どこまでも広がる青い空。そこに喧騒は何一つなく、私は大きく息を吸った。ふと、視界を1匹の黄金の蝶が横切った。不思議に思い目で追うと、手の届く距離に止まった。私は息を殺してゆっくりと手を伸ばす────
　
｢負傷兵入りました！！！止血が出来ません！｣
｢エリス先輩、起きてください！｣
私は夢とは打って変わった騒々し過ぎるほどの音の中で目を覚ました。そして、現実に引き戻される。ハイパースペースから出た瞬間と同じような不思議な気分だった。
｢………………どんな状況？｣
｢かなり深刻です。スペアが足りません。｣
スペアとは、ジャンゴ・フェットをオリジナル遺伝子とするクローン兵士たちのための移植用臓器のことだ。私は簡易寝台から起き上がると、私のことをエリス先輩と呼んだルミナーラ・アンドゥリの弟子であるバリス・オフィーに指示を出した。
｢もうスペアでは対処しきれない。早急に患者のフォースヒールに取り掛かりましょう｣
そう言って私は髪を結び直した。
　エリス・フォーサイシア。見ての通り何の変哲もないただのフォースヒーラーであり、まぁそのトップのようなものだ。ライトセーバーを扱い命を奪うより、私にはこちらの道の方が向いている。人は皆私のことを不思議がるが、私にとってはあまりフォースを命を救うものに使おうとしない評議会のほうが理解不能だ。私はそれに戦場が大嫌いだった。この分離主義者との戦争にも意味がないと思っている。だが、私は結局ここにいる。なぜなら、私の治療の力を必要とする人が一人でもそこにいるならば、どんな危険な場所にでも飛び込んでいくと決めているからだ。だから私の別名は''現場を愛するエリス''だ。………全く誰がこんな恥ずかしい異名を広め始めたのかと思うと毎回頭が痛い。
　こんなことを思い出しているうちにも、またクローン兵士の患者が運ばれてきた。彼の脇腹には爆発の際にかすめたであろう破片が辿った跡が痛々しく一直線に刻まれていた。しかも出血多量で、既にショック状態を起こしている。
｢………………もう止血剤は足りません。………残念ですがこの患者は──｣
｢止血できるわ｣
私がバリスの言葉を遮ると、周囲がざわついた。私はさほど気に止めずに手元のライトセーバーを起動させた。そして────
　患者の流れ出る血を止血するためにライトセーバーで傷口を慎重に焼いた。麻酔が切れた状態だったが、上手くパニックも起こさずすぐに済んだ。あとは応援部隊に引き取ってもらうまでだ。
｢もう大丈夫だから。安心して｣
意識が少し戻った彼は私の言葉にうっすらと笑った気がした。
｢先輩、応援が来ました！！｣
その言葉にほっとした私は今日も運に救われた、とうやうやしく空を見上げた。
　
　これが、私の日常。終わることのない、命を繫ぐフォースの営みに介入するのが私の役目なのだ。
────────この戦争があんなふうに終わるまでは。