この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
三章、帰郷と再会
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昼下がり。静かなジェダイ聖堂の公文書館二階で電子書物をめくっていたアンヌは、階下にグリーヴァスがやって来たことに気づいた。床に噛みつくような鉤爪の音は、アンヌにとってはあまりに分かりやすかった。
すぐに声を掛けるのも面白くないので、アンヌはしばらく高みの見物を決めることにした。グリーヴァスは辺りを不審な素振りで見回していたが、しばらくすると一直線に"ある場所"へと向かっていった。アンヌはデータパッドを持って立ち上がり、音を立てないように一階へ飛び降りた。
物陰からグリーヴァスの様子を伺い、アンヌは何をしようとしているのかを悟った。彼はかつての英雄たちが用いたライトセイバーの、レプリカが入ったケースを眺めていた。恐らく、叩き割って持ち出すつもりなのだろう。
アンヌは笑いをこらえながら、グリーヴァスの後ろに忍び寄った。そして、丁度エレクトロスタッフでケースを割ろうと構えた時に声をかけた。
「何してるの?」
「ぬぁっ!!!?」
普段からは想像もつかない拍子抜けた声をあげると、グリーヴァスは慌ててエレクトロスタッフを隠した。
「……それ、レプリカだよ」
「なっ、何がだ?」
「ケースの中のライトセイバー!本物を置いておくわけないじゃん。こんなとこから盗み出すくらいなら、まだテンプルガードを半殺しにした方がましね」
すっかり計画を読まれていたグリーヴァスは、唸ることしかできなかった。アンヌはそんな彼を置いて、突然データベースを調べ始めた。それから、自分のデータパッドに何かを送信すると、グリーヴァスに差し出した。
「はい、これ」
「……何だ」
「ライトセイバーの作り方!自分で作る方が絶対にいいと思うけど」
得意気に正論を放つアンヌが気に障ったのか、グリーヴァスはその主張を鼻で笑い飛ばした。
「ふん。俺は戦利品以外に興味はない!」
「じゃあ、仕方がない。一生そのビリビリ棒で頑張ることね」
グリーヴァスはデータパッドを引ったくると、まじまじと目を通し始めた。だが、あまりの精密作業に気が遠くなるだけだった。
ホイールバイクすら直せない俺に、こんな精密機械が作れるか!
彼は叫びたい思いを抑えながら、アンヌの方を見て強気な返事をした。
「俺は芸術家になる気はない。収集が趣味なのだ」
「あら、そう」
アンヌはデータパッドを取り返すと、意地っ張りなサイボーグに微笑んだ。
「じゃあ、私から取ってみれば?」
「ほう……」
共和国軍師のライトセイバーか。
グリーヴァスの収集癖が疼く。丁度、前からほしいと思っていたところだった。
「では、俺と勝負してみるか?」
「ライトセイバーをかけて?いいけど」
アンヌは練習室の方向を親指で示すと、自信ありげに笑った。必ずその生意気な面を壊してやると思いながら、グリーヴァスは大股でその後ろを付いていくのだった。
グリーヴァスとアンヌがトレーニングルームで手合わせをしているという噂は、瞬く間にジェダイ聖堂中に広がった。部屋の前はいつの間にか野次馬で一杯になっている。
しかし二人は真剣勝負のあまり、人だかりができていることなど気づいていない。グリーヴァスはアンヌの実力を低く見ているのか、練習用のセーフティーライトセイバーわずか一本だけで戦っている。
「ふん、我が師の型は読みきっておるわ!」
「それはどうかしら」
馬鹿力で圧してくるグリーヴァスの対策法を予めデモンストレーションしていたアンヌは、さっそく行動に移した。つばぜり合いになった瞬間、彼女は身体を横に反らした。そして、直後にグリーヴァスがバランスを崩した。なんとアンヌが、自分のライトセイバーのスイッチを切ったのだ。
「ほう……面白い戦い方だ」
「面白いですって?私は師として危なっかしいと思いますが」
興味深そうに感嘆するドゥークーを、オビ=ワンは軽蔑の眼差しで見た。だが、ドゥークーも負けていない。
「だから君の戦い方は面白くないのだよ、ケノービ君」
「何ですって?」
オビ=ワンが更に言い返そうとしたときだった。グリーヴァスが一本とられたことを示すブザーが鳴った。
「ぐぬぬぬ……」
「はい、終了」
二人が視線を戻してみると、そこには言い逃れようの無い程に完敗したグリーヴァスが居た。その視線の先には、清々しい表情のアンヌが立っている。
「師匠の型は読みきっていたのよね?」
「黙れ!」
「ってことで、ライトセイバーチャレンジは終了。残念でした」
髪をかきあげて笑うアンヌの言葉に、オビ=ワンは目を丸くした。
「ライトセイバーチャレンジだって?」
「将軍も、随分と遊ばれたものだな」
うなる将軍を置いて、アンヌがトーレニングルームから出てきた。野次馬たちは慌ててその場から離れてしまい、残ったのはオビ=ワンとドゥークーだけだった。アンヌはその取り合わせを見て、意外そうに首をかしげた。
「あれ、珍しいね」
「師にとって、弟子は我が子のようなもの。私と同じ気持ちなのであろう。違うかな?ケノービ君」
オビ=ワンはその言葉に、あからさまに不快感を表した。
「……シスとジェダイを一緒にしないでいただきたい」
「随分酷いことを言うのだね」
「あなたは大体、戦争の責任を取らねばなりません。シディアスと結託して────」
「シディアスと結託したのではない。シディアスの足を掬う機会をうかがっていたのだ」
一歩も譲らないドゥークーに、オビ=ワンはため息をついた。
「自分に非は、一切無いと?」
「君は大切な何かを守るために、己の信念さえも曲げることが出来るかね?」
一触即発の状況に、アンヌが動いた。彼女は父の手を取ると、目で止めるように訴えた。すると、オビ=ワンが先程まで見ていた人とは別人に思えるほどに優しい表情が戻ってきた。
「ああ、済まないね。つい、ジェダイと反目してしまう。ティラナスの名残が残っているようだ」
ドゥークーはオビ=ワンに向き直ると、哀しげな瞳でこう言った。
「今度、いつか……アンヌがどんな子だったか聞かせてほしい。君が一番、よく知っているだろうから」
「え、あ……ええ。わかりました」
オビ=ワンはどちらが本性なのかを測りかねると、首を傾げてそのまま二人の隣を通りすぎていった。彼が去ったのを見届けると、ドゥークーは娘の手を突然掴んで瞳を輝かせた。
「娘よ!喜ぶがいい」
「え?え?ど、どうしたの?」
戸惑うアンヌを置いて、ドゥークーは満面の笑みを浮かべてこう言った。
「休暇の許しが出たぞ!セレノーへ帰れる!」
「本当に?やったぁ!」
物心ついて以来になる初めての帰郷に、アンヌの心は躍った。だが、一つだけ気掛かりなことがあった。
「……私の仕事は?」
「問題ない。当面はマスター・ウィンドゥとスカイウォーカー君、それとターキン提督とユラーレン提督が対応するそうだ」
アンヌはそれを聞いて、ユラーレンが文句を言っている姿を想像してしまった。
「またスカイウォーカーと組まされるってぼやいていませんでした?」
「ユラーレン提督かね?ああ、そういえば言っていたな」
二人は顔を見合わせて笑った。アンヌは周りに誰も居ないことを確認してからドゥークーに抱きついた。
「お父様、大好きよ」
「私もだよ、アンヌ。さ、荷造りをしたまえ。準備が出来次第、この乱雑な惑星に別れを告げよう」
「はぁい!」
アンヌは元気良く返事をすると、自室へと駆け出した。その後ろ姿を眺めながら、ドゥークーは温かな笑顔を浮かべるのだった。
慌ただしい荷造りの光景を眺めながら、ルームメイトのアソーカ・タノは口を尖らせていた。
「いつまで帰るつもり?」
「表向きはセレノーの分離主義勢力の調停だから、当分は戻らないと思う。お父様の話では半月程の猶予を頂けたみたいよ」
「半月かぁ……変なことが起きて強制帰還にならないことを祈ってるね」
「縁起でもない。あり得そうなこと言わないでよ」
アンヌはふと、カバンにライトセイバーとブリーフィング用の小型端末を積めるかどうかを迷った。アソーカがその様子を見て、こんなアドバイスをした。
「持っていきなよ!ほら、万が一の用心ってやつ」
「なるほど」
アンヌはにこりと笑って、アソーカが差し出した端末を受け取った。すると丁度その時、外からドゥークーの声がした。
「アンヌ、そろそろ行くぞ」
「はぁい!」
アンヌはスーツケース一個に収まった少ない荷物と共に立ち上がり、部屋の戸を開けた。待っていたのは笑顔の優しい父、ドゥークー伯爵だった。
「お土産、よろしく!」
「はいはい。わかったよ」
「やったぁ!」
アソーカに手を振り別れを告げたアンヌは、スーツケースを右手に持ち替え、左手で父の手を握った。少しシミが出来ているその手はとても温かく、大きかった。
「では、帰ろうか」
「うん」
二人は発着ベイに向かって、肩を並べて歩きだした。彼らはどこから見ても、普通の人生を送ってきた仲睦まじい親子のように見える。そして、それがこの親子の望みでもあった。
「お父様、セレノーにはお母様も居るの?」
「無論。首を長くして帰りを待っておろう」
「お母様かぁ……」
どんな人なのだろう。そんな疑問を察してか、ドゥークーは前を見据えながら呟いた。
「優しい人だ。それに綺麗だ」
「お父様は、お母様が好き?」
「ああ。嫌いではない。お前によく似ている」
「そうなんだ!私、ずっとお父様に似ているんだとばかり……」
ドゥークーは失笑しながら、船の操縦席に着いた。座標をセットしながら、彼は昔のことを思い出してこう言った。
「あの人は随分、溌剌とした性格だからな」
「ふぅん……会うのが楽しみになってきた」
「そうか。きっと家も母のことも、気に入ると思うぞ」
伯爵は娘に微笑み、エンジンを始動させた。
こうして、アンヌは久々の小旅行と帰郷へ出発した。
セレノーの伯爵家は、噂以上の豪邸だった。というより、もはや宮殿だった。口を開けたまま玄関に立ち尽くしているアンヌを出迎えたのは、ざっと百人は居そうな使用人たちだった。彼らは一斉にドロイドのように頭を下げると、同じ言葉を発した。
「お帰りなさいませ。旦那様、お嬢様」
「お、お嬢様……?」
「そうだ。お前は私の娘。つまり、伯爵令嬢なのだから」
当惑するアンヌを置いて、メイドがスーツケースを持って屋敷に入っていった。ドゥークーは慣れた様子でホールへ歩きだしている。アンヌは慌てて父の後をついていくと、サロンへと続く廊下を進んだ。すると、数歩も歩かないうちに二人は足を止めた。前方に、ドレスの裾を持ち上げて走ってくる女性が現れたからだ。アンヌは何も言われずとも、そしてフォースで察さずとも、それが母であるとすぐに気付いた。
「ああ……」
その人は声にならない感嘆を漏らし、アンヌの前まで近づいてきた。そして、震える指先で彼女────僅か二歳の時に引き離された娘の頬を撫でた。
「私の……私の……」
アンヌは無言で頷いた。二人の両目には涙が湛えられている。女性は娘を抱きしめると、再会の喜びに一筋の涙を流した。
「アンヌ……ああ……私の可愛いアンヌ……」
「お母様……!」
隣では、ドゥークーが無言で母子の再会を見守っていた。暫くして、ようやく夫の存在に気付いた伯爵夫人は、泣き顔を無理矢理笑顔に変えて頭を下げた。だが、ドゥークーの反応は意外なものだった。彼は妻に少しだけ微笑むと、両手を僅かに広げた。その意味がわからず、夫人は眉をひそめた。すると、ドゥークーは失笑を漏らしながら歩み寄ると、妻と娘を強く抱きしめた。
「アルマ。君には随分と辛い思いをさせたな」
伯爵夫人──アルマと呼ばれたその人は、首を横に振った。
「いえ、きっとあなたもお辛かったはず」
「これからは、家族三人で過ごそう。戦争が終われば、きっとそんな平穏も訪れるはずだ」
アンヌはそれを聞いて、カウンシルに掛け合ってみなければ分からないと言おうとした。だが、喜ぶ母の姿を見ると自然に口が閉じてしまう。そして彼女自身にも、戦争が終わった後でもオーダーに所属する未来が見えなかった。
家族か、民主主義の護り手。いつかはどちらかの決断を迫られることになるのだろうか。そんなことを考えながら、アンヌは故郷と両親という温かな存在に浸るのだった。
すぐに声を掛けるのも面白くないので、アンヌはしばらく高みの見物を決めることにした。グリーヴァスは辺りを不審な素振りで見回していたが、しばらくすると一直線に"ある場所"へと向かっていった。アンヌはデータパッドを持って立ち上がり、音を立てないように一階へ飛び降りた。
物陰からグリーヴァスの様子を伺い、アンヌは何をしようとしているのかを悟った。彼はかつての英雄たちが用いたライトセイバーの、レプリカが入ったケースを眺めていた。恐らく、叩き割って持ち出すつもりなのだろう。
アンヌは笑いをこらえながら、グリーヴァスの後ろに忍び寄った。そして、丁度エレクトロスタッフでケースを割ろうと構えた時に声をかけた。
「何してるの?」
「ぬぁっ!!!?」
普段からは想像もつかない拍子抜けた声をあげると、グリーヴァスは慌ててエレクトロスタッフを隠した。
「……それ、レプリカだよ」
「なっ、何がだ?」
「ケースの中のライトセイバー!本物を置いておくわけないじゃん。こんなとこから盗み出すくらいなら、まだテンプルガードを半殺しにした方がましね」
すっかり計画を読まれていたグリーヴァスは、唸ることしかできなかった。アンヌはそんな彼を置いて、突然データベースを調べ始めた。それから、自分のデータパッドに何かを送信すると、グリーヴァスに差し出した。
「はい、これ」
「……何だ」
「ライトセイバーの作り方!自分で作る方が絶対にいいと思うけど」
得意気に正論を放つアンヌが気に障ったのか、グリーヴァスはその主張を鼻で笑い飛ばした。
「ふん。俺は戦利品以外に興味はない!」
「じゃあ、仕方がない。一生そのビリビリ棒で頑張ることね」
グリーヴァスはデータパッドを引ったくると、まじまじと目を通し始めた。だが、あまりの精密作業に気が遠くなるだけだった。
ホイールバイクすら直せない俺に、こんな精密機械が作れるか!
彼は叫びたい思いを抑えながら、アンヌの方を見て強気な返事をした。
「俺は芸術家になる気はない。収集が趣味なのだ」
「あら、そう」
アンヌはデータパッドを取り返すと、意地っ張りなサイボーグに微笑んだ。
「じゃあ、私から取ってみれば?」
「ほう……」
共和国軍師のライトセイバーか。
グリーヴァスの収集癖が疼く。丁度、前からほしいと思っていたところだった。
「では、俺と勝負してみるか?」
「ライトセイバーをかけて?いいけど」
アンヌは練習室の方向を親指で示すと、自信ありげに笑った。必ずその生意気な面を壊してやると思いながら、グリーヴァスは大股でその後ろを付いていくのだった。
グリーヴァスとアンヌがトレーニングルームで手合わせをしているという噂は、瞬く間にジェダイ聖堂中に広がった。部屋の前はいつの間にか野次馬で一杯になっている。
しかし二人は真剣勝負のあまり、人だかりができていることなど気づいていない。グリーヴァスはアンヌの実力を低く見ているのか、練習用のセーフティーライトセイバーわずか一本だけで戦っている。
「ふん、我が師の型は読みきっておるわ!」
「それはどうかしら」
馬鹿力で圧してくるグリーヴァスの対策法を予めデモンストレーションしていたアンヌは、さっそく行動に移した。つばぜり合いになった瞬間、彼女は身体を横に反らした。そして、直後にグリーヴァスがバランスを崩した。なんとアンヌが、自分のライトセイバーのスイッチを切ったのだ。
「ほう……面白い戦い方だ」
「面白いですって?私は師として危なっかしいと思いますが」
興味深そうに感嘆するドゥークーを、オビ=ワンは軽蔑の眼差しで見た。だが、ドゥークーも負けていない。
「だから君の戦い方は面白くないのだよ、ケノービ君」
「何ですって?」
オビ=ワンが更に言い返そうとしたときだった。グリーヴァスが一本とられたことを示すブザーが鳴った。
「ぐぬぬぬ……」
「はい、終了」
二人が視線を戻してみると、そこには言い逃れようの無い程に完敗したグリーヴァスが居た。その視線の先には、清々しい表情のアンヌが立っている。
「師匠の型は読みきっていたのよね?」
「黙れ!」
「ってことで、ライトセイバーチャレンジは終了。残念でした」
髪をかきあげて笑うアンヌの言葉に、オビ=ワンは目を丸くした。
「ライトセイバーチャレンジだって?」
「将軍も、随分と遊ばれたものだな」
うなる将軍を置いて、アンヌがトーレニングルームから出てきた。野次馬たちは慌ててその場から離れてしまい、残ったのはオビ=ワンとドゥークーだけだった。アンヌはその取り合わせを見て、意外そうに首をかしげた。
「あれ、珍しいね」
「師にとって、弟子は我が子のようなもの。私と同じ気持ちなのであろう。違うかな?ケノービ君」
オビ=ワンはその言葉に、あからさまに不快感を表した。
「……シスとジェダイを一緒にしないでいただきたい」
「随分酷いことを言うのだね」
「あなたは大体、戦争の責任を取らねばなりません。シディアスと結託して────」
「シディアスと結託したのではない。シディアスの足を掬う機会をうかがっていたのだ」
一歩も譲らないドゥークーに、オビ=ワンはため息をついた。
「自分に非は、一切無いと?」
「君は大切な何かを守るために、己の信念さえも曲げることが出来るかね?」
一触即発の状況に、アンヌが動いた。彼女は父の手を取ると、目で止めるように訴えた。すると、オビ=ワンが先程まで見ていた人とは別人に思えるほどに優しい表情が戻ってきた。
「ああ、済まないね。つい、ジェダイと反目してしまう。ティラナスの名残が残っているようだ」
ドゥークーはオビ=ワンに向き直ると、哀しげな瞳でこう言った。
「今度、いつか……アンヌがどんな子だったか聞かせてほしい。君が一番、よく知っているだろうから」
「え、あ……ええ。わかりました」
オビ=ワンはどちらが本性なのかを測りかねると、首を傾げてそのまま二人の隣を通りすぎていった。彼が去ったのを見届けると、ドゥークーは娘の手を突然掴んで瞳を輝かせた。
「娘よ!喜ぶがいい」
「え?え?ど、どうしたの?」
戸惑うアンヌを置いて、ドゥークーは満面の笑みを浮かべてこう言った。
「休暇の許しが出たぞ!セレノーへ帰れる!」
「本当に?やったぁ!」
物心ついて以来になる初めての帰郷に、アンヌの心は躍った。だが、一つだけ気掛かりなことがあった。
「……私の仕事は?」
「問題ない。当面はマスター・ウィンドゥとスカイウォーカー君、それとターキン提督とユラーレン提督が対応するそうだ」
アンヌはそれを聞いて、ユラーレンが文句を言っている姿を想像してしまった。
「またスカイウォーカーと組まされるってぼやいていませんでした?」
「ユラーレン提督かね?ああ、そういえば言っていたな」
二人は顔を見合わせて笑った。アンヌは周りに誰も居ないことを確認してからドゥークーに抱きついた。
「お父様、大好きよ」
「私もだよ、アンヌ。さ、荷造りをしたまえ。準備が出来次第、この乱雑な惑星に別れを告げよう」
「はぁい!」
アンヌは元気良く返事をすると、自室へと駆け出した。その後ろ姿を眺めながら、ドゥークーは温かな笑顔を浮かべるのだった。
慌ただしい荷造りの光景を眺めながら、ルームメイトのアソーカ・タノは口を尖らせていた。
「いつまで帰るつもり?」
「表向きはセレノーの分離主義勢力の調停だから、当分は戻らないと思う。お父様の話では半月程の猶予を頂けたみたいよ」
「半月かぁ……変なことが起きて強制帰還にならないことを祈ってるね」
「縁起でもない。あり得そうなこと言わないでよ」
アンヌはふと、カバンにライトセイバーとブリーフィング用の小型端末を積めるかどうかを迷った。アソーカがその様子を見て、こんなアドバイスをした。
「持っていきなよ!ほら、万が一の用心ってやつ」
「なるほど」
アンヌはにこりと笑って、アソーカが差し出した端末を受け取った。すると丁度その時、外からドゥークーの声がした。
「アンヌ、そろそろ行くぞ」
「はぁい!」
アンヌはスーツケース一個に収まった少ない荷物と共に立ち上がり、部屋の戸を開けた。待っていたのは笑顔の優しい父、ドゥークー伯爵だった。
「お土産、よろしく!」
「はいはい。わかったよ」
「やったぁ!」
アソーカに手を振り別れを告げたアンヌは、スーツケースを右手に持ち替え、左手で父の手を握った。少しシミが出来ているその手はとても温かく、大きかった。
「では、帰ろうか」
「うん」
二人は発着ベイに向かって、肩を並べて歩きだした。彼らはどこから見ても、普通の人生を送ってきた仲睦まじい親子のように見える。そして、それがこの親子の望みでもあった。
「お父様、セレノーにはお母様も居るの?」
「無論。首を長くして帰りを待っておろう」
「お母様かぁ……」
どんな人なのだろう。そんな疑問を察してか、ドゥークーは前を見据えながら呟いた。
「優しい人だ。それに綺麗だ」
「お父様は、お母様が好き?」
「ああ。嫌いではない。お前によく似ている」
「そうなんだ!私、ずっとお父様に似ているんだとばかり……」
ドゥークーは失笑しながら、船の操縦席に着いた。座標をセットしながら、彼は昔のことを思い出してこう言った。
「あの人は随分、溌剌とした性格だからな」
「ふぅん……会うのが楽しみになってきた」
「そうか。きっと家も母のことも、気に入ると思うぞ」
伯爵は娘に微笑み、エンジンを始動させた。
こうして、アンヌは久々の小旅行と帰郷へ出発した。
セレノーの伯爵家は、噂以上の豪邸だった。というより、もはや宮殿だった。口を開けたまま玄関に立ち尽くしているアンヌを出迎えたのは、ざっと百人は居そうな使用人たちだった。彼らは一斉にドロイドのように頭を下げると、同じ言葉を発した。
「お帰りなさいませ。旦那様、お嬢様」
「お、お嬢様……?」
「そうだ。お前は私の娘。つまり、伯爵令嬢なのだから」
当惑するアンヌを置いて、メイドがスーツケースを持って屋敷に入っていった。ドゥークーは慣れた様子でホールへ歩きだしている。アンヌは慌てて父の後をついていくと、サロンへと続く廊下を進んだ。すると、数歩も歩かないうちに二人は足を止めた。前方に、ドレスの裾を持ち上げて走ってくる女性が現れたからだ。アンヌは何も言われずとも、そしてフォースで察さずとも、それが母であるとすぐに気付いた。
「ああ……」
その人は声にならない感嘆を漏らし、アンヌの前まで近づいてきた。そして、震える指先で彼女────僅か二歳の時に引き離された娘の頬を撫でた。
「私の……私の……」
アンヌは無言で頷いた。二人の両目には涙が湛えられている。女性は娘を抱きしめると、再会の喜びに一筋の涙を流した。
「アンヌ……ああ……私の可愛いアンヌ……」
「お母様……!」
隣では、ドゥークーが無言で母子の再会を見守っていた。暫くして、ようやく夫の存在に気付いた伯爵夫人は、泣き顔を無理矢理笑顔に変えて頭を下げた。だが、ドゥークーの反応は意外なものだった。彼は妻に少しだけ微笑むと、両手を僅かに広げた。その意味がわからず、夫人は眉をひそめた。すると、ドゥークーは失笑を漏らしながら歩み寄ると、妻と娘を強く抱きしめた。
「アルマ。君には随分と辛い思いをさせたな」
伯爵夫人──アルマと呼ばれたその人は、首を横に振った。
「いえ、きっとあなたもお辛かったはず」
「これからは、家族三人で過ごそう。戦争が終われば、きっとそんな平穏も訪れるはずだ」
アンヌはそれを聞いて、カウンシルに掛け合ってみなければ分からないと言おうとした。だが、喜ぶ母の姿を見ると自然に口が閉じてしまう。そして彼女自身にも、戦争が終わった後でもオーダーに所属する未来が見えなかった。
家族か、民主主義の護り手。いつかはどちらかの決断を迫られることになるのだろうか。そんなことを考えながら、アンヌは故郷と両親という温かな存在に浸るのだった。
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