この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
五章、コルサントの暗雲
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ドゥークーは、無機質な尋問室でなにを思ったのか、ため息を漏らすとポケットからロケットペンダントを取り出して眺めた。丁度その時に部屋へ入ってきたアンヌは、珍しい写真入のロケットペンダントに興味を示した。
「……今どき写真なんて、珍しい」
「データでは壊れてしまった時に、失うのが怖いのだよ」
「そんなに大切なものなのね。……奥様?」
何気なく彼女が尋ねると、ドゥークーは初めて見せる笑顔で返事をした。
「───娘だよ。3歳のときに別れてしまったから、今頃は君と同じくらいの歳だな」
触れてはいけない話題に踏み込んでしまったことを悔やんだアンヌは、それきり黙り込んでしまった。あわててドゥークーが付け足す。
「いや、亡くなってはいない。……養子に出した。色々と事情があってね。今も元気に生きているよ」
「そうなんですか?実は私もそうなんです」
それを聞いた彼女はふと、自分を育ててくれたタリアスのトワイラス夫妻も、養父母であることを思い出した。彼ら曰く、養子に迎えたのは丁度アンヌが3歳のときだ。奇しくも一致する年齢に、彼女は親近感を感じずにはいられなかった。
「そうか………君はいつからここに?」
「私は12のときからここに居ます。」
「随分遅い訓練開始だったんだね」
「はい。それでも今は、一応ジェダイです」
ドゥークーはその言葉に微笑むと、静かに頷いた。彼女は恐る恐る、気になっていることを尋ねた。
「………娘さんには、会っていないんですか?」
「ああ、そういう見方も出来るな。…………幾度となく会っているが、いつも彼女の方は気づかない」
「どうして自分が父だと明かさないのですか?」
すると彼は寂しげに首を横に振った。
「………負担になるのだよ、あの子に。それに、もう今生明かすつもりはない」
「そんな……」
アンヌは心にじわりと何かが染みる思いを感じずにはいられなかった。
──私も、本当の両親には会ってみたいもの。子供でもそう思うんだから、父親なら尚更そう思うのね………
次の瞬間、彼女は敵であることも、ブレインであることさえも忘れてドゥークーの手を握った。驚いた彼は目を丸くしている。
「………私だって、本当の両親には会ってみたい。だって、分かるんだもの。私のことを今でもどこかできっと愛してくれているんだって。養父母は、毎年私に誕生日のときにホログラム撮影をしてくれの。本当の両親に頼まれたからって。本当は手放したくなかったからって。捨て子じゃないんだって………でも、誰かは知らない。だから探せない。ジェダイの決まりで調べてはいけないことになってるから……」
次第に言葉遣いがジェダイではなく、年相応の女の子のものに変わっていく様を見ていたドゥークーは、どこか自分の娘と重なるところがあったのだろうか、唐突にこんな提案をしてきた。
「………じゃあ、今日から君は私を父と思えばいい。私も君を娘だと思うよ」
「本当………?」
顔を上げたアンヌの表情はとても輝いている。ドゥークーはホットした顔をみせると、彼女の頭を優しく撫でた。もしその光景を誰もがみたなら、普通の親子がそこにいると思ってもおかしくないだろう。
この日から、奇しくもドゥークーとアンヌの親子としての交流が始まるのだった。
それからアンヌは毎日どころか、毎時間ドゥークーの元へ通っては父に甘えるように談笑を楽しんだ。
「紅茶です、どうぞ」
「ああ、ありがとうアンヌ」
いつも話すことは彼の故郷、セレノーの事だった。それを、本当の故郷の話に耳を傾けるかのように熱心に聞くアンヌの姿は、ドゥークーの表情を心なしか緩ませた。グリーヴァスはその様子を見ながら、ため息をこぼした。
────愚かな。師に娘がいることなど聞いたこともないし、そもそも武器がないとはいえ、一国の軍師が敵と二人で談笑とは………
「…とんでもない阿呆だな………」
しかし呆れると同時に、ドゥークーは上手くやっているなと感心していた。
────芝居が上手い方だ。やれやれ、次はどうするつもりやら……
彼は失笑を必死でこらえて顔をふとあげた。するとその目の前にはドゥークーの顔があった。彼は思わず飛び上がりそうになった。
「────何の御用でしょうか」
ちらりと辺りを見渡すと、既にアンヌの姿はどこにも見当たらず、帰ったようであった。ドゥークーは未来までも見透かしそうな瞳で、油断ならない弟子をじっと睨みつけると、不意に笑った。
「……私が芝居を打っていると見えるのかね?」
「芝居以外に何があるというのですか。第一あなたに娘など居るとは聞いたこともありませんぞ」
グリーヴァスはむせそうになるのをこらえて一気に言い切った。ドゥークーは悲しそうな顔をすると、肩をすくめた。
「お前にはどうやら冷静さと共に感情理解の分野も欠けているようだな」
「そんなもの、勝つためには必要ありません」
理解できないことを悟られたくないがためにわざわざ意地を張るグリーヴァスに苦笑すると、ドゥークーは無機質な部屋の電灯を眺めながら誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「……いずれ分かるさ。この銀河の運命を変えるのは、策略でも、力でもないと。」
─────そのときに愛が役に立つのだよ、将軍。
彼はそんな期待の眼差しを込めてグリーヴァスを見たのだが、もちろん彼には届くわけもないのだった。
アンヌはジェダイ聖堂の中庭に居た。すこし奥に入ったところにある小さく、静かな小川を模した噴水がある場所が彼女の一番のお気に入りの場所だった。手には大きなスケッチブック。そしてその傍らに置いた筆洗とパレットには、色とりどりの絵の具が用意されている。彼女は少しだけ上を向いて考えると、おもむろに筆を取り出して絵の具で穂先を濡らした。それから迷いもなく淡々と1枚の風景画を描きあげた。
絵の具の匂いがつーんと鼻をつくのも慣れ始めた頃に完成したのは、目を見張るほどに美しいどこかの風景画だった。
完成の余韻に浸る彼女は、目を細めて笑うと背後にいる者に告げた。
「────御用ですか、グランド・マスター・ヨーダ」
「用などない。用とは、即ちお主のような軍師がいつも作る口実のことじゃ」
よくお分かりで、とアンヌは笑った。しかし、その目が笑っていないことにヨーダは思わず身震いした。
ふと、彼は写真と見間違える程に精巧な風景画に目をとめた。
「……これは?」
「ああ、これは私が先程描いたものです。」
「そんなことは分かっておる。どこの風景かな?」
するとアンヌは少し困ったような顔をみせてから、しばらく間を置いて返事をした。
「───分からないのです、自分でも」
「わからんとな?それはお主のヴィジョンかんもしくは………」
「いえ、記憶の深層に………あるんです。これは私の憧憬であり、また確かに存在する場所なんです、マスター・ヨーダ。」
──ふぅむ………
彼は絵をじっと眺めながら、こんな惑星が果たしてあっただろうかと思考を巡らせた。
美しい滝に囲まれた湖、そしてガゼボ。一見自然風景のように見えるものの、そのすぐ側には人が手入れしているかのように美しく咲き誇る深紅の薔薇────
どれもありそうで無さそうな風景に、彼は幻想と考えるのが妥当かと思った。
「………よく出来ておる絵じゃな」
「ありがとうございます」
アンヌに絵を返すと、彼はその足で尋問室へ向かった。
部屋には、かつての愛弟子がニコリともせずに座っている。以前ジオノーシスで再会した時には、彼にも愛想笑いと皮肉と軽口を叩くだけの余裕があったのだが。
「………今更じゃの、ドゥークーよ。シスに与すれば、必ず破滅を招くと忠告したはずじゃ」
「あなたは間違っている、我がマスター。」
その確信を持って発された言葉に、ヨーダは何かを彼は知っていると見た。ドゥークーは話題に食いついたことに対して喜ぶかのように続けた。
「私がシスに与したのは、ただジェダイオーダーに失望したからではありません。」
彼は腕をさすると、人事のように呟いた。
「────シディアス。」
「今、何と?」
「シディアス。やつの計略の裏を私は掻き続けた。そして、たった1つの亀裂を生み出すことに成功したのです。完璧とも見えた、彼の計略そのものに亀裂を入れたのです。」
話がよく見えず、ヨーダは目を細めた。
────亀裂とな………?
彼は興味をこれ以上隠すことが出来ず、策略の1部であってもあとに引くことができなくなっていた。
「………亀裂とは、何じゃ」
「────予言にずれが生じたことです。予言では、二人の選ばれし者が現れるのはおよそ何千年も後。しかし"彼等"は今、存在するのです。」
ヨーダは納得せざるを得なかった。予言が成されてから食い違うなどという珍事が未だかつて無かったことを踏まえると、何かが変化しているのは一目瞭然だ。
しかし、何が。
「たしかに存在するが、彼らではお主の期待する何かは変わらんよ。」
「いいや、あなたは"彼女"を見くびっている」
「彼女………?」
不意に、ヨーダはドゥークーのその言葉にどうしてもアンヌの絵のことを思い出してしまった。
「何故、スカイウォーカーではなく、ブレインの方に期待を寄せる。」
たしかに、アンヌは賢い。そして、誰よりもフォースに対して強い繋がりを持っている。だが、ジェダイとしては今ひとつの存在だ。そんな彼女と比べるならば、やはりスカイウォーカーの才能は秀でて映るはずだった。だが、ドゥークーはそれこそ狙いだと言いたげに笑った。
「………やはり、私の方からタネ明かしをせざるを得ないようですな、マスター・ヨーダ。シディアスは──」
そこまで言いかけて、ドゥークーは部屋の外をちらりと見た。不自然な人影がそこにあった。
───シディアスの刺客が来たか……
ヨーダは言葉の続きにすっかり気を取られ、意外にもその存在に気づいてはいない。仕方がなく、ドゥークーは結論を言い切った。
「───シディアスは、パルパティーンだ」
「何………!?」
ヨーダは動揺を隠せないでいた。それもそのはずだ。前々から何かが引っかかると感じていた疑惑が確信に変わったからだ。
「………それなら、スカイウォーカーを取り立てようとしているのも筋が通る……そして、非常時大権。」
だが、彼にはまだ腑に落ちないことがひとつあった。それは………
「何故、ドゥークー。お主が密告する必要があるのかな?」
「………これも、私の計画の一部なのです。その為には、シディアスの正体は明かされなければならない。今、このタイミングで。信じるか信じないかはあなた次第。」
ヨーダはこれ以上ドゥークーの甘言を聞くに耐えかねて、席を立った。だが、その背中に彼は一言付け足した。
「────ただし、くれぐれも時を逃さぬように。……シスの天下などという最悪の事態は避けたいでしょうに」
その言葉にヨーダは何も返すことが出来ず、そのまま部屋を後にした。
ドゥークーの告白は幸いにも外には漏れておらず、刺客はいつもの尋問だろうと思った。と、そこに折しもアンヌがやって来た。刺客の顔が僅かに獲物を捉えたと言わんばかりの微笑みに変わる。彼女は刺客には目も留めず、ヨーダに近づいた。そして、にこやかに話始めた。
「……また会いましたね、マスター。」
「奇遇じゃのう、アンヌ」
「ええ、全く。」
アンヌはため息をつくと、つくづくよく会うなと感心せざるを得なかった。
彼女が目前のお喋りに気を取られている隙を、刺客は見逃さなかった。じりじりと距離を詰めると、彼は懐からブラスターを取り出した。ヨーダが気づき、声を上げる前に彼は既に、ターゲットの背に銃口を突きつけていた。
「………あら、私って格好悪い」
「大人しく死んでもらう、ブレイン」
アンヌはいかにも気の抜けた返事を返したが、その表情は笑っていなかった。刺客は無駄話を続ける気はなく、トリガーをさっさと引こうとした。だが、引けない。焦って何度も試すうちに、銃口はいともあっさりとアンヌのライトセーバーで破壊された。そして、低い振動音が響いたと思うと、彼の首元に光刄があてがわれていた。
「────なっ……!!」
「残念、格好悪いのはあなたの方でした」
刺客は驚きと憤りを隠せず、歯ぎしりしながらアンヌを睨みつける。最後の威勢を張らねばと彼は声を上げた。
「お前のやっていることも、戦略も、全て命ある者の出来る所業ではないな!」
刹那、彼女の表情に年相応の困惑が現れた。だが、それもすぐにいつもの冷淡な顔つきに戻る。珍しく怒りを覚えたアンヌはただ一言、牢に、と指示するとそのまま去っていってしまった。
部屋に戻ったアンヌは音を立ててベッドに座り込むと、床を無表情で眺めた。
ふと、彼女は自分の顔が鏡に映っていることに気がついた。そして何を思ったのか、突然鏡に画材道具を投げつけて割った。大きな音を立てて、鏡はたちまちヒビ割れてしまった。だが、彼女の表情を映し続けることは変わりない。
アンヌは中央にいくつもの痛々しい亀裂の入った鏡の前に佇み、いつまでも薄暗い部屋の中で自分の瞳を凝視し続けるのだった。その脳裏には、先程の刺客が言った言葉がずっと堰を切ったかのように反芻されている。
「私は…………」
───勝つことが私の正義。それを除けば私はただの────
「ただの…………戦術ドロイドと同じ………?」
割れた鏡は声を上げて返事を返さない代わりに、彼女に鋭い答えを既に差し出していた。
そう、それは彼女自身が1番とっくにどこかで気づいていることだったからだ。
議長室に呼び出しに応じて向かおうとしていたアナキン・スカイウォーカーは、グリーヴァスが閉じ込められている牢の前で足を止めた。いつもなら通り過ぎてしまうはずの場所で、珍しく立ち止まるなど何かあるのだろうかと不思議に思った彼は、そう言えばドゥークー伯爵と牢を別にされたことを思い出した。ほんの興味本位で、彼は部屋に足を踏み入れた。
────全ての運命が、変わろうとしている。だが、これはまだ大幅に変化するほんの序章であることなど、ドゥークー伯爵ですら、気づいていないのだった。
「……今どき写真なんて、珍しい」
「データでは壊れてしまった時に、失うのが怖いのだよ」
「そんなに大切なものなのね。……奥様?」
何気なく彼女が尋ねると、ドゥークーは初めて見せる笑顔で返事をした。
「───娘だよ。3歳のときに別れてしまったから、今頃は君と同じくらいの歳だな」
触れてはいけない話題に踏み込んでしまったことを悔やんだアンヌは、それきり黙り込んでしまった。あわててドゥークーが付け足す。
「いや、亡くなってはいない。……養子に出した。色々と事情があってね。今も元気に生きているよ」
「そうなんですか?実は私もそうなんです」
それを聞いた彼女はふと、自分を育ててくれたタリアスのトワイラス夫妻も、養父母であることを思い出した。彼ら曰く、養子に迎えたのは丁度アンヌが3歳のときだ。奇しくも一致する年齢に、彼女は親近感を感じずにはいられなかった。
「そうか………君はいつからここに?」
「私は12のときからここに居ます。」
「随分遅い訓練開始だったんだね」
「はい。それでも今は、一応ジェダイです」
ドゥークーはその言葉に微笑むと、静かに頷いた。彼女は恐る恐る、気になっていることを尋ねた。
「………娘さんには、会っていないんですか?」
「ああ、そういう見方も出来るな。…………幾度となく会っているが、いつも彼女の方は気づかない」
「どうして自分が父だと明かさないのですか?」
すると彼は寂しげに首を横に振った。
「………負担になるのだよ、あの子に。それに、もう今生明かすつもりはない」
「そんな……」
アンヌは心にじわりと何かが染みる思いを感じずにはいられなかった。
──私も、本当の両親には会ってみたいもの。子供でもそう思うんだから、父親なら尚更そう思うのね………
次の瞬間、彼女は敵であることも、ブレインであることさえも忘れてドゥークーの手を握った。驚いた彼は目を丸くしている。
「………私だって、本当の両親には会ってみたい。だって、分かるんだもの。私のことを今でもどこかできっと愛してくれているんだって。養父母は、毎年私に誕生日のときにホログラム撮影をしてくれの。本当の両親に頼まれたからって。本当は手放したくなかったからって。捨て子じゃないんだって………でも、誰かは知らない。だから探せない。ジェダイの決まりで調べてはいけないことになってるから……」
次第に言葉遣いがジェダイではなく、年相応の女の子のものに変わっていく様を見ていたドゥークーは、どこか自分の娘と重なるところがあったのだろうか、唐突にこんな提案をしてきた。
「………じゃあ、今日から君は私を父と思えばいい。私も君を娘だと思うよ」
「本当………?」
顔を上げたアンヌの表情はとても輝いている。ドゥークーはホットした顔をみせると、彼女の頭を優しく撫でた。もしその光景を誰もがみたなら、普通の親子がそこにいると思ってもおかしくないだろう。
この日から、奇しくもドゥークーとアンヌの親子としての交流が始まるのだった。
それからアンヌは毎日どころか、毎時間ドゥークーの元へ通っては父に甘えるように談笑を楽しんだ。
「紅茶です、どうぞ」
「ああ、ありがとうアンヌ」
いつも話すことは彼の故郷、セレノーの事だった。それを、本当の故郷の話に耳を傾けるかのように熱心に聞くアンヌの姿は、ドゥークーの表情を心なしか緩ませた。グリーヴァスはその様子を見ながら、ため息をこぼした。
────愚かな。師に娘がいることなど聞いたこともないし、そもそも武器がないとはいえ、一国の軍師が敵と二人で談笑とは………
「…とんでもない阿呆だな………」
しかし呆れると同時に、ドゥークーは上手くやっているなと感心していた。
────芝居が上手い方だ。やれやれ、次はどうするつもりやら……
彼は失笑を必死でこらえて顔をふとあげた。するとその目の前にはドゥークーの顔があった。彼は思わず飛び上がりそうになった。
「────何の御用でしょうか」
ちらりと辺りを見渡すと、既にアンヌの姿はどこにも見当たらず、帰ったようであった。ドゥークーは未来までも見透かしそうな瞳で、油断ならない弟子をじっと睨みつけると、不意に笑った。
「……私が芝居を打っていると見えるのかね?」
「芝居以外に何があるというのですか。第一あなたに娘など居るとは聞いたこともありませんぞ」
グリーヴァスはむせそうになるのをこらえて一気に言い切った。ドゥークーは悲しそうな顔をすると、肩をすくめた。
「お前にはどうやら冷静さと共に感情理解の分野も欠けているようだな」
「そんなもの、勝つためには必要ありません」
理解できないことを悟られたくないがためにわざわざ意地を張るグリーヴァスに苦笑すると、ドゥークーは無機質な部屋の電灯を眺めながら誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「……いずれ分かるさ。この銀河の運命を変えるのは、策略でも、力でもないと。」
─────そのときに愛が役に立つのだよ、将軍。
彼はそんな期待の眼差しを込めてグリーヴァスを見たのだが、もちろん彼には届くわけもないのだった。
アンヌはジェダイ聖堂の中庭に居た。すこし奥に入ったところにある小さく、静かな小川を模した噴水がある場所が彼女の一番のお気に入りの場所だった。手には大きなスケッチブック。そしてその傍らに置いた筆洗とパレットには、色とりどりの絵の具が用意されている。彼女は少しだけ上を向いて考えると、おもむろに筆を取り出して絵の具で穂先を濡らした。それから迷いもなく淡々と1枚の風景画を描きあげた。
絵の具の匂いがつーんと鼻をつくのも慣れ始めた頃に完成したのは、目を見張るほどに美しいどこかの風景画だった。
完成の余韻に浸る彼女は、目を細めて笑うと背後にいる者に告げた。
「────御用ですか、グランド・マスター・ヨーダ」
「用などない。用とは、即ちお主のような軍師がいつも作る口実のことじゃ」
よくお分かりで、とアンヌは笑った。しかし、その目が笑っていないことにヨーダは思わず身震いした。
ふと、彼は写真と見間違える程に精巧な風景画に目をとめた。
「……これは?」
「ああ、これは私が先程描いたものです。」
「そんなことは分かっておる。どこの風景かな?」
するとアンヌは少し困ったような顔をみせてから、しばらく間を置いて返事をした。
「───分からないのです、自分でも」
「わからんとな?それはお主のヴィジョンかんもしくは………」
「いえ、記憶の深層に………あるんです。これは私の憧憬であり、また確かに存在する場所なんです、マスター・ヨーダ。」
──ふぅむ………
彼は絵をじっと眺めながら、こんな惑星が果たしてあっただろうかと思考を巡らせた。
美しい滝に囲まれた湖、そしてガゼボ。一見自然風景のように見えるものの、そのすぐ側には人が手入れしているかのように美しく咲き誇る深紅の薔薇────
どれもありそうで無さそうな風景に、彼は幻想と考えるのが妥当かと思った。
「………よく出来ておる絵じゃな」
「ありがとうございます」
アンヌに絵を返すと、彼はその足で尋問室へ向かった。
部屋には、かつての愛弟子がニコリともせずに座っている。以前ジオノーシスで再会した時には、彼にも愛想笑いと皮肉と軽口を叩くだけの余裕があったのだが。
「………今更じゃの、ドゥークーよ。シスに与すれば、必ず破滅を招くと忠告したはずじゃ」
「あなたは間違っている、我がマスター。」
その確信を持って発された言葉に、ヨーダは何かを彼は知っていると見た。ドゥークーは話題に食いついたことに対して喜ぶかのように続けた。
「私がシスに与したのは、ただジェダイオーダーに失望したからではありません。」
彼は腕をさすると、人事のように呟いた。
「────シディアス。」
「今、何と?」
「シディアス。やつの計略の裏を私は掻き続けた。そして、たった1つの亀裂を生み出すことに成功したのです。完璧とも見えた、彼の計略そのものに亀裂を入れたのです。」
話がよく見えず、ヨーダは目を細めた。
────亀裂とな………?
彼は興味をこれ以上隠すことが出来ず、策略の1部であってもあとに引くことができなくなっていた。
「………亀裂とは、何じゃ」
「────予言にずれが生じたことです。予言では、二人の選ばれし者が現れるのはおよそ何千年も後。しかし"彼等"は今、存在するのです。」
ヨーダは納得せざるを得なかった。予言が成されてから食い違うなどという珍事が未だかつて無かったことを踏まえると、何かが変化しているのは一目瞭然だ。
しかし、何が。
「たしかに存在するが、彼らではお主の期待する何かは変わらんよ。」
「いいや、あなたは"彼女"を見くびっている」
「彼女………?」
不意に、ヨーダはドゥークーのその言葉にどうしてもアンヌの絵のことを思い出してしまった。
「何故、スカイウォーカーではなく、ブレインの方に期待を寄せる。」
たしかに、アンヌは賢い。そして、誰よりもフォースに対して強い繋がりを持っている。だが、ジェダイとしては今ひとつの存在だ。そんな彼女と比べるならば、やはりスカイウォーカーの才能は秀でて映るはずだった。だが、ドゥークーはそれこそ狙いだと言いたげに笑った。
「………やはり、私の方からタネ明かしをせざるを得ないようですな、マスター・ヨーダ。シディアスは──」
そこまで言いかけて、ドゥークーは部屋の外をちらりと見た。不自然な人影がそこにあった。
───シディアスの刺客が来たか……
ヨーダは言葉の続きにすっかり気を取られ、意外にもその存在に気づいてはいない。仕方がなく、ドゥークーは結論を言い切った。
「───シディアスは、パルパティーンだ」
「何………!?」
ヨーダは動揺を隠せないでいた。それもそのはずだ。前々から何かが引っかかると感じていた疑惑が確信に変わったからだ。
「………それなら、スカイウォーカーを取り立てようとしているのも筋が通る……そして、非常時大権。」
だが、彼にはまだ腑に落ちないことがひとつあった。それは………
「何故、ドゥークー。お主が密告する必要があるのかな?」
「………これも、私の計画の一部なのです。その為には、シディアスの正体は明かされなければならない。今、このタイミングで。信じるか信じないかはあなた次第。」
ヨーダはこれ以上ドゥークーの甘言を聞くに耐えかねて、席を立った。だが、その背中に彼は一言付け足した。
「────ただし、くれぐれも時を逃さぬように。……シスの天下などという最悪の事態は避けたいでしょうに」
その言葉にヨーダは何も返すことが出来ず、そのまま部屋を後にした。
ドゥークーの告白は幸いにも外には漏れておらず、刺客はいつもの尋問だろうと思った。と、そこに折しもアンヌがやって来た。刺客の顔が僅かに獲物を捉えたと言わんばかりの微笑みに変わる。彼女は刺客には目も留めず、ヨーダに近づいた。そして、にこやかに話始めた。
「……また会いましたね、マスター。」
「奇遇じゃのう、アンヌ」
「ええ、全く。」
アンヌはため息をつくと、つくづくよく会うなと感心せざるを得なかった。
彼女が目前のお喋りに気を取られている隙を、刺客は見逃さなかった。じりじりと距離を詰めると、彼は懐からブラスターを取り出した。ヨーダが気づき、声を上げる前に彼は既に、ターゲットの背に銃口を突きつけていた。
「………あら、私って格好悪い」
「大人しく死んでもらう、ブレイン」
アンヌはいかにも気の抜けた返事を返したが、その表情は笑っていなかった。刺客は無駄話を続ける気はなく、トリガーをさっさと引こうとした。だが、引けない。焦って何度も試すうちに、銃口はいともあっさりとアンヌのライトセーバーで破壊された。そして、低い振動音が響いたと思うと、彼の首元に光刄があてがわれていた。
「────なっ……!!」
「残念、格好悪いのはあなたの方でした」
刺客は驚きと憤りを隠せず、歯ぎしりしながらアンヌを睨みつける。最後の威勢を張らねばと彼は声を上げた。
「お前のやっていることも、戦略も、全て命ある者の出来る所業ではないな!」
刹那、彼女の表情に年相応の困惑が現れた。だが、それもすぐにいつもの冷淡な顔つきに戻る。珍しく怒りを覚えたアンヌはただ一言、牢に、と指示するとそのまま去っていってしまった。
部屋に戻ったアンヌは音を立ててベッドに座り込むと、床を無表情で眺めた。
ふと、彼女は自分の顔が鏡に映っていることに気がついた。そして何を思ったのか、突然鏡に画材道具を投げつけて割った。大きな音を立てて、鏡はたちまちヒビ割れてしまった。だが、彼女の表情を映し続けることは変わりない。
アンヌは中央にいくつもの痛々しい亀裂の入った鏡の前に佇み、いつまでも薄暗い部屋の中で自分の瞳を凝視し続けるのだった。その脳裏には、先程の刺客が言った言葉がずっと堰を切ったかのように反芻されている。
「私は…………」
───勝つことが私の正義。それを除けば私はただの────
「ただの…………戦術ドロイドと同じ………?」
割れた鏡は声を上げて返事を返さない代わりに、彼女に鋭い答えを既に差し出していた。
そう、それは彼女自身が1番とっくにどこかで気づいていることだったからだ。
議長室に呼び出しに応じて向かおうとしていたアナキン・スカイウォーカーは、グリーヴァスが閉じ込められている牢の前で足を止めた。いつもなら通り過ぎてしまうはずの場所で、珍しく立ち止まるなど何かあるのだろうかと不思議に思った彼は、そう言えばドゥークー伯爵と牢を別にされたことを思い出した。ほんの興味本位で、彼は部屋に足を踏み入れた。
────全ての運命が、変わろうとしている。だが、これはまだ大幅に変化するほんの序章であることなど、ドゥークー伯爵ですら、気づいていないのだった。