アンヌはオーガナが用意したオルデラーンの他の惑星に設置されている研究施設にいた。
　彼女はカプセル容器のような覆いがついたベッドに真っ直ぐ横たわると、目を閉じた。研究者が言った。
｢目覚める時は15年後です。……良い眠りを｣
｢ありがとう。私が生き延びた理由がそうであることを祈ります。｣
アンヌは多すぎる犠牲者の代わりに生きている理由を、ようやく悟った。
　生きて、未来の人々を救う。
彼女に出来るのは、戦いでも答弁でもない。彼女に出来ることは、策を考え、知恵を与えることなのだ。帝国の統治がすぐに終わるとは思えなかった。だから敢えて15年後にしたのだ。その時には恐らく彼女のことを覚えている人も居なくなっているだろうし、何より人々は既にジェダイを伝説として捉えているはずだ。それに、もう一つ。彼女の腕にはフォースを感知、使用できないように制限する腕輪がはめられている。これは尋問官や、シスたちの追跡を防ぐためだ。だから今の彼女には普通の人が見ている世界が見えている。違和感があるが、平凡でどこかいとおしかった。
　ゆっくり、カプセルが閉まっていく。ふいに、彼女はある日みんなでナブーにピクニックへ行ったことを思い出した。パドメの別荘近くの草原で、楽しい時間を過ごした。
　アンヌは自分が泣いていることに驚いた。
　ああ、そういえば粛清のときから涙など、流していない。
自然なはずだったことに今更気づき、彼女は自分がようやく素直に悲しむことができる人情を思い出せたことに喜びを感じた。。
　たくさんの人の笑顔が浮かんでは、消えていく。手を伸ばせば届きそうな思い出の数々に、彼女はあと15年は浸れることに幸せを噛み締めながら、冷凍されていく不思議な感覚に静かに身を委ねた。
　
　──結局、ここに戻ってくるのか。
オビ＝ワンはタトゥイーンの大地を踏んで、そう思っていた。思えばアナキンと出会ったのもここだった。初めはマスターに対する嫉妬も感じていたが、すぐに大切な兄弟のような師弟になれた。かけがえのない家族のような気持ちでいつも接していた。
　…………それなのに。
あとはもう、考えたくなかった。
　彼は双子のうちの兄の方をラーズ夫婦に預け、静かにその住まいから去った。
　ふと、懐かしい誰かに呼ばれたような気がして、彼は後ろを見た。
　はるか彼方には、美しい双子の太陽が地平線の向こうへ沈もうとしていた。
　オビ＝ワンはそこで悟った。
｢…………夜は、永遠には続かない。｣
例え帝国の統治が暗黒の日々だとしても、今日も星星とフォース、そして人々の何気ない営みは回っていく。昨日とは変わらずに朝が来て、昼を迎え、夜が来る。そして、また朝が来る─────
　その繰り返しだけは、決して誰も奪うことは出来ない。