アンヌとオビ＝ワンの間に、気まずい雰囲気が漂った。しまった……とオビ＝ワンは思った。突然知らないよそ者に名前を聞かれたら、恐らく誰でも引くだろうに。そう気づいた彼は、いつの間にか恥ずかしさで赤面していた。アンヌはただ、オビ＝ワンをこの上なく怪しげなものを見るかのような表情をしているのがやっとだった。だが、この空気を打開したのは、オビ＝ワンの腹の音だった。
「ぐぅううう………」
………あまりにも間抜けな音である。オビ＝ワンはますます赤面した。そんな彼を見て、ついつい彼女は笑ってしまった。
「お兄さん、お腹すいてるんだね？私の家においでよ。すぐ用意してあげるね！ついてきて」
「あ、おい、ちょっと待ってくれ……」
オビ＝ワンは彼女を呼び止めた。ようやく腹を空かせた弟子のことを思い出したのだ。
「なに？お兄さん」
「実は、弟子を連れてきたんだ。おーい、ア……」
オビ＝ワンが振り向くと、そこには今にもダークサイドに堕ちそうな顔をしたアナキンの姿があった。
「………マスター………。」
「す、すまない、呼んでくれたら良かったのに」
「………呼びました。何回も呼びましたよっ！！」
そんな二人のやり取りを見ていたアンヌは、また笑ってアナキンにも家に来るようにと誘った。人の世話になるほど腹は空いていないと意地を張るアナキンだったが、そっぽを向いたあとに盛大に腹を鳴らしてしまったため、結局二人は彼女の家で食事をとることになった。
家は街で唯一の本屋だった。しかし、本屋と言えども、都会の本屋とはすこし訳が違った。最初にそれに気づいたのはアナキンだった。
「ねえ、君。」
「なあに？？」
「これ、本屋って言うよりは……雑貨屋じゃあないか！！」
「こら、アナキン。その言い方は失礼だぞ」
ありのままを言う弟子をオビ＝ワンは叱責した。その様子を見て、アンヌは子供らしい笑顔で笑った。
「いいよ、お兄さん。ホントのことだから」
「あ、そうなのか………？」
「やっぱ君も変だって思ってるんだ」
「うん！」
そんなアナキンの言葉にも全く嫌気がさしているような感じもない少女をみて、オビ＝ワンはいい兄妹をみているかのような気分になった。───自分が知らない、家族というものの暖かみはこんなものかもしれないと。そして彼の中でこの時からアンヌというのは、よく笑う明るく優しい子だと印象づけられた。
　家の人に食事を用意してもらい、二人はようやく空腹から脱却した。
「いやー助かりました。危うく師弟共々餓死する所でした」
「ごちそうさま、ありがとな！」
温かい食事に、優しい一家。そんな姿にオビ＝ワンは不意に憧れを感じた。そして、この家族との来るべき別れを知った。だが、彼はどうしてもあっさりと別れることが出来なかった。それは、少女に対して感じたフォースの強い導きのことだった。その時はあまり深く感じてはいなかったのだが、オビ＝ワンは時を経るごとにある確信を強めていた。
　───彼女は、選ばれし者だ。
最初は彼も勘違いだと思っていた。だが、どうしても何故かアナキンと似ているフォースを感じるのだ。けれど、完全に一致はしない。そんな不可思議で言葉にも出来ないこの感覚を、オビ＝ワンはどうやって本人に伝えようかと悩んだ。そもそも選ばれし者は二人も同時期に存在してよいものなのだろうか。そうして悩みに悩んだ彼だが、ついに決意を固め、言わなければならないという瞬間が来てしまったのだ。それは、彼女の家を後にしようとしたときだった。不意にアンヌの方から、どこから来たのかと尋ねられたのだ。その問いにオビ＝ワンはコルサントからだと答えた。その答えに瞳を輝かせた少女に、彼はどうしても彼女の秘めている可能性について告げなければならない、と強く思ったのだ。そして、彼は大きく息を吸い、こう言った。
「────ジェダイ聖堂に、来ないか」