怒涛の1日から一週間後、アンヌは虚ろな面持ちでこれまでのことを思い返していた。
　インターギャラクティック銀行グループの株価は帝国との緊密化を受けて急上昇したものの、プロテクターとクライズの離脱という痛手を被った。そして何より、一部の同盟軍幹部からの信頼を失った。サビーヌも必死にかばってくれているが、心のどこかで怒りを覚えているに違いない。
「─────アンヌ、どうした？」
　老齢しているものの若々しさが残る優しい声に、アンヌはハッとした。隣では、ガーが心配そうに顔を覗き込んでいる。心配させてしまったと気づいた彼女は、慌てて謝罪した。
「あっ……ごめんなさい……」
「式は二ヶ月後だ。不安なのはわかる、だが……」
　そう言うと、ガーはアンヌに口づけをした。傲慢で強引なマンダロア総督とは思えない、とても紳士的で優しいキスだった。
「俺が側にいる。何があっても、お前の手は絶対に離さない」
「……どうして？」
「どうして……それは、俺がお前を愛しているからだ。マンダロア総督の、この俺がな」
　少々傲慢さが見え隠れする愛の言葉だったが、アンヌはふわりと微笑んだ。その表情が愛おしくて、ガーは婚約者を抱き締めた。　
　私も愛してるわ、ガー。ずっと昔から……
　アンヌは、心の底から彼の愛を信じていた。それは裏切りと罪に彩られた戦いを生き抜いてきた彼女が、唯一信じられるものだった。
　例えそれが、間違えた愛だったとしても。心の底から愛してくれていることが、ただただ嬉しかった。
　
　
　
　
　
　
　それが、この非情な時代を生きる唯一の希望であることを彼女は知っていたから。