この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
1、マンダロアの未来
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模造の太陽光が、正午のサンダーリを冷たく照らしていた。未来のマンダロア総督夫人アンヌは、他人事のように外の景色を眺めながらカフを飲んでいた。
「式までもうあと3日だな、アンヌ」
「そうね、ガー」
ヴァスロイ・サクソンは愛しい婚約者の肩を抱き寄せると、柔らかな頬にキスをした。
「嬉しいか?」
「ええ、もちろん。あなたの妻になれるなんて、とても幸せだわ」
アンヌは消え入りそうな笑顔で答えた。だが、心の中では依然反乱同盟軍の猜疑心と反抗心が気がかりのままだった。
式当日、何も起こらなければいいけれど……
そして彼女は、不安を拭うようにカフを一口啜った。
その頃、アンヌの予感に示し会わせたような会合が開かれていた。ボ=カタン・クライズを中心としたマンダロアの戦士たちは、口々にサクソン政権への怒りを現にしている。クライズは辺りを見回すと、ブリーフィングテーブルを拳で叩きながら唸った。
「あんたたち、このままでいいわけ?あの狐……ブレインは私たちを裏切った。これではっきりしたわけだ、マンダロアを救えるのはマンダロリアンしか居ないんだって」
その言葉に、一同が頷く。しかし、たった一人その場を冷静に見ている者がいた。プロテクターの長、フェン・ラウだ。彼は一歩前へ歩み出ると、首を横に振りこう言った。
「ああ、それは間違いない。だが、ブレインの戦略が強い味方だったのも事実だ」
「問題ないさ。マンダロリアンにはマンダロリアンのやり方ってのがある」
「だが、サクソン氏族にそんなやり方が通用するとは……」
食い下がるラウに、観念ならないと族長の一人が声を荒げた。
「ラウ!だったらブレインの元へ行くか?」
「いや、それは……」
「ほら、ほかに選択は無さそうじゃないか。つまり今こそ、腐りきったサクソン政権を淘汰するときだ!マンダロアは、マンダロリアンの手で解放しよう!決行は国賊どもの婚礼の日だ!」
クライズの強い語気に絆され、戦士たちが次々に呼応する。その様子を眺めながらラウは一人、マンダロアの行く末を案じる眼差しを投げ掛けるのだった。
そんな波乱の結婚式が明日に迫った日の夜、アンヌはガーと二人でサンダーリの都市を一望できるテラスに並んで立っていた。そして普段は政治のことなど口にも出さない彼だったが、今日は珍しく真面目な面持ちで口を開いて話し始めた。
「────俺は、マンダロアを愛している。この惑星の文化、歴史、強さ、不器用さ、その全てを俺は愛している」
「……ええ、とても素敵な惑星ね」
「だからこそ、俺は本気でこの惑星の民を守りたいと思っている」
意外な言葉に、アンヌは息を飲んで目を丸くした。ガーは嘲笑を浮かべながら俯いている。
「恥ずかしい話だが……俺だって最初は総督の地位を、処刑を免れるための腰掛け椅子だと思っていた。自分さえ助かれば良いと……」
そう言うと、彼は顔を上げてサンダーリの街を見渡した。その横顔は今も若々しく、むしろ過去の彼よりも活気と希望に満ちている。アンヌの鼓動が音を立てて跳ねたことも気づかず、ガーは続けた。
「だが、俺はマンダロアという惑星とその文化のことは心から愛していた。そして、いつの間にか俺の統治は自己保身から目標が変わっていった。帝国の傘下に入ってから経済は安定し、夜間外出の規制により治安も安定した。何より皇帝陛下の絶大な信頼のもとで、俺は帝国軍の駐在を退けてサクソン氏族とヴィスラ家による自治を実現させた」
自治、という言葉を聞いてアンヌはハッとした。争いばかりで混沌としたマンダロアしか知らなかった彼女は、初めて総督の真意を悟った。
「俺は、氏族同士がいさかいを起こさなければマンダロアはきっと良い場所になると思っている。そしてこの統治方法が伝搬していけば、いずれ強大で磐石な自治ができる組織が銀河中に完成する。それこそが真の銀河帝国だと、俺は思う」
「ガー……」
総督はアンヌに向き直ると、その小さな手を取って跪いた。
「アンヌ、俺の未来の妻よ。俺の生涯ただ一人の女になって、俺の悲願を成就する手助けをしてくれないだろうか。お前の聡明さと経済的影響力、そして俺の圧倒的軍事力があれば────」
アンヌは愛する総督にキスをした。それから、微笑みながら頷いた。
「それ以上は言わなくても分かってるわ。あなたが目指す未来は、私の描く未来と同じ。方法は全く違うけれど……
共和国が成し得なかった何かを、あなたとなら創れる気がする。
アンヌは胸の内が暖かくなるのを感じた。大きくたくましい手を強く握り返しながら、彼女は愛する人を真っ直ぐ見つめた。
「だから私、あなたに賭けてみる。どんな結末が待っていようとも、私はこの手を離さない」
人工の夕陽が落ちると共に、二人の影が重なる。
式は、もうすぐそこに迫っていた。
マンダロア総督の婚礼は帝国ホロネットによる生中継で行われることとなった。ヴァージンロードを歩くアンヌは、サクソン氏族の家紋とカラーである紅い逆三角形があしらわれた、純白のマンダロリアンアーマードレスを見に纏っている。一歩歩く度に、ヴェールはふわりと舞い、家紋の形をした黄金色のイヤリングが揺れた。
花嫁を壇上で待っているガーの心は高鳴った。消え入りそうな儚い美しさを宿すアンヌは、この場が幻であることを告げるように切ない存在だった。
だが、ガーの頬を撫でる穏やかな風も、舞う花吹雪も、全てがこの場を現実であると証明していた。そして胸に広がる痛みすらも────
「……?」
刹那、ガーは自分の身に何が起こったのかを理解するのに時間がかかった。身体から力が抜けていき、火傷にも似た燃えるような熱さが広がっていく。息が苦しい。アンヌの名を呼ぼうにも、声が出ない。
意識が遠退く中、アンヌが叫ぶ声が聞こえてきた。
「ガー!!?」
「兄さん!?兄さん!?兄さん!!今すぐサンダーリを封鎖しろ!総督が撃たれた!」
俺が?撃たれた?ああ、そういうことか……
薄れゆく視界の中で、彼は駆け寄ってくるアンヌに微笑んだ。
綺麗だぞ、アンヌ。さすが俺の女だ────
その言葉は、届くことなく吐息へと変わるのだった。
アンヌは冷静に触診で確認をすると、タイバーに厳しい口調で告げた。
「まだ息がある。奇跡的に急所は外してる。今すぐ救護班を呼べば助かる見込みはあると思う」
「ああ、分かった。救護班を呼ぶのは私に任せて、あなたは避難を────」
だが、タイバーが言い終わるより前にアンヌの姿は遥か彼方へと消えていた。副総督は、激しい銃撃の中へと飛び込んでいく純白のアーマードレスを見つけて叫んだ。
「アンヌッ────!!やめろ!!戻ってこい!!」
タイバーの制止も聞かず、アンヌは息絶えている番兵の傍からエレクトロスタッフを拾って起動させた。フォースセンシティブだとばれないようになどという考えは、もう彼女の中には無かった。ただひたすらに、愛する人の命を奪おうとした者へ自分なりの正義を貫き通そうとしていた。
そして心のどこかで、犯人は既に分かっていた。
「クライズぅああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
超遠距離狙撃用のライフルを担ぎながら逃げるボ=カタン・クライズを視認したアンヌは、ビルのガラスをヒビが入るほど強く蹴って空中に跳躍した。それから身体を錐揉み旋回させて飛び出すと、フォースで研ぎ澄まされただけでなく確かに鍛え抜かれた動体視力で獲物を捉えた。彼女が怒りを込めながら、エレクトロスタッフを振り投げる。それは避けようとしたクライズのジエットパックを綺麗に射貫いた。
そう、アンヌはそれすらも予見していたのだ。今や背中の時限爆弾と化したジエットパックから緊急離脱を図るクライズを見て、ビル街の垂れ幕からぶら下がっているアンヌはほくそ笑んでいる。
遠い昔、ジェダイオーダーはシスオーダーと手を組んだマンダロリアンと激しい戦いを繰り広げた。その際の戦術指南書を、彼女は応用しながら再現しているのだ。
何とか地上に降り立ったクライズだったが、一息つく間もなくアンヌの攻撃を受けることとなった。フォースの助けを受けた一蹴りはどんなものより重く、頑丈なマンダロリアンアーマーの上からでも鈍痛が広がる。
「覚悟しろ!お前だけはここで始末してやる」
「よく言うね、裏切り者」
「私を信じてほしい、それが私のオーダーだったはず」
「色恋に狂った輩の言うことは信用ならないね」
間合いを取りつつ、二人は激しいにらみ合いを続ける。
「あなただって、ヴィズラへの恋情でクライズ政権を────」
「ヴィズラとサクソンを一緒にするなあああああっ!!」
雄叫びのような叫び声を上げながら先制攻撃を仕掛けてきたのはクライズだった。だが、それすらもアンヌは計算していた。彼女はブラスターを構えて突進してくるクライズを、素手であしらった。ひらりとステップを踏んだのち、鋭い蹴りが腕に入る。ブラスターを弾き飛ばすことに成功したアンヌは、一旦二段宙返りで後退した。
次に天才軍師が狙いを定めたのは、マンダロリアンアーマーのヘルメットだった。ヘルメットには相手を視認しやすいように設計されているパネルが埋め込まれており、これを外さないことには流石のアンヌも勝機を掴むことは難しいからだ。
冷静に、かつ正確に、軍師は足先をヘルメットの顎付近に向けて振り上げた。クライズはしまったと思い、咄嗟に身体を捻ろうと試みる。だが、それすらもアンヌは計算していた。──というよりむしろ、フォースの力で少し先の未来を見ていたと言う方が正解かもしれない。いずれにせよ、クライズ家の末裔は素顔を白日のもとに晒すこととなった。
クライズは叫んだ。その声には屈辱と畏怖の音が混ざりあっている。
「なんで……なんであいつをそこまでして……!!」
「……あの人は、あなたたちと同じ思いでマンダロアを守ろうとしている。だから私は、あの人に賭けてみようと思う」
アンヌはそう言って、クライズのブラスターを持ち主の足元へ投げて返した。
「さようなら、クライズ。私は私のまま、生きてみようと思う」
「アンヌ……!仲間を捨てて、それで済むと?」
「上等さ。ジェダイトして背徳の限りを尽くした私に、何が残っているというの?」
そう言って、アンヌは踵を返した。だが、その背にかけられたたった一つの言葉がその足を止めた。
「────サビーヌは、あんたをずっと信じて待ってるよ。憐れな子だ」
アンヌは無言で暫く立ち尽くしていた。しかし何も言うこと無く、総督邸へと戻っていった。その背があまりにも哀しくて、クライズは怒りに似た哀れみを覚えるのだった。
アンヌが総督邸に戻った頃には、予断を許さない状態なもののガーの容態は何とか安定していた。彼女は純白のブライダルアーマーをなびかせて駆け寄ると、昏睡する新郎の手を握った。
「ガー……私、どこにも行かないから。ずっと、側にいるから。だからお願い……」
新婦は、交わすことの出来なかった誓いのキスの代わりに愛する人の額に口づけした。白い頬に涙が落ちる。
その声でもう一度、愛してると言って……
銀河中に祝福される結婚でなくてもいい。罪に彩られた道の終焉に破滅が待っていてもいい。
「私は、あなたと生きていきたい……」
アンヌは祈るように目を閉じた。その願いに応えるように、ほんの少しだけガーの指が動く。それを見た彼女は、天使のような笑顔で微笑んだ。隣で仏頂面を決め込んでいたタイバーも、ほんの少しだけ口許を綻ばせている。
マンダロアの再興を、その場にいた誰もが疑わなかった。強く、自立した帝国共和主義の戦士が築く政治を、誰もが望んでいた。
この先に、光と希望だけがあると信じて。
「式までもうあと3日だな、アンヌ」
「そうね、ガー」
ヴァスロイ・サクソンは愛しい婚約者の肩を抱き寄せると、柔らかな頬にキスをした。
「嬉しいか?」
「ええ、もちろん。あなたの妻になれるなんて、とても幸せだわ」
アンヌは消え入りそうな笑顔で答えた。だが、心の中では依然反乱同盟軍の猜疑心と反抗心が気がかりのままだった。
式当日、何も起こらなければいいけれど……
そして彼女は、不安を拭うようにカフを一口啜った。
その頃、アンヌの予感に示し会わせたような会合が開かれていた。ボ=カタン・クライズを中心としたマンダロアの戦士たちは、口々にサクソン政権への怒りを現にしている。クライズは辺りを見回すと、ブリーフィングテーブルを拳で叩きながら唸った。
「あんたたち、このままでいいわけ?あの狐……ブレインは私たちを裏切った。これではっきりしたわけだ、マンダロアを救えるのはマンダロリアンしか居ないんだって」
その言葉に、一同が頷く。しかし、たった一人その場を冷静に見ている者がいた。プロテクターの長、フェン・ラウだ。彼は一歩前へ歩み出ると、首を横に振りこう言った。
「ああ、それは間違いない。だが、ブレインの戦略が強い味方だったのも事実だ」
「問題ないさ。マンダロリアンにはマンダロリアンのやり方ってのがある」
「だが、サクソン氏族にそんなやり方が通用するとは……」
食い下がるラウに、観念ならないと族長の一人が声を荒げた。
「ラウ!だったらブレインの元へ行くか?」
「いや、それは……」
「ほら、ほかに選択は無さそうじゃないか。つまり今こそ、腐りきったサクソン政権を淘汰するときだ!マンダロアは、マンダロリアンの手で解放しよう!決行は国賊どもの婚礼の日だ!」
クライズの強い語気に絆され、戦士たちが次々に呼応する。その様子を眺めながらラウは一人、マンダロアの行く末を案じる眼差しを投げ掛けるのだった。
そんな波乱の結婚式が明日に迫った日の夜、アンヌはガーと二人でサンダーリの都市を一望できるテラスに並んで立っていた。そして普段は政治のことなど口にも出さない彼だったが、今日は珍しく真面目な面持ちで口を開いて話し始めた。
「────俺は、マンダロアを愛している。この惑星の文化、歴史、強さ、不器用さ、その全てを俺は愛している」
「……ええ、とても素敵な惑星ね」
「だからこそ、俺は本気でこの惑星の民を守りたいと思っている」
意外な言葉に、アンヌは息を飲んで目を丸くした。ガーは嘲笑を浮かべながら俯いている。
「恥ずかしい話だが……俺だって最初は総督の地位を、処刑を免れるための腰掛け椅子だと思っていた。自分さえ助かれば良いと……」
そう言うと、彼は顔を上げてサンダーリの街を見渡した。その横顔は今も若々しく、むしろ過去の彼よりも活気と希望に満ちている。アンヌの鼓動が音を立てて跳ねたことも気づかず、ガーは続けた。
「だが、俺はマンダロアという惑星とその文化のことは心から愛していた。そして、いつの間にか俺の統治は自己保身から目標が変わっていった。帝国の傘下に入ってから経済は安定し、夜間外出の規制により治安も安定した。何より皇帝陛下の絶大な信頼のもとで、俺は帝国軍の駐在を退けてサクソン氏族とヴィスラ家による自治を実現させた」
自治、という言葉を聞いてアンヌはハッとした。争いばかりで混沌としたマンダロアしか知らなかった彼女は、初めて総督の真意を悟った。
「俺は、氏族同士がいさかいを起こさなければマンダロアはきっと良い場所になると思っている。そしてこの統治方法が伝搬していけば、いずれ強大で磐石な自治ができる組織が銀河中に完成する。それこそが真の銀河帝国だと、俺は思う」
「ガー……」
総督はアンヌに向き直ると、その小さな手を取って跪いた。
「アンヌ、俺の未来の妻よ。俺の生涯ただ一人の女になって、俺の悲願を成就する手助けをしてくれないだろうか。お前の聡明さと経済的影響力、そして俺の圧倒的軍事力があれば────」
アンヌは愛する総督にキスをした。それから、微笑みながら頷いた。
「それ以上は言わなくても分かってるわ。あなたが目指す未来は、私の描く未来と同じ。方法は全く違うけれど……
共和国が成し得なかった何かを、あなたとなら創れる気がする。
アンヌは胸の内が暖かくなるのを感じた。大きくたくましい手を強く握り返しながら、彼女は愛する人を真っ直ぐ見つめた。
「だから私、あなたに賭けてみる。どんな結末が待っていようとも、私はこの手を離さない」
人工の夕陽が落ちると共に、二人の影が重なる。
式は、もうすぐそこに迫っていた。
マンダロア総督の婚礼は帝国ホロネットによる生中継で行われることとなった。ヴァージンロードを歩くアンヌは、サクソン氏族の家紋とカラーである紅い逆三角形があしらわれた、純白のマンダロリアンアーマードレスを見に纏っている。一歩歩く度に、ヴェールはふわりと舞い、家紋の形をした黄金色のイヤリングが揺れた。
花嫁を壇上で待っているガーの心は高鳴った。消え入りそうな儚い美しさを宿すアンヌは、この場が幻であることを告げるように切ない存在だった。
だが、ガーの頬を撫でる穏やかな風も、舞う花吹雪も、全てがこの場を現実であると証明していた。そして胸に広がる痛みすらも────
「……?」
刹那、ガーは自分の身に何が起こったのかを理解するのに時間がかかった。身体から力が抜けていき、火傷にも似た燃えるような熱さが広がっていく。息が苦しい。アンヌの名を呼ぼうにも、声が出ない。
意識が遠退く中、アンヌが叫ぶ声が聞こえてきた。
「ガー!!?」
「兄さん!?兄さん!?兄さん!!今すぐサンダーリを封鎖しろ!総督が撃たれた!」
俺が?撃たれた?ああ、そういうことか……
薄れゆく視界の中で、彼は駆け寄ってくるアンヌに微笑んだ。
綺麗だぞ、アンヌ。さすが俺の女だ────
その言葉は、届くことなく吐息へと変わるのだった。
アンヌは冷静に触診で確認をすると、タイバーに厳しい口調で告げた。
「まだ息がある。奇跡的に急所は外してる。今すぐ救護班を呼べば助かる見込みはあると思う」
「ああ、分かった。救護班を呼ぶのは私に任せて、あなたは避難を────」
だが、タイバーが言い終わるより前にアンヌの姿は遥か彼方へと消えていた。副総督は、激しい銃撃の中へと飛び込んでいく純白のアーマードレスを見つけて叫んだ。
「アンヌッ────!!やめろ!!戻ってこい!!」
タイバーの制止も聞かず、アンヌは息絶えている番兵の傍からエレクトロスタッフを拾って起動させた。フォースセンシティブだとばれないようになどという考えは、もう彼女の中には無かった。ただひたすらに、愛する人の命を奪おうとした者へ自分なりの正義を貫き通そうとしていた。
そして心のどこかで、犯人は既に分かっていた。
「クライズぅああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
超遠距離狙撃用のライフルを担ぎながら逃げるボ=カタン・クライズを視認したアンヌは、ビルのガラスをヒビが入るほど強く蹴って空中に跳躍した。それから身体を錐揉み旋回させて飛び出すと、フォースで研ぎ澄まされただけでなく確かに鍛え抜かれた動体視力で獲物を捉えた。彼女が怒りを込めながら、エレクトロスタッフを振り投げる。それは避けようとしたクライズのジエットパックを綺麗に射貫いた。
そう、アンヌはそれすらも予見していたのだ。今や背中の時限爆弾と化したジエットパックから緊急離脱を図るクライズを見て、ビル街の垂れ幕からぶら下がっているアンヌはほくそ笑んでいる。
遠い昔、ジェダイオーダーはシスオーダーと手を組んだマンダロリアンと激しい戦いを繰り広げた。その際の戦術指南書を、彼女は応用しながら再現しているのだ。
何とか地上に降り立ったクライズだったが、一息つく間もなくアンヌの攻撃を受けることとなった。フォースの助けを受けた一蹴りはどんなものより重く、頑丈なマンダロリアンアーマーの上からでも鈍痛が広がる。
「覚悟しろ!お前だけはここで始末してやる」
「よく言うね、裏切り者」
「私を信じてほしい、それが私のオーダーだったはず」
「色恋に狂った輩の言うことは信用ならないね」
間合いを取りつつ、二人は激しいにらみ合いを続ける。
「あなただって、ヴィズラへの恋情でクライズ政権を────」
「ヴィズラとサクソンを一緒にするなあああああっ!!」
雄叫びのような叫び声を上げながら先制攻撃を仕掛けてきたのはクライズだった。だが、それすらもアンヌは計算していた。彼女はブラスターを構えて突進してくるクライズを、素手であしらった。ひらりとステップを踏んだのち、鋭い蹴りが腕に入る。ブラスターを弾き飛ばすことに成功したアンヌは、一旦二段宙返りで後退した。
次に天才軍師が狙いを定めたのは、マンダロリアンアーマーのヘルメットだった。ヘルメットには相手を視認しやすいように設計されているパネルが埋め込まれており、これを外さないことには流石のアンヌも勝機を掴むことは難しいからだ。
冷静に、かつ正確に、軍師は足先をヘルメットの顎付近に向けて振り上げた。クライズはしまったと思い、咄嗟に身体を捻ろうと試みる。だが、それすらもアンヌは計算していた。──というよりむしろ、フォースの力で少し先の未来を見ていたと言う方が正解かもしれない。いずれにせよ、クライズ家の末裔は素顔を白日のもとに晒すこととなった。
クライズは叫んだ。その声には屈辱と畏怖の音が混ざりあっている。
「なんで……なんであいつをそこまでして……!!」
「……あの人は、あなたたちと同じ思いでマンダロアを守ろうとしている。だから私は、あの人に賭けてみようと思う」
アンヌはそう言って、クライズのブラスターを持ち主の足元へ投げて返した。
「さようなら、クライズ。私は私のまま、生きてみようと思う」
「アンヌ……!仲間を捨てて、それで済むと?」
「上等さ。ジェダイトして背徳の限りを尽くした私に、何が残っているというの?」
そう言って、アンヌは踵を返した。だが、その背にかけられたたった一つの言葉がその足を止めた。
「────サビーヌは、あんたをずっと信じて待ってるよ。憐れな子だ」
アンヌは無言で暫く立ち尽くしていた。しかし何も言うこと無く、総督邸へと戻っていった。その背があまりにも哀しくて、クライズは怒りに似た哀れみを覚えるのだった。
アンヌが総督邸に戻った頃には、予断を許さない状態なもののガーの容態は何とか安定していた。彼女は純白のブライダルアーマーをなびかせて駆け寄ると、昏睡する新郎の手を握った。
「ガー……私、どこにも行かないから。ずっと、側にいるから。だからお願い……」
新婦は、交わすことの出来なかった誓いのキスの代わりに愛する人の額に口づけした。白い頬に涙が落ちる。
その声でもう一度、愛してると言って……
銀河中に祝福される結婚でなくてもいい。罪に彩られた道の終焉に破滅が待っていてもいい。
「私は、あなたと生きていきたい……」
アンヌは祈るように目を閉じた。その願いに応えるように、ほんの少しだけガーの指が動く。それを見た彼女は、天使のような笑顔で微笑んだ。隣で仏頂面を決め込んでいたタイバーも、ほんの少しだけ口許を綻ばせている。
マンダロアの再興を、その場にいた誰もが疑わなかった。強く、自立した帝国共和主義の戦士が築く政治を、誰もが望んでいた。
この先に、光と希望だけがあると信じて。
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