この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
一章、ストレンジ・ラック
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
クリストフシス地表、指令室。ブラスターの雨が飛び交う外とは対称的に、シールドで守られているそこは正に聖域だった。そんな場所で、二人の人物が戦略モニターを睨んでいる。
二人の司令官────ブレインことアンヌ・トワイラスとグリーヴァス将軍は、それぞれの指揮部隊の無線に応じながら、的確な指示を出し続けていた。
「レックス。右に散開して」
『イェッサー!』
「ケノービ、今の状況を報告しろ」
『援軍要請が必要だ!このままでは第二基地のシールドが破壊される。ドゥークー伯爵の部隊が持ちこたえている!』
『私のところは構わん。212アタック・バタリオンに援軍要請だ』
「承知した」
グリーヴァスは、援軍要請のコードを送信した。と言っても、援軍の送り元は司令部で待機している第二部隊たちだ。アンヌは戦況に顔をしかめ、グリーヴァスを見た。
「数が足りない。このままじゃ、圧しきられてしまう」
「分かっとるわ。それを考えるのが、我々の仕事であろう」
グリーヴァスは脳内に埋め込まれている演算処理機能を使って、素早く残り時間を計算した。それから、叩き出された数値を周りに知られないようにアンヌに耳打ちした。聞き終わった彼女は、サイボーグ将軍をまじまじと見返した。
「……嫌な予感がする」
「コルサントからの援軍が到着すれば、俺たちの勝ちだ」
「到着しなければ?」
グリーヴァスは非常脱出扉を指差して笑った。アンヌはそれを見て大方の意味を悟った。
「……なるほど」
それから、二人は再びそれぞれの職務に戻った。
アンヌとグリーヴァス。戦場において、二人は最強のコンビだった。彼らが直々に指令を担当する戦いは、ほとんど負け知らずと言っても過言ではなかった。いつからか、二人のことをジェダイとクローンたちは「ストレンジ・ラック(奇妙な幸運)」と呼ぶようになっていった。と言うのも、この二人は戦場以外ではしょっちゅう小競り合いを行っているからだ。もはやそれも含めて、二人はコルサントの名物と化していた。
「グリーヴァス!」
「何だ」
「どう戦うつもりなの?」
「何が」
「シールドが破られたら。プランを聞かせて」
グリーヴァスは迷わず、アンヌの言葉を鼻で笑った。
「あり得ん。この状況でシールドが破られるなど」
「へぇ。私なら、そこまで考えるけどね」
一本とられた。グリーヴァスは呻き声を上げながらアンヌを睨み付けた。
「では、お前のプランを聞かせてもらおう」
ブレインは満足げに笑うと、戦略マップを拡大した。
「シールドが破られたら、即座に撤収。本部は放棄する」
「ほう……」
「でも、単に放棄するんじゃない。占領部隊が完全に到着したら、予めここに仕掛けておいた爆弾を炸裂。ドカーンってね。名付けてグリーヴァス戦法、逃げるが勝ちよ」
グリーヴァスはアンヌのネーミングセンスに、思わず失笑した。しかし、すぐに人工気管支の問題でむせてしまう。苦しそうなグリーヴァスを覗きこみ、アンヌは背中をさすった。
「大丈夫?いつも苦しそうだけど……」
「呼吸器だけは……ゴホッ……試作品だった……ゴハッ……らしい」
「そうなんだ……」
「それだけではないぞ。メイス・ウィンドゥのフォースプッシュが、このポンコツに追い討ちをかけた」
「あら……」
グリーヴァスはアンヌが背中をさすってくれていることに気づき、当惑の眼差しを向けた。彼女は優しかった。そして、どこか懐かしいものだった。しかし、一体それは何だったのか。
突然、グリーヴァスを激しい頭痛が襲った。脳に埋め込まれた回路の電流が急速に逆流するかのような痛みだった。だが、彼がアンヌを振り払うように立ち上がると、痛みも自然と収まった。
一体、今のは何だったのだろう。グリーヴァスが顔をしかめた時だった。突然指令室が大きく揺れ、警告音が鳴り始めた。
「何事!?」
床に伏せたアンヌとグリーヴァスの元に、クローンコマンダーが駆け込んできた。緊急事態であることは言われずともわかる。
「ブレイン!グリーヴァス将軍!早くお逃げください」
「状況を説明しろ!馬鹿め!」
「グリーヴァス、大変よ」
アンヌはクローンコマンダーを掴んでいるグリーヴァスに叫んだ。クローンを離した将軍は、戦術モニターを見て絶句した。
「……グリーヴァス戦法、逃げるが勝ちを実行すべきだな」
「ええ。絶好のタイミングね」
アンヌは機密情報が入ったデータベースを取り外すと、指令室を飛び出した。
「司令部を捨てて撤退せよ!」
「我らはドロイドとは違う!最後まで戦う!」
「ブレインの命令だ!あいつの考えに従え!」
コマンダーは渋々部下たちに撤退を命じた。グリーヴァスもクローン兵たちと共に逃げようと準備を始めた。ところが、アンヌは彼をフォースで引き留めて微笑んだ。
「ダメ。私たちはしんがりを務めるの」
そう言うと、アンヌはライトセイバーを起動させて構えた。グリーヴァスもため息をついたあと、エレクトロスタッフを起動させ、部隊の撤退までの時間を稼ぐべく歩き出した。
司令部への奇襲は、オビ=ワンとドゥークーの視界にも飛び込んできた。無線が錯綜し、二人の司令官の生死──特にアンヌについての情報が二転三転した。ドゥークーは居ても立ってもいられず、オビ=ワンからコムリンクを奪って娘の安否を呼び掛けた。
『司令部!司令部!聞こえるか!』
『駄目だ!指令室も撤退した!』
「コマンダー!アンヌは無事なのか!?」
『アンヌ殿は……ガッ……ピピ……です……』
「聞こえんぞ!おい!聞いておるのか!?」
司令と戦地の情報共有を断つべく、敵側が電波妨害をしたために、無線はそこで終了した。ドゥークーは苛立ちながら、向かってきたドロイドを叩き斬った。
「伯爵。集中してください」
「娘は死なん。必ず生きておるはず」
「ドゥークー伯爵!」
オビ=ワンはため息をついた。娘のこととなると、ドゥークーはいつも冷静さを失うからだ。そのためオビ=ワンは度々、親子揃っての実地入りを反対していた。だが、いつも結局はこうなってしまう。
「娘として思うお気持ちはわかります。ですが、任務中はコントロールしてください!」
「コントロールだと?お前はそれでもジェダイマスターか?」
オビ=ワンはその言葉に面食らってしまった。一体、ドゥークーは何を意図しているのか。
「娘が……私の娘が死ぬはずはない!」
ドゥークーはそう言いながら、またドロイドを倒した。そして、集中砲火に遭っている司令部を振り返り、娘の無事を必死で祈った。
アンヌとグリーヴァスは、限界まで戦い続けていた。二人は内心、撤退完了連絡を心待にしていた。だが、お互いそんなことは尾首にも出さない。
「倒した数、私の方が多いんじゃない?」
「うるさい。俺がライトセイバーを手にしたら、あの軍勢などただのスクラップよ」
と言いながらも、グリーヴァスはアンヌの背後に迫っていたドロイドを倒した。そろそろ撤退したいと思い始めたちょうどその時、通信が入った。
『撤退完了です!』
「了解。グリーヴァス!離脱するわよ」
「実に残念だ」
二人は迫り来るドロイド軍に背を向け、全力疾走を始めた。背後からはブラスターの雨が降り注いでくる。
「ねぇ!いつもこんな感じで逃げてるの!?」
「こうなる前に逃げておるわい!」
グリーヴァスは得意の六足歩行に変化すると、撤退速度を速めた。置いていかれないように、アンヌも必死で走る。
先に撤退完了したのは、グリーヴァスの方だった。彼はそのまま安全地帯まで逃亡しようとしたが、不意にアンヌのことが気になって背後を振り返った。案の定、彼女は逃げるのに手間取っていた。グリーヴァスは本日何度目かのため息をつくと、隣にやって来たクローンのスナイパーライフルを引ったくって構えた。
「そのまま走れ!」
「え!?」
「まっすぐ走れ!……絶対に蛇行はするなよ」
アンヌはグリーヴァスに言われた通りに真っ直ぐ走った。すると、直後に彼のライフルが火を噴いた。
「ちょっと!殺す気!?」
「黙って走れ!」
グリーヴァスの狙いは、アンヌの背後に迫るスーパーバトルドロイドだった。熟練のクローントルーパーであっても仕留めることが難しいターゲットでありながら、彼は正確に射抜き続けている。その腕は、隣で見ていたクローン達が感嘆の声を上げるほどのものだった。
グリーヴァスの援護射撃の甲斐あって、アンヌは何とか脱出することが出来た。彼女は肩で息をしながら、グリーヴァスに起爆装置を手渡した。
「……押せばいいのか?」
「そう。宜しく」
グリーヴァスは満面の笑みを浮かべて、勝利を確信している敵軍を見た。
「破壊行為は好きだ」
そして、ボタンがあっさりと押された。
司令部の大爆発は想像以上に派手なもので、流石のオビ=ワンとアナキンも呆然とした。ドゥークーは何が起きたのかを理解するために、必死で思考を巡らせた。
「アンヌ……アンヌ!!そんな……」
絶望の声を上げるドゥークーの頭上に、援軍を乗せたガンシップが到着した。アソーカ・タノはガンシップから身を乗り出してアナキンたちに手を振った。
「援軍、連れてきたよ!!」
「アソーカ!よくやった!」
嬉しい知らせはそれだけではなかった。クリストフシスの全部隊に、特別回線での通信が入った。
『こちら、アンヌ・トワイラス。敵の本部占圧部隊は全滅。繰り返す、敵の本部占圧部隊は全滅』
「アンヌ!!」
『これより、撤退完了の本部部隊は主力前線部隊と合流する。通信終了』
ドゥークーは娘の声を聞いて安心したのか、ほっと胸を撫で下ろした。それから、どこから沸いてきたのかと問いたくなるほど元気を取り戻し、勇ましくライトセイバーを奮い始めた。
「押し返すのだ!これぞ勝機!」
「オーケー!行くよ、みんな。準備はいい?」
アソーカはガンシップから華麗に飛び降り、前線に加わった。そしてその直後に、アンヌとグリーヴァスが率いるガンシップも到着した。本部部隊がが合流したことで、戦局は一気に好転した。アンヌはマカシの受け流しの動きをしながら、ここまで戦ってくれた仲間たちを見た。
「みんな!お待たせ!」
「随分と派手なことしてくれたじゃないか」
「お父上がご心配されていたぞ、アンヌ」
オビ=ワンの言葉に、アンヌは父を見た。
「お父様。私のことを心配していたら、命が幾つあっても足りないわよ」
アンヌはドゥークーを見ながら笑った。
「だってら、私はブレイン・オブ・ザ・リパブリックだから」
これが、アンヌ・トワイラスことブレインだ。不可能な戦いも可能にし、大敗の兆しも大勝利に変える才能の持ち主。数多の戦に勝利をもたらし、人は彼女を称賛した。しかし、人知れず受けた心の傷を知るものは誰もいない。父親であるドゥークーでさえ見抜けないその傷は、日に日に彼女を侵食し、苦しみを増幅させ続けていた。
だから、彼女は痛みを忘れてしまった。今も右手に金属片が刺さっているが、特に何も感じていない。平静すぎるが故に、誰も気づくことはない。
それが、軍師であることの代償だった。アンヌが軍事機密を守るために受けた訓練は、想像を絶するものだった。もちろん拒絶し、軍師になることを諦めることも出来た。ところが、彼女はそうしなかった。いや、出来なかったのだ。
アンヌは自分の能力に負い目を感じていた。兄弟子よりも多いミディクロリアンを持ちながらも、どんなジェダイより劣る自分を「選ばれし者」として見せるためには、これしかないと確信していたのだ。
制圧が完了したことを報告する無線が響いた。アンヌはほっと胸を撫で下ろした。
終わったのだ。そう思うと、体の力が抜けてくる。アンヌは、一時でも戦いが無い瞬間の方が生きているという実感を覚える質の人物でもあった。
「終わってしまったか。もっとドロイド共を叩き潰したかったのだが……」
「あちら側に居たときは随分叱ったからな。今はむしろ有難い」
一方、グリーヴァスは真逆だった。戦いに赴いている時こそが生きている証であり、戦に身を投じている瞬間こそが人生と感じている男だった。だから、アンヌには理解ができない。普通の女の子の人生に憧れる彼女にとっては、苦痛でしかない時間を楽しめる心境は測りかねるものだった。
そんなことを考えながらコルサントへの報告を端末に打ち込んでいたアンヌの腕を、突然掴む者がいた。
「アンヌ!どうしたんだ、この腕の傷は」
ドゥークーだった。彼はポシェットから薬を取り出すと、手早く娘の患部に振りかけた。それから高価なマントを引き裂いて止血のために腕に巻き、医療キットから鎮痛剤を選んで注射しようとした。だが、それよりも先にアンヌは破片を引き抜いていた。しかも、呻き声の一つも漏らさなかった。
「鎮痛剤を打つべきだ」
「痛みには慣れています」
「駄目だ。どうして親の前でも我慢をするのだね」
「別に、我慢なんてしていません」
「いいや、我慢している。親を馬鹿にするのはやめなさい」
ドゥークー親子のやり取りを横目に、アナキンとアソーカは肩をすくめた。
「また始まった……」
「ドゥーぴょんも、素直に心配してるって言えば良いのに」
「その呼び方、本人の前で言えるんだよな?」
口を尖らせるアソーカに、アナキンは意地悪な笑みを向けた。ドゥーぴょんとは、アソーカがつけた伯爵のあだ名だった。もちろん、本人の前で使ったことはない。
アソーカが反論しようとした時には、既にアンヌとドゥークーの関係は穏やかなものになっていた。むしろ、どこから見ても仲の良い親子だ。
「約18年ぶりに再会したから、きっと距離感がつかめていないんだろう」
オビ=ワンの言うとおりだった。アンヌは父親に、僅かながらも甘えていた。そしてドゥークーは最大限に愛情を注いでいた。
そんな様子を、グリーヴァスは皆とは少し離れた場所で見ていた。彼は目を細めて親子の姿を眺めた。
少しだけ。ほんの少しだけ、心が暖かくなった気がした。そして、その瞳は無意識のうちに穏やかな笑みを浮かべていた。
二人の司令官────ブレインことアンヌ・トワイラスとグリーヴァス将軍は、それぞれの指揮部隊の無線に応じながら、的確な指示を出し続けていた。
「レックス。右に散開して」
『イェッサー!』
「ケノービ、今の状況を報告しろ」
『援軍要請が必要だ!このままでは第二基地のシールドが破壊される。ドゥークー伯爵の部隊が持ちこたえている!』
『私のところは構わん。212アタック・バタリオンに援軍要請だ』
「承知した」
グリーヴァスは、援軍要請のコードを送信した。と言っても、援軍の送り元は司令部で待機している第二部隊たちだ。アンヌは戦況に顔をしかめ、グリーヴァスを見た。
「数が足りない。このままじゃ、圧しきられてしまう」
「分かっとるわ。それを考えるのが、我々の仕事であろう」
グリーヴァスは脳内に埋め込まれている演算処理機能を使って、素早く残り時間を計算した。それから、叩き出された数値を周りに知られないようにアンヌに耳打ちした。聞き終わった彼女は、サイボーグ将軍をまじまじと見返した。
「……嫌な予感がする」
「コルサントからの援軍が到着すれば、俺たちの勝ちだ」
「到着しなければ?」
グリーヴァスは非常脱出扉を指差して笑った。アンヌはそれを見て大方の意味を悟った。
「……なるほど」
それから、二人は再びそれぞれの職務に戻った。
アンヌとグリーヴァス。戦場において、二人は最強のコンビだった。彼らが直々に指令を担当する戦いは、ほとんど負け知らずと言っても過言ではなかった。いつからか、二人のことをジェダイとクローンたちは「ストレンジ・ラック(奇妙な幸運)」と呼ぶようになっていった。と言うのも、この二人は戦場以外ではしょっちゅう小競り合いを行っているからだ。もはやそれも含めて、二人はコルサントの名物と化していた。
「グリーヴァス!」
「何だ」
「どう戦うつもりなの?」
「何が」
「シールドが破られたら。プランを聞かせて」
グリーヴァスは迷わず、アンヌの言葉を鼻で笑った。
「あり得ん。この状況でシールドが破られるなど」
「へぇ。私なら、そこまで考えるけどね」
一本とられた。グリーヴァスは呻き声を上げながらアンヌを睨み付けた。
「では、お前のプランを聞かせてもらおう」
ブレインは満足げに笑うと、戦略マップを拡大した。
「シールドが破られたら、即座に撤収。本部は放棄する」
「ほう……」
「でも、単に放棄するんじゃない。占領部隊が完全に到着したら、予めここに仕掛けておいた爆弾を炸裂。ドカーンってね。名付けてグリーヴァス戦法、逃げるが勝ちよ」
グリーヴァスはアンヌのネーミングセンスに、思わず失笑した。しかし、すぐに人工気管支の問題でむせてしまう。苦しそうなグリーヴァスを覗きこみ、アンヌは背中をさすった。
「大丈夫?いつも苦しそうだけど……」
「呼吸器だけは……ゴホッ……試作品だった……ゴハッ……らしい」
「そうなんだ……」
「それだけではないぞ。メイス・ウィンドゥのフォースプッシュが、このポンコツに追い討ちをかけた」
「あら……」
グリーヴァスはアンヌが背中をさすってくれていることに気づき、当惑の眼差しを向けた。彼女は優しかった。そして、どこか懐かしいものだった。しかし、一体それは何だったのか。
突然、グリーヴァスを激しい頭痛が襲った。脳に埋め込まれた回路の電流が急速に逆流するかのような痛みだった。だが、彼がアンヌを振り払うように立ち上がると、痛みも自然と収まった。
一体、今のは何だったのだろう。グリーヴァスが顔をしかめた時だった。突然指令室が大きく揺れ、警告音が鳴り始めた。
「何事!?」
床に伏せたアンヌとグリーヴァスの元に、クローンコマンダーが駆け込んできた。緊急事態であることは言われずともわかる。
「ブレイン!グリーヴァス将軍!早くお逃げください」
「状況を説明しろ!馬鹿め!」
「グリーヴァス、大変よ」
アンヌはクローンコマンダーを掴んでいるグリーヴァスに叫んだ。クローンを離した将軍は、戦術モニターを見て絶句した。
「……グリーヴァス戦法、逃げるが勝ちを実行すべきだな」
「ええ。絶好のタイミングね」
アンヌは機密情報が入ったデータベースを取り外すと、指令室を飛び出した。
「司令部を捨てて撤退せよ!」
「我らはドロイドとは違う!最後まで戦う!」
「ブレインの命令だ!あいつの考えに従え!」
コマンダーは渋々部下たちに撤退を命じた。グリーヴァスもクローン兵たちと共に逃げようと準備を始めた。ところが、アンヌは彼をフォースで引き留めて微笑んだ。
「ダメ。私たちはしんがりを務めるの」
そう言うと、アンヌはライトセイバーを起動させて構えた。グリーヴァスもため息をついたあと、エレクトロスタッフを起動させ、部隊の撤退までの時間を稼ぐべく歩き出した。
司令部への奇襲は、オビ=ワンとドゥークーの視界にも飛び込んできた。無線が錯綜し、二人の司令官の生死──特にアンヌについての情報が二転三転した。ドゥークーは居ても立ってもいられず、オビ=ワンからコムリンクを奪って娘の安否を呼び掛けた。
『司令部!司令部!聞こえるか!』
『駄目だ!指令室も撤退した!』
「コマンダー!アンヌは無事なのか!?」
『アンヌ殿は……ガッ……ピピ……です……』
「聞こえんぞ!おい!聞いておるのか!?」
司令と戦地の情報共有を断つべく、敵側が電波妨害をしたために、無線はそこで終了した。ドゥークーは苛立ちながら、向かってきたドロイドを叩き斬った。
「伯爵。集中してください」
「娘は死なん。必ず生きておるはず」
「ドゥークー伯爵!」
オビ=ワンはため息をついた。娘のこととなると、ドゥークーはいつも冷静さを失うからだ。そのためオビ=ワンは度々、親子揃っての実地入りを反対していた。だが、いつも結局はこうなってしまう。
「娘として思うお気持ちはわかります。ですが、任務中はコントロールしてください!」
「コントロールだと?お前はそれでもジェダイマスターか?」
オビ=ワンはその言葉に面食らってしまった。一体、ドゥークーは何を意図しているのか。
「娘が……私の娘が死ぬはずはない!」
ドゥークーはそう言いながら、またドロイドを倒した。そして、集中砲火に遭っている司令部を振り返り、娘の無事を必死で祈った。
アンヌとグリーヴァスは、限界まで戦い続けていた。二人は内心、撤退完了連絡を心待にしていた。だが、お互いそんなことは尾首にも出さない。
「倒した数、私の方が多いんじゃない?」
「うるさい。俺がライトセイバーを手にしたら、あの軍勢などただのスクラップよ」
と言いながらも、グリーヴァスはアンヌの背後に迫っていたドロイドを倒した。そろそろ撤退したいと思い始めたちょうどその時、通信が入った。
『撤退完了です!』
「了解。グリーヴァス!離脱するわよ」
「実に残念だ」
二人は迫り来るドロイド軍に背を向け、全力疾走を始めた。背後からはブラスターの雨が降り注いでくる。
「ねぇ!いつもこんな感じで逃げてるの!?」
「こうなる前に逃げておるわい!」
グリーヴァスは得意の六足歩行に変化すると、撤退速度を速めた。置いていかれないように、アンヌも必死で走る。
先に撤退完了したのは、グリーヴァスの方だった。彼はそのまま安全地帯まで逃亡しようとしたが、不意にアンヌのことが気になって背後を振り返った。案の定、彼女は逃げるのに手間取っていた。グリーヴァスは本日何度目かのため息をつくと、隣にやって来たクローンのスナイパーライフルを引ったくって構えた。
「そのまま走れ!」
「え!?」
「まっすぐ走れ!……絶対に蛇行はするなよ」
アンヌはグリーヴァスに言われた通りに真っ直ぐ走った。すると、直後に彼のライフルが火を噴いた。
「ちょっと!殺す気!?」
「黙って走れ!」
グリーヴァスの狙いは、アンヌの背後に迫るスーパーバトルドロイドだった。熟練のクローントルーパーであっても仕留めることが難しいターゲットでありながら、彼は正確に射抜き続けている。その腕は、隣で見ていたクローン達が感嘆の声を上げるほどのものだった。
グリーヴァスの援護射撃の甲斐あって、アンヌは何とか脱出することが出来た。彼女は肩で息をしながら、グリーヴァスに起爆装置を手渡した。
「……押せばいいのか?」
「そう。宜しく」
グリーヴァスは満面の笑みを浮かべて、勝利を確信している敵軍を見た。
「破壊行為は好きだ」
そして、ボタンがあっさりと押された。
司令部の大爆発は想像以上に派手なもので、流石のオビ=ワンとアナキンも呆然とした。ドゥークーは何が起きたのかを理解するために、必死で思考を巡らせた。
「アンヌ……アンヌ!!そんな……」
絶望の声を上げるドゥークーの頭上に、援軍を乗せたガンシップが到着した。アソーカ・タノはガンシップから身を乗り出してアナキンたちに手を振った。
「援軍、連れてきたよ!!」
「アソーカ!よくやった!」
嬉しい知らせはそれだけではなかった。クリストフシスの全部隊に、特別回線での通信が入った。
『こちら、アンヌ・トワイラス。敵の本部占圧部隊は全滅。繰り返す、敵の本部占圧部隊は全滅』
「アンヌ!!」
『これより、撤退完了の本部部隊は主力前線部隊と合流する。通信終了』
ドゥークーは娘の声を聞いて安心したのか、ほっと胸を撫で下ろした。それから、どこから沸いてきたのかと問いたくなるほど元気を取り戻し、勇ましくライトセイバーを奮い始めた。
「押し返すのだ!これぞ勝機!」
「オーケー!行くよ、みんな。準備はいい?」
アソーカはガンシップから華麗に飛び降り、前線に加わった。そしてその直後に、アンヌとグリーヴァスが率いるガンシップも到着した。本部部隊がが合流したことで、戦局は一気に好転した。アンヌはマカシの受け流しの動きをしながら、ここまで戦ってくれた仲間たちを見た。
「みんな!お待たせ!」
「随分と派手なことしてくれたじゃないか」
「お父上がご心配されていたぞ、アンヌ」
オビ=ワンの言葉に、アンヌは父を見た。
「お父様。私のことを心配していたら、命が幾つあっても足りないわよ」
アンヌはドゥークーを見ながら笑った。
「だってら、私はブレイン・オブ・ザ・リパブリックだから」
これが、アンヌ・トワイラスことブレインだ。不可能な戦いも可能にし、大敗の兆しも大勝利に変える才能の持ち主。数多の戦に勝利をもたらし、人は彼女を称賛した。しかし、人知れず受けた心の傷を知るものは誰もいない。父親であるドゥークーでさえ見抜けないその傷は、日に日に彼女を侵食し、苦しみを増幅させ続けていた。
だから、彼女は痛みを忘れてしまった。今も右手に金属片が刺さっているが、特に何も感じていない。平静すぎるが故に、誰も気づくことはない。
それが、軍師であることの代償だった。アンヌが軍事機密を守るために受けた訓練は、想像を絶するものだった。もちろん拒絶し、軍師になることを諦めることも出来た。ところが、彼女はそうしなかった。いや、出来なかったのだ。
アンヌは自分の能力に負い目を感じていた。兄弟子よりも多いミディクロリアンを持ちながらも、どんなジェダイより劣る自分を「選ばれし者」として見せるためには、これしかないと確信していたのだ。
制圧が完了したことを報告する無線が響いた。アンヌはほっと胸を撫で下ろした。
終わったのだ。そう思うと、体の力が抜けてくる。アンヌは、一時でも戦いが無い瞬間の方が生きているという実感を覚える質の人物でもあった。
「終わってしまったか。もっとドロイド共を叩き潰したかったのだが……」
「あちら側に居たときは随分叱ったからな。今はむしろ有難い」
一方、グリーヴァスは真逆だった。戦いに赴いている時こそが生きている証であり、戦に身を投じている瞬間こそが人生と感じている男だった。だから、アンヌには理解ができない。普通の女の子の人生に憧れる彼女にとっては、苦痛でしかない時間を楽しめる心境は測りかねるものだった。
そんなことを考えながらコルサントへの報告を端末に打ち込んでいたアンヌの腕を、突然掴む者がいた。
「アンヌ!どうしたんだ、この腕の傷は」
ドゥークーだった。彼はポシェットから薬を取り出すと、手早く娘の患部に振りかけた。それから高価なマントを引き裂いて止血のために腕に巻き、医療キットから鎮痛剤を選んで注射しようとした。だが、それよりも先にアンヌは破片を引き抜いていた。しかも、呻き声の一つも漏らさなかった。
「鎮痛剤を打つべきだ」
「痛みには慣れています」
「駄目だ。どうして親の前でも我慢をするのだね」
「別に、我慢なんてしていません」
「いいや、我慢している。親を馬鹿にするのはやめなさい」
ドゥークー親子のやり取りを横目に、アナキンとアソーカは肩をすくめた。
「また始まった……」
「ドゥーぴょんも、素直に心配してるって言えば良いのに」
「その呼び方、本人の前で言えるんだよな?」
口を尖らせるアソーカに、アナキンは意地悪な笑みを向けた。ドゥーぴょんとは、アソーカがつけた伯爵のあだ名だった。もちろん、本人の前で使ったことはない。
アソーカが反論しようとした時には、既にアンヌとドゥークーの関係は穏やかなものになっていた。むしろ、どこから見ても仲の良い親子だ。
「約18年ぶりに再会したから、きっと距離感がつかめていないんだろう」
オビ=ワンの言うとおりだった。アンヌは父親に、僅かながらも甘えていた。そしてドゥークーは最大限に愛情を注いでいた。
そんな様子を、グリーヴァスは皆とは少し離れた場所で見ていた。彼は目を細めて親子の姿を眺めた。
少しだけ。ほんの少しだけ、心が暖かくなった気がした。そして、その瞳は無意識のうちに穏やかな笑みを浮かべていた。
1/1ページ