この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
二章、ジェダイの兵器
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コルサントへ帰還したアナキンとオビ=ワン、そしてアソーカたちは大きな称賛を受けた。インタビューから必死で逃げようとするオビ=ワンに、満更でもなさそうなアナキン。それから、画面の端に少しでも映りたくて背を伸ばすクローン達。アンヌはそんな光景を遠目で眺めていた。すると、一人の記者がグリーヴァスとドゥークーの存在に目を留めた。人間の記者は目敏くドゥークーの方へと駆け寄り、無遠慮にマイクを差し出した。
「……何の真似だね?」
「伯爵!分離主義の看板から一転して、シディアスと仲違いしたことは本当ですか?パルパティーン議長がシディアスであったことを、いつからご存じでしたか!?」
ドゥークーは顔をしかめた。これは特ダネだと思ったのか、更に別の記者たちが押し寄せてくる。
「伯爵!今のお気持ちを!」
「伯爵!こっち向いて!」
ドゥークーは、下らない質問を聞き流しながら歩き去ろうとした。だが、一つだけ聞き捨てならない質問が飛び込んできた。
「伯爵!ジェダイオーダーにはお嬢様がいらっしゃるとか?もう会われましたか?」
「自分の娘を殺していたかもしれない状況を理解しながら、分離主義方であり続けた理由を教えて下さい!」
ドゥークーの表情が硬直する。カチンと音を立てて凍るのが、少し離れたところに居たアナキン達にもわかった。そして、それが伯爵の逆鱗であることを、記者以外の誰もが知っていた。彼は怒りを湛えた視線で、しかし紳士的な口調で返した。
「オーダーとの兼ね合いがある。コメントは控えさせてもらいたい」
「聞いたか!!録音取ったな!今日の特ダネだ!」
記者たちが騒ぐのを見かねて、グリーヴァスが拳を振り上げようとした。ドゥークーは記者たちに呆れながら、将軍の鉄拳を制止した。
だが、報道陣が大喜びをしている中、突然何人かのジェダイが現れた。彼らはジェダイオーダーの紋章を突き出すと、記者たちに指示した。
「ここでのインタビューは禁じられているはずだ。全ての取材データと身分証を提示しなさい」
「何ですって?前は良かったのに?」
「ここ一週間で、法律が改正された。正式に取材許可を取ってからにしなさい」
「ジェダイにそんな権限無いだろうが。元老院を出せ!」
「そうだ!そうだ!」
「止めなさい!」
一歩も譲らない記者たちとジェダイたちが喧騒を繰り広げる中、現れたのはマスター・ウィンドゥだった。彼の圧倒的な威圧感に、一同は静寂を取り戻した。
「ここはジェダイ聖堂に繋がる発着ベイ。喧騒は控えて貰いたい。それから、このことは法に触れているのだから、素直に認めて取材データを出しなさい」
「誰の命令よ。命令元がわからないと、こっちも従えない」
ウィンドゥはため息をつくと、横目でちらりとアンヌを見た。それから、何事も無かったかのように平然と言い放った。
「────お前たちの特ダネに、毎度貢献してくれているブレイン様からの命令だ。従った会社には、今後も有益な情報を、より新鮮な形で提供しようと仰っている」
それを聞いた記者たちは、先程の騒ぎなど無かったかのようにデータを差し出し、すごすごと退散していった。その様子を見届けたアンヌは、拍手をしながらマスター・ウィンドゥに歩み寄った。
「素晴らしいわ、マスター・ウィンドゥ。やっぱり、こういう目で物を言わせる仕事は、あなたで無くちゃ困るわね」
「それはどうも、ブレイン殿」
ドゥークーは娘を見て、オビ=ワンたち同様に目を丸くした。実は父に報道陣が気づいたときに、アンヌはウィンドゥに連絡をしていたのだ。親子揃ってとんでもない策略家だと内心で呆れるウィンドゥに、彼女は鋭い口調を投げ掛けた。
「────その策略に散々手間取って、シディアスを逃がしたのは何方かしら」
ウィンドゥはアンヌを驚嘆の目で見た。彼女は意地悪な笑みを浮かべると、父の手を取った。
「行きましょう。私が夕食を作るね」
「そうか!それは楽しみだ」
嬉しそうなドゥークーの隣で、アソーカが頬を膨らませた。
「いいなー!!私も食べたいなぁ……食堂、不味いもん」
「ごもっともだ。僕が評議員になったら、まずは食堂問題から改善するね」
アナキンはわざとウィンドゥに聞こえるような声で、強烈な嫌味を言った。もちろん、彼は眉をひそめた。アソーカがそれに便乗して、アナキンにウィンクしながら付け足す。
「あと、空調も忘れないでね」
見かねたオビ=ワンは、アソーカとアナキンの背中を掌で叩いた。
「二人とも。謙虚さを忘れるな。それからアンヌ。傲慢はダークサイドの道だぞ」
すると、ドゥークーが突然失笑を始めた。オビ=ワンはあからさまに不快そうな表情で、弟子の父にしてかつての宿敵を見た。
「何がおかしいんですか」
「ふん。弟子を親に取られたからと言って、嫉妬するのもダークサイドへの道ではないのかね?」
「伯爵!」
ドゥークーは高笑いをしながら、そのまま去っていってしまった。アナキンも、一本とられましたねと言いたげにオビ=ワンを見ている。
「全く……」
呆れてものも言えないオビ=ワンの隣に、深刻な顔をしたウィンドゥが並んだ。
「一度、あの親子については評議会に召集するつもりだ」
「ええ、そうしてください!あれでは規律が崩されてしまいします」
「父親が娘と親しくするなっていう規律ですか?」
「アナキン!」
アナキンは肩をすくめると、アソーカと共にいそいそとその場を後にした。残されたグリーヴァスは、ただ一人オビ=ワンを眺めている。視線を感じたケノービは、サイボーグ将軍を睨み付けた。
「こっちを見るな!」
「……愚かなジェダイめ。おい、スキンヘッドのジェダイ。俺のコレクションを返せ」
スキンヘッドのジェダイ──メイス・ウィンドゥは、師弟揃って厚かましい"元"分離主義者の司令官を見上げた。
「悪いが、それは出来ない」
「何だと?だったら俺にどうやって戦えと言うのだ!」
「今度は呼吸器を粉砕してやろうか?」
グリーヴァスはウィンドゥの凄みに負け、うなり声を上げながらドゥークーが向かった方へと歩きだした。オビ=ワンとウィンドゥは肩をすくめると、今後の進退についての話し合いが急務であると思うのだった。
アンヌの部屋は、美味しそうな夕食の香りが充満していた。彼女はレストランを営むデックスから余り物の食材を引き取って、毎日自分で料理をしているのだ。今日の食材は、ステーキブロックの切れ端で作るサイコロステーキ"もどき"らしい。
「うわぁ……マジで美味しそう!匂いだけで満腹ってやつだよ」
まだテーブルの上には何も出されていないというのに、アソーカは既に準備万端だった。向かいに座っていたドゥークーは、その様子を見て失笑している。
「スカイウォーカーは、君が私の元へ出入りするのを快く許したのかね?」
「ううん、怒ると思う。でもね、スカぴょんの雷が怖くて腹ごしらえは出来ないよ」
「なるほど」
「それに、私の友達のパパは私の善き知り合いだもんね」
上機嫌にそう言うアソーカの頭を、アンヌがフライパンを取り出しながら小突いた。
「痛いって!」
「調子に乗らないの。ついこの間まで、散々悪口言ってたくせに」
「だってぇ!アンヌのパパって知らなかったもん」
頬を膨らませるアソーカに、ドゥークーは優しい笑顔を向けた。
「気にすることはないよ、アンヌ。これでも、ジェダイ聖堂に居た頃は、皆のお父さんだったからね」
「やっぱそうなんだぁ!!あー、いいなぁ、アンヌは。こんなに優しいパパが居るんだから」
アンヌは照れ臭そうに笑いながら、誤魔化すようにステーキを盛り付けた。豪勢とは言えないが、美味しそうなサラダも一緒に付いている。
「どうぞ、召し上がれ。……と言っても、お父様が口にされるお肉の方がよっぽど上質だと思いますけど……」
「いや、娘が作ってくれたものなら、何でも三ツ星になるものだ」
そう言って、ドゥークーはステーキを一口味わった。お世辞にも質が良い肉とは言えない。むしろ、人生で食べたステーキ肉の中では最悪の部類に入る。だが、彼の人生で最高に美味しいステーキだった。
「うん、美味しい。焼き加減が絶妙だ」
「本当?ありがとう!」
アンヌも口にステーキを頬張り、満面の笑みを浮かべた。ドゥークーが顔をあげて娘の方を見ると、彼女が泣いていることに気づいた。
「……どうしたんだね?さっきの怪我が痛むのか?」
「ううん、違うよ。私にも、家族が居たんだなぁ……って」
それを聞いて、ドゥークーは自分の幼い頃を思い出した。
『良いかな、ドゥークー。お前は今日からジェダイ聖堂で暮らすことになる。家族のことは……』
『覚えていません、マスター・ヨーダ』
『何と?』
『忘れてしまいましたので』
あっさりと断言されたのが意外だったようで、ヨーダは一瞬困惑した。ドゥークーは、親に捨てられた子供だった。両親は冷淡であまりに大人びている彼を恐れ、扱いに困っていた。そこへ丁度、フォースセンテンシヴであることが判明し、彼はそのまま聖堂へ預けられた。
だから、娘には同じ辛さを味わせたく無かったのに。
ドゥークーは立ち上がると、思わず娘を強く抱きしめた。突然のことに驚くアンヌは、父の腕の中で目を丸くしている。
「お、お父様?」
「済まなかった、アンヌ。お前の手を離したことを、今でも後悔している。許してほしい」
肩を震わせてそう言うドゥークーの背中に腕を回したアンヌは、首を横に振った。
「ううん、私は後悔してないよ。だって、マスターや、スカイウォーカー、それにアソーカに出会えなかったかもしれないもの。お父様とは、今こうして一緒にいる。だから……お父様もどうか、自分のなさったことを責めたりしないで」
アンヌの言葉に、ドゥークーは微笑んだ。その光景を見ていたアソーカは、自分にも銀河のどこかに家族が居るのだろうかと思うのだった。
翌朝、評議会の場に呼び出されたアンヌとドゥークーは、カウンシル・ルームの前で待機していた。二人とも、粗方の察しはついていた。
「お父様、あの……」
「心配はない。オーダーは君を必要としている。切られるとすれば、この私の方だ」
「だから心配なんです」
ドゥークーは不安を露にするアンヌの頭を優しく撫でた。
「大丈夫。堂々としていなさい。奴等の前では娘としてではなく、ブレインとして冷静でありなさい。それがオーダー。それが立派なジェダイ足らしめるものだ」
「……はい」
ドゥークーはどんな処断でも、甘んじて受ける覚悟はできていた。死を選べと言われても、喜んで命を差し出すつもりだった。
娘を娘と呼べずに過ごす偽りの日々よりは、ずっと幸せだ。
カウンシル・ルームの扉が開く。評議員たちの視線が、一斉に二人に注がれる。アンヌとドゥークーは部屋の中央に進むと、グランド・マスターのヨーダ、そしてメイス・ウィンドゥに頭を下げた。
「お呼びでしょうか」
「ああ。君たちが親子であることは、既に周知の事実となった。しかし、君も知っている通り、ジェダイは所属も所有も不可能だ」
アンヌは、何を当然のことを言っているのかと言いたげな顔をした。だが、聞きなれた言葉であるはずなのに、何故かこの時は違和感を覚えた。
本当に、何も持たない人生などあり得るのだろうか。
産まれて来たときは、愛情があろうがなかろうが親がいる。つまり、否が応でも保護者の下に所属する。そして、ジェダイオーダーに所属した後も、マスターやナイトといった称号を所有する。
全ては無である。あるとき、古いジェダイの書物を読んでいるとそんな言葉を目にした。しかし、目の前のジェダイたちはこう言う。死はない。フォースがある、と。
「アンヌ、聞いているのか」
「はい、聞いております」
ウィンドゥの鋭い声で、アンヌは我に返った。非常に短い時間だった思案の時だが、まるで千年の歳月をも凌駕しているかのような感覚だった。そこで彼女を包んでいたのは、心地い闇だった。無は、彼女の中では光ではなく闇だった。
そんな思考を巡らせているとは知らないウィンドゥは、話し合いの報告を続けた。
「ドゥークー伯爵を、コルサントから追放すべきという結論に至った。そして、君は二度と父に会ってはならないし、父と呼んではならないし、思い出すことも止めなさい」
ドゥークーは絶句した。それは、究極の生き地獄だった。彼は娘の手を掴んで、今すぐここから連れ戻したいと切に思った。だが隣に佇んでいた娘は、静かに顔をあげた。彼女はしっかりとマスター・ウィンドゥとヨーダを見据え、口を開いた。
「それは、不可能なことです」
「何だと?オーダーに逆らう気か?」
「いいえ、マスター・ウィンドゥ。戦略的に不可能だと言うことです」
意外な反応に、一同は困惑した。もちろん、ドゥークーも目を丸くしている。
「あなた方の目的は、常にダース・シディアスを捕らえることでした。しかし、現在わかっている彼の全容は、パルパティーンと同一人物であることのみ。我らに情報分析の上で勝ち目はありません。ですが、この男はどうでしょう?」
アンヌ────ブレインはドゥークーを指差した。
「この男は、かつてダース・ティラナスと呼ばれたシスにして、シディアスの弟子だった。彼から得られる情報は、我らの役に立つはず。そして、私の戦略に彼の情報を融合させることこそが、今後の戦況を変える切り札なのです」
正論に誰もが唸る中、ウィンドゥが立ち上がった。
「この男は、捨て駒だった。そんな輩が有力な情報を持っているはずは……」
「その捨て駒に、オーダー66計画とシスの正体を教えてもらったのは何方?」
アンヌは自信ありげな表情で、一言も言い返せないウィンドゥを見た。ジェダイオーダー始まって以来初めて、評議会の決議がひっくり返される瞬間だった。ヨーダは議席についたまま、沈黙の中で笑った。アンヌは立ち尽くしたまま自分を睨み付けてくるウィンドゥに微笑んだ。
「残念ながら、私の主張は、オーダーのどの部分も侵害していません。むしろ有益かと」
彼女はウィンドゥに近づくと、冷ややかな視線でその顔を見上げた。
「私の粗捜しをされたいのなら、趣向をお変えになってみたら?」
「お前……!」
「では、今後も伯爵がコルサントに留まることは、許可いただけるということで構いませんか?」
無言でウィンドゥが席につく。答えが出た。アンヌは満足げに微笑むと、一礼して父と共に退室した。残された評議員たちは、唖然としながら扉の向こうへと消えていくアンヌの背中を眺めていた。
廊下に出たドゥークーは、一切動じない娘を案じた。彼はアンヌを慌てて追いかけ、腕をつかんだ。
「アンヌ!評議員を打ち負かすなど、私やクワイ=ガンでさえしたことは無いぞ」
「ええ、でしょうね。ですが、これが私の仕事なのです」
アンヌは平然と言い放つと、階下で訓練を受けている子供たちを見ながら続けた。
「私は、他のジェダイとは違うんです。私は……白を黒に、黒を白に変えるために生きているんです」
ドゥークーは、娘の瞳から感情が脱落していることに気づいた。まるで幽体離脱したかのように、今まで見せていた感情豊かな年齢相応の雰囲気が欠けていた。
「私は、戦術ドロイド。誰かがオーダーを破らなければならなかったこの戦争で、ジェダイが自らの手で生み出した兵器です」
ドゥークーは、考えるよりも先に体が動いていたことに驚いた。彼はいつの間にか、しっかりと娘を抱きしめて頭を優しく包み込んでいた。
「辛かったのだな……」
「いえ、痛みなんて感じなくなりました。でも、まぁ……」
アンヌは目を閉じて、父親の温もりに身を委ねた。瞳は何故か熱かった。
「こういう気持ちを……悲しいって、言うのかな」
「もう、何も言わなくていい。いつか言いたくなったその時で構わない。私は待てるさ。何故ならば────」
ドゥークーは深呼吸しながら、もっと強くアンヌを抱きしめた。
「私は、君の父だから」
何故か、この言葉がとても心地よかった。そして、何よりも安心できた。アンヌは父に寄り掛かり、少しだけいつものように微笑んだ。
その様子を見ていたグリーヴァスは、目を細めた。
「……理解できん」
司令官が、心を痛めることなどあるものか。損失は数字。所詮は統計にしかすぎん。敗北すれば、全てがゼロになる。敗者の言い分など、ゴミ屑同然。
それなのに。グリーヴァスは突然胸が苦しくなって、柱に寄りかかった。更に、また例の脳回路がショートしそうな激痛が襲ってきた。
「何なんだ……これは!」
グリーヴァスは唸った。この時、彼はまだ気づいていなかった。彼が手術で失ったはずの感情が、僅かながら目を覚まし始めたことを。そしてこのバグとも呼べる変化が、誰も想像していなかった未来への序章であることを。
「……何の真似だね?」
「伯爵!分離主義の看板から一転して、シディアスと仲違いしたことは本当ですか?パルパティーン議長がシディアスであったことを、いつからご存じでしたか!?」
ドゥークーは顔をしかめた。これは特ダネだと思ったのか、更に別の記者たちが押し寄せてくる。
「伯爵!今のお気持ちを!」
「伯爵!こっち向いて!」
ドゥークーは、下らない質問を聞き流しながら歩き去ろうとした。だが、一つだけ聞き捨てならない質問が飛び込んできた。
「伯爵!ジェダイオーダーにはお嬢様がいらっしゃるとか?もう会われましたか?」
「自分の娘を殺していたかもしれない状況を理解しながら、分離主義方であり続けた理由を教えて下さい!」
ドゥークーの表情が硬直する。カチンと音を立てて凍るのが、少し離れたところに居たアナキン達にもわかった。そして、それが伯爵の逆鱗であることを、記者以外の誰もが知っていた。彼は怒りを湛えた視線で、しかし紳士的な口調で返した。
「オーダーとの兼ね合いがある。コメントは控えさせてもらいたい」
「聞いたか!!録音取ったな!今日の特ダネだ!」
記者たちが騒ぐのを見かねて、グリーヴァスが拳を振り上げようとした。ドゥークーは記者たちに呆れながら、将軍の鉄拳を制止した。
だが、報道陣が大喜びをしている中、突然何人かのジェダイが現れた。彼らはジェダイオーダーの紋章を突き出すと、記者たちに指示した。
「ここでのインタビューは禁じられているはずだ。全ての取材データと身分証を提示しなさい」
「何ですって?前は良かったのに?」
「ここ一週間で、法律が改正された。正式に取材許可を取ってからにしなさい」
「ジェダイにそんな権限無いだろうが。元老院を出せ!」
「そうだ!そうだ!」
「止めなさい!」
一歩も譲らない記者たちとジェダイたちが喧騒を繰り広げる中、現れたのはマスター・ウィンドゥだった。彼の圧倒的な威圧感に、一同は静寂を取り戻した。
「ここはジェダイ聖堂に繋がる発着ベイ。喧騒は控えて貰いたい。それから、このことは法に触れているのだから、素直に認めて取材データを出しなさい」
「誰の命令よ。命令元がわからないと、こっちも従えない」
ウィンドゥはため息をつくと、横目でちらりとアンヌを見た。それから、何事も無かったかのように平然と言い放った。
「────お前たちの特ダネに、毎度貢献してくれているブレイン様からの命令だ。従った会社には、今後も有益な情報を、より新鮮な形で提供しようと仰っている」
それを聞いた記者たちは、先程の騒ぎなど無かったかのようにデータを差し出し、すごすごと退散していった。その様子を見届けたアンヌは、拍手をしながらマスター・ウィンドゥに歩み寄った。
「素晴らしいわ、マスター・ウィンドゥ。やっぱり、こういう目で物を言わせる仕事は、あなたで無くちゃ困るわね」
「それはどうも、ブレイン殿」
ドゥークーは娘を見て、オビ=ワンたち同様に目を丸くした。実は父に報道陣が気づいたときに、アンヌはウィンドゥに連絡をしていたのだ。親子揃ってとんでもない策略家だと内心で呆れるウィンドゥに、彼女は鋭い口調を投げ掛けた。
「────その策略に散々手間取って、シディアスを逃がしたのは何方かしら」
ウィンドゥはアンヌを驚嘆の目で見た。彼女は意地悪な笑みを浮かべると、父の手を取った。
「行きましょう。私が夕食を作るね」
「そうか!それは楽しみだ」
嬉しそうなドゥークーの隣で、アソーカが頬を膨らませた。
「いいなー!!私も食べたいなぁ……食堂、不味いもん」
「ごもっともだ。僕が評議員になったら、まずは食堂問題から改善するね」
アナキンはわざとウィンドゥに聞こえるような声で、強烈な嫌味を言った。もちろん、彼は眉をひそめた。アソーカがそれに便乗して、アナキンにウィンクしながら付け足す。
「あと、空調も忘れないでね」
見かねたオビ=ワンは、アソーカとアナキンの背中を掌で叩いた。
「二人とも。謙虚さを忘れるな。それからアンヌ。傲慢はダークサイドの道だぞ」
すると、ドゥークーが突然失笑を始めた。オビ=ワンはあからさまに不快そうな表情で、弟子の父にしてかつての宿敵を見た。
「何がおかしいんですか」
「ふん。弟子を親に取られたからと言って、嫉妬するのもダークサイドへの道ではないのかね?」
「伯爵!」
ドゥークーは高笑いをしながら、そのまま去っていってしまった。アナキンも、一本とられましたねと言いたげにオビ=ワンを見ている。
「全く……」
呆れてものも言えないオビ=ワンの隣に、深刻な顔をしたウィンドゥが並んだ。
「一度、あの親子については評議会に召集するつもりだ」
「ええ、そうしてください!あれでは規律が崩されてしまいします」
「父親が娘と親しくするなっていう規律ですか?」
「アナキン!」
アナキンは肩をすくめると、アソーカと共にいそいそとその場を後にした。残されたグリーヴァスは、ただ一人オビ=ワンを眺めている。視線を感じたケノービは、サイボーグ将軍を睨み付けた。
「こっちを見るな!」
「……愚かなジェダイめ。おい、スキンヘッドのジェダイ。俺のコレクションを返せ」
スキンヘッドのジェダイ──メイス・ウィンドゥは、師弟揃って厚かましい"元"分離主義者の司令官を見上げた。
「悪いが、それは出来ない」
「何だと?だったら俺にどうやって戦えと言うのだ!」
「今度は呼吸器を粉砕してやろうか?」
グリーヴァスはウィンドゥの凄みに負け、うなり声を上げながらドゥークーが向かった方へと歩きだした。オビ=ワンとウィンドゥは肩をすくめると、今後の進退についての話し合いが急務であると思うのだった。
アンヌの部屋は、美味しそうな夕食の香りが充満していた。彼女はレストランを営むデックスから余り物の食材を引き取って、毎日自分で料理をしているのだ。今日の食材は、ステーキブロックの切れ端で作るサイコロステーキ"もどき"らしい。
「うわぁ……マジで美味しそう!匂いだけで満腹ってやつだよ」
まだテーブルの上には何も出されていないというのに、アソーカは既に準備万端だった。向かいに座っていたドゥークーは、その様子を見て失笑している。
「スカイウォーカーは、君が私の元へ出入りするのを快く許したのかね?」
「ううん、怒ると思う。でもね、スカぴょんの雷が怖くて腹ごしらえは出来ないよ」
「なるほど」
「それに、私の友達のパパは私の善き知り合いだもんね」
上機嫌にそう言うアソーカの頭を、アンヌがフライパンを取り出しながら小突いた。
「痛いって!」
「調子に乗らないの。ついこの間まで、散々悪口言ってたくせに」
「だってぇ!アンヌのパパって知らなかったもん」
頬を膨らませるアソーカに、ドゥークーは優しい笑顔を向けた。
「気にすることはないよ、アンヌ。これでも、ジェダイ聖堂に居た頃は、皆のお父さんだったからね」
「やっぱそうなんだぁ!!あー、いいなぁ、アンヌは。こんなに優しいパパが居るんだから」
アンヌは照れ臭そうに笑いながら、誤魔化すようにステーキを盛り付けた。豪勢とは言えないが、美味しそうなサラダも一緒に付いている。
「どうぞ、召し上がれ。……と言っても、お父様が口にされるお肉の方がよっぽど上質だと思いますけど……」
「いや、娘が作ってくれたものなら、何でも三ツ星になるものだ」
そう言って、ドゥークーはステーキを一口味わった。お世辞にも質が良い肉とは言えない。むしろ、人生で食べたステーキ肉の中では最悪の部類に入る。だが、彼の人生で最高に美味しいステーキだった。
「うん、美味しい。焼き加減が絶妙だ」
「本当?ありがとう!」
アンヌも口にステーキを頬張り、満面の笑みを浮かべた。ドゥークーが顔をあげて娘の方を見ると、彼女が泣いていることに気づいた。
「……どうしたんだね?さっきの怪我が痛むのか?」
「ううん、違うよ。私にも、家族が居たんだなぁ……って」
それを聞いて、ドゥークーは自分の幼い頃を思い出した。
『良いかな、ドゥークー。お前は今日からジェダイ聖堂で暮らすことになる。家族のことは……』
『覚えていません、マスター・ヨーダ』
『何と?』
『忘れてしまいましたので』
あっさりと断言されたのが意外だったようで、ヨーダは一瞬困惑した。ドゥークーは、親に捨てられた子供だった。両親は冷淡であまりに大人びている彼を恐れ、扱いに困っていた。そこへ丁度、フォースセンテンシヴであることが判明し、彼はそのまま聖堂へ預けられた。
だから、娘には同じ辛さを味わせたく無かったのに。
ドゥークーは立ち上がると、思わず娘を強く抱きしめた。突然のことに驚くアンヌは、父の腕の中で目を丸くしている。
「お、お父様?」
「済まなかった、アンヌ。お前の手を離したことを、今でも後悔している。許してほしい」
肩を震わせてそう言うドゥークーの背中に腕を回したアンヌは、首を横に振った。
「ううん、私は後悔してないよ。だって、マスターや、スカイウォーカー、それにアソーカに出会えなかったかもしれないもの。お父様とは、今こうして一緒にいる。だから……お父様もどうか、自分のなさったことを責めたりしないで」
アンヌの言葉に、ドゥークーは微笑んだ。その光景を見ていたアソーカは、自分にも銀河のどこかに家族が居るのだろうかと思うのだった。
翌朝、評議会の場に呼び出されたアンヌとドゥークーは、カウンシル・ルームの前で待機していた。二人とも、粗方の察しはついていた。
「お父様、あの……」
「心配はない。オーダーは君を必要としている。切られるとすれば、この私の方だ」
「だから心配なんです」
ドゥークーは不安を露にするアンヌの頭を優しく撫でた。
「大丈夫。堂々としていなさい。奴等の前では娘としてではなく、ブレインとして冷静でありなさい。それがオーダー。それが立派なジェダイ足らしめるものだ」
「……はい」
ドゥークーはどんな処断でも、甘んじて受ける覚悟はできていた。死を選べと言われても、喜んで命を差し出すつもりだった。
娘を娘と呼べずに過ごす偽りの日々よりは、ずっと幸せだ。
カウンシル・ルームの扉が開く。評議員たちの視線が、一斉に二人に注がれる。アンヌとドゥークーは部屋の中央に進むと、グランド・マスターのヨーダ、そしてメイス・ウィンドゥに頭を下げた。
「お呼びでしょうか」
「ああ。君たちが親子であることは、既に周知の事実となった。しかし、君も知っている通り、ジェダイは所属も所有も不可能だ」
アンヌは、何を当然のことを言っているのかと言いたげな顔をした。だが、聞きなれた言葉であるはずなのに、何故かこの時は違和感を覚えた。
本当に、何も持たない人生などあり得るのだろうか。
産まれて来たときは、愛情があろうがなかろうが親がいる。つまり、否が応でも保護者の下に所属する。そして、ジェダイオーダーに所属した後も、マスターやナイトといった称号を所有する。
全ては無である。あるとき、古いジェダイの書物を読んでいるとそんな言葉を目にした。しかし、目の前のジェダイたちはこう言う。死はない。フォースがある、と。
「アンヌ、聞いているのか」
「はい、聞いております」
ウィンドゥの鋭い声で、アンヌは我に返った。非常に短い時間だった思案の時だが、まるで千年の歳月をも凌駕しているかのような感覚だった。そこで彼女を包んでいたのは、心地い闇だった。無は、彼女の中では光ではなく闇だった。
そんな思考を巡らせているとは知らないウィンドゥは、話し合いの報告を続けた。
「ドゥークー伯爵を、コルサントから追放すべきという結論に至った。そして、君は二度と父に会ってはならないし、父と呼んではならないし、思い出すことも止めなさい」
ドゥークーは絶句した。それは、究極の生き地獄だった。彼は娘の手を掴んで、今すぐここから連れ戻したいと切に思った。だが隣に佇んでいた娘は、静かに顔をあげた。彼女はしっかりとマスター・ウィンドゥとヨーダを見据え、口を開いた。
「それは、不可能なことです」
「何だと?オーダーに逆らう気か?」
「いいえ、マスター・ウィンドゥ。戦略的に不可能だと言うことです」
意外な反応に、一同は困惑した。もちろん、ドゥークーも目を丸くしている。
「あなた方の目的は、常にダース・シディアスを捕らえることでした。しかし、現在わかっている彼の全容は、パルパティーンと同一人物であることのみ。我らに情報分析の上で勝ち目はありません。ですが、この男はどうでしょう?」
アンヌ────ブレインはドゥークーを指差した。
「この男は、かつてダース・ティラナスと呼ばれたシスにして、シディアスの弟子だった。彼から得られる情報は、我らの役に立つはず。そして、私の戦略に彼の情報を融合させることこそが、今後の戦況を変える切り札なのです」
正論に誰もが唸る中、ウィンドゥが立ち上がった。
「この男は、捨て駒だった。そんな輩が有力な情報を持っているはずは……」
「その捨て駒に、オーダー66計画とシスの正体を教えてもらったのは何方?」
アンヌは自信ありげな表情で、一言も言い返せないウィンドゥを見た。ジェダイオーダー始まって以来初めて、評議会の決議がひっくり返される瞬間だった。ヨーダは議席についたまま、沈黙の中で笑った。アンヌは立ち尽くしたまま自分を睨み付けてくるウィンドゥに微笑んだ。
「残念ながら、私の主張は、オーダーのどの部分も侵害していません。むしろ有益かと」
彼女はウィンドゥに近づくと、冷ややかな視線でその顔を見上げた。
「私の粗捜しをされたいのなら、趣向をお変えになってみたら?」
「お前……!」
「では、今後も伯爵がコルサントに留まることは、許可いただけるということで構いませんか?」
無言でウィンドゥが席につく。答えが出た。アンヌは満足げに微笑むと、一礼して父と共に退室した。残された評議員たちは、唖然としながら扉の向こうへと消えていくアンヌの背中を眺めていた。
廊下に出たドゥークーは、一切動じない娘を案じた。彼はアンヌを慌てて追いかけ、腕をつかんだ。
「アンヌ!評議員を打ち負かすなど、私やクワイ=ガンでさえしたことは無いぞ」
「ええ、でしょうね。ですが、これが私の仕事なのです」
アンヌは平然と言い放つと、階下で訓練を受けている子供たちを見ながら続けた。
「私は、他のジェダイとは違うんです。私は……白を黒に、黒を白に変えるために生きているんです」
ドゥークーは、娘の瞳から感情が脱落していることに気づいた。まるで幽体離脱したかのように、今まで見せていた感情豊かな年齢相応の雰囲気が欠けていた。
「私は、戦術ドロイド。誰かがオーダーを破らなければならなかったこの戦争で、ジェダイが自らの手で生み出した兵器です」
ドゥークーは、考えるよりも先に体が動いていたことに驚いた。彼はいつの間にか、しっかりと娘を抱きしめて頭を優しく包み込んでいた。
「辛かったのだな……」
「いえ、痛みなんて感じなくなりました。でも、まぁ……」
アンヌは目を閉じて、父親の温もりに身を委ねた。瞳は何故か熱かった。
「こういう気持ちを……悲しいって、言うのかな」
「もう、何も言わなくていい。いつか言いたくなったその時で構わない。私は待てるさ。何故ならば────」
ドゥークーは深呼吸しながら、もっと強くアンヌを抱きしめた。
「私は、君の父だから」
何故か、この言葉がとても心地よかった。そして、何よりも安心できた。アンヌは父に寄り掛かり、少しだけいつものように微笑んだ。
その様子を見ていたグリーヴァスは、目を細めた。
「……理解できん」
司令官が、心を痛めることなどあるものか。損失は数字。所詮は統計にしかすぎん。敗北すれば、全てがゼロになる。敗者の言い分など、ゴミ屑同然。
それなのに。グリーヴァスは突然胸が苦しくなって、柱に寄りかかった。更に、また例の脳回路がショートしそうな激痛が襲ってきた。
「何なんだ……これは!」
グリーヴァスは唸った。この時、彼はまだ気づいていなかった。彼が手術で失ったはずの感情が、僅かながら目を覚まし始めたことを。そしてこのバグとも呼べる変化が、誰も想像していなかった未来への序章であることを。