この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
4、オーダー37
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その日のセレノーは、恐ろしいほどに晴天だった。アンヌは眩しげに目を細めながら、隠しプラットフォームに降り立った。何度見ても邸宅という言葉より宮殿という呼び方が相応しい生家を、ウルサたちは唖然と見上げている。
ふいに、ウルサは懐かしい誰かの気配を感じて足を止めた。
そこには、デスウォッチ時代に強いマンダロアを目指して共に戦った旧友、ボ=カタン・クライズが立っていた。
「カタン……!!あなたも一緒なのね」
「……あれほどに啖呵を切って出ていったのに、戻ってきたの?」
アンヌが気怠そうに眉をひそめるのに気づき、クライズはばつが悪そうな面持ちに変わった。
「……旧友が、こちらに来ると聞いただけだ」
「そう。では感動の再会が終わったら出て行きなさい」
「言われなくてもそうするさ」
2人の間にただならぬものを感じ、ウルサは無言で引き下がるしかなかった。アンヌはクライズを置いて、書斎へと仲間を案内した。アソーカの入室を最後に、全員が揃ったことを確認すると、ブレインはブリーフィング画面を起動した。
「現在、マンダロアは二分されつつある。ざっくり言うと、帝国側とこちら側ってことね」
「内乱状態に逆戻りってわけか……」
「それがマンダロアの常識だと宣っていたのは誰でしたっけ?」
またしてもクライズとアンヌが激しい火花を散らす。そもそも何故帰っていないと聞きたげなブレインを見て、このままではらちがあかないと悟ったアソーカが、代わりにブリーフィングを進め始める。
「帝国側は、主にサクソン氏族を中心に強力な軍事力を固めてる。サクソン総督のカリスマ性は意外に高くて、彼を中心に帝国迎合派の氏族が固まってるみたい。……まぁ、共和国系と帝国系っていう二軸で考えると、当然の結果の気もするけど」
共和国、という言葉を聞いたクライズの表情が苦悶に揺らぐ。思い出したくもない、姉の死。たとえ思想を違えたとしても、彼女にとってサティーンは大切な家族だった。
「マンダロアが……強ければ……っ!!!」
「問題はそれなの。こちら側の指導者には、毎度ながらカリスマ性のある人物がいない。決めるとなれば、また小さな内乱が勃発するのは火を見るより明らかよ」
「それに、ダークセイバーも奴ら側。これではマンダロアの民すら付いてこない」
ウルサの言い分は、もっともだ。一同がすっかり黙り込んでしまったところで、アンヌが重い口を開けた。
「逆に言うと、こちら側の指導者次第では形勢が逆転するというわけだ。そのためには、ダークセイバーが必要になる」
「セイバーを、取り返そうというの?」
「ええ。まずは複数人の指導者候補を増やす必要がある。例えば、ウルサの夫アルリック殿が有力だろう」
アルリックの名を聞いたレン氏族が、僅かに明るさを取り戻す。続いて、アンヌは苦々しげな声でこう付け加えた。
「……それに加え、クライズも有力だろう。何だかんだ言い、彼女は顔が利く」
たとえ確執があろうとも、使える手段は全て使う。それがアンヌだった。クライズの瞳に、僅かながらも敬意の念が揺らいだそのときだった。
「アンヌ、今すぐ逃げなさい!」
息せき切って飛び込んできたのは、アルマ夫人だった。ただならぬ空気に、一同もブリーフィングを中断して振り返る。
「お母様、何かあったのですか?」
「大変なの。帝国が、植民権を行使してマンダロアの軍と共にあなたを逮捕しに来たわ」
「私を?罪状は?」
「そんなの問題じゃないわ。問題なのは指名手配の名前よ」
その一言だけで、アンヌは事の次第を全て理解した。続きは待つまでもない。
「―――――共和国軍師ブレイン・オブ・ザ・リパブリック、アンヌ・トワイラス。罪状はクローン大戦S級戦犯ですね?」
「ええ、そんなところよ。それより、とにかく逃げなさい。オルデランに連絡を取れるようにしてあるから、あなたのお友達たちも逃がしてあげて」
アンヌは母からコムリンクを受け取ると、部屋にいる全員に向き直った。どんな事態でも取り乱すことの無いその姿は、不敗の共和国軍師そのものだ。誰もが、決意を込めた面持ちでブレインを見ている。
無言の同意を感じたアンヌは、永遠の別れを告げるように母へ名残惜しく一礼した。そしてすぐに、宮殿を後にした。
セレノーの軌道は、あっという間に帝国によって全て押さえられた。包囲を受けて緊急招集された貴族議会も、一網打尽の好機にしかならなかった。
一方、アンヌたちは何とか帝国の手が届いていない場所まで逃げ延びることができていた。彼女はコムリンクを起動すると、オルデランへ呼びかけを行おうとした。
だが、何かがおかしい。
「……あれ、どうしてかしら」
「どうしたの?アンヌ」
アソーカが心配そうにのぞき込む。
「電波が、入らない」
その声を受けて、サビーヌも反乱軍基地へと無線を飛ばそうと試みる。だが、結果は同じだ。
「変ね。妨害電波かしら」
「こんなに大きくて強力な妨害電波……どうして……?」
アンヌが首を傾げていると、一緒に逃げ延びてきたラウが声を上げた。
「おい、セレノー内はまだ大丈夫らしい。仲間から通信が入っている」
彼は慌てて応答ボタンを押した。すると、コムリンクからは切迫した声が届けられた。
「キャプテン!大変です!!民間人や貴族たちが一カ所に集められており、サクソン氏族とターキン総督、それに尋問官が現れました」
「何だと!?一体どうなってるんだ!!?」
「一カ所に……外部への妨害電波……指名手配……」
記憶の断片を必死にたぐり寄せながら、アンヌは思考を巡らせた。そして、一つの答えにたどり着いた。
「まさか……あれを実行しようと……!!?」
絶句するアンヌを、皆が不安げに見守る。だが、彼女が答えを口にするより前に、帝国側の拡声器が聞き慣れた声でうなり声を上げた。ガーの弟にして副総督のタイバーだった。
「――――全セレノー市民に告ぐ。マンダロア惑星群セレノーにおいて、これよりオーダー37を発動する。対象は共和国軍師、ブレイン・オブ・ザ・リパブリックで知られるジェダイ・アンヌ・トワイラス。またの名を、アンヌ女伯と言う」
オーダー37と聞いたケイナンとアソーカが、青ざめる。何も知らないエズラは、2人に問いかけた。
「ねぇ、オーダー37って何?66と何が違うの?」
「……あれよりもっと最悪のオーダーだ」
「最悪って……」
「たった独りのために、全てを殺し尽くす最悪のオーダーよ」
唖然としているエズラたちを置いて、タイバーは続けた。
「これより15分後、10分経つごとに各領に分けた領民を皆殺しにしていく。もちろん最後は、貴様の領民と家族だ。虐殺を止めたければ、出頭しろ」
ようやくオーダーの内容を理解したエズラは、悲鳴にも似た当惑の声を上げた。サビーヌも、アンヌに詰め寄って叫んだ。
「アンヌ、どうするの!!?」
「どうするのよ!このままだと、みんな死んじゃう!!」
「……そんな……また……私のせいで……」
ここに来て初めて人間らしい感情を見せたアンヌを見て、クライズがその腕を掴んだ。
「ダメだ!今行ったところで、どうせ奴らは皆殺しにする!それが、帝国とサクソンのやり方だ!」
アンヌの表情が苦痛に揺らぐ。そんなことは自明だった。何度も、何度も味わった裏切りだ。
だが、こんなときに限って思い出してしまうのは、あの日のことだった。
ああ。あの日もこんな風に、銀河か仲間かを選べと非情に突き付けられたんだった。そして、私は銀河を選んだ。
けれど本心は、みんなと一緒に終焉(おわ)りたかった。後悔と自責の念と責務を負って生きるには、独りというのはあまりにも孤独すぎたから。
次の瞬間、アンヌは乗ってきたスピーダーバイクに飛び乗っていた。何をしようとしているのかを察したアソーカが手を伸ばそうとしたが、遅かった。
こうしてアンヌは、終わらせないために生き抜くのではなく、生き抜くために終わりを選んだ。実に18年越しに、彼女は選択をやり直したのだった。
総督は、空を見上げてため息をついた。
先程まで恐ろしいほど晴天だったそれは、今や急な曇天に見舞われている。泣き出しそうな空を遠い目で眺めていると、使用人と領民たちが悲鳴を上げた。
「アルマ様!」
「奥様!ああ、そんな……」
振り返ると、宮殿から引きずり出されてきたアルマ夫人が髪を乱して突き出されていた。彼女は膝を折って地面に伏しているものの、凜としたまなざしでサクソン兄弟を睨み付けている。
「例え地に伏しようとも、ドゥークー様の権威は地に落ちたりはしない。かような愚か者に、よくぞ娘をやらずに済んだものだ」
いかなる状況でも気品と誇りを喪わない夫人に感嘆しつつも、ターキン総督は首を横に振りながらため息を吐いた。
「ご自分の立場をお分かりでないようだ。あなたのお嬢さんは、銀河系で最も悪名名高い戦争犯罪者、ジェダイなのです。それどころか……ジェダイ・ブレイン・アンヌ・トワイラスなのですから」
名を出すことすら、背筋が寒くなる。
ターキンはアンヌを嫌っていた。いや、というよりは恐れていた。常に表情も感情も読めず、予測不能な発言と思考ばかりを繰り返す彼女を、彼はいつも心地よく思っていなかった。
「さて、まもなく30秒で最初の犠牲者が出る時間だ。各自、構えろ!」
タイバーの号令で、ブラスターが一部の領民に突きつけれる。子供は泣き叫び、大人たちは嗚咽を漏らしている。そんな中で、アルマ夫人は心の中で祈っていた。
お願い、アンヌ。逃げ切って。この惑星から生きとし生けるもの全てが消え失せたとしても、あなただけは――――
「10, 9, 8……」
無情に迫るカウントダウンに、アルマは背徳感を覚えつつも祈り続けた。
そして、ついに残り3秒にさしかかったそのときだった。
「――――私はここだ!」
銃声の代わりに聞き覚えのある、鋭く力強い声が響き渡った。振り返る必要も無いほどに聞き飽きたその声に、ターキン総督が乾いた拍手を送る。
「よくぞご帰還なさった。あの日、皆を見捨てて逃げたあなたと同一人物とは思えませんな」
効き過ぎの嫌味をかわし、声の主――――アンヌ・トワイラスは躊躇無くグレーカラーのライトセイバーを起動した。ダークサイドの黒と、ライトサイドの白。そのいずれにもなれない様は、まさにブレイン・オブ・ザ・リパブリック自身を示しているようだ。
一方、喉元に突き付けられた光刃を見て状況を察したターキンは、ほんの一瞬だけ怯んだ。
この状況において、このような振る舞いをするとは……なんという恐ろしい輩だ。
緊張と殺気の走る刹那に、タイバーも口を開けたまま立ち尽くしている。唯一動いたのは、マンダロア総督ガー・サクソンだった。彼は自分でも驚くほど冷静な声で、右手を挙げながらこう言った。
「……殺し尽くしたければ、殺せ。お前なら造作も無いことだろう。だが、お前の大切な領民と家族も我々と道連れだ」
アンヌは渋々ライトセイバーを下ろすと、柄を造作も無く投げ棄てた。それを見届けた全兵が、彼女の周りを取り囲む。この状況においても彼女の頭の中は、自分でも嫌になるほどに冷え切っていた。
そういえば、遠い昔誰かが言ったんだっけ。ライトセイバーは命と同じだから、手放すなって。
「――――私の命なんて、全銀河の市民を合わせたものよりずっと……ずっと、軽い」
生きるべきは、私ではなかった。
心のどこかでそう思っていたアンヌにとって、愛する人がもたらしたこの結末は何よりの救いでしかなかった。
そして、その両手に手錠が掛けられる。対ジェダイ専用の、フォースとのつながりを弱める特殊なスタンカフだ。
複数人の兵士が彼女を連行しようと、タイバーの動きを合図に体制を変えようとした。すると、それを制止するようにガーが突如前に歩み出た。
「……始末は、俺がつける」
「兄さん、これは皇帝陛下の――――」
「黙れ!仮にもこの人を……この人を俺は、18年間想い続けた。その終焉りは、自分でケリをつける」
そう言って、彼は思い人の瞳を見つめた。虚ろな瞳の彼女は、全ての終わりを望むかのような面持ちで遠くを眺めている。
「……マンダロリアン・ヴォールトに入れ」
「ええ、そうさせていただくわ」
アンヌは銃口を向けられる暇も与えず、あっさりとヴォールトへと身体を預けた。ようやく、二人の視線が交わる。だが拘束具を付け替える間、ガーは終始無言だった。沈黙に耐えきれず、降り始めた雨と共に静寂を破ったのはアンヌだった。
「……雨、だね」
「ああ、そうだな」
みるみるうちに雨脚は強くなり、やがて二人の頬を濡らし始めた。心なしか目を赤く腫らしているガーに気付いたアンヌは、一時的に自由になった右手をおもむろに差しだそうとした。だが、瞬時にトルーパーたちの銃口が立ち上がり、彼女は哀しく微笑んだ。
「……ずっと、終わりが来るのを待っていたの。だから、何も辛くないの」
その声が震えていることにただ独りだけ気付いていたガーは、一瞬だけ拘束具を扱う手を止めた。しかし、すぐに作業へ戻った。
いよいよ扉を締めるだけになり、ガーは一歩だけ後ろへ下がった。拘束されていようとも、目の前にいるアンヌは美しかった。生きた天使を捕らえる気分に陥った彼は、居心地悪く咄嗟に扉の開閉ボタンを押した。
ゆっくりと、音を立ててヴォールトの扉が閉じていく。同時に睡眠薬が檻の中を満たし始め、彼女は心地よい眠気に襲われた。
扉が閉じる瞬間、拘束マスクの下がほんの一瞬何かを伝えようと動いた気がした。いや、確かに動いていた。
彼女が何を言おうとしていたのか、ガーには分からなかった。むしろ、考えたくもなかった。
扉が閉じたヴォールトは、アンヌの顔を暗いガラスで覆い尽くしている。
それはまるで、再び銀河に光が途絶えたかのように重く感じられるのだった。
ふいに、ウルサは懐かしい誰かの気配を感じて足を止めた。
そこには、デスウォッチ時代に強いマンダロアを目指して共に戦った旧友、ボ=カタン・クライズが立っていた。
「カタン……!!あなたも一緒なのね」
「……あれほどに啖呵を切って出ていったのに、戻ってきたの?」
アンヌが気怠そうに眉をひそめるのに気づき、クライズはばつが悪そうな面持ちに変わった。
「……旧友が、こちらに来ると聞いただけだ」
「そう。では感動の再会が終わったら出て行きなさい」
「言われなくてもそうするさ」
2人の間にただならぬものを感じ、ウルサは無言で引き下がるしかなかった。アンヌはクライズを置いて、書斎へと仲間を案内した。アソーカの入室を最後に、全員が揃ったことを確認すると、ブレインはブリーフィング画面を起動した。
「現在、マンダロアは二分されつつある。ざっくり言うと、帝国側とこちら側ってことね」
「内乱状態に逆戻りってわけか……」
「それがマンダロアの常識だと宣っていたのは誰でしたっけ?」
またしてもクライズとアンヌが激しい火花を散らす。そもそも何故帰っていないと聞きたげなブレインを見て、このままではらちがあかないと悟ったアソーカが、代わりにブリーフィングを進め始める。
「帝国側は、主にサクソン氏族を中心に強力な軍事力を固めてる。サクソン総督のカリスマ性は意外に高くて、彼を中心に帝国迎合派の氏族が固まってるみたい。……まぁ、共和国系と帝国系っていう二軸で考えると、当然の結果の気もするけど」
共和国、という言葉を聞いたクライズの表情が苦悶に揺らぐ。思い出したくもない、姉の死。たとえ思想を違えたとしても、彼女にとってサティーンは大切な家族だった。
「マンダロアが……強ければ……っ!!!」
「問題はそれなの。こちら側の指導者には、毎度ながらカリスマ性のある人物がいない。決めるとなれば、また小さな内乱が勃発するのは火を見るより明らかよ」
「それに、ダークセイバーも奴ら側。これではマンダロアの民すら付いてこない」
ウルサの言い分は、もっともだ。一同がすっかり黙り込んでしまったところで、アンヌが重い口を開けた。
「逆に言うと、こちら側の指導者次第では形勢が逆転するというわけだ。そのためには、ダークセイバーが必要になる」
「セイバーを、取り返そうというの?」
「ええ。まずは複数人の指導者候補を増やす必要がある。例えば、ウルサの夫アルリック殿が有力だろう」
アルリックの名を聞いたレン氏族が、僅かに明るさを取り戻す。続いて、アンヌは苦々しげな声でこう付け加えた。
「……それに加え、クライズも有力だろう。何だかんだ言い、彼女は顔が利く」
たとえ確執があろうとも、使える手段は全て使う。それがアンヌだった。クライズの瞳に、僅かながらも敬意の念が揺らいだそのときだった。
「アンヌ、今すぐ逃げなさい!」
息せき切って飛び込んできたのは、アルマ夫人だった。ただならぬ空気に、一同もブリーフィングを中断して振り返る。
「お母様、何かあったのですか?」
「大変なの。帝国が、植民権を行使してマンダロアの軍と共にあなたを逮捕しに来たわ」
「私を?罪状は?」
「そんなの問題じゃないわ。問題なのは指名手配の名前よ」
その一言だけで、アンヌは事の次第を全て理解した。続きは待つまでもない。
「―――――共和国軍師ブレイン・オブ・ザ・リパブリック、アンヌ・トワイラス。罪状はクローン大戦S級戦犯ですね?」
「ええ、そんなところよ。それより、とにかく逃げなさい。オルデランに連絡を取れるようにしてあるから、あなたのお友達たちも逃がしてあげて」
アンヌは母からコムリンクを受け取ると、部屋にいる全員に向き直った。どんな事態でも取り乱すことの無いその姿は、不敗の共和国軍師そのものだ。誰もが、決意を込めた面持ちでブレインを見ている。
無言の同意を感じたアンヌは、永遠の別れを告げるように母へ名残惜しく一礼した。そしてすぐに、宮殿を後にした。
セレノーの軌道は、あっという間に帝国によって全て押さえられた。包囲を受けて緊急招集された貴族議会も、一網打尽の好機にしかならなかった。
一方、アンヌたちは何とか帝国の手が届いていない場所まで逃げ延びることができていた。彼女はコムリンクを起動すると、オルデランへ呼びかけを行おうとした。
だが、何かがおかしい。
「……あれ、どうしてかしら」
「どうしたの?アンヌ」
アソーカが心配そうにのぞき込む。
「電波が、入らない」
その声を受けて、サビーヌも反乱軍基地へと無線を飛ばそうと試みる。だが、結果は同じだ。
「変ね。妨害電波かしら」
「こんなに大きくて強力な妨害電波……どうして……?」
アンヌが首を傾げていると、一緒に逃げ延びてきたラウが声を上げた。
「おい、セレノー内はまだ大丈夫らしい。仲間から通信が入っている」
彼は慌てて応答ボタンを押した。すると、コムリンクからは切迫した声が届けられた。
「キャプテン!大変です!!民間人や貴族たちが一カ所に集められており、サクソン氏族とターキン総督、それに尋問官が現れました」
「何だと!?一体どうなってるんだ!!?」
「一カ所に……外部への妨害電波……指名手配……」
記憶の断片を必死にたぐり寄せながら、アンヌは思考を巡らせた。そして、一つの答えにたどり着いた。
「まさか……あれを実行しようと……!!?」
絶句するアンヌを、皆が不安げに見守る。だが、彼女が答えを口にするより前に、帝国側の拡声器が聞き慣れた声でうなり声を上げた。ガーの弟にして副総督のタイバーだった。
「――――全セレノー市民に告ぐ。マンダロア惑星群セレノーにおいて、これよりオーダー37を発動する。対象は共和国軍師、ブレイン・オブ・ザ・リパブリックで知られるジェダイ・アンヌ・トワイラス。またの名を、アンヌ女伯と言う」
オーダー37と聞いたケイナンとアソーカが、青ざめる。何も知らないエズラは、2人に問いかけた。
「ねぇ、オーダー37って何?66と何が違うの?」
「……あれよりもっと最悪のオーダーだ」
「最悪って……」
「たった独りのために、全てを殺し尽くす最悪のオーダーよ」
唖然としているエズラたちを置いて、タイバーは続けた。
「これより15分後、10分経つごとに各領に分けた領民を皆殺しにしていく。もちろん最後は、貴様の領民と家族だ。虐殺を止めたければ、出頭しろ」
ようやくオーダーの内容を理解したエズラは、悲鳴にも似た当惑の声を上げた。サビーヌも、アンヌに詰め寄って叫んだ。
「アンヌ、どうするの!!?」
「どうするのよ!このままだと、みんな死んじゃう!!」
「……そんな……また……私のせいで……」
ここに来て初めて人間らしい感情を見せたアンヌを見て、クライズがその腕を掴んだ。
「ダメだ!今行ったところで、どうせ奴らは皆殺しにする!それが、帝国とサクソンのやり方だ!」
アンヌの表情が苦痛に揺らぐ。そんなことは自明だった。何度も、何度も味わった裏切りだ。
だが、こんなときに限って思い出してしまうのは、あの日のことだった。
ああ。あの日もこんな風に、銀河か仲間かを選べと非情に突き付けられたんだった。そして、私は銀河を選んだ。
けれど本心は、みんなと一緒に終焉(おわ)りたかった。後悔と自責の念と責務を負って生きるには、独りというのはあまりにも孤独すぎたから。
次の瞬間、アンヌは乗ってきたスピーダーバイクに飛び乗っていた。何をしようとしているのかを察したアソーカが手を伸ばそうとしたが、遅かった。
こうしてアンヌは、終わらせないために生き抜くのではなく、生き抜くために終わりを選んだ。実に18年越しに、彼女は選択をやり直したのだった。
総督は、空を見上げてため息をついた。
先程まで恐ろしいほど晴天だったそれは、今や急な曇天に見舞われている。泣き出しそうな空を遠い目で眺めていると、使用人と領民たちが悲鳴を上げた。
「アルマ様!」
「奥様!ああ、そんな……」
振り返ると、宮殿から引きずり出されてきたアルマ夫人が髪を乱して突き出されていた。彼女は膝を折って地面に伏しているものの、凜としたまなざしでサクソン兄弟を睨み付けている。
「例え地に伏しようとも、ドゥークー様の権威は地に落ちたりはしない。かような愚か者に、よくぞ娘をやらずに済んだものだ」
いかなる状況でも気品と誇りを喪わない夫人に感嘆しつつも、ターキン総督は首を横に振りながらため息を吐いた。
「ご自分の立場をお分かりでないようだ。あなたのお嬢さんは、銀河系で最も悪名名高い戦争犯罪者、ジェダイなのです。それどころか……ジェダイ・ブレイン・アンヌ・トワイラスなのですから」
名を出すことすら、背筋が寒くなる。
ターキンはアンヌを嫌っていた。いや、というよりは恐れていた。常に表情も感情も読めず、予測不能な発言と思考ばかりを繰り返す彼女を、彼はいつも心地よく思っていなかった。
「さて、まもなく30秒で最初の犠牲者が出る時間だ。各自、構えろ!」
タイバーの号令で、ブラスターが一部の領民に突きつけれる。子供は泣き叫び、大人たちは嗚咽を漏らしている。そんな中で、アルマ夫人は心の中で祈っていた。
お願い、アンヌ。逃げ切って。この惑星から生きとし生けるもの全てが消え失せたとしても、あなただけは――――
「10, 9, 8……」
無情に迫るカウントダウンに、アルマは背徳感を覚えつつも祈り続けた。
そして、ついに残り3秒にさしかかったそのときだった。
「――――私はここだ!」
銃声の代わりに聞き覚えのある、鋭く力強い声が響き渡った。振り返る必要も無いほどに聞き飽きたその声に、ターキン総督が乾いた拍手を送る。
「よくぞご帰還なさった。あの日、皆を見捨てて逃げたあなたと同一人物とは思えませんな」
効き過ぎの嫌味をかわし、声の主――――アンヌ・トワイラスは躊躇無くグレーカラーのライトセイバーを起動した。ダークサイドの黒と、ライトサイドの白。そのいずれにもなれない様は、まさにブレイン・オブ・ザ・リパブリック自身を示しているようだ。
一方、喉元に突き付けられた光刃を見て状況を察したターキンは、ほんの一瞬だけ怯んだ。
この状況において、このような振る舞いをするとは……なんという恐ろしい輩だ。
緊張と殺気の走る刹那に、タイバーも口を開けたまま立ち尽くしている。唯一動いたのは、マンダロア総督ガー・サクソンだった。彼は自分でも驚くほど冷静な声で、右手を挙げながらこう言った。
「……殺し尽くしたければ、殺せ。お前なら造作も無いことだろう。だが、お前の大切な領民と家族も我々と道連れだ」
アンヌは渋々ライトセイバーを下ろすと、柄を造作も無く投げ棄てた。それを見届けた全兵が、彼女の周りを取り囲む。この状況においても彼女の頭の中は、自分でも嫌になるほどに冷え切っていた。
そういえば、遠い昔誰かが言ったんだっけ。ライトセイバーは命と同じだから、手放すなって。
「――――私の命なんて、全銀河の市民を合わせたものよりずっと……ずっと、軽い」
生きるべきは、私ではなかった。
心のどこかでそう思っていたアンヌにとって、愛する人がもたらしたこの結末は何よりの救いでしかなかった。
そして、その両手に手錠が掛けられる。対ジェダイ専用の、フォースとのつながりを弱める特殊なスタンカフだ。
複数人の兵士が彼女を連行しようと、タイバーの動きを合図に体制を変えようとした。すると、それを制止するようにガーが突如前に歩み出た。
「……始末は、俺がつける」
「兄さん、これは皇帝陛下の――――」
「黙れ!仮にもこの人を……この人を俺は、18年間想い続けた。その終焉りは、自分でケリをつける」
そう言って、彼は思い人の瞳を見つめた。虚ろな瞳の彼女は、全ての終わりを望むかのような面持ちで遠くを眺めている。
「……マンダロリアン・ヴォールトに入れ」
「ええ、そうさせていただくわ」
アンヌは銃口を向けられる暇も与えず、あっさりとヴォールトへと身体を預けた。ようやく、二人の視線が交わる。だが拘束具を付け替える間、ガーは終始無言だった。沈黙に耐えきれず、降り始めた雨と共に静寂を破ったのはアンヌだった。
「……雨、だね」
「ああ、そうだな」
みるみるうちに雨脚は強くなり、やがて二人の頬を濡らし始めた。心なしか目を赤く腫らしているガーに気付いたアンヌは、一時的に自由になった右手をおもむろに差しだそうとした。だが、瞬時にトルーパーたちの銃口が立ち上がり、彼女は哀しく微笑んだ。
「……ずっと、終わりが来るのを待っていたの。だから、何も辛くないの」
その声が震えていることにただ独りだけ気付いていたガーは、一瞬だけ拘束具を扱う手を止めた。しかし、すぐに作業へ戻った。
いよいよ扉を締めるだけになり、ガーは一歩だけ後ろへ下がった。拘束されていようとも、目の前にいるアンヌは美しかった。生きた天使を捕らえる気分に陥った彼は、居心地悪く咄嗟に扉の開閉ボタンを押した。
ゆっくりと、音を立ててヴォールトの扉が閉じていく。同時に睡眠薬が檻の中を満たし始め、彼女は心地よい眠気に襲われた。
扉が閉じる瞬間、拘束マスクの下がほんの一瞬何かを伝えようと動いた気がした。いや、確かに動いていた。
彼女が何を言おうとしていたのか、ガーには分からなかった。むしろ、考えたくもなかった。
扉が閉じたヴォールトは、アンヌの顔を暗いガラスで覆い尽くしている。
それはまるで、再び銀河に光が途絶えたかのように重く感じられるのだった。