この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
1、過去の傷
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
コンコード・ドーン星系は、幾つもの激しい戦争の傷跡を残していた。アンヌはマンダロリアンらしい戦いっぷりだと感心しながら、注意深く航行ルートを取っている。
不意にケイナンから、驚きの通信が入った。
「アンヌ!サビーヌまで付いてきたぞ」
「あら、良いんじゃないかしら?面白いじゃない」
「面白いって……こいつはプロテクターたちに復讐する気だぞ!?平和的交渉どころじゃ無くなる!だいたい……」
ケイナンの小言が始まったので、アンヌは方を竦めながら通信を切った。作戦は、ケイナンたちが着陸できるように、彼女は敢えて"大変目立つスターファイター"で領域に侵入する。ゴタゴタしている間に彼が交渉へ向かう────といった流れだ。プロテクターの迎撃を振り切れるのか、という点が唯一の懸念事項だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
アンヌはケイナンから着陸ポイント発見の信号を受信すると、スターファイターの操縦桿を一気に領域へと傾けた。
「……操縦技術が、まだ錆び付いてないことを祈るわ」
かつて銀河共和国の軍師として仕えていた彼女は、戦術だけでなく剣術、体術、飛行技術などの様々な点においても能力を磨いていた。しかし、戦闘機操縦については控えていた側面も否めない。その死が大きな損失を招くと言われていたため、普段は厳重に守られている母艦に乗っていることが多かったからだ。実際、ブレインの母艦は優れた指示のおかげで殆ど撃沈させられたことは無かった。
彼女が領域侵入を行って暫くすると、ようやくプロテクターからの連絡が入った。読み通り、基地に待機中のラウではなくその部下たちが出迎えてくれるようだ。
『こちらコンコード・ドーンのプロテクター。領域侵入を行っているジェダイ・スターファイターに告ぐ……おい、ジェダイ・スターファイターだと!!?どこからそんな悪趣味な機体を持ってきた!?』
プロテクターが驚くのも無理はない。今日アンヌが乗っているのは、自身の愛機≪ジェダイ・ハイパー・スターファイター≫だからだ。この機体は彼女の身を守るために特注されたもので、高価だったため既存の機体には付けられなかったハイパースペースジャンプ機能が付いている。良くも悪くもこの機体は銀河にひとつしか無いため、ブレインの存在をその場に知らせてしまうこともあった。
アンヌは首をかしげながら回避行動を取った。次は攻撃が降り注ぐことを予知しているからだ。
「随分驚いてくれるのね。でも、ただのジェダイ・スターファイターじゃないんだけど……おかしいわね、大戦中はみんなこれで怯えてくれたのよ?」
『し、知るか!迎撃する!覚悟しろ!』
「……はいはい」
プロテクターの迎撃をかわしながら、アンヌは次の行動に移った。着陸ポイントの精査だ。ラウへの交渉が始めから上手く行くなどとは微塵も思っていなかった元軍師は、しっかりと交渉の段取りを考えていた。
「当たってないけど大丈夫?調子悪いなら休む?」
銀河最高のパイロットが集うプロテクターの銃撃をあっさりとかわしていくアンヌは、すっかり大戦期の気性に逆戻りしている。彼女は粉々になった星系の中へと突入すると、そのまま複雑な航行ルートを取って追手を巻いた。それから優雅に着陸すると、計画の仕上げに移るために通信をオンにした。
「フェン・ラウに伝えて、私が会いに行くと」
アンヌは通信を終了すると、顔を上げて不敵な笑みを浮かべた。
その表情は、大戦期にお馴染みのブレインのものだった。
その頃、報告を受けたフェン・ラウは困惑していた。部下から送られてきた映像には、はっきりと見慣れたジェダイ・ハイパー・スターファイターが映っているからだ。彼は鉢に入った酒を飲み干すと、あり得ないと言いたげに首を何度も横に振った。
「そんな馬鹿な。どこの悪趣味なヤツなんだ。俺の気持ちも知らずに……!」
酒を注ぎ直した長は、顔をしかめながら映像に映るスターファイターを指でなぞった。
「そんなはずは……あいつは……死んだはずだ……」
ラウが悲しげに呟いたその時だった。突然背後に気配を感じた彼は、慌てて振り向いた。その人が望んでいる人であることを願いながら────
アンヌは、着陸ポイントから僅かに離れている基地へと急いでいた。
「遠い……しんどい……昔は携帯していたフレキシブル・スケートボードで走れたのに……」
冷凍のせいと言いつつ体力の衰えを実感しながら、ブレインは崖を駆け上がった。ようやく、眼下にラウが居るはずの基地が飛び込んでくる。だが、別のものも見えてしまった。
「えっ……サビーヌ?こんなところで何やってるの?」
そう、彼女が見たものは紛れもなくサビーヌ・レンだった。しかも何故かフェン・ラウと一対一で向き合っている。飛び立つ前に、ヘラ・シンドゥーラに深い傷を負わせたラウへ報復すると意気込んでいたことを思い出し、アンヌはため息を漏らした。
「ああ……もう……!急がなきゃ……!」
彼女は崖から飛び降りると、基地の屋根伝いに駆け出した。何とか決闘の場へと辿り着いたときには、既に勝敗がついていた。アンヌはラウのブラスターがサビーヌによって吹き飛ばされたことを悟り、思わずその腕前に感心した。だが、事態は更に不穏な方向へと向かおうとしている。部下たちが戦闘機に乗り込もうと行動を始めたのだ。もはや一刻の猶予もない状況に追い込まれたことを確認すると、ようやくアンヌは地面へ華麗に降り立った。その仕草は誰が見てもエレガントという言葉がぴったりなもので、ラウたちの気を惹くには充分だった。
ラウは月夜に照らされている銀髪の女性を見て、息を呑んだ。その面影が、彼の視界を歪める。
「お……お前は……」
アンヌは穏やかな微笑みを浮かべながら、小首を傾げた。そしてラウはこう言った。
「子供が居たのか……随分母親そっくりなんだな。あいつは元気にしてたか?」
その言葉に、アンヌが眉を潜める。ケイナンはラウの勘違いを既に見抜いているらしく、失笑を禁じ得ない状態になっている。
「あのね……」
「誰と結婚したかは知らんが、母親そっくりだな」
肩を震わせながら、ついにアンヌが察しの悪いラウに怒鳴った。
「当たり前でしょ!わ・た・し・が、アンヌ・トワイラスだからよ!」
今度はラウが驚く番だ。そして彼は暫く考え込むと、ゆっくりと顔を上げてこう言った。
「……話は中でゆっくり聞かせてもらおう」
「ええ、そうした方が良さそうね」
二人がそのまま基地へと入っていく。ラウの豹変ぶりにサビーヌとケイナンは目を白黒させながら、肩をすくめることしか出来なかった。
基地では、アンヌがラウの質問責めを受けていた。一通り話し終わったところで、プロテクターの長はため息をついた。
「まさか、オーガナ議員の手引きで冷凍保存されていたとはな」
「そう、お陰で助かったわ。まぁ……帝国が滅びているっていう算段は外れたけどね」
「……髪は、染めたのか?」
そう言いながら、ラウがアンヌの白髪に手を伸ばしてきた。彼女はその手を自然な素振りで避けながら、首を横に振った。
「……オーダー66の中でも、ジェダイ聖堂への襲撃は段違いに激しかった。……みんな死んだ。私だけが生き残ったの。私だけが……」
苦悶の表情を見ただけで、ラウは心労が髪色を変えてしまったことを悟った。彼は優しくアンヌの肩に手を当てると、物憂げな瞳を見つめた。
「……ジェダイは、辞めたのか?」
その質問の裏に僅かな期待の色が滲んでいることを、ブレインは見逃さなかった。彼女はラウから離れると、ライトセイバーの柄を握りながら答えた。
「生きるために休業中、って言った方が正解かしら」
相変わらずの隙の無さに、ラウはため息を漏らした。望んだ答えが得られなかったからなのか、彼は怒りを滲ませなから酒を注ぎ直した。
「どうして生きてるって教えてくれなかったんだ。折角帝国軍に近づいてあんたの情報を得ようとしたのに!!」
なるほど、帝国の下で働くようになったのはそういうことなのね。
ラウがまだ正式にどちらの側についたわけでもないことを悟り、アンヌは交渉の余地ありと判断した。そして然り気無く、帝国に憤然していることを漏らした。
「私が死んだと思ったの?甘いわね。私は借りを残したまま死なない。帝国……シスには私が鉄槌を下してやる」
再びその場に沈黙が流れる。普段は無口なラウが、静けさに耐えきれず話題を変えた。
「もういい、それよりあんたが生きてて良かった。今はどうしてるんだ?」
その質問に、アンヌはホワイトヘアーをかきあげながら答えた。
「インターギャラクテイック銀行グループ総裁として、反乱同盟軍の後方支援をしてるの。もちろん軍師としてもね」
予想外の返事に、ラウは戸惑った。飲んでいた酒を吹き出しそうになるのをこらえて、彼は身を乗り出している。
「お、おい、ちょっと待て!インターギャラクテイック銀行グループ総裁ってどういう意味だ!?」
「私、セレノーの爵位を継いだの。今は伯爵よ」
「セレノーって……また縁も所縁もないところに落ち着いたんだな」
アンヌはため息をつくと、首を静かに横へ振った。そして、今日一番の衝撃的な事実を口にした。
「いいえ、故郷なの。私……ドゥークー伯爵の娘だから」
時間が止まる。外で話を聞いていたケイナンとサビーヌにとっては二度目の告白ではあったが、やはりいつ聞いてもにわかに信じがたい話だ。それはラウにとっても同じだった。彼はどのように返答して良いかが分からず、敢えて話の流れを変えることにした。
「……なるほどな。セレノーでの暮らしは、幸せか?」
「ええ、まあね。時折退屈すぎて困ることはあるけど、他は大丈夫」
「そんなに退屈なら、俺がたまに顔を出してやろうか?」
「それは楽しそうね、ラウ」
アンヌが哀しげに笑った。その表情が15年前と変わらずどころか益々美しかったので、ラウの心をきつく締め付けた。ブレインも戦友と語り合いながら戦った日々を懐かしく思い、戻らない時間にほんの少しだけ記憶を巡らせた。
だが、彼女には反乱同盟軍を守るために達成しなければならない任務があった。それが例え、この楽しい一時を打ち破るものであったとしても。
アンヌはラウに背を向けて、要件を端的に述べ始めた。深淵のように暗く落ち着いた口調は、15年前と同じ色を湛えている。
「我々はロザルを拠点として、根強い支持を受けながら反乱活動を行っています。ですが、帝国もそこまでバカではありません。今の我々には早急に、ロザルへの新規航行ルートが必要です。そこで、プロテクターがコンコード・ドーンの領域侵入を許可してくれるのであれば、この問題は解決します。無論、セレノーはこのルート開通を全面支援しています。資金面と共に反乱同盟軍のためにかつての分離主義専用ルートを解放していますから」
相変わらずの饒舌具合に舌を巻きながら、ラウは苦笑を漏らした。そして、先程とはうって変わった厳しい口調でアンヌを弾劾した。
「セレノーのルートで充分だろう。何故俺たちを巻き込むんだ?他に狙いがあるに決まってる」
「ええ、あるわ。いずれあなた方は、帝国の無慈悲さが己に牙を向く時を迎える。その時こそ、あなたは帝国への忠誠を捨てるはず」
アンヌの返答を、プロテクターの長は鼻で笑った。
「冷凍保存で頭が鈍ったか?もう少しマシな誘い方をしてくると思ったぞ。俺は今、お前に失望した」
「そうかしら?私は誰よりも知っているわ。あなたが忠誠を誓うのはただ一人、命の恩人である私にだけだと」
ラウの脳裏に、アンヌがデス・ウォッチたちと戦ってプロテクターを守り通したことが思い返される。ブレインとは言え多勢に無勢だった彼女は、共和国の援軍が到着するまで深傷を負いながら戦い続けてくれたのだ。
「恩人……ああ、そうだった。俺は共和国に忠誠を誓った覚えはない。ヴィズラ家と対立するプロテクターを、お前は命懸けの任務を通して支援してくれた。だから俺は負け戦でも文句を言わなかった」
「……ありがとう」
「だが!今回は違う。あの時とは状況が全く別だ。お前は俺よりも格下になったんだ」
ラウが食い下がる様子を見て、アンヌはついに降参した。彼女はライトセイバーの柄を手に持って眺めながら、冷淡な声で尋ねた。
「何だったら考え直してくれるの?」
その言葉に、ラウは不敵な笑みで返した。
「もちろん、マンダロリアン流に決まってる」
二人の視線が重なる。その瞳は、互いに決闘の申し込みを了承しているかのようにも見えるのだった。
不意にケイナンから、驚きの通信が入った。
「アンヌ!サビーヌまで付いてきたぞ」
「あら、良いんじゃないかしら?面白いじゃない」
「面白いって……こいつはプロテクターたちに復讐する気だぞ!?平和的交渉どころじゃ無くなる!だいたい……」
ケイナンの小言が始まったので、アンヌは方を竦めながら通信を切った。作戦は、ケイナンたちが着陸できるように、彼女は敢えて"大変目立つスターファイター"で領域に侵入する。ゴタゴタしている間に彼が交渉へ向かう────といった流れだ。プロテクターの迎撃を振り切れるのか、という点が唯一の懸念事項だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
アンヌはケイナンから着陸ポイント発見の信号を受信すると、スターファイターの操縦桿を一気に領域へと傾けた。
「……操縦技術が、まだ錆び付いてないことを祈るわ」
かつて銀河共和国の軍師として仕えていた彼女は、戦術だけでなく剣術、体術、飛行技術などの様々な点においても能力を磨いていた。しかし、戦闘機操縦については控えていた側面も否めない。その死が大きな損失を招くと言われていたため、普段は厳重に守られている母艦に乗っていることが多かったからだ。実際、ブレインの母艦は優れた指示のおかげで殆ど撃沈させられたことは無かった。
彼女が領域侵入を行って暫くすると、ようやくプロテクターからの連絡が入った。読み通り、基地に待機中のラウではなくその部下たちが出迎えてくれるようだ。
『こちらコンコード・ドーンのプロテクター。領域侵入を行っているジェダイ・スターファイターに告ぐ……おい、ジェダイ・スターファイターだと!!?どこからそんな悪趣味な機体を持ってきた!?』
プロテクターが驚くのも無理はない。今日アンヌが乗っているのは、自身の愛機≪ジェダイ・ハイパー・スターファイター≫だからだ。この機体は彼女の身を守るために特注されたもので、高価だったため既存の機体には付けられなかったハイパースペースジャンプ機能が付いている。良くも悪くもこの機体は銀河にひとつしか無いため、ブレインの存在をその場に知らせてしまうこともあった。
アンヌは首をかしげながら回避行動を取った。次は攻撃が降り注ぐことを予知しているからだ。
「随分驚いてくれるのね。でも、ただのジェダイ・スターファイターじゃないんだけど……おかしいわね、大戦中はみんなこれで怯えてくれたのよ?」
『し、知るか!迎撃する!覚悟しろ!』
「……はいはい」
プロテクターの迎撃をかわしながら、アンヌは次の行動に移った。着陸ポイントの精査だ。ラウへの交渉が始めから上手く行くなどとは微塵も思っていなかった元軍師は、しっかりと交渉の段取りを考えていた。
「当たってないけど大丈夫?調子悪いなら休む?」
銀河最高のパイロットが集うプロテクターの銃撃をあっさりとかわしていくアンヌは、すっかり大戦期の気性に逆戻りしている。彼女は粉々になった星系の中へと突入すると、そのまま複雑な航行ルートを取って追手を巻いた。それから優雅に着陸すると、計画の仕上げに移るために通信をオンにした。
「フェン・ラウに伝えて、私が会いに行くと」
アンヌは通信を終了すると、顔を上げて不敵な笑みを浮かべた。
その表情は、大戦期にお馴染みのブレインのものだった。
その頃、報告を受けたフェン・ラウは困惑していた。部下から送られてきた映像には、はっきりと見慣れたジェダイ・ハイパー・スターファイターが映っているからだ。彼は鉢に入った酒を飲み干すと、あり得ないと言いたげに首を何度も横に振った。
「そんな馬鹿な。どこの悪趣味なヤツなんだ。俺の気持ちも知らずに……!」
酒を注ぎ直した長は、顔をしかめながら映像に映るスターファイターを指でなぞった。
「そんなはずは……あいつは……死んだはずだ……」
ラウが悲しげに呟いたその時だった。突然背後に気配を感じた彼は、慌てて振り向いた。その人が望んでいる人であることを願いながら────
アンヌは、着陸ポイントから僅かに離れている基地へと急いでいた。
「遠い……しんどい……昔は携帯していたフレキシブル・スケートボードで走れたのに……」
冷凍のせいと言いつつ体力の衰えを実感しながら、ブレインは崖を駆け上がった。ようやく、眼下にラウが居るはずの基地が飛び込んでくる。だが、別のものも見えてしまった。
「えっ……サビーヌ?こんなところで何やってるの?」
そう、彼女が見たものは紛れもなくサビーヌ・レンだった。しかも何故かフェン・ラウと一対一で向き合っている。飛び立つ前に、ヘラ・シンドゥーラに深い傷を負わせたラウへ報復すると意気込んでいたことを思い出し、アンヌはため息を漏らした。
「ああ……もう……!急がなきゃ……!」
彼女は崖から飛び降りると、基地の屋根伝いに駆け出した。何とか決闘の場へと辿り着いたときには、既に勝敗がついていた。アンヌはラウのブラスターがサビーヌによって吹き飛ばされたことを悟り、思わずその腕前に感心した。だが、事態は更に不穏な方向へと向かおうとしている。部下たちが戦闘機に乗り込もうと行動を始めたのだ。もはや一刻の猶予もない状況に追い込まれたことを確認すると、ようやくアンヌは地面へ華麗に降り立った。その仕草は誰が見てもエレガントという言葉がぴったりなもので、ラウたちの気を惹くには充分だった。
ラウは月夜に照らされている銀髪の女性を見て、息を呑んだ。その面影が、彼の視界を歪める。
「お……お前は……」
アンヌは穏やかな微笑みを浮かべながら、小首を傾げた。そしてラウはこう言った。
「子供が居たのか……随分母親そっくりなんだな。あいつは元気にしてたか?」
その言葉に、アンヌが眉を潜める。ケイナンはラウの勘違いを既に見抜いているらしく、失笑を禁じ得ない状態になっている。
「あのね……」
「誰と結婚したかは知らんが、母親そっくりだな」
肩を震わせながら、ついにアンヌが察しの悪いラウに怒鳴った。
「当たり前でしょ!わ・た・し・が、アンヌ・トワイラスだからよ!」
今度はラウが驚く番だ。そして彼は暫く考え込むと、ゆっくりと顔を上げてこう言った。
「……話は中でゆっくり聞かせてもらおう」
「ええ、そうした方が良さそうね」
二人がそのまま基地へと入っていく。ラウの豹変ぶりにサビーヌとケイナンは目を白黒させながら、肩をすくめることしか出来なかった。
基地では、アンヌがラウの質問責めを受けていた。一通り話し終わったところで、プロテクターの長はため息をついた。
「まさか、オーガナ議員の手引きで冷凍保存されていたとはな」
「そう、お陰で助かったわ。まぁ……帝国が滅びているっていう算段は外れたけどね」
「……髪は、染めたのか?」
そう言いながら、ラウがアンヌの白髪に手を伸ばしてきた。彼女はその手を自然な素振りで避けながら、首を横に振った。
「……オーダー66の中でも、ジェダイ聖堂への襲撃は段違いに激しかった。……みんな死んだ。私だけが生き残ったの。私だけが……」
苦悶の表情を見ただけで、ラウは心労が髪色を変えてしまったことを悟った。彼は優しくアンヌの肩に手を当てると、物憂げな瞳を見つめた。
「……ジェダイは、辞めたのか?」
その質問の裏に僅かな期待の色が滲んでいることを、ブレインは見逃さなかった。彼女はラウから離れると、ライトセイバーの柄を握りながら答えた。
「生きるために休業中、って言った方が正解かしら」
相変わらずの隙の無さに、ラウはため息を漏らした。望んだ答えが得られなかったからなのか、彼は怒りを滲ませなから酒を注ぎ直した。
「どうして生きてるって教えてくれなかったんだ。折角帝国軍に近づいてあんたの情報を得ようとしたのに!!」
なるほど、帝国の下で働くようになったのはそういうことなのね。
ラウがまだ正式にどちらの側についたわけでもないことを悟り、アンヌは交渉の余地ありと判断した。そして然り気無く、帝国に憤然していることを漏らした。
「私が死んだと思ったの?甘いわね。私は借りを残したまま死なない。帝国……シスには私が鉄槌を下してやる」
再びその場に沈黙が流れる。普段は無口なラウが、静けさに耐えきれず話題を変えた。
「もういい、それよりあんたが生きてて良かった。今はどうしてるんだ?」
その質問に、アンヌはホワイトヘアーをかきあげながら答えた。
「インターギャラクテイック銀行グループ総裁として、反乱同盟軍の後方支援をしてるの。もちろん軍師としてもね」
予想外の返事に、ラウは戸惑った。飲んでいた酒を吹き出しそうになるのをこらえて、彼は身を乗り出している。
「お、おい、ちょっと待て!インターギャラクテイック銀行グループ総裁ってどういう意味だ!?」
「私、セレノーの爵位を継いだの。今は伯爵よ」
「セレノーって……また縁も所縁もないところに落ち着いたんだな」
アンヌはため息をつくと、首を静かに横へ振った。そして、今日一番の衝撃的な事実を口にした。
「いいえ、故郷なの。私……ドゥークー伯爵の娘だから」
時間が止まる。外で話を聞いていたケイナンとサビーヌにとっては二度目の告白ではあったが、やはりいつ聞いてもにわかに信じがたい話だ。それはラウにとっても同じだった。彼はどのように返答して良いかが分からず、敢えて話の流れを変えることにした。
「……なるほどな。セレノーでの暮らしは、幸せか?」
「ええ、まあね。時折退屈すぎて困ることはあるけど、他は大丈夫」
「そんなに退屈なら、俺がたまに顔を出してやろうか?」
「それは楽しそうね、ラウ」
アンヌが哀しげに笑った。その表情が15年前と変わらずどころか益々美しかったので、ラウの心をきつく締め付けた。ブレインも戦友と語り合いながら戦った日々を懐かしく思い、戻らない時間にほんの少しだけ記憶を巡らせた。
だが、彼女には反乱同盟軍を守るために達成しなければならない任務があった。それが例え、この楽しい一時を打ち破るものであったとしても。
アンヌはラウに背を向けて、要件を端的に述べ始めた。深淵のように暗く落ち着いた口調は、15年前と同じ色を湛えている。
「我々はロザルを拠点として、根強い支持を受けながら反乱活動を行っています。ですが、帝国もそこまでバカではありません。今の我々には早急に、ロザルへの新規航行ルートが必要です。そこで、プロテクターがコンコード・ドーンの領域侵入を許可してくれるのであれば、この問題は解決します。無論、セレノーはこのルート開通を全面支援しています。資金面と共に反乱同盟軍のためにかつての分離主義専用ルートを解放していますから」
相変わらずの饒舌具合に舌を巻きながら、ラウは苦笑を漏らした。そして、先程とはうって変わった厳しい口調でアンヌを弾劾した。
「セレノーのルートで充分だろう。何故俺たちを巻き込むんだ?他に狙いがあるに決まってる」
「ええ、あるわ。いずれあなた方は、帝国の無慈悲さが己に牙を向く時を迎える。その時こそ、あなたは帝国への忠誠を捨てるはず」
アンヌの返答を、プロテクターの長は鼻で笑った。
「冷凍保存で頭が鈍ったか?もう少しマシな誘い方をしてくると思ったぞ。俺は今、お前に失望した」
「そうかしら?私は誰よりも知っているわ。あなたが忠誠を誓うのはただ一人、命の恩人である私にだけだと」
ラウの脳裏に、アンヌがデス・ウォッチたちと戦ってプロテクターを守り通したことが思い返される。ブレインとは言え多勢に無勢だった彼女は、共和国の援軍が到着するまで深傷を負いながら戦い続けてくれたのだ。
「恩人……ああ、そうだった。俺は共和国に忠誠を誓った覚えはない。ヴィズラ家と対立するプロテクターを、お前は命懸けの任務を通して支援してくれた。だから俺は負け戦でも文句を言わなかった」
「……ありがとう」
「だが!今回は違う。あの時とは状況が全く別だ。お前は俺よりも格下になったんだ」
ラウが食い下がる様子を見て、アンヌはついに降参した。彼女はライトセイバーの柄を手に持って眺めながら、冷淡な声で尋ねた。
「何だったら考え直してくれるの?」
その言葉に、ラウは不敵な笑みで返した。
「もちろん、マンダロリアン流に決まってる」
二人の視線が重なる。その瞳は、互いに決闘の申し込みを了承しているかのようにも見えるのだった。
1/1ページ