反乱同盟軍は苦境を強いられていた。集まった戦力は帝国に着々と削り取られ、ロザル支援のための航行ルートを探すことさえ苦しいものとなっていた。
　
　そんな中、自らの出生がドゥークーの娘であることを知り、インターギャラクテイック銀行グループ総裁として後部支援に回るようになったアンヌに緊急事態の一報が入る……
　
　
　
　
　
　
　
　
　アンヌ・トワイラスはドレスから久しぶりに軽装へ身を包みながら、旗艦のドッキングベイに佇んでいた。父親譲りの気品、そして僅かな冷ややかさを湛えながら、彼女は通路へと降り立った。出迎えたのは若きパダワンのエズラ・ブリッジャーと、ラサットのガラゼブ・オレリオスことゼブだ。しかし、今日は二人ともあまり元気がない。
「アンヌ、来てくれて良かった。急いでついてきて欲しいところがあるんだ」
　エズラに先導されて向かった先は、なんと救護室だった。そしてベッドの上で昏睡しているのは────
「ヘラ……？」
「説明よりも先に、フォースヒールをしてもらえないだろうか？」
「……良いわ」
　そう言うと、アンヌは目を閉じることもなく手をかざしてヘラを治療し始めた。まるでその光景は、フォースの方から使ってもらいたいと懇願しているかのようだ。顔色が戻ってきたところで手を離すと、ブレインは安堵の微笑みを浮かべた。
「これで大丈夫。フォースヒールは万能じゃないから、暫くは安静にね」
　治療を終えた彼女は仲間たちの方に向き直ると、抱いていた疑問を消化させるために口を開いた。
「さて、ヘラは誰に迎撃されたのかしら？ヘラに限って、帝国軍のヘボパイロットじゃないでしょう？」
　その瞳は、間違いなくブレインの輝きを取り戻していた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　ヘラがロザル支援のための航行ルートを交渉で拓くべく、サビーヌらと共に戦闘機を率いてコンコード・ドーンへ向かったこと。プロテクターの長フェン・ラウらと激戦になったこと。そして、ラウの激しい攻撃を受けて甚大な被害を被ったことを聞いたアンヌは、暫くのあいだ無言で考え込んでいた。スクリーンにはフェン・ラウの姿とデータが映し出されている。その上で、ケイナン・ジャラスは自ら打ち立てたプランを説明し始めた。
「そこで、俺が直接交渉に行こうと思うんだ。俺はマイギートの戦いで彼に助けてもらったし……」
「面識は？」
　鋭い質問に、ケイナンが僅かに狼狽する。
「……無い」
　そして再び、その場を沈黙が支配する。アンヌは徐にブリーフィング画面を立ち上げると、素早くコンコード・ドーンの地形や概要データを確認して頷いた。
「分かった。……私も行く」
「あ、あなたも！？いや、危険すぎる！あなたはブレイン。今や反乱軍の頭脳と資金源なんですよ！」
　反対を唱えるケイナンを置いて、アンヌは首を傾けながら目を細めた。
「悪いけど、ラウと私は旧知の仲なの。恐らく、私の申し出なら多少荒っぽくても受けてくれるはず」
　荒っぽくなる前提であることが気に入らないケイナンは、口をへの字に曲げた。だが、彼女の意志が一度決まってしまえば揺るがないことは周知の事実だ。
「大丈夫、あなたはファントムで向かって。私は邪魔しないように、後から行くから」
　アンヌはウィンクしながら笑みを浮かべている。そして一言付け足した。
「────とびきりインパクトのあるファイターでね」
　
　
　
　銀河の運命は、彼女によって変わっていく。そしてまたここに、新たな運命が生を落とそうとしていた……