この夢小説は、もし乙女ゲームだったらという設定なので、名前変換をすると100倍楽しめます。名前は、〇〇〇・トワイラスの〇の部分が変わります。
5、動き出した運命
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その日、アンヌはいつも通りの早起きをした。しかし、普段なら真っ直ぐトレーニングルームへ向かうが、この日はフィッティングルームへと足を運んでいた。鼻歌を歌いながら色彩々の上品なドレスを眺める姿は、どこにでもいる年相応の女の子だ。
「うーん……あんまり開きすぎてるのもなぁ……でも、ガーはこういうのが好きなのかなぁ……」
そう、今日は想いを告げて以来初めて顔を合わせる週末なのだ。総督として多忙な合間を縫って一日を過ごしてくれることは、アンヌが愛されていると実感するには充分である。だからこそ、精一杯仕事の疲れを癒してあげたいと思うことは自然だった。
「うん、今日は控えめにしておこうかな。こんなにドレスがあっても困るって思ってたけど、今は丁度良いかも……」
独り言を呟きながら、アンヌは意中のドレスを手に持って自室へと戻っていく。その足取りは、月にでも行けそうなくらいに軽やかなものだった。
一方、ガーの方は朝から落ち着きを失っていた。その様子を見ていた部下たちは、二人の人騒がせさに呆れ返っている。
「引っ付いたり、離れたり、また引っ付いたり……アンヌ様も何と言うか……」
「うちの総督を振り回すなんて、相当な女傑だな」
「ああ、今に見てろ。尻に敷かれるぞ」
そんな部下たちの噂も耳に入らない程に緊張しきっているガーは、アーマーを着ていくか否かを永遠に悩み続けていた。そして色々と悩んだ結果、いつもと違う自分を見てもらおうと思い立った彼は、ラフなジャケットに身を包んでセレノーへと飛び立った。
ガーが発着ベイへ降り立った時には、既にアンヌが出迎えに訪れていた。淡いパープルの薄布が魅力的なドレスを揺らしながら駆け寄ってくる姿は、とても眩しかった。彼女は言葉遣いを繕うのも忘れて、少女のように手を振っている。
「ガー!」
「アンヌ、もう傷は大丈夫なのか?」
「ええ、お陰ですっかり元気!それよりも、会いたかった……」
アンヌを抱き上げたガーは、ほのかに香る甘い匂いに口許を綻ばせる。総督は穏やかな笑みを浮かべると、暖かで柔らかな頬にキスをした。
「俺も会いたかったよ、アンヌ」
「本当?嬉しいなぁ」
大人びているのか、永遠の少女なのか。時折ガーには、アンヌという人が分からなくなることがあった。だが、今はそんな不思議なところも愛らしく思えてしまう。
ガーの手を引いてアンヌがやって来たのは、バラが咲き乱れる庭園だった。伯爵のバラ園と呼ばれているその場所に踏み込むと、武骨な戦士からも感嘆のため息が漏れた。
「今日はね、バラが満開なの。ガーに見せたくて……あ、そうだ!お茶の用意もしたの。アウターリムの直営農園から取り寄せた、上質な豆で淹れたカフと私が頑張って作ったサンド、食べる?」
落ち着いた雰囲気とは異なる姿に、ガーは少しだけ面食らっている。その心境を読み取ったアンヌは、苦笑いを浮かべながら髪を触った。
「あはは……私、嬉しくてつい……」
「────アンヌ」
名前を呼ばれて目を丸くする彼女を抱き寄せると、ガーは真剣な表情で顔を覗き込んできた。バラの花の上品でロマンチックな香りが、アンヌの鼻をくすぐる。徐々に近づいてくる顔に戸惑いながら、彼女はハッとした。
まっ、ままままままさか、これって……せっ、接吻!!?
ジェダイ聖堂に居た頃から真面目だった彼女は、娯楽物や色恋について極端に忌避していた。まさか、17年経ってこのような日が来るとは思いもよらなかった元ジェダイは、慌てふためきながら一先ず落ち着くために俯いた。すると今度は、その顎に大きくて暖かな指が伸びてくる。ガーは片手でアンヌの顎を引き上げると、両手を添えて動かないように固定した。
「あっ、あの……えっと……」
「目を閉じて、口も閉じろ」
成すがままに言われたとおり、アンヌは目も口も閉じた。感じ取ろうとせずとも、フォースが互いの距離を知らせてくる。そして、二人のフォースが溶け合い────
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
タイミング良く現れた侍女の声に飛び上がると、アンヌは目を開けて逃げるようにその場から離れた。残されたガーは、自分の運の悪さに心中で悪態をつくのだった。
昼下がり。二人は美しい石橋の上で川の流れを眺めながら、他愛もない雑談に花を咲かせていた。
「セレノーは、本当に綺麗な場所だな。マンダロアとは大違いだ」
「そんなことないよ。バイオドームの光の屈折、とっても綺麗だよ。それに、コンコーディアはセレノーみたいな場所でしょ?」
コンコーディアと聞いて、ガーが失笑を漏らした。
「あのド田舎衛星が?冗談も休み休みにしてくれ」
「ド田舎はお互い様でしょ?こっちもアウターリムなんだから」
そう言いながら、アンヌが腕に軽くパンチを繰り出す。お返しに彼女の身体を担ぎ上げると、ガーはそのまま近くの花畑へと移動した。
「下ろして!恥ずかしいよ!」
「安心しろ、どうせ誰も見てない。マンダロアの戦士は、決闘から逃げないんだぞ」
身体を下ろしながら地面に押し倒すと、彼は両手をついて顔を近づけた。心地よいそよ風が、二人の間を吹き抜ける。
少女のように震えるアンヌの頬を愛しそうに撫でながら、ガーは鼻と鼻が触れ合いそうな距離で囁いた。吐息が肌を震わせる度に、彼女は禁じられた行為の甘美な味覚に酔いしれた。
「アンヌ……お前は、俺のものだ。これから先も、ずっと……」
かつてのアンヌなら、所有と所属の問題が──と瞬時に考えただろう。だが、彼女の脳内にオーダーの概念は消え失せていた。むしろ、心の底から慕う男のものになることに対して至上の喜びを感じていた。
だが、1つだけ伝えたいことがあった。アンヌは頬に宛がわれている大きな手に自分の小さな手を添えると、消え入りそうな声で戦士に呟いた。
「ガー、あのね……」
「何だ?」
「キスするの、初めて……なんだ。だから……」
「一生の思い出にしてやるさ。俺を誰だと思ってるんだ」
そう言うと、ガーは顔の角度を変えた。アンヌは慌てて目と口を閉じて、息も止めた。
とても、長い時間に感じられた。その場のフォースが揺らぎ、優しく二人を包み込んだ。互いが纏っているフォースも、ゆっくりと1つに溶け合っていく。それは暖かく、とても切ない一時だった。
二人の唇が、重なる。その瞬間、アンヌの中で何かが音を立てて弾けた。それから長いファーストキスを終えてガーの唇が離れたとき、彼女は微睡みの中でこう思った。
私、ガーが好き。
それが、17年の歳月の先でブレイン・アンヌ・トワイラスが導きだした結論だった。
その後アルマ夫人も交えてディナーを楽しんだ二人にも、ついに別れの時間が訪れた。翌日の仕事に備えてマンダロアへと戻るガーを見送るために、アンヌは夜風が肌寒い中でも発着ベイへと向かっていた。
「じゃあね。気を付けて」
「ああ。お前も、気を付けろよ」
「……何に?」
小首を傾げる姿に呆れながら、ガーは頭を横に振った。
「変な男に決まってるだろ。俺以外の男とは目も合わせるんじゃないぞ」
「そっ、そんなの仕事ができないよ!!」
困惑する様子も愛らしくて、彼はこのまま連れ帰ってしまいたいとまで思った。だが、かつての分離主義圏と帝国領という立場である互いにとって、そんなことは容易に出来ないという事実も分かっていた。
「アンヌ」
「どうし────」
だから、せめてもの手向けに彼は口づけを残した。呆然とするアンヌを置いて、ガーは船へと乗り込んで手を振った。
「じゃあな。愛してるよ」
「えっ……あっ……うん……私も……好き……だよ」
「そうか。今夜の夢は、俺のことを見るんだぞ。とびきり甘い夢をな」
「ガーも、良い夢見てね。約束だよ!」
そう言い残すと、彼はそのまま銀河の彼方へと旅立ってしまった。残されたアンヌは、いつまでも唇が触れた部分を指先でなぞりながら微笑みを浮かべるのだった。
マンダロアへ戻ったガーを待っていたのは、早速降りかかってきた仕事だった。総督となって17年間、彼は権力を味わいつつ平凡な日々を送っていた────帝国に対する反乱活動が活発化するまでは。
彼が面する目下の課題は、反乱者たちが中心として活動しているロザルへの運航ルートだった。今までは対岸の火事だった案件が、コンコードドーン星系のプロテクターが反乱者の輸送船にルートを明け渡したことで、他人事では無くなってしまったのだ。
「全く……」
だが悪態の反面、ガーは笑っていた。
「これで、目障りなプロテクターどもを処刑する口実ができるな。長フェン・ラウと共に」
総督はラウのデータを眺めながら、部下に命じた。
「監視しろ。決定的な証拠が揃い次第、プロテクターを粛清する」
「承知いたしました、総督。……ところで、妙な噂があるのはご存じですか?」
ガーは口をへの字に曲げながら、部下の方を興味ありげに見る。彼はデータパッドを手渡すと、呆れが混じったため息を吐いた。映し出されているのは、とある非合法インターネット掲示板だった。
「こちらの銀河系都市伝説を語るオンライン掲示板で、最近話題に上がっていることがあるんです」
「────ブレイン・オブ・ザ・リパブリック、か」
「ええ。総督がお探しの奴のことです。ブレインは性別はおろか種族も容姿も全く分からない天才軍師だったため、都市伝説や陰謀論を信奉する奴らから崇拝されているようです」
「それで?」
「実は巷ではブレインマニアとかいう奴らもいるらしく、そいつら曰く、近年の反乱活動の作戦形態が酷似しているようです」
ガーは首を横に振りながらデータパッドを部下に返した。
「お前は阿呆か。下らん都市伝説を分析している暇があるなら、さっさとプロテクターを監視しに行け」
「ですが総督、万が一コンコードドーンのプロテクターがブレイン絡みの案件なら……」
「────それはあり得ん!あいつは死んだんだ!」
突然怒声を上げた上官に、コマンドーはすっかり萎縮してしまった。そんな部下をよそに、ガーは額に両手を当てながら首を横に振って呟いた。
「死んでおいてもらわないと、困るんだ……俺は……」
彼は卓上に置いてあるアンヌと撮った写真を眺めながら、歯をぎゅっと噛み締めた。
もし、リリィ……いや、ブレインが生きていたら……
「或いはもし、お前があいつなら……」
俺はお前を許せるだろうか?
アンヌはその頃、サトーの旗艦に乗船していた。デジャリックボードに興じながら話している相手は、他ならぬプロテクターの長フェン・ラウだ。
「ありがとう、ラウ。あなたのお陰で反乱同盟軍は、ロザルへの支援を続けられるわ」
「負け戦のよしみだ。俺の部下の中には、あんたのお陰で救われた奴等が何人もいるからな」
ラウの瞳に、僅かな情がよぎる。アンヌはガーのお陰で、それがどんな感情であるかを理解していた。彼女は盤上で駒が動いていく様子を堪能しながら、不利な形勢を眺めて退屈そうに微笑んだ。
「そう……それより、マンダロア総督の目を誤魔化すことは出来ているのかしら?」
「ああ、問題ないはずだ。万全は期してある」
アンヌの番が来て、一手を適当に投じる。ラウは失笑しながらレバーを手に掛けた。だが、盤の状況を俯瞰して手が止まる。
「────万全の策なんて、この銀河には存在しない。不変のものが無いのと同様に、ね」
アンヌは立ち上がると、八方塞がりのラウを置いて扉へと歩き出した。
「進めたら?まぁ、どこに行ってもチェクメイトだけどね」
相変わらずの頭脳明晰さに唸りながら、ラウはため息を漏らした。いつだって、彼女に勝つことは出来ない。
「どこへ行く気だ」
「あなたの万全が文字通りの意義を持っているのかを、直接確認するの」
アンヌは振り返ることなく母艦を後にした。いつも通りの無機質な表情の中で、僅かな葛藤が芽生え始めていることなど誰も知らず。
「うーん……あんまり開きすぎてるのもなぁ……でも、ガーはこういうのが好きなのかなぁ……」
そう、今日は想いを告げて以来初めて顔を合わせる週末なのだ。総督として多忙な合間を縫って一日を過ごしてくれることは、アンヌが愛されていると実感するには充分である。だからこそ、精一杯仕事の疲れを癒してあげたいと思うことは自然だった。
「うん、今日は控えめにしておこうかな。こんなにドレスがあっても困るって思ってたけど、今は丁度良いかも……」
独り言を呟きながら、アンヌは意中のドレスを手に持って自室へと戻っていく。その足取りは、月にでも行けそうなくらいに軽やかなものだった。
一方、ガーの方は朝から落ち着きを失っていた。その様子を見ていた部下たちは、二人の人騒がせさに呆れ返っている。
「引っ付いたり、離れたり、また引っ付いたり……アンヌ様も何と言うか……」
「うちの総督を振り回すなんて、相当な女傑だな」
「ああ、今に見てろ。尻に敷かれるぞ」
そんな部下たちの噂も耳に入らない程に緊張しきっているガーは、アーマーを着ていくか否かを永遠に悩み続けていた。そして色々と悩んだ結果、いつもと違う自分を見てもらおうと思い立った彼は、ラフなジャケットに身を包んでセレノーへと飛び立った。
ガーが発着ベイへ降り立った時には、既にアンヌが出迎えに訪れていた。淡いパープルの薄布が魅力的なドレスを揺らしながら駆け寄ってくる姿は、とても眩しかった。彼女は言葉遣いを繕うのも忘れて、少女のように手を振っている。
「ガー!」
「アンヌ、もう傷は大丈夫なのか?」
「ええ、お陰ですっかり元気!それよりも、会いたかった……」
アンヌを抱き上げたガーは、ほのかに香る甘い匂いに口許を綻ばせる。総督は穏やかな笑みを浮かべると、暖かで柔らかな頬にキスをした。
「俺も会いたかったよ、アンヌ」
「本当?嬉しいなぁ」
大人びているのか、永遠の少女なのか。時折ガーには、アンヌという人が分からなくなることがあった。だが、今はそんな不思議なところも愛らしく思えてしまう。
ガーの手を引いてアンヌがやって来たのは、バラが咲き乱れる庭園だった。伯爵のバラ園と呼ばれているその場所に踏み込むと、武骨な戦士からも感嘆のため息が漏れた。
「今日はね、バラが満開なの。ガーに見せたくて……あ、そうだ!お茶の用意もしたの。アウターリムの直営農園から取り寄せた、上質な豆で淹れたカフと私が頑張って作ったサンド、食べる?」
落ち着いた雰囲気とは異なる姿に、ガーは少しだけ面食らっている。その心境を読み取ったアンヌは、苦笑いを浮かべながら髪を触った。
「あはは……私、嬉しくてつい……」
「────アンヌ」
名前を呼ばれて目を丸くする彼女を抱き寄せると、ガーは真剣な表情で顔を覗き込んできた。バラの花の上品でロマンチックな香りが、アンヌの鼻をくすぐる。徐々に近づいてくる顔に戸惑いながら、彼女はハッとした。
まっ、ままままままさか、これって……せっ、接吻!!?
ジェダイ聖堂に居た頃から真面目だった彼女は、娯楽物や色恋について極端に忌避していた。まさか、17年経ってこのような日が来るとは思いもよらなかった元ジェダイは、慌てふためきながら一先ず落ち着くために俯いた。すると今度は、その顎に大きくて暖かな指が伸びてくる。ガーは片手でアンヌの顎を引き上げると、両手を添えて動かないように固定した。
「あっ、あの……えっと……」
「目を閉じて、口も閉じろ」
成すがままに言われたとおり、アンヌは目も口も閉じた。感じ取ろうとせずとも、フォースが互いの距離を知らせてくる。そして、二人のフォースが溶け合い────
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
タイミング良く現れた侍女の声に飛び上がると、アンヌは目を開けて逃げるようにその場から離れた。残されたガーは、自分の運の悪さに心中で悪態をつくのだった。
昼下がり。二人は美しい石橋の上で川の流れを眺めながら、他愛もない雑談に花を咲かせていた。
「セレノーは、本当に綺麗な場所だな。マンダロアとは大違いだ」
「そんなことないよ。バイオドームの光の屈折、とっても綺麗だよ。それに、コンコーディアはセレノーみたいな場所でしょ?」
コンコーディアと聞いて、ガーが失笑を漏らした。
「あのド田舎衛星が?冗談も休み休みにしてくれ」
「ド田舎はお互い様でしょ?こっちもアウターリムなんだから」
そう言いながら、アンヌが腕に軽くパンチを繰り出す。お返しに彼女の身体を担ぎ上げると、ガーはそのまま近くの花畑へと移動した。
「下ろして!恥ずかしいよ!」
「安心しろ、どうせ誰も見てない。マンダロアの戦士は、決闘から逃げないんだぞ」
身体を下ろしながら地面に押し倒すと、彼は両手をついて顔を近づけた。心地よいそよ風が、二人の間を吹き抜ける。
少女のように震えるアンヌの頬を愛しそうに撫でながら、ガーは鼻と鼻が触れ合いそうな距離で囁いた。吐息が肌を震わせる度に、彼女は禁じられた行為の甘美な味覚に酔いしれた。
「アンヌ……お前は、俺のものだ。これから先も、ずっと……」
かつてのアンヌなら、所有と所属の問題が──と瞬時に考えただろう。だが、彼女の脳内にオーダーの概念は消え失せていた。むしろ、心の底から慕う男のものになることに対して至上の喜びを感じていた。
だが、1つだけ伝えたいことがあった。アンヌは頬に宛がわれている大きな手に自分の小さな手を添えると、消え入りそうな声で戦士に呟いた。
「ガー、あのね……」
「何だ?」
「キスするの、初めて……なんだ。だから……」
「一生の思い出にしてやるさ。俺を誰だと思ってるんだ」
そう言うと、ガーは顔の角度を変えた。アンヌは慌てて目と口を閉じて、息も止めた。
とても、長い時間に感じられた。その場のフォースが揺らぎ、優しく二人を包み込んだ。互いが纏っているフォースも、ゆっくりと1つに溶け合っていく。それは暖かく、とても切ない一時だった。
二人の唇が、重なる。その瞬間、アンヌの中で何かが音を立てて弾けた。それから長いファーストキスを終えてガーの唇が離れたとき、彼女は微睡みの中でこう思った。
私、ガーが好き。
それが、17年の歳月の先でブレイン・アンヌ・トワイラスが導きだした結論だった。
その後アルマ夫人も交えてディナーを楽しんだ二人にも、ついに別れの時間が訪れた。翌日の仕事に備えてマンダロアへと戻るガーを見送るために、アンヌは夜風が肌寒い中でも発着ベイへと向かっていた。
「じゃあね。気を付けて」
「ああ。お前も、気を付けろよ」
「……何に?」
小首を傾げる姿に呆れながら、ガーは頭を横に振った。
「変な男に決まってるだろ。俺以外の男とは目も合わせるんじゃないぞ」
「そっ、そんなの仕事ができないよ!!」
困惑する様子も愛らしくて、彼はこのまま連れ帰ってしまいたいとまで思った。だが、かつての分離主義圏と帝国領という立場である互いにとって、そんなことは容易に出来ないという事実も分かっていた。
「アンヌ」
「どうし────」
だから、せめてもの手向けに彼は口づけを残した。呆然とするアンヌを置いて、ガーは船へと乗り込んで手を振った。
「じゃあな。愛してるよ」
「えっ……あっ……うん……私も……好き……だよ」
「そうか。今夜の夢は、俺のことを見るんだぞ。とびきり甘い夢をな」
「ガーも、良い夢見てね。約束だよ!」
そう言い残すと、彼はそのまま銀河の彼方へと旅立ってしまった。残されたアンヌは、いつまでも唇が触れた部分を指先でなぞりながら微笑みを浮かべるのだった。
マンダロアへ戻ったガーを待っていたのは、早速降りかかってきた仕事だった。総督となって17年間、彼は権力を味わいつつ平凡な日々を送っていた────帝国に対する反乱活動が活発化するまでは。
彼が面する目下の課題は、反乱者たちが中心として活動しているロザルへの運航ルートだった。今までは対岸の火事だった案件が、コンコードドーン星系のプロテクターが反乱者の輸送船にルートを明け渡したことで、他人事では無くなってしまったのだ。
「全く……」
だが悪態の反面、ガーは笑っていた。
「これで、目障りなプロテクターどもを処刑する口実ができるな。長フェン・ラウと共に」
総督はラウのデータを眺めながら、部下に命じた。
「監視しろ。決定的な証拠が揃い次第、プロテクターを粛清する」
「承知いたしました、総督。……ところで、妙な噂があるのはご存じですか?」
ガーは口をへの字に曲げながら、部下の方を興味ありげに見る。彼はデータパッドを手渡すと、呆れが混じったため息を吐いた。映し出されているのは、とある非合法インターネット掲示板だった。
「こちらの銀河系都市伝説を語るオンライン掲示板で、最近話題に上がっていることがあるんです」
「────ブレイン・オブ・ザ・リパブリック、か」
「ええ。総督がお探しの奴のことです。ブレインは性別はおろか種族も容姿も全く分からない天才軍師だったため、都市伝説や陰謀論を信奉する奴らから崇拝されているようです」
「それで?」
「実は巷ではブレインマニアとかいう奴らもいるらしく、そいつら曰く、近年の反乱活動の作戦形態が酷似しているようです」
ガーは首を横に振りながらデータパッドを部下に返した。
「お前は阿呆か。下らん都市伝説を分析している暇があるなら、さっさとプロテクターを監視しに行け」
「ですが総督、万が一コンコードドーンのプロテクターがブレイン絡みの案件なら……」
「────それはあり得ん!あいつは死んだんだ!」
突然怒声を上げた上官に、コマンドーはすっかり萎縮してしまった。そんな部下をよそに、ガーは額に両手を当てながら首を横に振って呟いた。
「死んでおいてもらわないと、困るんだ……俺は……」
彼は卓上に置いてあるアンヌと撮った写真を眺めながら、歯をぎゅっと噛み締めた。
もし、リリィ……いや、ブレインが生きていたら……
「或いはもし、お前があいつなら……」
俺はお前を許せるだろうか?
アンヌはその頃、サトーの旗艦に乗船していた。デジャリックボードに興じながら話している相手は、他ならぬプロテクターの長フェン・ラウだ。
「ありがとう、ラウ。あなたのお陰で反乱同盟軍は、ロザルへの支援を続けられるわ」
「負け戦のよしみだ。俺の部下の中には、あんたのお陰で救われた奴等が何人もいるからな」
ラウの瞳に、僅かな情がよぎる。アンヌはガーのお陰で、それがどんな感情であるかを理解していた。彼女は盤上で駒が動いていく様子を堪能しながら、不利な形勢を眺めて退屈そうに微笑んだ。
「そう……それより、マンダロア総督の目を誤魔化すことは出来ているのかしら?」
「ああ、問題ないはずだ。万全は期してある」
アンヌの番が来て、一手を適当に投じる。ラウは失笑しながらレバーを手に掛けた。だが、盤の状況を俯瞰して手が止まる。
「────万全の策なんて、この銀河には存在しない。不変のものが無いのと同様に、ね」
アンヌは立ち上がると、八方塞がりのラウを置いて扉へと歩き出した。
「進めたら?まぁ、どこに行ってもチェクメイトだけどね」
相変わらずの頭脳明晰さに唸りながら、ラウはため息を漏らした。いつだって、彼女に勝つことは出来ない。
「どこへ行く気だ」
「あなたの万全が文字通りの意義を持っているのかを、直接確認するの」
アンヌは振り返ることなく母艦を後にした。いつも通りの無機質な表情の中で、僅かな葛藤が芽生え始めていることなど誰も知らず。