アンヌは、静かに結末を見守ることを決めた。そもそも始めから、無かったかもしれない未来を生きているのだから。
　手放すも何も、全ては偶然の末に生まれた事象なのだから。
　
　
　
　
　
　
　銃声が一つ、響く。
　鈍い音がして、誰かが倒れた。
　
　
　
　
　目の前には雪景色の世界と同じくらい美しい、白銀の髪の戦士が倒れている。
　頭では分かっていた。この選択がどういう結末をもたらすか、などということは。
　それでも、心がそれを許さなかった。とうの昔に最悪の結末に傷つきすぎて、痛みすらも麻痺した心が、初めて痛んだ。
　次の瞬間、アンヌは声の限り叫んでいた。
「ガー！！ガー・サクソンっ！！」
　柵を乗り越え、アンヌは転がるように走り始めた。足がもつれて思うように走れない。それでも、今際の際に間に合うことを祈りながら、彼女は足を動かし続けた。
　そしてついにたどり着いた時には、彼は辛うじて息をしている状態だった。いや、正確にはほぼ息をしていない状態と言うのが相応しい容態だった。
　アンヌは震える足取りで、ガーの隣に座り込んだ。遅かった。誰もがそう思った。だが、突然無骨な手が力強く伸びてきて、彼女の細い腕を掴んだ。
「あぁ……リリ……ィ……俺の……リリィ……戻って……来て……くれた……」
　朦朧とした意識の中で、ガーは20年前の夢を見ていた。焦がれ続け、ついに叶うことが無かった愛する人の帰還を。
　アンヌは目を真っ赤に染めながら、ホワイトヘアを垂らして微笑んだ。こんな形で伝えるべき言葉では無かったことを、重々に知りながら。
「――――うん、コマンダー・サクソン。私、あなたと生きていくよ。あなたが好き。ずっと前から……遠い昔から、あなたが好きだったから」
　それを聞いたガーは、穏やかで満たされたような笑みを湛えて目を閉じた。大きく、しわが刻まれた手がゆっくりとアンヌの頬に伸びる。
「ずっと……待って……いた……リリィ……愛して……る……」
　だが、その手がアンヌの頬に触れることは永遠に無かった。虚しく力尽きたその腕はだらりと垂れ下がり、雪に埋もれた。
「あぁ……あぁ……」
　白銀の世界に独り残されたアンヌからは、ただ狼狽の声しか出ない。
「ああああああああああああああああああああああああっ！！！！！！！！ああああああああああああっ！！！！！ああああああああああああああああっ！！！！！！！」
　また、自らの選択のせいで誰も救えなかった。今度は銀河で最も愛した人を。
　かつての兄弟子がダークサイドに墜ちた想いを今になって理解しながら、アンヌはいつまでも雪景色の中で慟哭し続けるのだった。
　
　
　
　
　
　
　
　
ENDING A : 望んだ未来