ダメかもしれない。そんな弱音は吐かないようにしていた。けれど、彼女の体力と心拍は時間が経つほどに弱まっている。極度の緊張と酸素欠乏で過呼吸になりそうになる兆候が出始めたため、私は大声で酸素マスクをと叫んだ。私の疲労がピークに達していることを察した医療ドロイドが休憩するようにと促した。仕方がなく、私は一旦交代のために退室した。
　ポリス・マサの発着ベイはコルサントでの一連の事件のせいで停泊制限が掛けられていたため、人影さえ見当たらないほどに静かだった。───先客らしい１人のジェダイを除いて。私は始め、後ろ姿があまりに辛そうなその人に全く心当たりがなかった。そして横に座って初めて気づいた。
｢─────どうして死ななかったの、そう聞きたいんでしょう？｣
｢────ブレイン……いえ、アンヌ……あなたはたしかコルサントに……｣
その人はかの共和国軍師、ブレインことアンヌだった。頬にはクローンたちの襲撃のときに出来たのか、ブラスターが掠めた跡が出来ていた。
｢…………まさか、私の部下に銃を向けられるなんて、ね。軍師失格だし、独りで生き残ったんだからヒーラー見習いとしても失格だよね｣
私はすぐにジェダイ聖堂を襲撃したのがかの精鋭部隊であり、彼女とその兄弟子の直属隊の501大隊であることを思い出した。私は慎重に選ぶ言葉さえも口に出すことが出来なかった。手を離せば、たちまち海奥底に沈んでしまいそうな彼女を見て、私はどうしても放っておくことができなかった。
｢望みが完全に潰えたわけではないのですから。……今は誰もが辛い時です。元気を出してください｣
｢…………そうね。……ありがとう、エリス｣
彼女はほんの少しだけ笑って私の名前を呼んだ。いつ会ったかすら私の方は覚えだったのに、彼女ははっきりと名前を覚えていたのかと私は気づいた。戦場出ることはほとんどないと言われていた彼女でさえ、辛いことがあったとは………私は少しだけ見えていないものが見えた気がした。
　
　治療室に戻ると、ようやく本格的にお産が始まっていた。私はすぐに難産ではないことを確認すると、一人目が産まれでると同時に彼女の目の前で可愛らしいその赤ちゃんを見せた。
｢可愛らしい男の子です！｣
｢───────ルーク……………｣
パドメは既に弱っており、吐息混じりに最初から用意していたであろうその子供の名前を呼んだ。その場にいた誰もが口には出さなかったが、二人目は母子ともに危険だろうと思っていた。しかし、彼女は私たちに母親の意地を見せた。二人目は、兄のルークにそっくりな可愛らしい女の子だった。
｢────レイ……ア…｣
パドメの拍動は二人を見て、安心したのか突然下がり始めた。私はすぐに処置をしようとしたのだが、彼女は何故かそれを拒んだ。
｢パドメさん……なぜなんですか！！？！？？｣
｢パドメ、この子達はあなたを必要としているわ。諦めてはいけない！｣
隣にいるアンヌと私は彼女の手を握りしめて説得を試みた。だが、目に見えて彼女の命は消えようとしていた。オビ＝ワンはただ、ため息をついた。アンヌもそれっきり何も言わなくなってしまった。
　
　それから数分後、彼女は昏睡状態に陥りうわ言を言い始めた。彼女は同じ言葉を繰り返していた。
｢───アニー…………アニー…私の………アニー……｣
｢大丈夫だよ。アナキンはいつもあなたの傍に居るから。｣
アンヌは彼女の手を握りながら必死に呼びかけた。しかし、表情は既に険しく、疲れ果てていた。
　アナキン────アニーという人と同じ人物だろうか。彼女の特別な人であるようだ。おそらくこの子達の父親であるはずの男が、なぜこんなに弱った女性を放っているのか。深い理由があるとしても、私は顔も名前も知らない男に深い憤りに抱いた。
｢…………酷い…………酷すぎる……｣
私はそのまま部屋を去ろうとした。すると、今度ははっきりとパドメが朦朧とした意識の中で、無邪気にぽつりとこう言った。
｢─────あら………私は…天使じゃ…ないわ｣
それを聞いたアンヌが彼女に優しく笑いかけ、涙混じりにこう返した。
｢…………じゃあ、あなたは…………女……神だね…｣
それが、彼女の最期の言葉だった。
｢本当に、彼女を……守りたかったんだよね………アナキン…ごめんなさい………ごめんなさい…｣
｢君が謝るべきじゃない、私のパダワンよ……｣
治療室だけではなく、銀河全域から、また一つ希望の光が消えた。私は気持ちを落ち着けるために部屋の外へ出た。

　私はなぜ彼女が生きることを諦めてしまったのかがわからなかった。子供たちのためにも、生きていなければならないのに。フォースは本当に命を必要としている人々と共にあるのではないのか。
　また、分かり始めていたフォースの意味が手の間から滑り落ちていく感覚が、私を流砂のように飲み込んでいった。