「………ジェダイ？お兄さん達って、ジェダイだったの？」
突然の告白に、アンヌは驚いた。まさか、空腹で困っていた人がジェダイで、しかも自分がジェダイにならないかと勧誘されるとは。
「わ、私には何の才能もありませんよ。だって、ただの田舎娘だから」
「それは違う。君は、選ばれし者なんだ。」
それでも彼女は首を横に振った。
「違う、違うよ！きっとお兄さんの勘違いだよ！」
確かにアンヌはこの惑星をいつかは飛び出したかった。
───でも、今すぐなんて。
　彼女にはまだ故郷と養家に別れを告げる心の準備が出来ていなかった。べつにジェダイになりたいとかなりたくないとか、もはやそんな次元では無かった。ただ、少女らしく純粋に戸惑っていたのだ。もちろん、そこに僅かな期待も無かったとはっきり断言出来るわけでもなかった。だからこそ、余計にどう返事をしていいのかが分からなかったのだ。
「そ、そんなに言うなら、叔父さんと叔母さんに聞いてみてよ」
「ああ、いいだろう。」
「ね、ねえ、ちょっと待ってくださいよ！マスターー！」
突然の告白に驚いたのはなにもアンヌだけではない。アナキンも当事者並かそれ以上に驚いていた。しかも少女は自分と同じ選ばれし者という格がついているのだ。焦ってしまうのも無理はない。
「ね、ねえマスター。ひょっとしたら勘違いかも………」
「いいや、この子は選ばれし者だ。間違いない。」
そう言い残して、オビ＝ワンはさっさとアンヌの養夫婦の元へ行ってしまった。残された彼女とアナキンは、ただことの成り行きを呆然と立ち尽くして見ているしかなかった。
　
　オビ＝ワンが養夫婦の前に現れると、二人は初めは驚いたが、彼の説明を受けてことの全てを理解した。そして、妻の方がこう言った。
「…とうとうそういうことになりましたか。あの子は始めからそうなる運命の元で生まれて、私たちの元へ来たわけですから。」
「………それは、どういうことですか？」
訝しげに尋ねるオビ＝ワンに、妻はそれ以上語ってはくれなかった。仕方がなく、彼もそれ以上は聞かなかった。その代わり、承諾を求めた。
「……つまり、私はあの子を連れていっても構わないわけですか？」
その問に、彼女はただ、首を縦に振った。まるで、始めからこうなると決まっていたかのように。
「ええ、どうぞ。……それがあの子の運命なのですから」
オビ＝ワンは胸が塞がる思いだった。血の繋がりは無いとはいえ、いままで実の子同然に育ててきた子供から突然引き離されるのだから。妻の方はそれっきり黙ってしまった。夫の方は、ずっと本に目を落としているが、その顔からは明らかに哀しみが滲み出ていた。
　オビ＝ワンが何も言えずにいると、息せき切ってアンヌが家に走りこんできた。
「叔母さん！！叔父さん！私はまだ独りで生きてなんて行けないよ」
そう言った彼女の目には涙が浮かんでいた。それを妻がやさしくなだめた。
「………いいこと？あなたはきっと、立派なジェダイになれるわ。だから、大丈夫。あなたがここを去っても、タリアスという惑星は決して消えないわ。私はあなたが成長して、素敵なレディになるまで、楽しみにしているから」
「………うん。」
アンヌは小さく、力なく頷いた。そして、決意を固めて荷造りを手早く済ませると、オビ＝ワンの元へ戻ってきた。彼は恐る恐る尋ねた。
「………いいのか？」
その問いに彼女は先ほどとは違って、はっきりと答えた。
「うん。だって、これが私の運命なんでしょ？だったら、私はそれに従わなきゃ。」
彼は彼女の瞳がもう子供らしさを帯びていないことに気づいた。
　……覚悟が出来たのか。
オビ＝ワンはふと、アナキンと初めて出会ったときのことを思い出した。彼も当時はまだ彼女程の年齢で、同じように家族から引き離されてジェダイ聖堂へ来た少年だった。アナキンを連れてきたマスター・クワイ＝ガンはその後死んでしまい、そのとき彼のパダワンであったオビ＝ワンがアナキンの師匠となったのだ。クワイ＝ガンがアナキンを連れてきたときの状況と心情が今のオビ＝ワンと重なるかどうかはわからない。だが、彼は少なくとも、この少女の人生を変えてしまったのだ。事の大きさと、唐突すぎる運命の残酷さに彼はアンヌにそれ以上何も声を掛けることが出来なかった。
　
　無言のまま給油が済んだ船に乗ると、アナキンがなにか声をかけようとした。それを目で遮ったオビ＝ワンは、アンヌと座席につき、光速座標をコルサントに設定した。誰もが無言のまま、すぐに船はハイパースペースへ入った。生まれて初めてハイパースペースへ入るのをみた彼女にはそれがまるで、行き着く宛がわからない己の運命の始まりのようにも思えたのだった。