この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
1章、クローンとブレイン
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包囲網を掻い潜って本隊と合流したアンヌたちは、仮設基地にて作戦の練り直しを迫られていた。一息つく間もなく、501大隊隊長のレックスはブリーフィングホログラムとにらみ合いを続けている。アソーカとアナキンも、部隊が被った被害状況を確認しながら次の作戦について話し合っていた。
そんな中、アンヌだけはコルサントから転送した地形図をぼんやりと眺めている。彼女が目を留めたのは、敵の本陣のすぐ側にある森だった。
「……ここを、どう使うか」
そんなことを考えていると、突然外から罵声が飛び込んできた。
「おい!コルサントから援軍要請をしたんじゃなかったのか!?俺たちは見捨てられたって言うのか」
「ファイブス、止めるんだ」
「師団くらいは寄越してくると思ったが、こんな小娘一人なんて何の役にも立たないじゃないか」
親友であり同期であるエコーの制止も聞かず、ファイブスはブリーフィングルームに乗り込んでアンヌを指差した。アソーカとアナキン、そしてレックスが一瞬にして凍りつく。だが、アンヌはそんなことさえ気にも留めず、戦術への熟考に没頭している。その態度が余計に気に障ったのか、ファイブスはアンヌの胸ぐらを掴んで怒りを顕にした。
「おい。聞いてんのか、小娘」
「ファイブス!そこまでにしておけ」
レックスが銃口をファイブスに向けた。暫く緊迫した空気が流れた後、ルーキーは渋々とアンヌから手を離した。しかしそれは単に上司の射撃の腕を恐れたからではない。彼を無言で見つめる若きジェダイの瞳が、あまりに冷淡で真っ直ぐすぎたのだ。畏怖の念にも近いものを感じたため、ファイブスは気まずそうに後ろへ下がった。
アンヌは何事もなかったかのようにレックスの方へ向き直ると、一言だけこう告げた。
「────良い作戦が出来たわ。けど、今の501大隊には勝機がない。部隊の取り纏めもあなたの責務よ、キャプテン・レックス」
「申し訳ありません」
「アソーカ。最高の策略における最大の敵は、何だと思う?」
「えっ……あっ、えっと……」
「慢心よ。常に警戒を怠らないで。本陣だからと言って、安全地帯ではないわ。ここは戦場、一時の油断も許されない」
その言葉に誤りは1つもない。レックスはブラスターを仕舞うと、ファイブスに一言「次は無いからな」とだけ述べた。その場を圧倒的な畏れの雰囲気だけで鎮めてしまったジェダイに、ファイブスは疑念を抱いた。
一体、こいつは何なんだ?
そして次いで出た質問はこんなものだった。
「1つだけ教えてくれ。あんたはジェダイマスターなのか?」
その問いに、アソーカとアナキンが口を揃えて答えようとした。だが、意外にもアンヌがそれを抑えて自ら返答した。
「私はアンヌ。アンヌ・トワイラス。ジェダイマスターでもなければ、ジェネラルでもない。ただのジェダイだよ」
二人のジェダイは、目を丸くしながらお互いを見た。一体どういうつもりなのか。アンヌは悪びれもなく続けた。
「援軍は包囲網の関係で来ない。私だけが来たの。これで説明になってる?まぁ……他の人よりはちょっぴり頭が回るから、実戦よりも作戦補助みたいな感じかしら」
ちょっぴりどころじゃないって。アソーカは思わず叫びたくなったが、何か意図があって嘘をついているのだろうと考えて口をつぐんだ。一方、アンヌの悪ふざけであることなど露知らず、ファイブスはますます調子づいている。
「へぇ……じゃあ、あんたは俺より経験も階級も下なんだな?」
「まぁ、そうなるのかしら」
「その割にはヴェントレス相手にはよくやってくれたな。見直したぜ、宜しくな」
アナキンたちが頭を抱える中、ファイブスはアンヌに手を差し出した。彼女は肩をすくめながらも、その手を握り返した。顔色には出さなかったが、この時アンヌは内心驚いていた。他のクローンたちと同じなのに、何故かとても暖かくて、安心できる手に感じられたからだ。
この手を取ったことが、新たな運命の歪みになること。そしてこの手を離さないことが、どんな戦いよりも過酷なものになるなど、この場にいる誰もが知る由もなかった。
ブリーフィングルームに集合したクローンたちは、アンヌの作戦を聞いていた。
「この森を通って、陽動作戦をしよう。そのためにはまず、敵に援軍が来たと勘違いさせるために通信傍受をさせる。それから残った爆薬を使って敵を分散させ、本陣を手薄にしよう。また、本陣には厄介な砲台があるのが分かると思う。これを遠方から粉砕するためのバズーカ隊とスナイパー隊配置のために時間を稼ぐ。大隊は6つのグループに分かれて、それぞれの任務を全うする」
相変わらず、隙の無い作戦だ。アナキンはそう思いながら手を叩いた。そして、ファイブスも腕を組ながら頷いている。
「なかなかやるじゃないか。あんた、賢いな」
アソーカは苦笑いを浮かべながら、レックスとため息をついた。アンヌは先程同様周りに気を留めることなく、グループ分けを読み上げた。
「……第4グループはアソーカとエコーのC分隊。バズーカ隊のために最善を尽くして。第5グループはアナキンとジェシーのD分隊。あなたたちは適当に引き付けを宜しく。それから最後に私の第6グループ。敵陣地に共に乗り込む任を────」
誰もが隊長であるレックスの任務であると思っていた。だが、アンヌが述べたのは意外な人物の名前だった。
「ファイブス、あなたに任せます。レックスはA分隊の指揮と全体観察を怠らないように」
彼女は驚く仲間たちを置いて、ファイブスに向き直った。
「出来る?」
「も、もちろん」
「あなたには私の背中を預ける。私が生きるも死ぬも、あなた次第よ」
流石のレックスも、この決定には狼狽を隠せない。彼は激を飛ばされる覚悟でアンヌを止めた。
「ファイブスはルーキーですよ!?お願いですから……」
「申し訳ないけど、他のメンバーには任せられない。それとも彼には実力不足な任務なのかしら?」
「いや……そういう訳では……」
「ということで、宜しく」
半ば呆れながら唖然とするレックスを尻目に、アンヌは歩きだした。しかし不意になにかを思い出したように立ち止まり、再びファイブスの方を見た。
「あ、そうだ。さっきの戦い方を見て思ったんだけど、あなた2丁ブラスター練習してるでしょ。使ってみたら?」
レックスはまたしても目を見開く羽目になった。側にいたエコーも驚いている。だが、ファイブスだけは違った。彼は戸惑いの後に、瞳を輝かせながら白い歯を見せて笑った。
「良く分かったな。フォースのお陰か」
「まぁ、そういうところかな」
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぜ。重火器は好きじゃないからな」
アンヌはそれを聞いて、一瞬だけふわりと笑った。その表情が暖かで、彼の心が刹那に震えた。それは懐かしい感覚だった。ただ、今まで感じたことのない感情であることだけは理解できた。
早朝、ジェダイアーマーに着替えたアンヌは、ライトセイバーを握りながらファイブスの隣で待機していた。程なくして、撹乱部隊の到着が知らされた。作戦通り、アナキンたちが散り散りになって敵の意識を引き付けることに成功している。
一方、初めての単独任務にファイブスは不安で怯えていた。僅かにブラスターの銃口が震えている。それを見たアンヌは、銃の切っ先にそっと手を置いて微笑んだ。
「────私の動きに合わせてくれれば、きっと大丈夫だから」
「……あんたの動きに?」
「そう。同じ呼吸で、同じ心で挑むの。目を閉じてみて」
そう言うと、アンヌはファイブスの瞼に指先を乗せ、自分も目を閉じた。
「……何が聞こえる?」
「ブラスターの音と、あんたの声だ」
「いいえ、私にはあなたの声しか聞こえない。遠くにある音は無視して。私の声だけを聞いて」
心の奥底に語り掛けてくる声に、ファイブスは不思議な気持ちを覚えた。そんな中で、彼の耳には次第にもう1つ別のものが聞こえてきた。それは音と言うよりもむしろ、律動だった。
その瞬間、アンヌが指を離した。
「もう、目を開けても良いわよ」
「……今のは?」
「私の呼吸。この銀河では、誰もがフォースの寵児なのよ」
何が言いたいのかさっぱり分からない。ファイブスが口を開くより前に、アナキンから通信が入った。
『完全に僕らを標的にしてるみたいだ。今ならいけるぞ』
「分かった、ありがとう」
アンヌはライトセイバーを起動させ、身体と平行に持った柄を器用に回してマカシの構えを取った。ファイブスも二丁のブラスターを両手に構えている。彼女は背後を任せたクローンに向き直ることなく、こう言った。
「じゃあ、行くよ」
そして、返事を待つことなくアンヌは戦地へと駆け出していく。遅れを取らぬようにと思いながら、ファイブスもその後をついていくのだった。
本陣へ向かうためには、最短ルートではなく迂回路を用いる必要があった。アンヌとファイブスは、その間にも数多の敵を倒していた。その様子を見ていたレックスは、二人の息がぴったりであることに驚きを隠せずにいた。アナキンもバトルドロイドを斬り捨てながら、感嘆の声を漏らしている。
「珍しいな、ファイブスは突撃系なのに」
「ええ。それに、トワイラス殿の動きに合わせられる奴を見るのは初めてですよ」
という会話が繰り広げられている間にも、1体、また1体とドロイドの残骸が増えていく。アンヌの動きは変則的ではあるが、無駄が一切無い。かつ、ファイブスの射程を邪魔しないように細心の注意と計算を踏みながら、ブラスターを打ち返したり次の一手を決めている。一方で、ファイブスはアンヌの背中を忠実に守っており、彼女の次の行動を予測しているかのように二丁銃を使いこなしている。
「息ぴったりとは、このことだな」
「まるで、運命みたいですね」
レックスの意外な反応に、アナキンが眉をひそめる。
「どういう意味だ?それは」
「さぁ。ただ、面白いと思いまして」
そんなやり取りが交わされているとも知らず、アンヌとファイブスは疾風のように戦場を駆け抜けていく。通った後には口封じのために倒されたドロイドたちが転がっている。アンヌは最後の1体を倒すと、崖の下に見えている本陣を眺めながら笑った。
「どう?遂行出来そう?」
「ああ、あんたとならやれそうだ」
「それは良かった。じゃ、このまま崖から飛び降りるよ」
「はい……って、え!?崖!?ちょっと待ってく……」
ファイブスが止める間もなく、アンヌは空中で華麗に回転をしながら崖から飛び降りていた。二の足を踏んでいた彼も、渋々覚悟を決めざるを得ない。
「あぁー!もう、勘弁してくれよな!」
銃をホルダーに仕舞い、彼は駆け出した。そして、崖から踏み切った後は自分を信じるより他無かった。凄まじい風圧に、思わず目を閉じる。間もなく着地だ。それから、大怪我が待っている。
だが次の瞬間、彼の身体は浮いていた。拍子抜けた顔をしているクローンを、笑い声で迎える人物がいる。アンヌだった。彼女は指先で易々とファイブスを宙に繋ぎ留めていたが、不意にフォースを絶ち切ってしまった。そして何を思ったのか、落下してくる彼を横抱きに抱き留めた。これには恥ずかしさのあまり、ファイブスは両耳まで真っ赤になってしまった。だが、アンヌの方はあまり気にしていないようだ。
「ね?意外に大したこと無いでしょ?」
「おっ、降ろせ!止めろ!」
「助けてあげたのに横暴だなぁ。はいはい、降ろしてあげるから」
渋々降ろして貰い、ファイブスは逃げるようにアンヌから距離を置いた。それからボロボロになったプライドを必死に修復しながら、彼女に吠えた。
「全く……いっ、今のは他の奴らには言うなよ!」
「それはどうしようかなぁ……うーん……」
「悩むな!」
そこまで言って、ファイブスはふと我に返った。身長も体格も一回り以上大きい自分を、何故ここまで華奢な女性が横抱き──いわゆるお姫様抱っこ出来たのだろうか。
疑問を察したのか、アンヌは微笑みながら宙でライトセイバーを振り回しながらこう言った。
「ライトセイバー同士の闘いってさ、フォースを受け止めるから結構鍛えなきゃいけないんだよね。ジェダイはみんな、ムキムキだよ」
「えっ!?あんたもか?」
「ま、あなた一人くらいは両手で抱き上げられるかもね」
「なっ……」
やはり簡単には忘れてくれなさそうだ。ファイブスは肩を竦めながら、ブラスターをホルダーから出した。アンヌは既に、陣営の見取り図を投影しながら次の動きを考えている。
「見取り図じゃないか!どうやって手に入れたんだ?」
ジェダイは少し考えると、こう答えた。
「ブレイン様から貰った」
「流石、勝機を呼ぶ方だな。あぁ、俺も早くお目通りが叶うと良いんだが」
アンヌは失笑しながら、無知なクローントルーパーを横目で見た。
「ブレイン様に、どうして会いたいの?」
「俺は……いや。俺たちドミノ分隊組は、あの方に多大な恩義があるんだ」
ドミノ分隊。その名を聞いたアンヌの眉が僅かに動く。彼女にとっても、忘れ得ない候補生分隊の名前だからだ。目の前にいる人がブレインその人だとは露も知らず、ファイブスは続けた。
「俺たちは統率力も無いし、団体行動も出来ないし、とにかく滅茶苦茶な分隊だった。そして、最終試験に落ち続けていた。試験に落ちたクローンがどうなるか、あんたは知ってるか?」
知っていたが、アンヌは敢えて曖昧な返事をした。
「良くて雑用係、悪くて前線配置か処分だ。実地に出れないどころじゃない」
ファイブスは目を細めると、ブレインとの思い出に浸った。
「だけどな、あの方だけは違った。俺たちにチャンスをくれたんだ。しかも、ただの憐れみだけじゃなくてきちんとした理由付きでな。俺たちは難有りなんかじゃない。可能性の結晶なんだ、って」
アンヌはうっすらと微笑みながら、ホログラムの電源を落とした。それから、ライトセイバーを握り直して歩き始めた。
「……行くよ、さっさと終わらせよう」
「ああ、そうだな」
ファイブスも立ち上がると、彼女のすぐ隣を守るように歩き始めた。
まぁ……ちょっとだけ、名残惜しいけどね。
そう思いながら、アンヌは可能性の結晶であるクローントルーパーを見た。二人のフォースが揺らいだことも知らず。
そんな中、アンヌだけはコルサントから転送した地形図をぼんやりと眺めている。彼女が目を留めたのは、敵の本陣のすぐ側にある森だった。
「……ここを、どう使うか」
そんなことを考えていると、突然外から罵声が飛び込んできた。
「おい!コルサントから援軍要請をしたんじゃなかったのか!?俺たちは見捨てられたって言うのか」
「ファイブス、止めるんだ」
「師団くらいは寄越してくると思ったが、こんな小娘一人なんて何の役にも立たないじゃないか」
親友であり同期であるエコーの制止も聞かず、ファイブスはブリーフィングルームに乗り込んでアンヌを指差した。アソーカとアナキン、そしてレックスが一瞬にして凍りつく。だが、アンヌはそんなことさえ気にも留めず、戦術への熟考に没頭している。その態度が余計に気に障ったのか、ファイブスはアンヌの胸ぐらを掴んで怒りを顕にした。
「おい。聞いてんのか、小娘」
「ファイブス!そこまでにしておけ」
レックスが銃口をファイブスに向けた。暫く緊迫した空気が流れた後、ルーキーは渋々とアンヌから手を離した。しかしそれは単に上司の射撃の腕を恐れたからではない。彼を無言で見つめる若きジェダイの瞳が、あまりに冷淡で真っ直ぐすぎたのだ。畏怖の念にも近いものを感じたため、ファイブスは気まずそうに後ろへ下がった。
アンヌは何事もなかったかのようにレックスの方へ向き直ると、一言だけこう告げた。
「────良い作戦が出来たわ。けど、今の501大隊には勝機がない。部隊の取り纏めもあなたの責務よ、キャプテン・レックス」
「申し訳ありません」
「アソーカ。最高の策略における最大の敵は、何だと思う?」
「えっ……あっ、えっと……」
「慢心よ。常に警戒を怠らないで。本陣だからと言って、安全地帯ではないわ。ここは戦場、一時の油断も許されない」
その言葉に誤りは1つもない。レックスはブラスターを仕舞うと、ファイブスに一言「次は無いからな」とだけ述べた。その場を圧倒的な畏れの雰囲気だけで鎮めてしまったジェダイに、ファイブスは疑念を抱いた。
一体、こいつは何なんだ?
そして次いで出た質問はこんなものだった。
「1つだけ教えてくれ。あんたはジェダイマスターなのか?」
その問いに、アソーカとアナキンが口を揃えて答えようとした。だが、意外にもアンヌがそれを抑えて自ら返答した。
「私はアンヌ。アンヌ・トワイラス。ジェダイマスターでもなければ、ジェネラルでもない。ただのジェダイだよ」
二人のジェダイは、目を丸くしながらお互いを見た。一体どういうつもりなのか。アンヌは悪びれもなく続けた。
「援軍は包囲網の関係で来ない。私だけが来たの。これで説明になってる?まぁ……他の人よりはちょっぴり頭が回るから、実戦よりも作戦補助みたいな感じかしら」
ちょっぴりどころじゃないって。アソーカは思わず叫びたくなったが、何か意図があって嘘をついているのだろうと考えて口をつぐんだ。一方、アンヌの悪ふざけであることなど露知らず、ファイブスはますます調子づいている。
「へぇ……じゃあ、あんたは俺より経験も階級も下なんだな?」
「まぁ、そうなるのかしら」
「その割にはヴェントレス相手にはよくやってくれたな。見直したぜ、宜しくな」
アナキンたちが頭を抱える中、ファイブスはアンヌに手を差し出した。彼女は肩をすくめながらも、その手を握り返した。顔色には出さなかったが、この時アンヌは内心驚いていた。他のクローンたちと同じなのに、何故かとても暖かくて、安心できる手に感じられたからだ。
この手を取ったことが、新たな運命の歪みになること。そしてこの手を離さないことが、どんな戦いよりも過酷なものになるなど、この場にいる誰もが知る由もなかった。
ブリーフィングルームに集合したクローンたちは、アンヌの作戦を聞いていた。
「この森を通って、陽動作戦をしよう。そのためにはまず、敵に援軍が来たと勘違いさせるために通信傍受をさせる。それから残った爆薬を使って敵を分散させ、本陣を手薄にしよう。また、本陣には厄介な砲台があるのが分かると思う。これを遠方から粉砕するためのバズーカ隊とスナイパー隊配置のために時間を稼ぐ。大隊は6つのグループに分かれて、それぞれの任務を全うする」
相変わらず、隙の無い作戦だ。アナキンはそう思いながら手を叩いた。そして、ファイブスも腕を組ながら頷いている。
「なかなかやるじゃないか。あんた、賢いな」
アソーカは苦笑いを浮かべながら、レックスとため息をついた。アンヌは先程同様周りに気を留めることなく、グループ分けを読み上げた。
「……第4グループはアソーカとエコーのC分隊。バズーカ隊のために最善を尽くして。第5グループはアナキンとジェシーのD分隊。あなたたちは適当に引き付けを宜しく。それから最後に私の第6グループ。敵陣地に共に乗り込む任を────」
誰もが隊長であるレックスの任務であると思っていた。だが、アンヌが述べたのは意外な人物の名前だった。
「ファイブス、あなたに任せます。レックスはA分隊の指揮と全体観察を怠らないように」
彼女は驚く仲間たちを置いて、ファイブスに向き直った。
「出来る?」
「も、もちろん」
「あなたには私の背中を預ける。私が生きるも死ぬも、あなた次第よ」
流石のレックスも、この決定には狼狽を隠せない。彼は激を飛ばされる覚悟でアンヌを止めた。
「ファイブスはルーキーですよ!?お願いですから……」
「申し訳ないけど、他のメンバーには任せられない。それとも彼には実力不足な任務なのかしら?」
「いや……そういう訳では……」
「ということで、宜しく」
半ば呆れながら唖然とするレックスを尻目に、アンヌは歩きだした。しかし不意になにかを思い出したように立ち止まり、再びファイブスの方を見た。
「あ、そうだ。さっきの戦い方を見て思ったんだけど、あなた2丁ブラスター練習してるでしょ。使ってみたら?」
レックスはまたしても目を見開く羽目になった。側にいたエコーも驚いている。だが、ファイブスだけは違った。彼は戸惑いの後に、瞳を輝かせながら白い歯を見せて笑った。
「良く分かったな。フォースのお陰か」
「まぁ、そういうところかな」
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぜ。重火器は好きじゃないからな」
アンヌはそれを聞いて、一瞬だけふわりと笑った。その表情が暖かで、彼の心が刹那に震えた。それは懐かしい感覚だった。ただ、今まで感じたことのない感情であることだけは理解できた。
早朝、ジェダイアーマーに着替えたアンヌは、ライトセイバーを握りながらファイブスの隣で待機していた。程なくして、撹乱部隊の到着が知らされた。作戦通り、アナキンたちが散り散りになって敵の意識を引き付けることに成功している。
一方、初めての単独任務にファイブスは不安で怯えていた。僅かにブラスターの銃口が震えている。それを見たアンヌは、銃の切っ先にそっと手を置いて微笑んだ。
「────私の動きに合わせてくれれば、きっと大丈夫だから」
「……あんたの動きに?」
「そう。同じ呼吸で、同じ心で挑むの。目を閉じてみて」
そう言うと、アンヌはファイブスの瞼に指先を乗せ、自分も目を閉じた。
「……何が聞こえる?」
「ブラスターの音と、あんたの声だ」
「いいえ、私にはあなたの声しか聞こえない。遠くにある音は無視して。私の声だけを聞いて」
心の奥底に語り掛けてくる声に、ファイブスは不思議な気持ちを覚えた。そんな中で、彼の耳には次第にもう1つ別のものが聞こえてきた。それは音と言うよりもむしろ、律動だった。
その瞬間、アンヌが指を離した。
「もう、目を開けても良いわよ」
「……今のは?」
「私の呼吸。この銀河では、誰もがフォースの寵児なのよ」
何が言いたいのかさっぱり分からない。ファイブスが口を開くより前に、アナキンから通信が入った。
『完全に僕らを標的にしてるみたいだ。今ならいけるぞ』
「分かった、ありがとう」
アンヌはライトセイバーを起動させ、身体と平行に持った柄を器用に回してマカシの構えを取った。ファイブスも二丁のブラスターを両手に構えている。彼女は背後を任せたクローンに向き直ることなく、こう言った。
「じゃあ、行くよ」
そして、返事を待つことなくアンヌは戦地へと駆け出していく。遅れを取らぬようにと思いながら、ファイブスもその後をついていくのだった。
本陣へ向かうためには、最短ルートではなく迂回路を用いる必要があった。アンヌとファイブスは、その間にも数多の敵を倒していた。その様子を見ていたレックスは、二人の息がぴったりであることに驚きを隠せずにいた。アナキンもバトルドロイドを斬り捨てながら、感嘆の声を漏らしている。
「珍しいな、ファイブスは突撃系なのに」
「ええ。それに、トワイラス殿の動きに合わせられる奴を見るのは初めてですよ」
という会話が繰り広げられている間にも、1体、また1体とドロイドの残骸が増えていく。アンヌの動きは変則的ではあるが、無駄が一切無い。かつ、ファイブスの射程を邪魔しないように細心の注意と計算を踏みながら、ブラスターを打ち返したり次の一手を決めている。一方で、ファイブスはアンヌの背中を忠実に守っており、彼女の次の行動を予測しているかのように二丁銃を使いこなしている。
「息ぴったりとは、このことだな」
「まるで、運命みたいですね」
レックスの意外な反応に、アナキンが眉をひそめる。
「どういう意味だ?それは」
「さぁ。ただ、面白いと思いまして」
そんなやり取りが交わされているとも知らず、アンヌとファイブスは疾風のように戦場を駆け抜けていく。通った後には口封じのために倒されたドロイドたちが転がっている。アンヌは最後の1体を倒すと、崖の下に見えている本陣を眺めながら笑った。
「どう?遂行出来そう?」
「ああ、あんたとならやれそうだ」
「それは良かった。じゃ、このまま崖から飛び降りるよ」
「はい……って、え!?崖!?ちょっと待ってく……」
ファイブスが止める間もなく、アンヌは空中で華麗に回転をしながら崖から飛び降りていた。二の足を踏んでいた彼も、渋々覚悟を決めざるを得ない。
「あぁー!もう、勘弁してくれよな!」
銃をホルダーに仕舞い、彼は駆け出した。そして、崖から踏み切った後は自分を信じるより他無かった。凄まじい風圧に、思わず目を閉じる。間もなく着地だ。それから、大怪我が待っている。
だが次の瞬間、彼の身体は浮いていた。拍子抜けた顔をしているクローンを、笑い声で迎える人物がいる。アンヌだった。彼女は指先で易々とファイブスを宙に繋ぎ留めていたが、不意にフォースを絶ち切ってしまった。そして何を思ったのか、落下してくる彼を横抱きに抱き留めた。これには恥ずかしさのあまり、ファイブスは両耳まで真っ赤になってしまった。だが、アンヌの方はあまり気にしていないようだ。
「ね?意外に大したこと無いでしょ?」
「おっ、降ろせ!止めろ!」
「助けてあげたのに横暴だなぁ。はいはい、降ろしてあげるから」
渋々降ろして貰い、ファイブスは逃げるようにアンヌから距離を置いた。それからボロボロになったプライドを必死に修復しながら、彼女に吠えた。
「全く……いっ、今のは他の奴らには言うなよ!」
「それはどうしようかなぁ……うーん……」
「悩むな!」
そこまで言って、ファイブスはふと我に返った。身長も体格も一回り以上大きい自分を、何故ここまで華奢な女性が横抱き──いわゆるお姫様抱っこ出来たのだろうか。
疑問を察したのか、アンヌは微笑みながら宙でライトセイバーを振り回しながらこう言った。
「ライトセイバー同士の闘いってさ、フォースを受け止めるから結構鍛えなきゃいけないんだよね。ジェダイはみんな、ムキムキだよ」
「えっ!?あんたもか?」
「ま、あなた一人くらいは両手で抱き上げられるかもね」
「なっ……」
やはり簡単には忘れてくれなさそうだ。ファイブスは肩を竦めながら、ブラスターをホルダーから出した。アンヌは既に、陣営の見取り図を投影しながら次の動きを考えている。
「見取り図じゃないか!どうやって手に入れたんだ?」
ジェダイは少し考えると、こう答えた。
「ブレイン様から貰った」
「流石、勝機を呼ぶ方だな。あぁ、俺も早くお目通りが叶うと良いんだが」
アンヌは失笑しながら、無知なクローントルーパーを横目で見た。
「ブレイン様に、どうして会いたいの?」
「俺は……いや。俺たちドミノ分隊組は、あの方に多大な恩義があるんだ」
ドミノ分隊。その名を聞いたアンヌの眉が僅かに動く。彼女にとっても、忘れ得ない候補生分隊の名前だからだ。目の前にいる人がブレインその人だとは露も知らず、ファイブスは続けた。
「俺たちは統率力も無いし、団体行動も出来ないし、とにかく滅茶苦茶な分隊だった。そして、最終試験に落ち続けていた。試験に落ちたクローンがどうなるか、あんたは知ってるか?」
知っていたが、アンヌは敢えて曖昧な返事をした。
「良くて雑用係、悪くて前線配置か処分だ。実地に出れないどころじゃない」
ファイブスは目を細めると、ブレインとの思い出に浸った。
「だけどな、あの方だけは違った。俺たちにチャンスをくれたんだ。しかも、ただの憐れみだけじゃなくてきちんとした理由付きでな。俺たちは難有りなんかじゃない。可能性の結晶なんだ、って」
アンヌはうっすらと微笑みながら、ホログラムの電源を落とした。それから、ライトセイバーを握り直して歩き始めた。
「……行くよ、さっさと終わらせよう」
「ああ、そうだな」
ファイブスも立ち上がると、彼女のすぐ隣を守るように歩き始めた。
まぁ……ちょっとだけ、名残惜しいけどね。
そう思いながら、アンヌは可能性の結晶であるクローントルーパーを見た。二人のフォースが揺らいだことも知らず。
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