この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
八章、明かされる真実
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コルサントに帰還したアナキンたちは、大称賛を浴びることとなった。満更でもなく嬉しそうな兄弟子を置いて、アンヌは仕事部屋へ真っ直ぐ向かった。
少しコルサントを離れている間に、仕事は山ほど蓄積されている。次の部隊の編成や、カウンシルでの発言内容、更には今後の査問委員会についても検討しなければならない。
休まる時間など、どこにも無かった。それが裏舞台で貢献することの苦痛だった。それだけではない。グリーヴァスの言うとおり、アンヌが指令を出すのは生身の生き物たちだ。犠牲者1500名と報告書に書かれていれば、1500人分の命が犠牲になったということになる。戦争とはそういうものだとよくアナキンは言うが、アンヌにはどうしてもそうは思えなかった。
「CT-9753フレゴ、CT-7441デフォリ……」
だから戦没者データに必ず目を通すことを、アンヌは密かな義務にしていた。そうでもしていないと、感覚が狂ってしまうような気がしているからだった。
戦地から離れすぎたせいで、何も感じなくなってしまったコルサントの住民のようにはなりたくない。彼女は集中力を取り戻すために、覚醒作用のある飲み物であるカフを淹れに部屋を出た。
ランチの時間を過ぎたカフェテリアには、いつも以上に人影が少なかった。だが、カフを淹れて部屋に戻ろうとしたアンヌの背中に、温かな声をかけてくる人物がいた。
「アンヌかね」
「ドゥークー伯爵!」
ドゥークーは敵陣の公共食堂に居ても、何故か優雅に見える。まるでその一角だけが、サロンのテーブルのようだアンヌは彼の隣に座ると、ようやく肩の力を抜いた。
「戻ってからも仕事をしていたようだね」
「そうなんです。私の職務は、専らコルサントに溜まりますから……」
それを聞いたドゥークーは、プラスチックコップに入っている安物の紅茶を飲みながら眉をひそめた。
「デスクワークばかりしているのは良くない。ライトセイバーの稽古はきちんとしているかね?」
「まぁ……一応は。でも、相手になってくれる人が5歳のペアグランクラスの子たちしか居ないので」
ドゥークーは少し考えると、おもむろに立ち上がった。そしてにこりと微笑んで、首を僅かに傾けた。
「では、今から私が相手になろう」
「えっ?」
唐突な誘いにアンヌは面食らったが、すぐに笑顔になって首を縦に振った。
「そうとなれば決まりだ。行こう。……ここの紅茶は相変わらず酷いな。私が若い頃に飲んだ時から変わっていない」
「仕方がないですよ。香料で誤魔化していますから」
二人は顔を見合わせて笑った。その様子は、本当の親子のように見える微笑ましい光景だった。
アンヌはライトセイバーを起動させ、久々に握ったグリップの冷ややかな感触に笑みをこぼした。彼女のグリップは、とても簡素だが他のジェダイたちのものとは少し違っていた。フォームⅡ──つまりマカシを扱いやすくするために、光刃の出ない方が少しだけ曲がっている。そのデザインを横目で見たドゥークーは、誰にも気づかれないように不思議な微笑を漏らした。
「さて、始めよう」
「はい。宜しくお願い致します」
手合わせの際の儀礼を欠かないアンヌを見て、ドゥークーは初めての手合わせの時に、早速斬りかかってきたグリーヴァスのことを思い出した。
あのサイボーグには、儀礼をプログラミングしておくべきだったかな……
ドゥークーは心の中で失笑すると、アンヌのものと同じように曲がっているグリップを掴んで、ライトセイバーを起動させた。そして、赤い光刃と青白い光刃が音を立てて重なった。二人共同じ型を用いるので、トレーニングルームはダンスホールのように優雅な空間に変化した。
踊るように、刺すように、そしてエレガントにライトセイバーを扱うマカシは、もはや型の一つを越えた芸術作品として大成していた。特にドゥークーのマカシは、右に出るものは居ないと言われているほどに美しい動きで知られている。
一方、アンヌの剣さばきは未熟さこそ目立つが、比較的リラックスしながら戦えていることがわかる。想像以上の実力に、ドゥークーはふわりと笑みを溢した。二人の剣術は、まるでワルツのようだった。ステップは軽やかで、腕の動きは穏やかにさえ思える。
そんな二人の様子を聞き付けたジェダイたちが、どこからともなく集まり始めた。その近くを偶然通りかかったマスター・ヨーダは、隣に居るマスター・ウィンドゥと共に、興味本意でトレーニングルームを覗いた。そして、二人の姿を目にして言葉を失った。
「あれは……」
「懐かしい光景じゃ。あの男は我が弟子じゃったからな」
ヨーダは目を細めながら、二人を注意深く観察した。アンヌとドゥークーは、同じ型を扱うこと以外は何一つ共通点がない。そう思っていたその時だった。
「────!?」
グランドマスターの脳内に、衝撃が走った。そして、そのまま何も言わずに人だかりからそっと姿を消すのだった。
稽古を終え、ジェダイだった頃のような清々しい表情を浮かべているドゥークーは、気配を感じて眉をひそめた。
「────あなたの気配だけは、いつもながらわかりやすいですな」
「そうじゃろうな、ドゥークー。お前は本当に馬鹿な弟子じゃ」
そう言いながら隣に座ったヨーダは、コルサントの夕日に目を向けた。
「覚えておるか?たまに、こうして共に夕日を眺めたことを」
「訓練の後でしたな。無論、覚えております」
昔の面影が残るかつての弟子の横顔をちらりと見て、ヨーダは呟いた。
「……ドゥークー。お主、まだ何か隠しておるな?」
「秘密の多すぎる人生でした故、仕方がありませんな」
「答えをはぐらかすでない。お前の悪い癖だ」
ドゥークーは依然として、謎めいた笑みを止めることはない。ヨーダはため息をつきながら、無言で一枚のデータパッドを差し出した。
「これが欲しいのでは無いだろうかと、ふと思うてな」
何気なく受け取り、画面を起動させたドゥークーだったが、直後に言葉を失った。かなりの衝撃を受けているらしく、今にもデータパッドを取り落としそうな動揺っぷりだ。それでも、彼はかつての師に感情を隠し通そうと試みた。
「な、何故私に、このようなものが必要であるとお思いで?」
「必要ないと言い張るつもりか?ダークサイドに堕ちて、己の血を分けた娘の成長記録にさえも関心を失ったか」
ヨーダは、きちんとドゥークーの動揺と本心を見通していた。それどころか、シディアスにすら隠し通してきた秘密を暴いてきたのだ。グランドマスターは、アンヌとドゥークーの横顔から、言い逃れのできない共通点──もはや生き写しの顔立ちを持っていると気づいたのだ。伯爵はデータパッドを持ち直し、視線を落とした。
そこには、あどけなさが残る彼の娘の姿────アンヌ・トワイラスが12歳になったばかりの頃の画像が映し出されていた。隣には動画までついており、彼は震える指先で再生ボタンを押した。パッドに付いているホロイメージ出力箇所から、アンヌの姿が現れた。
『私、アンヌ!これからマスターと一緒に訓練してジェダイになるの』
元気一杯の愛らしい自己紹介のあとに、質問主──恐らくオビ=ワンらしき人物の声が続く。
『一番大好きな人は?』
『マスター!でも、一番は選べないかな。アナキンも大好きだよ』
『付け足しをどうもありがとう』
アナキンの声だった。照れ隠しに答えているのがよくわかる。アンヌは意地悪な返事に、頬を膨らませて反論した。
『付け足しじゃないもん!本当に大好きなんだもん!』
『分かったから!マスター!僕、やっぱり妹弟子なんて要らない!!』
『楽しそうだな、アナキン』
『楽しくない!』
『あはははは!』
記録の中の娘の笑顔は、とても眩しかった。
「……変わっておらん」
「何がだ?」
「変わっておらん……私が初めてこの腕に抱いた時から……何も……」
ヨーダは、初めてドゥークーの瞳に涙が浮かんでいるのを見た。弟子の時からドゥークーには感情の起伏がなく、愛情などを全く感じさせない男だった。一体、彼にどんな変化が起きたのか。ヨーダは唐突に知りたくなり、無粋とは知りながら質問を投げ掛けた。
「何故、お前が自らの手で育てなかった?」
「育てるつもりだったのです。あの小さな手を、離さないと心に誓うことまでしました」
そこまで言うと、ドゥークーは陰りのある表情を見せた。そして、目を閉じてジェダイ聖堂を去ったあとに起きた出来事を淡々と語り始めた。
「私は、聖堂を去って家督を継ぎました。かなりの年ではありましたが、どうしてもと言われ、妻を迎えたのです。そして、子が出来ました。初子……しかも老いてから出来た子というのは可愛いもので、私は産まれて初めて愛情というものを理解しました。誰かを愛することを、あの子は教えてくれたのです」
自虐的に笑うドゥークーだったが、その口許には父親としての優しさが滲み出ている。
「妻は私に恋心を寄せたから結婚したと言っていましたが、私はどうしても信じることができませんでした。しかし、その気持ちが本心であることも、あの子が産まれた時に私の中に宿った愛情が悟らせてくれたのです。静かだったセレノーの宮殿には、毎日笑顔と喜びが溢れ、私はこの日々が永遠に続くと信じておりました。なのに……」
「なのに?」
「あの男が、接触を試みてきた頃……ちょうどあの子が一歳の時から、運命は狂い始めたのです」
そこまで言うと、ドゥークーは目を開けた。瞳には燃えるような怒りが満ちている。
「あの男……シディアスは、とても強いフォースを持つ子が産まれたと言い、私と共に協力してその子を探さないかと持ちかけてきたのです。しかも、その子はセレノーにいると言ったのです」
「なんと……」
「私はまさかと思い、祈るような思いで我が娘のミディ=クロリアンを検査しました。結果は……40,000。とてつもなく恐ろしい数値でした」
「スカイウォーカーの2倍ではないか」
ドゥークーは首を縦に振った。
「私は娘を守るために、執事と侍女だったトワイラス夫妻に彼女を託し、アウターリムにある惑星タリアスへと逃がしました。娘のことを記録から抹消し、娘の誕生を知る者は皆、この手で始末することも厭わなかった」
ヨーダはその言葉に、ある人物の死を思い出した。
「まさか、サイフォ=ディアスの死は──」
「正しく。ご想像になられた通りです」
ドゥークーがダークサイドに手を染めることになったきっかけ。その真相が、ヨーダを含めたジェダイの全員が思い描いていた以上に複雑で、血の通ったものだったとは誰が想像できただろうか。だが、彼はまだかつての弟子の主張が腑に落ちなかった。
「……では、何故シディアスに従うて来た。宿敵、それもお主の人生を破滅させた男では?」
「ええ。あの男は、許しがたい。ですが、悟られてはならなかったのです。私の胸中は決して、誰にも悟らせてはなりませぬ」
「しかし、ドゥークー伯爵。あの子には知る義務がある。そして、評議会も──」
「だから、あなたには話したくなかった。かつての師よ、どうか今のことは全て聞かなかったことにして欲しい。それが、私の命の代わりにあなたに頼む最期の望みとなりましょう」
そう言い残し、ドゥークーは立ち去った。ヨーダは最期の望みという言葉の意味を反芻しながら、画面の中で屈託のない笑みを浮かべるアンヌ────我が子のように愛していたかつての弟子の娘を眺め続けるのだった。
アンヌはブリーフィングルームに居た。いや、正確にはブリーフィングルームで眠っていた。机上のホロイメージには、無数の艦隊や部隊のデータが散乱しており、作戦を考える過程で苦心していることが伝わってくる。ドゥークーは、華奢なその肩にどれ程の重荷を背負っているかを察し、胸を痛めた。そして、自分の着ていたマントの留め金を外し、そっと愛娘の肩にかけてやった。
「……これが、父として出来る最期のことになりそうだ」
アンヌ。我が愛しい娘よ。愛している。
そう言うことすら許されない人生だった。それでもここまで生きてこられたのは、一重に娘がこの銀河のどこかにいるという確信があったからだった。しかし、このままでは全てが無に帰してしまう。
ドゥークーは娘の穏やかで愛らしい寝顔を見て、決心を固めた。そして恐る恐る、柔らかな彼女の頬に手を伸ばした。だが、もう少しで温もりを感じられるというところで、ドゥークーは手を引っ込めた。それから踵を返し、彼は部屋を後にした。その背中には、確かに父親としての愛が滲み出ていた。
部屋を出た彼が向かった先は、意外な人物の元だった。
「────閣下。こんな夜更けに如何なされましたか?」
彼が訪れたのは、グリーヴァスの元だった。
「……将軍。君はいつも、私の命には忠実だった」
愚直すぎる程に、な。
ドゥークーは不敵に、けれどもどこか穏やかに笑った。グリーヴァスの人工知能は、すぐに自分の師の様子がいつもと違うことに気付いた。
「君に、最期の命令を下そう。そして、永遠にこの願いを守ってほしい」
「閣下……?」
ドゥークーは、深呼吸して言葉を発した。それは、グリーヴァスにとって驚くべきものだった。
「────ブレイン……アンヌ・トワイラスを守り通してほしい」
「トワイラスを?何故ですか?あやつは敵将のようなもの!何故あなたはそこまであの小娘を気にかけられる!」
「頼む。これまで通り、愚直な男でいてくれ。ドロイドを素手で壊しても構わんし、無茶な指揮で母艦もろとも全滅させても構わん。戦い方がエレガントでなくとも、フェアでなくとも構わん。だから、だから……」
ドゥークーが、懇願している。グリーヴァスにとって、それは初めて見る師の姿だった。そして、その願いは冷酷なサイボーグにさえも否応なしに感傷を誘った。
グリーヴァスが頷く。それを見届けたドゥークーの表情は、途端に明るくなった。
「良かった……お前がいてくれて、本当に良かった」
「閣下。一つだけ、教えて下さい。何故、トワイラスを守らねばならぬのですか?」
ドゥークーは、顔を上げてグリーヴァスに微笑んだ。そして、優しく綻んだ口を開いた。
「────あの子は、私の娘なのだよ」
グリーヴァスの脳に、衝撃が走る。そして、それ以上何も言わなかった。いや、正確には何も言えなかった。
夜明けがすぐそこまで迫っていた。ドゥークーは、ジェダイ聖堂の表玄関前の階段に佇んでいた。そして、一度だけ聖堂の方を見た。それから、再び前に視線を戻して歩きだした。
その様子は、かつて彼がジェダイオーダーを去った時と同じだった。無論だ。彼はこれから、正にコルサントを去ろうとしているのだから。
「さらばだ、我が娘よ」
いつかもし、散り散りになったフォースの一欠片としてであっても巡り会えたなら。その時ならば────
「その時ならば、お前を娘と呼べるのだろうか」
朝日が階段を照らし始めた。そして、朝が巡って来たとき。既にドゥークーの姿は無かった。
少しコルサントを離れている間に、仕事は山ほど蓄積されている。次の部隊の編成や、カウンシルでの発言内容、更には今後の査問委員会についても検討しなければならない。
休まる時間など、どこにも無かった。それが裏舞台で貢献することの苦痛だった。それだけではない。グリーヴァスの言うとおり、アンヌが指令を出すのは生身の生き物たちだ。犠牲者1500名と報告書に書かれていれば、1500人分の命が犠牲になったということになる。戦争とはそういうものだとよくアナキンは言うが、アンヌにはどうしてもそうは思えなかった。
「CT-9753フレゴ、CT-7441デフォリ……」
だから戦没者データに必ず目を通すことを、アンヌは密かな義務にしていた。そうでもしていないと、感覚が狂ってしまうような気がしているからだった。
戦地から離れすぎたせいで、何も感じなくなってしまったコルサントの住民のようにはなりたくない。彼女は集中力を取り戻すために、覚醒作用のある飲み物であるカフを淹れに部屋を出た。
ランチの時間を過ぎたカフェテリアには、いつも以上に人影が少なかった。だが、カフを淹れて部屋に戻ろうとしたアンヌの背中に、温かな声をかけてくる人物がいた。
「アンヌかね」
「ドゥークー伯爵!」
ドゥークーは敵陣の公共食堂に居ても、何故か優雅に見える。まるでその一角だけが、サロンのテーブルのようだアンヌは彼の隣に座ると、ようやく肩の力を抜いた。
「戻ってからも仕事をしていたようだね」
「そうなんです。私の職務は、専らコルサントに溜まりますから……」
それを聞いたドゥークーは、プラスチックコップに入っている安物の紅茶を飲みながら眉をひそめた。
「デスクワークばかりしているのは良くない。ライトセイバーの稽古はきちんとしているかね?」
「まぁ……一応は。でも、相手になってくれる人が5歳のペアグランクラスの子たちしか居ないので」
ドゥークーは少し考えると、おもむろに立ち上がった。そしてにこりと微笑んで、首を僅かに傾けた。
「では、今から私が相手になろう」
「えっ?」
唐突な誘いにアンヌは面食らったが、すぐに笑顔になって首を縦に振った。
「そうとなれば決まりだ。行こう。……ここの紅茶は相変わらず酷いな。私が若い頃に飲んだ時から変わっていない」
「仕方がないですよ。香料で誤魔化していますから」
二人は顔を見合わせて笑った。その様子は、本当の親子のように見える微笑ましい光景だった。
アンヌはライトセイバーを起動させ、久々に握ったグリップの冷ややかな感触に笑みをこぼした。彼女のグリップは、とても簡素だが他のジェダイたちのものとは少し違っていた。フォームⅡ──つまりマカシを扱いやすくするために、光刃の出ない方が少しだけ曲がっている。そのデザインを横目で見たドゥークーは、誰にも気づかれないように不思議な微笑を漏らした。
「さて、始めよう」
「はい。宜しくお願い致します」
手合わせの際の儀礼を欠かないアンヌを見て、ドゥークーは初めての手合わせの時に、早速斬りかかってきたグリーヴァスのことを思い出した。
あのサイボーグには、儀礼をプログラミングしておくべきだったかな……
ドゥークーは心の中で失笑すると、アンヌのものと同じように曲がっているグリップを掴んで、ライトセイバーを起動させた。そして、赤い光刃と青白い光刃が音を立てて重なった。二人共同じ型を用いるので、トレーニングルームはダンスホールのように優雅な空間に変化した。
踊るように、刺すように、そしてエレガントにライトセイバーを扱うマカシは、もはや型の一つを越えた芸術作品として大成していた。特にドゥークーのマカシは、右に出るものは居ないと言われているほどに美しい動きで知られている。
一方、アンヌの剣さばきは未熟さこそ目立つが、比較的リラックスしながら戦えていることがわかる。想像以上の実力に、ドゥークーはふわりと笑みを溢した。二人の剣術は、まるでワルツのようだった。ステップは軽やかで、腕の動きは穏やかにさえ思える。
そんな二人の様子を聞き付けたジェダイたちが、どこからともなく集まり始めた。その近くを偶然通りかかったマスター・ヨーダは、隣に居るマスター・ウィンドゥと共に、興味本意でトレーニングルームを覗いた。そして、二人の姿を目にして言葉を失った。
「あれは……」
「懐かしい光景じゃ。あの男は我が弟子じゃったからな」
ヨーダは目を細めながら、二人を注意深く観察した。アンヌとドゥークーは、同じ型を扱うこと以外は何一つ共通点がない。そう思っていたその時だった。
「────!?」
グランドマスターの脳内に、衝撃が走った。そして、そのまま何も言わずに人だかりからそっと姿を消すのだった。
稽古を終え、ジェダイだった頃のような清々しい表情を浮かべているドゥークーは、気配を感じて眉をひそめた。
「────あなたの気配だけは、いつもながらわかりやすいですな」
「そうじゃろうな、ドゥークー。お前は本当に馬鹿な弟子じゃ」
そう言いながら隣に座ったヨーダは、コルサントの夕日に目を向けた。
「覚えておるか?たまに、こうして共に夕日を眺めたことを」
「訓練の後でしたな。無論、覚えております」
昔の面影が残るかつての弟子の横顔をちらりと見て、ヨーダは呟いた。
「……ドゥークー。お主、まだ何か隠しておるな?」
「秘密の多すぎる人生でした故、仕方がありませんな」
「答えをはぐらかすでない。お前の悪い癖だ」
ドゥークーは依然として、謎めいた笑みを止めることはない。ヨーダはため息をつきながら、無言で一枚のデータパッドを差し出した。
「これが欲しいのでは無いだろうかと、ふと思うてな」
何気なく受け取り、画面を起動させたドゥークーだったが、直後に言葉を失った。かなりの衝撃を受けているらしく、今にもデータパッドを取り落としそうな動揺っぷりだ。それでも、彼はかつての師に感情を隠し通そうと試みた。
「な、何故私に、このようなものが必要であるとお思いで?」
「必要ないと言い張るつもりか?ダークサイドに堕ちて、己の血を分けた娘の成長記録にさえも関心を失ったか」
ヨーダは、きちんとドゥークーの動揺と本心を見通していた。それどころか、シディアスにすら隠し通してきた秘密を暴いてきたのだ。グランドマスターは、アンヌとドゥークーの横顔から、言い逃れのできない共通点──もはや生き写しの顔立ちを持っていると気づいたのだ。伯爵はデータパッドを持ち直し、視線を落とした。
そこには、あどけなさが残る彼の娘の姿────アンヌ・トワイラスが12歳になったばかりの頃の画像が映し出されていた。隣には動画までついており、彼は震える指先で再生ボタンを押した。パッドに付いているホロイメージ出力箇所から、アンヌの姿が現れた。
『私、アンヌ!これからマスターと一緒に訓練してジェダイになるの』
元気一杯の愛らしい自己紹介のあとに、質問主──恐らくオビ=ワンらしき人物の声が続く。
『一番大好きな人は?』
『マスター!でも、一番は選べないかな。アナキンも大好きだよ』
『付け足しをどうもありがとう』
アナキンの声だった。照れ隠しに答えているのがよくわかる。アンヌは意地悪な返事に、頬を膨らませて反論した。
『付け足しじゃないもん!本当に大好きなんだもん!』
『分かったから!マスター!僕、やっぱり妹弟子なんて要らない!!』
『楽しそうだな、アナキン』
『楽しくない!』
『あはははは!』
記録の中の娘の笑顔は、とても眩しかった。
「……変わっておらん」
「何がだ?」
「変わっておらん……私が初めてこの腕に抱いた時から……何も……」
ヨーダは、初めてドゥークーの瞳に涙が浮かんでいるのを見た。弟子の時からドゥークーには感情の起伏がなく、愛情などを全く感じさせない男だった。一体、彼にどんな変化が起きたのか。ヨーダは唐突に知りたくなり、無粋とは知りながら質問を投げ掛けた。
「何故、お前が自らの手で育てなかった?」
「育てるつもりだったのです。あの小さな手を、離さないと心に誓うことまでしました」
そこまで言うと、ドゥークーは陰りのある表情を見せた。そして、目を閉じてジェダイ聖堂を去ったあとに起きた出来事を淡々と語り始めた。
「私は、聖堂を去って家督を継ぎました。かなりの年ではありましたが、どうしてもと言われ、妻を迎えたのです。そして、子が出来ました。初子……しかも老いてから出来た子というのは可愛いもので、私は産まれて初めて愛情というものを理解しました。誰かを愛することを、あの子は教えてくれたのです」
自虐的に笑うドゥークーだったが、その口許には父親としての優しさが滲み出ている。
「妻は私に恋心を寄せたから結婚したと言っていましたが、私はどうしても信じることができませんでした。しかし、その気持ちが本心であることも、あの子が産まれた時に私の中に宿った愛情が悟らせてくれたのです。静かだったセレノーの宮殿には、毎日笑顔と喜びが溢れ、私はこの日々が永遠に続くと信じておりました。なのに……」
「なのに?」
「あの男が、接触を試みてきた頃……ちょうどあの子が一歳の時から、運命は狂い始めたのです」
そこまで言うと、ドゥークーは目を開けた。瞳には燃えるような怒りが満ちている。
「あの男……シディアスは、とても強いフォースを持つ子が産まれたと言い、私と共に協力してその子を探さないかと持ちかけてきたのです。しかも、その子はセレノーにいると言ったのです」
「なんと……」
「私はまさかと思い、祈るような思いで我が娘のミディ=クロリアンを検査しました。結果は……40,000。とてつもなく恐ろしい数値でした」
「スカイウォーカーの2倍ではないか」
ドゥークーは首を縦に振った。
「私は娘を守るために、執事と侍女だったトワイラス夫妻に彼女を託し、アウターリムにある惑星タリアスへと逃がしました。娘のことを記録から抹消し、娘の誕生を知る者は皆、この手で始末することも厭わなかった」
ヨーダはその言葉に、ある人物の死を思い出した。
「まさか、サイフォ=ディアスの死は──」
「正しく。ご想像になられた通りです」
ドゥークーがダークサイドに手を染めることになったきっかけ。その真相が、ヨーダを含めたジェダイの全員が思い描いていた以上に複雑で、血の通ったものだったとは誰が想像できただろうか。だが、彼はまだかつての弟子の主張が腑に落ちなかった。
「……では、何故シディアスに従うて来た。宿敵、それもお主の人生を破滅させた男では?」
「ええ。あの男は、許しがたい。ですが、悟られてはならなかったのです。私の胸中は決して、誰にも悟らせてはなりませぬ」
「しかし、ドゥークー伯爵。あの子には知る義務がある。そして、評議会も──」
「だから、あなたには話したくなかった。かつての師よ、どうか今のことは全て聞かなかったことにして欲しい。それが、私の命の代わりにあなたに頼む最期の望みとなりましょう」
そう言い残し、ドゥークーは立ち去った。ヨーダは最期の望みという言葉の意味を反芻しながら、画面の中で屈託のない笑みを浮かべるアンヌ────我が子のように愛していたかつての弟子の娘を眺め続けるのだった。
アンヌはブリーフィングルームに居た。いや、正確にはブリーフィングルームで眠っていた。机上のホロイメージには、無数の艦隊や部隊のデータが散乱しており、作戦を考える過程で苦心していることが伝わってくる。ドゥークーは、華奢なその肩にどれ程の重荷を背負っているかを察し、胸を痛めた。そして、自分の着ていたマントの留め金を外し、そっと愛娘の肩にかけてやった。
「……これが、父として出来る最期のことになりそうだ」
アンヌ。我が愛しい娘よ。愛している。
そう言うことすら許されない人生だった。それでもここまで生きてこられたのは、一重に娘がこの銀河のどこかにいるという確信があったからだった。しかし、このままでは全てが無に帰してしまう。
ドゥークーは娘の穏やかで愛らしい寝顔を見て、決心を固めた。そして恐る恐る、柔らかな彼女の頬に手を伸ばした。だが、もう少しで温もりを感じられるというところで、ドゥークーは手を引っ込めた。それから踵を返し、彼は部屋を後にした。その背中には、確かに父親としての愛が滲み出ていた。
部屋を出た彼が向かった先は、意外な人物の元だった。
「────閣下。こんな夜更けに如何なされましたか?」
彼が訪れたのは、グリーヴァスの元だった。
「……将軍。君はいつも、私の命には忠実だった」
愚直すぎる程に、な。
ドゥークーは不敵に、けれどもどこか穏やかに笑った。グリーヴァスの人工知能は、すぐに自分の師の様子がいつもと違うことに気付いた。
「君に、最期の命令を下そう。そして、永遠にこの願いを守ってほしい」
「閣下……?」
ドゥークーは、深呼吸して言葉を発した。それは、グリーヴァスにとって驚くべきものだった。
「────ブレイン……アンヌ・トワイラスを守り通してほしい」
「トワイラスを?何故ですか?あやつは敵将のようなもの!何故あなたはそこまであの小娘を気にかけられる!」
「頼む。これまで通り、愚直な男でいてくれ。ドロイドを素手で壊しても構わんし、無茶な指揮で母艦もろとも全滅させても構わん。戦い方がエレガントでなくとも、フェアでなくとも構わん。だから、だから……」
ドゥークーが、懇願している。グリーヴァスにとって、それは初めて見る師の姿だった。そして、その願いは冷酷なサイボーグにさえも否応なしに感傷を誘った。
グリーヴァスが頷く。それを見届けたドゥークーの表情は、途端に明るくなった。
「良かった……お前がいてくれて、本当に良かった」
「閣下。一つだけ、教えて下さい。何故、トワイラスを守らねばならぬのですか?」
ドゥークーは、顔を上げてグリーヴァスに微笑んだ。そして、優しく綻んだ口を開いた。
「────あの子は、私の娘なのだよ」
グリーヴァスの脳に、衝撃が走る。そして、それ以上何も言わなかった。いや、正確には何も言えなかった。
夜明けがすぐそこまで迫っていた。ドゥークーは、ジェダイ聖堂の表玄関前の階段に佇んでいた。そして、一度だけ聖堂の方を見た。それから、再び前に視線を戻して歩きだした。
その様子は、かつて彼がジェダイオーダーを去った時と同じだった。無論だ。彼はこれから、正にコルサントを去ろうとしているのだから。
「さらばだ、我が娘よ」
いつかもし、散り散りになったフォースの一欠片としてであっても巡り会えたなら。その時ならば────
「その時ならば、お前を娘と呼べるのだろうか」
朝日が階段を照らし始めた。そして、朝が巡って来たとき。既にドゥークーの姿は無かった。