遠い昔、はるか彼方の銀河系での物語。それは、誰もが知る物語。だが、それも喪失と再生の物語の断片にしかしすぎない。そう聞けば、誰もがは全ての物語の断片を繋ぎ合わせたくなるだろう。
　
　
　これは、フォースに魅入られた、もう一人の少女の話。または、愚かでちっぽけな生命が、壮大すぎる運命に、たった一人で抗い続ける物語である。
　
　
　
　
　
　
　
　
　雨降る中、一組の夫婦が公共シャトルの乗り場へ向かって走っている。妻の腕の中では、愛らしい表情を浮かべている2歳にも満たない娘が眠っていた。優雅に眠る少女の髪は美しい赤茶色なのだが、奇妙なことに顔立ちも特徴も夫婦には似ていない。
　シャトルに何とか辿り着いた夫婦は、ほっと胸を撫で下ろして目立たない後方の座席に腰を下ろした。相変わらず娘は眠ったままで、思わず見ている側が微笑みたくなる程に美しい寝顔だった。そんな彼女を抱き締めながら、妻がポツリと呟いた。
「もうすぐですから、ごゆっくりとお休み下さ────」
「リアドロス、言葉に気を付けろ」
　リアドロスと呼ばれた妻は、慌てて口をつぐんで辺りを見回した。幸いにも、誰も聞いてはいないようだ。
「ごめんなさい、ベン。だって、私……やっぱり畏れ多くて……」
「この子はこれから、私たちの子なんだ。託された我々は、精一杯この子を立派に育てねばならん。今更気が引けていては、それこそ不忠だぞ」
　ベンと呼ばれた夫は、ため息をついて窓の外に広がる満点の星々を見た。それから、目を細めてこう言った。
「────フォースよ、どうかこの子をお守りください……」
　二人の不安も知らず、少女は眠り続けている。そしてこの場に居た誰もが、彼女を待ち受ける過酷な定めと運命に穿つ道を予想などしなかった。