この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
6、トリガー・オブ・コンコードドーン
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アンヌはその日、財政相談を受けるために総督府へと来ていた。体調不良のタイバーの代理に面談を担当するのは、他でもない総督ガー・サクソンだ。二人は回廊を歩きながら、仕事の雰囲気ではありながらも親密そうに会話を楽しんでいる。
「それにしても、弟さんは大丈夫なの?食当たりだなんて……」
「みみっちいヤツだからな。拾い食いでもしたんじゃないのか」
「総督ったら。本当は心配してるんでしょう?」
心配もなにも、仮病なんだがな。
アンヌと少しでも長く時間を過ごしたいと思っていたガーは、メモを握りつぶした件でタイバーを強請って仮病にさせたのだ。そんなことも知らず、総裁は嬉しそうに微笑んでいる。
「総督。こんなに楽しいお仕事は、生まれて初めてよ」
総督と呼ばれることに不満げなガーは、顔をしかめている。
「そうか?仕事なだけに、俺は楽しくないがな」
「嘘ばっかり。嬉しそうだよ」
「そんなバカな。さっそと玉座の間に行くぞ」
ぶっきらぼうにそう言い放つ姿が愛らしくて、アンヌは思わずクスリと吹き出した。
「何がおかしいんだ?俺は本気で機嫌が悪いんだぞ」
「ごめんごめん!怒らないで!ねっ?」
「お前なんてもう知らん。……後で総督室でゆっくり話をしてくれるなら別だが」
そう言うと、総督は右手を曲げてアンヌに差し出した。エスコートの申し出を快く受けた彼女は、穏やかな笑みを向けて玉座の間へと向かうのだった。
二人が総督室へ辿り着いたのは、夕方に差し掛かる頃だった。アンヌは差し出されたサンドイッチを頬張りながら、室内の状況を横目で確認し始めた。隙が出来次第、総督が持つデータを複製して抜き取ろうというわけだ。更に、ブレインは彼が席を外さない可能性も踏まえて先手を打っていた。
午後17時丁度、総督室へ一報が入った。ガーは穏やかな一時を邪魔されたことに苛立ちながら、渋々応答した。
「何だ!」
「登録口座の関係で、インターギャラクティック銀行から連絡が入っています。何やら不正アクセスの可能性だとか……」
「分かった、すぐ行く」
彼は立ち上がると、サンドイッチを口に放り込んでアンヌに告げた。
「出来るだけ、すぐ戻る。待っていてくれ」
「ええ、待ってる。サンドイッチ、ちゃんと残しておくからね」
そして、ガーが部屋を出た。今から5分間の間に彼女が遂行せねばならないのは2つのことだ。1つは予め警備システムをハッキングしてくれているフルクラムへ合図を送り、ぼーっと外を眺めている自分の姿を監視室へ繰り返し流すこと。2つ目はガーの電子端末にアクセスし、引き抜ける情報を全て引き抜くことだ。注意せねばならないのは、ファイル等を引き抜くと複製履歴が残る可能性があるため、コピーするデータは送受信に関わるログのみという点だ。つまり、誰とどこで通信を行ったのか、どんな受信コードを用いているのか、そしてどこにいくら送金したのかといった数値データを引き抜く計画である。
チャンスは一回。アンヌはイヤリングに見せかけた端末を、耳元を触る振りをして起動させた。小さな電子音が、骨伝導で脳内に響く。これで1つ目のタスクは完了だ。
続いてアンヌはコネクターを取り出すと、ガーの机にある電子端末へ差し込んだ。消音設計がされているコネクターが読み取り待ちをしている間に、彼女はイヤホンを装着した。流れてきたのは、ガーと仕込みのオペレーターの声だ。
『セキュリティ強化の手続きは、あとどれくらいかかるんだ?』
『ええと……そうですね……あと3分ほどで完了です』
『分かった。早くしてくれ、人を待たせているんだ』
残り3分未満、ってところだね。
アンヌはコネクターのダウンロード状況を確認した。しかし、想像以上にセキュリティーが厳重なのか、想定時間よりも若干の遅れが生じていた。
「急いで……帰ってきちゃうよ」
アンヌの不安は的中した。なんと、ガーが手続きを済ませてこちらへ向かい始めたのだ。しかし、データのダウンロードはまだ60%しか進んでいない。彼女の耳に、監視画像ハッキングの残り時間が1分を切ったことを示すアラームが届く。祈るような思いで、彼女はイヤホンを外してカメラに映っている体勢に戻った。
そして、監視画像がリアルタイムに切り替わる電子音の秒読みが始まった。5...4...3...着々とタイムリミットが近づいてくる。
ええい、フォースと共にあらんことをっっ!!
アンヌは咄嗟に手を伸ばすと、コネクターをフォースで取り外して脚に付けてあるベルトへと仕舞った。ジャストタイミングに、時間切れを示す電子音が響く。そしてその刹那に、ガーが部屋へと戻ってきた。何事も無かったように、アンヌは美味しそうにサンドイッチを堪能している。
「お帰りなさい、遅かったね。待ちくたびれちゃったよ」
「俺のサンドイッチ、ちゃんと残してくれてるだろうな」
「うん。さっきまで待ってたんだけど、諦めて一個食べちゃった」
これは万が一、監視カメラの録画映像が確認された際の帳尻合わせを狙った会話だ。そんなことにも気づかず、ガーはアンヌの頭を撫でて微笑んでいる。
「お前の食べ方はウサギみたいだな。可愛いなぁ……」
その言葉に、ブレインの胸中がチクリと痛んだ。彼の言葉の裏に、純真無垢で無害な愛らしい少女、という意味が覗いたからだ。アンヌは苦笑いを悟られないように表情を作りながら、ガーに笑いかけた。
「ウサギなら、悪いキツネさんに騙されないようにしないとね」
「そんな奴、俺が撃ち殺してやる」
「ありがとう、ガー」
アンヌは味のしないサンドイッチを咀嚼しながら、陰りのある瞳で床を見つめた。そして、こんなことを考えた。
もし、私の正体が悪いキツネだって分かっても、あなたは変わらず私を可愛いって言ってくれるのかな。それとも────
視線が、壁にかけてある対物ライフルへと向かう。そのスコープに自分が映し出されることに怯えながら、アンヌは歯をくいしばるのだった。
アンヌはセレノーの自室へと帰り着くと、抽出したデータを出力した。解析には数分かかると表示されたため、彼女は目を細めながらため息を漏らした。
この数ヶ月間で、様々なことがあった。17年前から想い続けてきたガー・サクソンと再会を果たし、いつの間にか恋人同士になった。とてもジェダイ・ブレインを務めていた頃では考えも及ばないことだ。
「ガー……」
細い指が、プレゼントのハーバリウムのガラスを撫でる。今では彼を想わない日は無く、些末な瞬間にも彼を想うことばかりだった。
執着にも近い恋情は、いつしかアンヌの身も心もジェダイオーダーから遠ざけていた。それが罪深いことだとしても、彼女の想いは留まることを知らない。
解析が終わったことを知らせる電子音が、部屋に響いた。データと照合結果を確認しながら、彼女は横目で画面を繰っていく。だが、その指先がとある表示を目にして停止した。
「そ、そんな……っ」
そこには確かに
≪高度暗号化通信コード:インペリアル・スーパーコマンドー、座標データ:コンコードドーン星系≫
≪高度暗号化通信コード:総督府、座標データ:マンダロア≫
≪高度暗号化通信コード:インペリアル・スーパーコマンドー、座標データ:ロザル≫
というデータが乱立していた。しかも丁度、それはコンコードドーン星系をロザルへの航行ルートとして使用し始めた頃から頻発している。アンヌはすぐさま通信があった日時を写すと、プロテクター本部へデータを送信してから通信を繋いだ。
「こちらブレイン。緊急の連絡だ」
『ブレイン?何用ですか。用件であればラウ隊長を通して────』
「時間がないのっ!!今データをそちらへ送信した。直ぐにその日付に、コンコードドーン星系で総督府やスーパーコマンドーと接触したかどうかを確認して」
沈黙のあと、困惑と共に返答があった。
『……一部の日付では、もちろん報酬の受け取りを行っていますが……他は侵入確認も何もしていません』
アンヌは軍師時代の直感が、警鐘を鳴らすのを感じていた。次の瞬間、彼女はセレノーの座標データを送信し、こう言った。
「────奴らが、あなたたちの動きに気づいた可能性が高い。今から直ぐに全隊はセレノーへ引き上げる準備をして。スターファイターはそのままで、船は輸送船を使いなさい」
『し、しかし……総督府との連絡は……』
「連絡係を一人だけ残すとか、何とかしなさいっ!!とにかく今は一人でも多く、セレノーへ待避させなさい」
アンヌの発言に当惑していると、別のプロテクターがホログラムに現れて報告を始めた。
『あの、お取り込み中失礼いたします。総督が突然、スーパーコマンドーと共にこちらへお見えになるようです。事前に一切連絡が無く、こちらからの無線へも応答しておられないのですが……』
「奴らはあなた方を粛清するつもりよ。今すぐ逃げて!!」
『わ、分かりました。隊長には……』
アンヌが首を横に振ってため息を漏らす。
「今連絡をすれば彼の身も反乱同盟軍も危険に晒される。ここは私が責任を持って何とかするから、言われた通りに行動して」
『……承知しました。今すぐ全てを放棄してセレノーへ向かいます』
通信は、そこで終了した。恐らく妨害電波をかけられたのだろう。アンヌは不安で一杯になる思いを抑え、プロテクターたちを匿うための場所を整えるべく部屋を後にするのだった。
アンヌの予想通り、ガー・サクソンはプロテクターを粛清するためにコンコードドーン星系へ赴いていた。だが、彼が着いた時には既に基地には誰も居なかった。
「総督、誰も居ません。逃げたようです」
「どういうことだ……俺の計画を知っているやつが居るということか?」
「裏切り者が、マンダロアに居るのでは?」
部下の問いに、ガーは首を横に振った。
「それはあり得ん。俺と偵察部隊が使っていたのは、クローン大戦期に開発された難攻不落の高度暗号化仕様通信だ。あれを解読できるシステムを持っているのは、皇帝陛下だけだ」
だとしたら、一体誰なのか。
もぬけの殻の基地を眺めながら、総督は独り疑心に駈られるのだった。
その頃、プロテクターたちは無事セレノーの極秘基地へと移動していた。分離主義政権時代に築かれた基地は共和国軍の目を欺くような造りをしており、現在はゴーストメンバーの停泊地としても使われている。また、危機を脱したプロテクターたちは、今回の件に全力で対応してくれたアンヌに深い敬意を抱いたのは言うまでもない。勿論、それが彼女のもうひとつの狙いだったのだが。
感極まった様子で、一人のプロテクターがブレインに深々と頭を下げた。
「心より感謝いたします、ブレイン」
「気にしないで。人財は最大の損失。あなた方こそ、マンダロア解放……いえ、帝国淘汰に必要な戦士です」
アンヌが労いの言葉をかけて回っていると、突然慌てた様子のアルマから連絡が入った。
≪アンヌ、大変よ!≫
「どうしましたか、お母様────」
≪急いでこちらへ戻って。総督がお見えよ。しかもかなりお怒りの様子なの≫
「え……」
アンヌの脳裏に、ガーが全てを悟ってしまったという最悪のシナリオが過る。
彼女は全力で駆け出した。それは取り繕うためではなかった。失うのが、ただ怖かったのだ。
自室へ駆け込んだアンヌを待っていたのは、苛立ちを醸し出すガーの背中だった。震える声を隠しながら、彼女は恐る恐る声をかけた。
「あの……ガー……」
「遅かったな。何をしていた」
「それは……」
何か言い訳をしなければ。アンヌは唇を震わせながら返事をしようと試みた。だが、その前に唇が塞がれる。情熱的な口づけに、初な元ジェダイの目の前が眩んだ。
「俺は今、大層機嫌が悪い」
そう言いながら、総督は彼女をソファへと引き倒した。ダークブロンドから白銀に変わってしまった髪が、月明かりに照らされている。
「……アンヌ、俺を癒してくれ」
手袋を外して、ガーはアンヌの頬と髪を撫で始めた。彼女は不機嫌の真相を察して、罪悪感で胸が押し潰されそうな思いにかられている。
「……いいよ」
アンヌは驚くべき身のこなし方で上体を瞬時に起こすと、自分の肩にガーの顔を引き寄せた。
「おっ、おい……俺が言いたいのは────」
「……落ち着かない?」
そういうことじゃないと言いたげな彼を置いて、アンヌは何倍も大きな身体を抱き締めた。真実を知られて全てが終わると思っていた彼女にとって、この時感じた温もりは今まで以上の価値を持っていた。
そして愛する人の体温を感じながら、アンヌは目を閉じて静かに決意した。
二度と、彼を欺かないということを。
「それにしても、弟さんは大丈夫なの?食当たりだなんて……」
「みみっちいヤツだからな。拾い食いでもしたんじゃないのか」
「総督ったら。本当は心配してるんでしょう?」
心配もなにも、仮病なんだがな。
アンヌと少しでも長く時間を過ごしたいと思っていたガーは、メモを握りつぶした件でタイバーを強請って仮病にさせたのだ。そんなことも知らず、総裁は嬉しそうに微笑んでいる。
「総督。こんなに楽しいお仕事は、生まれて初めてよ」
総督と呼ばれることに不満げなガーは、顔をしかめている。
「そうか?仕事なだけに、俺は楽しくないがな」
「嘘ばっかり。嬉しそうだよ」
「そんなバカな。さっそと玉座の間に行くぞ」
ぶっきらぼうにそう言い放つ姿が愛らしくて、アンヌは思わずクスリと吹き出した。
「何がおかしいんだ?俺は本気で機嫌が悪いんだぞ」
「ごめんごめん!怒らないで!ねっ?」
「お前なんてもう知らん。……後で総督室でゆっくり話をしてくれるなら別だが」
そう言うと、総督は右手を曲げてアンヌに差し出した。エスコートの申し出を快く受けた彼女は、穏やかな笑みを向けて玉座の間へと向かうのだった。
二人が総督室へ辿り着いたのは、夕方に差し掛かる頃だった。アンヌは差し出されたサンドイッチを頬張りながら、室内の状況を横目で確認し始めた。隙が出来次第、総督が持つデータを複製して抜き取ろうというわけだ。更に、ブレインは彼が席を外さない可能性も踏まえて先手を打っていた。
午後17時丁度、総督室へ一報が入った。ガーは穏やかな一時を邪魔されたことに苛立ちながら、渋々応答した。
「何だ!」
「登録口座の関係で、インターギャラクティック銀行から連絡が入っています。何やら不正アクセスの可能性だとか……」
「分かった、すぐ行く」
彼は立ち上がると、サンドイッチを口に放り込んでアンヌに告げた。
「出来るだけ、すぐ戻る。待っていてくれ」
「ええ、待ってる。サンドイッチ、ちゃんと残しておくからね」
そして、ガーが部屋を出た。今から5分間の間に彼女が遂行せねばならないのは2つのことだ。1つは予め警備システムをハッキングしてくれているフルクラムへ合図を送り、ぼーっと外を眺めている自分の姿を監視室へ繰り返し流すこと。2つ目はガーの電子端末にアクセスし、引き抜ける情報を全て引き抜くことだ。注意せねばならないのは、ファイル等を引き抜くと複製履歴が残る可能性があるため、コピーするデータは送受信に関わるログのみという点だ。つまり、誰とどこで通信を行ったのか、どんな受信コードを用いているのか、そしてどこにいくら送金したのかといった数値データを引き抜く計画である。
チャンスは一回。アンヌはイヤリングに見せかけた端末を、耳元を触る振りをして起動させた。小さな電子音が、骨伝導で脳内に響く。これで1つ目のタスクは完了だ。
続いてアンヌはコネクターを取り出すと、ガーの机にある電子端末へ差し込んだ。消音設計がされているコネクターが読み取り待ちをしている間に、彼女はイヤホンを装着した。流れてきたのは、ガーと仕込みのオペレーターの声だ。
『セキュリティ強化の手続きは、あとどれくらいかかるんだ?』
『ええと……そうですね……あと3分ほどで完了です』
『分かった。早くしてくれ、人を待たせているんだ』
残り3分未満、ってところだね。
アンヌはコネクターのダウンロード状況を確認した。しかし、想像以上にセキュリティーが厳重なのか、想定時間よりも若干の遅れが生じていた。
「急いで……帰ってきちゃうよ」
アンヌの不安は的中した。なんと、ガーが手続きを済ませてこちらへ向かい始めたのだ。しかし、データのダウンロードはまだ60%しか進んでいない。彼女の耳に、監視画像ハッキングの残り時間が1分を切ったことを示すアラームが届く。祈るような思いで、彼女はイヤホンを外してカメラに映っている体勢に戻った。
そして、監視画像がリアルタイムに切り替わる電子音の秒読みが始まった。5...4...3...着々とタイムリミットが近づいてくる。
ええい、フォースと共にあらんことをっっ!!
アンヌは咄嗟に手を伸ばすと、コネクターをフォースで取り外して脚に付けてあるベルトへと仕舞った。ジャストタイミングに、時間切れを示す電子音が響く。そしてその刹那に、ガーが部屋へと戻ってきた。何事も無かったように、アンヌは美味しそうにサンドイッチを堪能している。
「お帰りなさい、遅かったね。待ちくたびれちゃったよ」
「俺のサンドイッチ、ちゃんと残してくれてるだろうな」
「うん。さっきまで待ってたんだけど、諦めて一個食べちゃった」
これは万が一、監視カメラの録画映像が確認された際の帳尻合わせを狙った会話だ。そんなことにも気づかず、ガーはアンヌの頭を撫でて微笑んでいる。
「お前の食べ方はウサギみたいだな。可愛いなぁ……」
その言葉に、ブレインの胸中がチクリと痛んだ。彼の言葉の裏に、純真無垢で無害な愛らしい少女、という意味が覗いたからだ。アンヌは苦笑いを悟られないように表情を作りながら、ガーに笑いかけた。
「ウサギなら、悪いキツネさんに騙されないようにしないとね」
「そんな奴、俺が撃ち殺してやる」
「ありがとう、ガー」
アンヌは味のしないサンドイッチを咀嚼しながら、陰りのある瞳で床を見つめた。そして、こんなことを考えた。
もし、私の正体が悪いキツネだって分かっても、あなたは変わらず私を可愛いって言ってくれるのかな。それとも────
視線が、壁にかけてある対物ライフルへと向かう。そのスコープに自分が映し出されることに怯えながら、アンヌは歯をくいしばるのだった。
アンヌはセレノーの自室へと帰り着くと、抽出したデータを出力した。解析には数分かかると表示されたため、彼女は目を細めながらため息を漏らした。
この数ヶ月間で、様々なことがあった。17年前から想い続けてきたガー・サクソンと再会を果たし、いつの間にか恋人同士になった。とてもジェダイ・ブレインを務めていた頃では考えも及ばないことだ。
「ガー……」
細い指が、プレゼントのハーバリウムのガラスを撫でる。今では彼を想わない日は無く、些末な瞬間にも彼を想うことばかりだった。
執着にも近い恋情は、いつしかアンヌの身も心もジェダイオーダーから遠ざけていた。それが罪深いことだとしても、彼女の想いは留まることを知らない。
解析が終わったことを知らせる電子音が、部屋に響いた。データと照合結果を確認しながら、彼女は横目で画面を繰っていく。だが、その指先がとある表示を目にして停止した。
「そ、そんな……っ」
そこには確かに
≪高度暗号化通信コード:インペリアル・スーパーコマンドー、座標データ:コンコードドーン星系≫
≪高度暗号化通信コード:総督府、座標データ:マンダロア≫
≪高度暗号化通信コード:インペリアル・スーパーコマンドー、座標データ:ロザル≫
というデータが乱立していた。しかも丁度、それはコンコードドーン星系をロザルへの航行ルートとして使用し始めた頃から頻発している。アンヌはすぐさま通信があった日時を写すと、プロテクター本部へデータを送信してから通信を繋いだ。
「こちらブレイン。緊急の連絡だ」
『ブレイン?何用ですか。用件であればラウ隊長を通して────』
「時間がないのっ!!今データをそちらへ送信した。直ぐにその日付に、コンコードドーン星系で総督府やスーパーコマンドーと接触したかどうかを確認して」
沈黙のあと、困惑と共に返答があった。
『……一部の日付では、もちろん報酬の受け取りを行っていますが……他は侵入確認も何もしていません』
アンヌは軍師時代の直感が、警鐘を鳴らすのを感じていた。次の瞬間、彼女はセレノーの座標データを送信し、こう言った。
「────奴らが、あなたたちの動きに気づいた可能性が高い。今から直ぐに全隊はセレノーへ引き上げる準備をして。スターファイターはそのままで、船は輸送船を使いなさい」
『し、しかし……総督府との連絡は……』
「連絡係を一人だけ残すとか、何とかしなさいっ!!とにかく今は一人でも多く、セレノーへ待避させなさい」
アンヌの発言に当惑していると、別のプロテクターがホログラムに現れて報告を始めた。
『あの、お取り込み中失礼いたします。総督が突然、スーパーコマンドーと共にこちらへお見えになるようです。事前に一切連絡が無く、こちらからの無線へも応答しておられないのですが……』
「奴らはあなた方を粛清するつもりよ。今すぐ逃げて!!」
『わ、分かりました。隊長には……』
アンヌが首を横に振ってため息を漏らす。
「今連絡をすれば彼の身も反乱同盟軍も危険に晒される。ここは私が責任を持って何とかするから、言われた通りに行動して」
『……承知しました。今すぐ全てを放棄してセレノーへ向かいます』
通信は、そこで終了した。恐らく妨害電波をかけられたのだろう。アンヌは不安で一杯になる思いを抑え、プロテクターたちを匿うための場所を整えるべく部屋を後にするのだった。
アンヌの予想通り、ガー・サクソンはプロテクターを粛清するためにコンコードドーン星系へ赴いていた。だが、彼が着いた時には既に基地には誰も居なかった。
「総督、誰も居ません。逃げたようです」
「どういうことだ……俺の計画を知っているやつが居るということか?」
「裏切り者が、マンダロアに居るのでは?」
部下の問いに、ガーは首を横に振った。
「それはあり得ん。俺と偵察部隊が使っていたのは、クローン大戦期に開発された難攻不落の高度暗号化仕様通信だ。あれを解読できるシステムを持っているのは、皇帝陛下だけだ」
だとしたら、一体誰なのか。
もぬけの殻の基地を眺めながら、総督は独り疑心に駈られるのだった。
その頃、プロテクターたちは無事セレノーの極秘基地へと移動していた。分離主義政権時代に築かれた基地は共和国軍の目を欺くような造りをしており、現在はゴーストメンバーの停泊地としても使われている。また、危機を脱したプロテクターたちは、今回の件に全力で対応してくれたアンヌに深い敬意を抱いたのは言うまでもない。勿論、それが彼女のもうひとつの狙いだったのだが。
感極まった様子で、一人のプロテクターがブレインに深々と頭を下げた。
「心より感謝いたします、ブレイン」
「気にしないで。人財は最大の損失。あなた方こそ、マンダロア解放……いえ、帝国淘汰に必要な戦士です」
アンヌが労いの言葉をかけて回っていると、突然慌てた様子のアルマから連絡が入った。
≪アンヌ、大変よ!≫
「どうしましたか、お母様────」
≪急いでこちらへ戻って。総督がお見えよ。しかもかなりお怒りの様子なの≫
「え……」
アンヌの脳裏に、ガーが全てを悟ってしまったという最悪のシナリオが過る。
彼女は全力で駆け出した。それは取り繕うためではなかった。失うのが、ただ怖かったのだ。
自室へ駆け込んだアンヌを待っていたのは、苛立ちを醸し出すガーの背中だった。震える声を隠しながら、彼女は恐る恐る声をかけた。
「あの……ガー……」
「遅かったな。何をしていた」
「それは……」
何か言い訳をしなければ。アンヌは唇を震わせながら返事をしようと試みた。だが、その前に唇が塞がれる。情熱的な口づけに、初な元ジェダイの目の前が眩んだ。
「俺は今、大層機嫌が悪い」
そう言いながら、総督は彼女をソファへと引き倒した。ダークブロンドから白銀に変わってしまった髪が、月明かりに照らされている。
「……アンヌ、俺を癒してくれ」
手袋を外して、ガーはアンヌの頬と髪を撫で始めた。彼女は不機嫌の真相を察して、罪悪感で胸が押し潰されそうな思いにかられている。
「……いいよ」
アンヌは驚くべき身のこなし方で上体を瞬時に起こすと、自分の肩にガーの顔を引き寄せた。
「おっ、おい……俺が言いたいのは────」
「……落ち着かない?」
そういうことじゃないと言いたげな彼を置いて、アンヌは何倍も大きな身体を抱き締めた。真実を知られて全てが終わると思っていた彼女にとって、この時感じた温もりは今まで以上の価値を持っていた。
そして愛する人の体温を感じながら、アンヌは目を閉じて静かに決意した。
二度と、彼を欺かないということを。