトルーパーたちは、自分の上司であり友であるジェダイらに銃口を向けている状況に狼狽している。
「……解除、出来たの?」
「みたいだな」
「まだ終わりではない。チップの摘出をしなければ」
それでも、一山は越えたのだ。アンヌは思わず床に座り込んだ。そんな彼女に手を差し伸べたのは、意外にもグリーヴァスだった。
「……ありがとう」
「立て。帰るぞ」
素直に礼を述べられたのが照れ臭かったのか、グリーヴァスはそっぽを向きながら吐き捨てるように返事した。オビ=ワンはライトセイバーを仕舞いながら、ジェダイ聖堂へ連絡を取るべくコムリンクを起動させた。
「そうだ。シディアスの処断もまだだからな」
「いや、その機会は当分訪れんだろうな」
ドゥークーの言葉に、一同は耳を疑った。アンヌがすかさず質問を投げ掛ける。
「どうして?」
「恐らく、奴は逃げた。オーダー66を起動させて、さっさと逃げたのだろう」
「僕でもそうするさ。当然だ」
「つまり、また振り出しに戻る……というわけか」
ため息をつくオビ=ワンたちに対し、アンヌは首を横に振った。
「そんなことない。確かに新たな始まりになるかもしれない。けど、昨日よりは良い世界になっていると思うよ」
輪とした横顔でそう言ったアンヌに、アナキンとオビ=ワンが温かな眼差しを送る。そしてドゥークーもまた、優しい表情を向けている。しかし、その瞳の穏やかさは他の誰とも違っていた。グリーヴァスだけはその違いに気づいていたが、それが何を意味するかまでは理解できなかった。
銀河の運命が、大きく変わった。こうして、誰も見透かすことの出来ない未来への歯車が回りだした。