この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
5、皇帝の尋問
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ボールトに入れられたアンヌは、目覚める様子もなく穏やかな寝息を立てていた。一方、ヴァスロイ・ガー・サクソンは船室に籠もったまま、怯えた顔を浮かべている。明らかに何かを恐れている兄の姿に、タイバーは嘲笑を向けた。
「兄さん、何を恐れているんですか。ブレインがあなたを取って食うわけじゃるまいし」
「だから……だから恐ろしいんだ」
「はぁ?」
「俺は……俺達は、ジェダイという生き物にとんでもなく大きな偏見を抱いていたんじゃないのか?」
ガーの目には、今でも領民のために命を投げ出すアンヌの姿が焼き付いていた。それはまるで怨嗟のように、彼の心をじわじわと蝕んでいく。タイバーはそんな兄に、再び冷笑を投げた。
「単なる、平和主義者ですよ。まあ、あなたよりは気が合いそうな輩だとは思いますが」
どこまでも神経を逆なでしてくる弟に苛立ちを隠せず、ガーは苦々しい面持ちで立ち上がった。
「どこへ行くのですか、兄さん」
わざとらしい質問に歩みを止めている猶予はない。分かりきったことを聞くやつだ、と総督は思いながら部屋を後にするのだった。
ボールトは船の最奥にある独房に置かれていた。周囲には、インペリアル・スーパーコマンドーの精鋭が待機している。いずれの者も、一撃で気絶させられる威力を持つ最新型のショックブラスターを装備していた。
総督の視察に気づいた一同は、丁寧な敬礼を見せた。ガーはそれを一瞥すると、全員独房の外に出るように指示した。一人のスーパーコマンドーがそれを拒否しようとしたが、総督の圧に負けて渋々部屋を後にせざるを得なかった。
部下が一人残らず居なくなった独房には、無機質なボールトと総督の2人――――正確には1人と1箱が残された。独房は総督の指示があるまでロックが掛けられている。
ガーはボールト越しにアンヌを見つめた。それから返事が来ることがないとわかっていながらも、独り言を吐き始めた。
「ずっと……探していたんだ。俺の心のなかから、いつまでも居なくなってくれないから。ずっと……ずっと……ずっと、呪いのようにッ!!!!」
もちろん、ガーのほしい返事は無い。それが虚しさを加速させたのか、彼の心のなかに闇が芽生えた。視線は、ボールトの開閉ボタンに注がれている。
「今ここで……ここで終わらせられるなら……」
総督はアンヌの安らかな表情を確かめるように、強化ガラスの上から輪郭を指先でなぞった。体温は何も感じられないが、たしかにそこには愛した人そのものの面影があった。
そして、ガーは……
>ボールトを開く
>躊躇する
ガーは、ボールトの扉を開けるためにボタンを押した。解除コードは、二人が初めて出会った日だ。
重苦しい音を立てながら、ボールトの扉が開く。崩れ落ちるように解放されたアンヌ¥を、ガーはそっと抱き留めて囁いた。
「今まで、ずっと……待っていたんだぞ」
「ん……」
コルサントに連行される彼女の運命など、皇帝の手である総督にとっては自明だった。服從か、死か。たったの二択だが、きっと仲間を喪った彼女にとっては何よりも重い選択となるだろう。
それならば。それならば、いっそ。
「……俺の手で、始末をつける」
ガーは朦朧としているアンヌの唇に、自分の震える唇を重ねた。それから腰に下げていたピストルブラスターを愛する人の胸に突きつけ、震える銃口に抗いながら引き金を引いた。
無機質なビーム音が響く。
刹那、僅かにアンヌが笑ったような気がした。いや、確かに笑っていた。
ああ、そうか。そうだったのか。
ガーは無気力に笑った。彼は知ってしまったのだ。アンヌの隠された望みの一片を。
「ああ、そうだったのか……お前は、ずっと……」
ずっと、終焉(おわり)を探していたのか。
ガーはもう動かなくなった愛した人を見下ろしながら、乾いた笑い声を上げた。そろそろ、外に待機しているスーパーコマンドーたちが勘づく頃だろう。
案の定、扉の外では気を動転させた弟の声が響いている。
「兄さん?兄さん!?何があったんです!?」
総督は外の喧騒を無視して、まだ暖かいアンヌを抱きしめて微笑んだ。
「アンヌ。やっと、一緒に居られるな」
もちろん、返事はない。代わりに安らかな寝顔が彼の心を暖かくした。
「さあ、そろそろ時間だ」
そう言って、ガーは自らのこめかみにブラスターの切っ先をつけた。それから瞳を閉じて、迷いのない動きで引き金を引いた。
不思議と恐怖心は無かった。
それはそうだろう。
なぜなら、今度こそ愛する人の手を離さずに済むのだから。
後に現場へ突入したグランドモフ・ターキンとタイバー・サクソンは凄惨な現場を目撃することとなった。そこには独房に横たわる二体の死体があった。うち一体は誇り高きマンダロアの戦士ガー・サクソンであり、もう一体は反逆の軍師アンヌ・トワイラスその人自身であったとういう。
二人は寄り添うように倒れており、その表情は現場の苛烈さを忘れさせるかのように穏やかなものだった。
【END2:果たされた望み】
我に返ったガーは、ボールトから慄くように離れた。そして、アンヌがあの日サンダーリの市街から逃げ去ったように、彼自身もまた独房から逃れるように離れるのだった。
コルサントに辿り着いた船は、最厳重警戒態勢で出迎えられた。ストームトルーパーの上位層であるデストルーパーは数十人単位で揃えられているし、尋問官は数えるだけで5人は居る。ガーは##NAME1#――――ブレインの脅威を目の当たりにしたような気がして息を呑んだ。そんな危険極まりない貨物を直々に出迎えたのは、やはり皇帝の右腕であるダース・ヴェイダーだった。ヴェイダーはボールトの中に入っているアンヌを一瞥すると、無機質な声で移送指示を出した。区画番号を聞く限り、特別尋問室のようだ。ガーは苦々しい面持ちを崩すことなく立ちすくんでいる。
アンヌが運び込まれたのは、かつてジェダイ聖堂と呼ばれた場所だった。帝国によってインペリアルパレスと化したその場所は、元ジェダイたちにとっては辛酸の記憶を呼び覚ます。少しだけ、ヴェイダーはアンヌが眠りについていることを幸いだと思った。
尋問室に着くと、そこには皇帝が立っていた。パルパティーン自らが尋問に出向くことなど、ここ数年は無かったことだ。ガーは反射的に膝をつくと、頭を深々と下げた。その隣では、尋問官がライトセイバーの切っ先を突きつけている中でボールトの開封が行われている。歴戦の尋問官とはいえ、その切っ先はわずかに震えている。緊迫した空気をよそに、ガーは俯きながら一部始終を見届ける前に退散しようと考えていた。だが、皇帝がそれを許さなかった。彼は冷酷無慈悲に笑うと、ガーを蹴り飛ばした。
「ぐっ……!」
「貴様、逃れようとしたな。愚かな奴だ。余に忠誠を示せ。さもなくば、ここで死ね」
忠誠を示す、の意味が一瞬わからずガーは唖然とした。だが、すぐに隣で拷問台に繋がれていくアンヌの姿を見て、彼はその意味を理解した。
この俺様に愛した女の拷問をしろ、ということか。
流石の悪趣味だ。ガーは嫌悪感から来る吐き気を催しながらも立ち上がった。それから拳に力を込めてアンヌの頬を殴ろうと振りかぶる。
だが、その拳は寸前で止まった。いや、正確には止められた。何が起きたのかを理解するのに苦しんでいると、徐ろにアンヌ――――ブレインの両目が開いた。
「……手荒なことをしなくても、起きているよ」
昔と変わらない嫌な言い回しに、近くで待機していたターキン総督の表情が歪む。アンヌは辺りを見回すと、まずターキンを一瞥した。
「相変わらず、しけた顔をしているね」
その場で殴り殺してやりたい思いを抑えて、ターキンは顔を引き攣らせて笑顔を作った。もちろん、そんなことはブレインにとってはお見通しの事実だ。そして、それがまた彼の癪に障ったのは言うまでもない。
「久しぶりだな、ジェダイ・ブレイン・アンヌ・トワイラス」
「アンヌ・ドゥークー・トワイラス女伯だ。長ったらしいのはやめてくれ」
「どちらでも構わんさ。今は天然記念物の負け犬だ」
「あははは、お前にしては面白いねぇ」
アンヌの目は笑っていなかった。ターキンは鳥肌が立つのを堪えきれず、自ら視線を切った。続いて、彼女はアナキン・スカイウォーカー改めダース・ヴェイダーへと視線を移した。わずかに沈黙が走る。
「こうして、因縁のある相手と一気に会えるなんて。随分と気前が良いじゃないか」
懐かしさが一瞬で失せるほどに、アンヌは飄々としていた。
ここまで嫌味な奴だっただろうか。
思わずヴェイダーからため息が漏れる。だが彼は一つだけ確信していることがあった。それは、アンヌの瞳に明白な殺意が宿っていることだ。
ここまで殺意をあからさまに向けてくるとは。やはり、もうジェダイではなさそうだ。
「そうさせたのは、お前たちじゃないのか。まぁ……ジェダイとも言えるけどね」
またしても腹の中を見透かしてくるような発言をするアンヌに、ヴェイダーは寒気を覚えた。
「……いつの間に透視ができるようになったんだ?」
「透視じゃあないさ。単なる推察だよ」
それほどに単純思考、と言われたような気がしてヴェイダーは思わずアンヌの首を締め上げた。これには流石のガーも驚いた。だが、ターキンも皇帝も無言でその一部始終を眺めている。そこで、ガーは戦士の目で注意深くアンヌの様子を観察した。そして、普通の士官なら苦しみでもがくはずのフォー不チョークを、真顔で受けているという非現実的な事実に気づいた。
「……見たかね、サクソン総督。こいつは、化け物だ。何としてでも威信をかけたダークサイドとの戦いに勝つべく、ジェダイが生み出した怪物なのだよ」
ヴェイダーの怒りは、ガーに説明を試みることで落ち着いてきたようだ。ものの数十秒で解放されたアンヌは、流石に咳き込んだ。
「痛みはあまり感じないけど、やっぱり苦しさは堪えるね」
「……化け物め」
「それは、お互い様だと思うよ」
吐き捨てるように罵詈雑言を呟くヴェイダーを置いて、アンヌは次なる人物に視線を向けた。もちろん、皇帝だ。
「ご拝謁遅くなりました、閣下。非礼を心よりお詫び申し上げます」
アンヌは他人事のように言葉を紡ぐ口が、自分でも信じられなかった。怨みというものは、どうやら一定指数を超えると罵倒すら惜しくなるらしい。
対して皇帝は、勝ち誇ったように笑った。
「あぁ!お前は誠に無礼者よ。我ら帝国軍の力となれば、その非礼を許してやるというのに」
「……いや。そもそも私は、ジェダイにすら手を貸した覚えはないんだけど」
その言葉が婉曲的な拒絶と知った皇帝は、怒りに打ち震えながらアンヌを睨みつけた。彼は突然右手を振り上げると、その指先から強烈な電流を浴びせた。
「ぐ……っ……あぁ……うっ……」
電流――――フォース・ライトニングをまともに受けたアンヌは、流石に苦痛でもがき苦しんでいる。だが、満足気に彼女を見下ろした皇帝の表情が凍りつくのに時間はかからなかった。
「なっ……」
アンヌは、笑っていた。苦しみにもがきながらも、確かにその両目は笑っているのだ。あまりのアンバランスさに、その場にいた全員が息を呑んだ。ただ一人、ダース・ヴェイダーだけは冷静だった。想像以上の気味の悪さに、皇帝とターキンは尋問官たちに尋問の責務を押し付けて立ち去ってしまった。
となると、尋問官とアンヌを除いてその場に残されたのは、ヴァスロイ・ガー・サクソンとダースヴェイダーの2人だ。彼らは互いに無言を貫いていたが、やがてどちらが提案したわけでもなくパーソナルルームへと向かうことになった。
ガーは給仕係にとびきり強い酒を頼むと、無言でソファーに腰掛けた。視線でヴェイダーにも何か頼むか確認したが、暗黒卿は胸元の機械を指さして静かに首を横に振った。
「…………ああ、そうか。あなたは呑めないのか」
「そうだ。だが、呑まんとやってられん日もあるのは事実だ。例えば、今日のように…………」
そう言いながら、ヴェイダーは突然マスクを外した。ガーも初めて見るその素顔は、青白い肌と痛々しい火傷の跡、そして機械仕掛けの生命維持装置を除けば普通の男だった。それもそのはずだ。ダースヴェイダーのかつての名は、銀河の誰もがその名を知るアナキン・スカイウォーカーなのだから。
ヴェイダーは独り言を吐くように、外を飛び交う無数のスピーダーを眺めながら話し始めた。
「アンヌが変わってしまったのは、共和国のせいだ」
「…………それまでは、普通の少女だったとでも?」
「ああ、笑顔の眩しい普通の女の子だった。だが…………だが…………私の師があの子をここへ連れてきて、すべてを壊した」
師とは、オビ=ワン・ケノービのことか。ガーは無言で続きを促した。
「評議会も共和国も、強力な軍師を求めた。そしてアンヌは…………私のように皆の役に立ちたいと言って、自ら人体実験に参加した」
「人体実験?共和国がそんなことをしていたのか?」
「お前も見ただろう。どれほど苦痛を与えられても、身体が切り裂かれても痛みを感じないあの子を」
ヴェイダーの言葉に、ガーの表情が歪む。認めてしまったら彼女が怪物になってしまう、そんな気がしていた。
「あの子は、殆どの痛みを感じない。だがそれは感覚の問題で、心と身体は苦しむ。その乖離が、彼女を生き物ではない別の何かに変えてしまった」
暗黒卿は再びマスクを被り直すと、椅子から立ち上がった。いつの間にか口調はいつものヴェイダーの様子に戻っている。
「さて、懐かしい昔話はこれで終わりだ。そういうわけで、アンヌ・トワイラスは決して拷問などでは屈しない。残った裁きは――――」
扉の前まで歩き、暗黒卿は振り返らずに言い放った。その言葉は凍てつく冷たさを帯びていた。
「死、あるのみだ」
部屋に残されたガーは、出るにはあまりに遅すぎる酒を一気に煽った。そんな憂鬱なコルサントの夜、最後に彼が聞いたのはダイバーの声とともに飛び込んできた『ブレイン死刑』のニュースだった。堕ちていく意識の中、彼は予想通りの結末に乾いた笑い声を上げることしかできなかった。
「兄さん、何を恐れているんですか。ブレインがあなたを取って食うわけじゃるまいし」
「だから……だから恐ろしいんだ」
「はぁ?」
「俺は……俺達は、ジェダイという生き物にとんでもなく大きな偏見を抱いていたんじゃないのか?」
ガーの目には、今でも領民のために命を投げ出すアンヌの姿が焼き付いていた。それはまるで怨嗟のように、彼の心をじわじわと蝕んでいく。タイバーはそんな兄に、再び冷笑を投げた。
「単なる、平和主義者ですよ。まあ、あなたよりは気が合いそうな輩だとは思いますが」
どこまでも神経を逆なでしてくる弟に苛立ちを隠せず、ガーは苦々しい面持ちで立ち上がった。
「どこへ行くのですか、兄さん」
わざとらしい質問に歩みを止めている猶予はない。分かりきったことを聞くやつだ、と総督は思いながら部屋を後にするのだった。
ボールトは船の最奥にある独房に置かれていた。周囲には、インペリアル・スーパーコマンドーの精鋭が待機している。いずれの者も、一撃で気絶させられる威力を持つ最新型のショックブラスターを装備していた。
総督の視察に気づいた一同は、丁寧な敬礼を見せた。ガーはそれを一瞥すると、全員独房の外に出るように指示した。一人のスーパーコマンドーがそれを拒否しようとしたが、総督の圧に負けて渋々部屋を後にせざるを得なかった。
部下が一人残らず居なくなった独房には、無機質なボールトと総督の2人――――正確には1人と1箱が残された。独房は総督の指示があるまでロックが掛けられている。
ガーはボールト越しにアンヌを見つめた。それから返事が来ることがないとわかっていながらも、独り言を吐き始めた。
「ずっと……探していたんだ。俺の心のなかから、いつまでも居なくなってくれないから。ずっと……ずっと……ずっと、呪いのようにッ!!!!」
もちろん、ガーのほしい返事は無い。それが虚しさを加速させたのか、彼の心のなかに闇が芽生えた。視線は、ボールトの開閉ボタンに注がれている。
「今ここで……ここで終わらせられるなら……」
総督はアンヌの安らかな表情を確かめるように、強化ガラスの上から輪郭を指先でなぞった。体温は何も感じられないが、たしかにそこには愛した人そのものの面影があった。
そして、ガーは……
>ボールトを開く
>躊躇する
ガーは、ボールトの扉を開けるためにボタンを押した。解除コードは、二人が初めて出会った日だ。
重苦しい音を立てながら、ボールトの扉が開く。崩れ落ちるように解放されたアンヌ¥を、ガーはそっと抱き留めて囁いた。
「今まで、ずっと……待っていたんだぞ」
「ん……」
コルサントに連行される彼女の運命など、皇帝の手である総督にとっては自明だった。服從か、死か。たったの二択だが、きっと仲間を喪った彼女にとっては何よりも重い選択となるだろう。
それならば。それならば、いっそ。
「……俺の手で、始末をつける」
ガーは朦朧としているアンヌの唇に、自分の震える唇を重ねた。それから腰に下げていたピストルブラスターを愛する人の胸に突きつけ、震える銃口に抗いながら引き金を引いた。
無機質なビーム音が響く。
刹那、僅かにアンヌが笑ったような気がした。いや、確かに笑っていた。
ああ、そうか。そうだったのか。
ガーは無気力に笑った。彼は知ってしまったのだ。アンヌの隠された望みの一片を。
「ああ、そうだったのか……お前は、ずっと……」
ずっと、終焉(おわり)を探していたのか。
ガーはもう動かなくなった愛した人を見下ろしながら、乾いた笑い声を上げた。そろそろ、外に待機しているスーパーコマンドーたちが勘づく頃だろう。
案の定、扉の外では気を動転させた弟の声が響いている。
「兄さん?兄さん!?何があったんです!?」
総督は外の喧騒を無視して、まだ暖かいアンヌを抱きしめて微笑んだ。
「アンヌ。やっと、一緒に居られるな」
もちろん、返事はない。代わりに安らかな寝顔が彼の心を暖かくした。
「さあ、そろそろ時間だ」
そう言って、ガーは自らのこめかみにブラスターの切っ先をつけた。それから瞳を閉じて、迷いのない動きで引き金を引いた。
不思議と恐怖心は無かった。
それはそうだろう。
なぜなら、今度こそ愛する人の手を離さずに済むのだから。
後に現場へ突入したグランドモフ・ターキンとタイバー・サクソンは凄惨な現場を目撃することとなった。そこには独房に横たわる二体の死体があった。うち一体は誇り高きマンダロアの戦士ガー・サクソンであり、もう一体は反逆の軍師アンヌ・トワイラスその人自身であったとういう。
二人は寄り添うように倒れており、その表情は現場の苛烈さを忘れさせるかのように穏やかなものだった。
【END2:果たされた望み】
我に返ったガーは、ボールトから慄くように離れた。そして、アンヌがあの日サンダーリの市街から逃げ去ったように、彼自身もまた独房から逃れるように離れるのだった。
コルサントに辿り着いた船は、最厳重警戒態勢で出迎えられた。ストームトルーパーの上位層であるデストルーパーは数十人単位で揃えられているし、尋問官は数えるだけで5人は居る。ガーは##NAME1#――――ブレインの脅威を目の当たりにしたような気がして息を呑んだ。そんな危険極まりない貨物を直々に出迎えたのは、やはり皇帝の右腕であるダース・ヴェイダーだった。ヴェイダーはボールトの中に入っているアンヌを一瞥すると、無機質な声で移送指示を出した。区画番号を聞く限り、特別尋問室のようだ。ガーは苦々しい面持ちを崩すことなく立ちすくんでいる。
アンヌが運び込まれたのは、かつてジェダイ聖堂と呼ばれた場所だった。帝国によってインペリアルパレスと化したその場所は、元ジェダイたちにとっては辛酸の記憶を呼び覚ます。少しだけ、ヴェイダーはアンヌが眠りについていることを幸いだと思った。
尋問室に着くと、そこには皇帝が立っていた。パルパティーン自らが尋問に出向くことなど、ここ数年は無かったことだ。ガーは反射的に膝をつくと、頭を深々と下げた。その隣では、尋問官がライトセイバーの切っ先を突きつけている中でボールトの開封が行われている。歴戦の尋問官とはいえ、その切っ先はわずかに震えている。緊迫した空気をよそに、ガーは俯きながら一部始終を見届ける前に退散しようと考えていた。だが、皇帝がそれを許さなかった。彼は冷酷無慈悲に笑うと、ガーを蹴り飛ばした。
「ぐっ……!」
「貴様、逃れようとしたな。愚かな奴だ。余に忠誠を示せ。さもなくば、ここで死ね」
忠誠を示す、の意味が一瞬わからずガーは唖然とした。だが、すぐに隣で拷問台に繋がれていくアンヌの姿を見て、彼はその意味を理解した。
この俺様に愛した女の拷問をしろ、ということか。
流石の悪趣味だ。ガーは嫌悪感から来る吐き気を催しながらも立ち上がった。それから拳に力を込めてアンヌの頬を殴ろうと振りかぶる。
だが、その拳は寸前で止まった。いや、正確には止められた。何が起きたのかを理解するのに苦しんでいると、徐ろにアンヌ――――ブレインの両目が開いた。
「……手荒なことをしなくても、起きているよ」
昔と変わらない嫌な言い回しに、近くで待機していたターキン総督の表情が歪む。アンヌは辺りを見回すと、まずターキンを一瞥した。
「相変わらず、しけた顔をしているね」
その場で殴り殺してやりたい思いを抑えて、ターキンは顔を引き攣らせて笑顔を作った。もちろん、そんなことはブレインにとってはお見通しの事実だ。そして、それがまた彼の癪に障ったのは言うまでもない。
「久しぶりだな、ジェダイ・ブレイン・アンヌ・トワイラス」
「アンヌ・ドゥークー・トワイラス女伯だ。長ったらしいのはやめてくれ」
「どちらでも構わんさ。今は天然記念物の負け犬だ」
「あははは、お前にしては面白いねぇ」
アンヌの目は笑っていなかった。ターキンは鳥肌が立つのを堪えきれず、自ら視線を切った。続いて、彼女はアナキン・スカイウォーカー改めダース・ヴェイダーへと視線を移した。わずかに沈黙が走る。
「こうして、因縁のある相手と一気に会えるなんて。随分と気前が良いじゃないか」
懐かしさが一瞬で失せるほどに、アンヌは飄々としていた。
ここまで嫌味な奴だっただろうか。
思わずヴェイダーからため息が漏れる。だが彼は一つだけ確信していることがあった。それは、アンヌの瞳に明白な殺意が宿っていることだ。
ここまで殺意をあからさまに向けてくるとは。やはり、もうジェダイではなさそうだ。
「そうさせたのは、お前たちじゃないのか。まぁ……ジェダイとも言えるけどね」
またしても腹の中を見透かしてくるような発言をするアンヌに、ヴェイダーは寒気を覚えた。
「……いつの間に透視ができるようになったんだ?」
「透視じゃあないさ。単なる推察だよ」
それほどに単純思考、と言われたような気がしてヴェイダーは思わずアンヌの首を締め上げた。これには流石のガーも驚いた。だが、ターキンも皇帝も無言でその一部始終を眺めている。そこで、ガーは戦士の目で注意深くアンヌの様子を観察した。そして、普通の士官なら苦しみでもがくはずのフォー不チョークを、真顔で受けているという非現実的な事実に気づいた。
「……見たかね、サクソン総督。こいつは、化け物だ。何としてでも威信をかけたダークサイドとの戦いに勝つべく、ジェダイが生み出した怪物なのだよ」
ヴェイダーの怒りは、ガーに説明を試みることで落ち着いてきたようだ。ものの数十秒で解放されたアンヌは、流石に咳き込んだ。
「痛みはあまり感じないけど、やっぱり苦しさは堪えるね」
「……化け物め」
「それは、お互い様だと思うよ」
吐き捨てるように罵詈雑言を呟くヴェイダーを置いて、アンヌは次なる人物に視線を向けた。もちろん、皇帝だ。
「ご拝謁遅くなりました、閣下。非礼を心よりお詫び申し上げます」
アンヌは他人事のように言葉を紡ぐ口が、自分でも信じられなかった。怨みというものは、どうやら一定指数を超えると罵倒すら惜しくなるらしい。
対して皇帝は、勝ち誇ったように笑った。
「あぁ!お前は誠に無礼者よ。我ら帝国軍の力となれば、その非礼を許してやるというのに」
「……いや。そもそも私は、ジェダイにすら手を貸した覚えはないんだけど」
その言葉が婉曲的な拒絶と知った皇帝は、怒りに打ち震えながらアンヌを睨みつけた。彼は突然右手を振り上げると、その指先から強烈な電流を浴びせた。
「ぐ……っ……あぁ……うっ……」
電流――――フォース・ライトニングをまともに受けたアンヌは、流石に苦痛でもがき苦しんでいる。だが、満足気に彼女を見下ろした皇帝の表情が凍りつくのに時間はかからなかった。
「なっ……」
アンヌは、笑っていた。苦しみにもがきながらも、確かにその両目は笑っているのだ。あまりのアンバランスさに、その場にいた全員が息を呑んだ。ただ一人、ダース・ヴェイダーだけは冷静だった。想像以上の気味の悪さに、皇帝とターキンは尋問官たちに尋問の責務を押し付けて立ち去ってしまった。
となると、尋問官とアンヌを除いてその場に残されたのは、ヴァスロイ・ガー・サクソンとダースヴェイダーの2人だ。彼らは互いに無言を貫いていたが、やがてどちらが提案したわけでもなくパーソナルルームへと向かうことになった。
ガーは給仕係にとびきり強い酒を頼むと、無言でソファーに腰掛けた。視線でヴェイダーにも何か頼むか確認したが、暗黒卿は胸元の機械を指さして静かに首を横に振った。
「…………ああ、そうか。あなたは呑めないのか」
「そうだ。だが、呑まんとやってられん日もあるのは事実だ。例えば、今日のように…………」
そう言いながら、ヴェイダーは突然マスクを外した。ガーも初めて見るその素顔は、青白い肌と痛々しい火傷の跡、そして機械仕掛けの生命維持装置を除けば普通の男だった。それもそのはずだ。ダースヴェイダーのかつての名は、銀河の誰もがその名を知るアナキン・スカイウォーカーなのだから。
ヴェイダーは独り言を吐くように、外を飛び交う無数のスピーダーを眺めながら話し始めた。
「アンヌが変わってしまったのは、共和国のせいだ」
「…………それまでは、普通の少女だったとでも?」
「ああ、笑顔の眩しい普通の女の子だった。だが…………だが…………私の師があの子をここへ連れてきて、すべてを壊した」
師とは、オビ=ワン・ケノービのことか。ガーは無言で続きを促した。
「評議会も共和国も、強力な軍師を求めた。そしてアンヌは…………私のように皆の役に立ちたいと言って、自ら人体実験に参加した」
「人体実験?共和国がそんなことをしていたのか?」
「お前も見ただろう。どれほど苦痛を与えられても、身体が切り裂かれても痛みを感じないあの子を」
ヴェイダーの言葉に、ガーの表情が歪む。認めてしまったら彼女が怪物になってしまう、そんな気がしていた。
「あの子は、殆どの痛みを感じない。だがそれは感覚の問題で、心と身体は苦しむ。その乖離が、彼女を生き物ではない別の何かに変えてしまった」
暗黒卿は再びマスクを被り直すと、椅子から立ち上がった。いつの間にか口調はいつものヴェイダーの様子に戻っている。
「さて、懐かしい昔話はこれで終わりだ。そういうわけで、アンヌ・トワイラスは決して拷問などでは屈しない。残った裁きは――――」
扉の前まで歩き、暗黒卿は振り返らずに言い放った。その言葉は凍てつく冷たさを帯びていた。
「死、あるのみだ」
部屋に残されたガーは、出るにはあまりに遅すぎる酒を一気に煽った。そんな憂鬱なコルサントの夜、最後に彼が聞いたのはダイバーの声とともに飛び込んできた『ブレイン死刑』のニュースだった。堕ちていく意識の中、彼は予想通りの結末に乾いた笑い声を上げることしかできなかった。
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