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フェイタン=ポートオ。彼の真の出身を知るのは恐らく私だけだし、その長い孤独の寒しさを知っているのも恐らく私だけだし、家族でもなければ友人でも仲間でもないのも、恐らく私だけだ。この関係性に名を付けるならば、なんてことも考えたこともあるが、それもきっと私だけだからどうだっていいことだ。
「ギルル、いいか」
「む」
これも気まぐれだ。フェイタンは突如四つん這いで近寄ってきたかと思えば、私がぼんやりと眺めていたケータイを掴み放り投げた。空中に円を描いて床に落下したケータイを、あー、とぽっかり口を開けて見送る。壊れてしまったのではないか心配ですかさずケータイに駆け寄ろうとするが、投げた張本人がそれを許さなかった。フェイタンは私の襟首を掴んでケータイに縋る私を引き止める。そして何故か私の口を細い指で開かせ、口の中を観察し始めた。
「なに、なんなの、へいたん?ちゅーでもひたいの?はいじゃあちゅー」
「黙て口開けるよ」
「むし歯チェック?」
「違う。親不知生えてないか見ただけね」
「オヤシラズ?なにそれ」
「第3大臼歯、歯科用語では8番。10代後半から20代前半に生えてくる歯の事」
「そんなの生えるの?へー。どう?ある?生えてる?」
「いいから黙るよ」
「おあー」
フェイタンは一通り舐めまわすように私の歯を見回した後、舌打ちをした。
「チッ。お前無いね」
なんで突然おやしらずなるものを私の口の中に探したのか。おそらくきっと新たな拷問の開拓の為だろう。歯や口など、顔面周りは手指の次に感覚神経の多い部分だ。歯は抜けると痛いしね。
「ない?」
「つまらないよ」
「つまらないって。あったらどうするつもりだったの?」
「そんなの決まてる。抜く」
「えー。せっかく生えた歯抜いちゃうの?もったいないよ」
「親不知抜いても支障無い歯。治療として抜く事あるよ」
「歯なんて抜いたら腫れそうだけど」
「数日で治まる。問題ないよ」
「そうなんだ。じゃあ生えたらすぐ教えるね」
「生えない奴もいるね」
「へえー。それにしてもどうしてオヤシラズなんて名前付いてるの?」
「乳児の歯の生え始めとは違て親がこの歯の生え始めを知ることはないからよ」
「そんなのまるで私みたいだね」
フェイはそのまま私の顔をじっと見つめた。三白眼の、目つきの悪い顔。真っ黒で跳ねた髪の毛が私のおデコにあたってこそばゆい。それに片目を瞑るが、フェイはそれでも私の瞳を覗き込むのを止めない。
「何?あ、もしかしてちゅー?そういう空気?」
「違う」
「じゃあなに?」
「ギルル、お前拷問興味ないか」
「私?いや、それは特には……いつもフェイの見てるだけでお腹いっぱい」
「否、する方じゃない」
ん?と思った次に、フェイタンは何故か部屋の隅から鉄枷を取り出してきた。少し笑みを浮かべるその目元。その表情は拷問を楽しむ前の表情だ。
「される方に」
される方?拷問を?今の流れでなんでそうなったんだろう。甚だ疑問だったが、私はふむ、と思い直した。
「私でしてみたいの?」
「嫌か」
「うーん」
痛いのは好きじゃない。けれどフェイタンの為を思うならやぶさかでないというのが心情だ。
だって好きな人で好きな事を楽しめたら良いと思うじゃない。例えば、恋人とショッピング、恋人とドライブ、恋人とゲーム。フェイタンの場合はそれが拷問というだけのこと。そりゃちょっと痛いかも知れないけれどフェイタンが楽しいならまあ我慢してやってもいいかなと思っちゃうのが女というもの。
「まあ、いいよ。やってみよ」
私は二つ返事で了承した。合意の上の拷問というやつだ。そんなの聞いたことないけれど。行き過ぎたエスエムってか。
フェイタンはやはり笑みを深くして、ベッドに座る私の前に座り、枷を嵌めた。冷たく重い枷は私の手首に回り、少しずつ少しずつ腕を締め上げていく。
「……あ、やっぱりいたいなあ」
腕を強く締め上げる冷たい鉄枷に、顔を顰めてぽつりと私は呟いた。胸の前で両腕を拘束され螺を締めるに従ってキリキリと皮膚を捻り上げる。でもそれが彼から与えられる痛みならば赦せるし、嬉しいし、それでも全然いいとも思った。しかし私はマゾヒスティックではないので痛いものは痛いと思うし、痛いと顔がムッとしてしまうのも当たり前の事だ。
「…………。」
目の前のフェイタンは私の一言で鉄枷を締める手を無言で止めた。彼の顔を見ると、彼はなんとも言えない表情をしていた。無表情だけど、その眉と目尻は何故か垂れ下がり溜め息でも吐きそうな顔だった。つまり、楽しくなさそうな雰囲気だ。
「痛いか」
「まあそれなりに」
フェイタンからの問いに素直に頷いたが、「でも大丈夫」と続けて返事した。痛いか、と確認してくるのはまだ続けてもいいか、と聞きたいのだと思った。心配なんてきっとさほどしていない。痛みを操り与える側の彼が、この鉄枷を締めるとどれだけの苦しみがあるのか理解していない筈がないから。それにさせてくれと求めたのはフェイタンだ。
「……痛いか」
フェイタンは、何故かもう一度その一言を呟いた。その一言は、今度はまるで独り言のように聞こえた。え?と私は素っ頓狂な声を上げてまた彼を伺う。
フェイタンのその顔を覆う服と髪の隙間から、切れ長の目が私をただ見ていた。けれどその瞳は、何故かいつも行う拷問の時のような悦を感じる目では無かったような気がした。
むしろ少しやる気の削がれた、興味を無くしたような……。
そんな彼の変化を私は感じた。
「どしたの?」
「やはりやめね」
「え」
彼は鉄枷を締める螺を逆転しくるくると緩めていく。従って私の手を締め上げる痛みは徐々に解除され、終には鉄枷は床に落ちた。その痛みに釣り上がっていた私の眉はいつもの位置に落ち着いた。
「フェイタン、」
フェイタンは鉄枷を拾い上げ、それを拷問器具コレクションの片隅にぽんと放り投げた。がらん、と床に落ちる鉄の塊の音に、私は目を瞑った。怒っているのだろうか。彼の心境の変化がよくわからなかった。
「何ね」
「私、何かした?怒ってる?」
もしかしたら思ったより私の反応が微妙だったかもしれない。でも私もそれなりだから疼痛には全然平気って訳では無いけれど泣いたり叫んだりなんてことしないし、それにこの拷問は彼と私の合意の上だし、彼が他者を拷問する姿を何度も見てきた。だから未知の苦痛に恐いと思うこともそれほど無い。
「怒てない」
「あ、じゃあもしかして気遣ってる?でも私まだ平気、というか手錠でちょっと締め上げただけの序盤だし」
「わかてるよ。でも止めね」
「ならどうして?」
「別に。ただ……、」
そこまで言って、フェイタンは口を噤んだ。それ以上は何も言わず、手首周りに痣と皮膚の剥がれを作った私の手を掴んでまじまじと眺める。やや乱暴なその所作に痛みを感じ、私はまた眉を顰めた。
「痣だけか」
「皮膚もちょっとめくれた」
「痣と皮膚だけか」
「まあ痣と皮膚だけですけども」
「軟弱ね」
「えー」
「ウボォーなら傷一つ付かないよ」
「いや待ってウボォーと一緒にされるのはちょっと」
私を弱いと嘲る彼。けれどその痣を労わるかのように、私の手首をフェイタンは舐めた。舐めてもそんなすぐには治りませんけど、と思う反面、他者の傷を気にするフェイタンが珍しくて、私は無言でその生暖かい舌触りを感じていた。
「ギルルじゃそそられない」
「え、それって、」
そしてフェイタンは黙って出ていった。私は呆けっとしてその様子を見送ってしまったが、胸の中にふつふつと湧き出る悲しみを感じた。
「そ、……そそられない……!?」
(彼の興が削がれたのはその時の気分かと思っていた。他者に痛みを与えることが彼の悦びだとわかっていたけれど、それに例外があるとは、わかっていなかった)
「フィーーーーン!!!」
「……なんだよ」
フィンクスは筋トレしていた手を止めて不愉快そうにこちらを一瞥したが、また筋トレを再開した。
「聞いて聞いて聞いて聞いて!」
「いやいい」
「フェイが、フェイがぁ……」
「いいって言ってんの聞こえなかった?」
こういう時に泣き付く相手はいつもフィンクスだと決まっている。フィンクスはそれをわかってか面倒臭そうな様子を見せた。なんてひどい。いやひどいのはフェイタンだ。
「フェイタンが、私じゃ、そそられない、ってぇ……」
「え、……いやお前なあ。そういうのまで遂に俺に相談して来るのやめろよ。こっちがフェイと気不味くなるだろーが」
「そういうのって?」
「あ?セックスの話だろ」
「変態!」
ボコッ。
例えるならそんな音で私はフィンクスの頭を叩いた。拳で。
「ってえな!何なんだよお前!相談相手殴るんじゃねえ!」
「フィンクスがえっちだからでしょ、この脳筋えろ魔人!」
「フェイがお前にそそられねえってイコールそういう話だろーが!」
「違ーう!そんな話じゃない!」
「ああァ!?じゃあ何なんだよ!」
叩かれた頭を擦るフィンクス。その頭の中には脳筋とそういう事しか詰まってないらしい。もっと団長を見習った方がいい。
「その、フェイタンと途中までしてたの」
「何をだよ」
「拷問」
「へえ、ギルルが拷問やるだなんて珍しいな」
「そうじゃない。私がするんじゃなくて、される方」
「はあ?」
「フェイタンに拷問されるの興味ないかって聞かれて、それで……」
「うお。拷問プレイかよ。開拓してんな」
「天誅!」
ドガッ。
今度は例えるならそんな音でまたもやフィンクスの頭を叩いた。やはり拳で。
「だから殴るんじゃねえよ!お前強化系でそれなりに拳痛いんですけど」
「だからちっがーう!プレイとかじゃない!趣味!」
「違くないだろ。そういうのを性癖っつーんだよ、フェイの場合はそっちだろ」
「えっ!?」
フェイタンの性癖。それが拷問だなんて考えたことが無かった。
「いやだからさ、フェイは本当はそっちで憂さを晴らしたいんだよ。けどいざやってみたらギルルじゃまったく立たなかったって話だろ」
「そ、そんな」
「こりゃ破滅の危機だな。なあギルル?」
ニヤつきながらフィンクスはなんとも意地悪な事を宣った。
しかし、それは存外にも私の心に突き刺さる。
「せ、せっかくフェイと付き合えたのに」
「おーおー、かわいそーに」
「拷問が性癖だなんて信じられない」
「俺としてはフェイがギルルみたいなタイプと付き合うってこと事態信じられない気持ちで胸がいっぱいだけどな」
フィンクスはそんな酷いことを言ってまたもや筋トレに勤しみ始めた。
✱
その夜、悶々と件のことについて考えていると、フェイが部屋へと戻ってきた。
「あ、おかえり、フェイ。あのね、」
「今いいか、ギルル」
「え?いいって何が?」
その一言の次に、フェイは、がっと私の顎を掴むように握ると、唇を荒く重ねた。突然の性急な行為に驚いたがなすがままで私はいた。冷たくしっとりとした唇。侵すようにフェイの冷たい唾液が私のそれと交わり、その微かな温もりがかわいいと思った。歯を、一つ一つ舌でなぞるように深くキスをかます彼に、不思議な気持ちでいたのはおかしいことじゃないだろう。
「ふ、はあっ」
そして服を剥ぎ取る彼の手荒な所作。そしてそのまま、その手は下に……ってちょっと待って待って、待ってくれ。
「んん、フェイ、まって」
「何ね」
「んーっ」
またキスをくれた。ってそうじゃない!
「仕方無しにするセックスは嫌!」
「は?」
なんなのコイツ、という顔をフェイタンはした。私はピッと人差し指を彼の目の前に立てた。
「……この間の件よ。これまで私と、その、仕方なくしてたんでしょ」
「仕方なく?どういう意味か」
「フェイがほんとに興奮するのは拷問するとき、なんでしょ。この間、私で拷問試してみたら、その……」
「…………。」
「ぜんぜん、駄目だったんでしょ。興奮しなかったんでしょ」
勇気を振り絞って言った。
フェイはしばらく何かを考えるように私を見つめていたが、終に少し目を泳がせて、ため息を吐いて言った。
「……ま、そうね」
「えっ」
「あの時、思たより楽しくなかたね」
「あの時って……」
「お前に初めて鉄枷を嵌めた時。酷く詰まらなかた」
その言葉に頭の中がいっぱいになって目眩がした。続けて彼の口から飛び出た言葉もこれまたショックなものだった。
「お前で拷問は二度としないよ」
「そんな」
「してほしいか」
「して欲しい訳じゃないけど……」
「それならそれでこの話は終わりよ」
「待って。それって、私と仕方なく普通のセックスしてるってこと?」
「ギルル、」
「それでいずれフェイは私を嫌いになっちゃわない?もう飽きたって捨てたりするんじゃないの?拷問、すきなんでしょ?」
フェイは何も言わなかった。肯定だ。
それでも、と私は彼に縋るように引っ付いた。
「私で満足してほしいの。そのためならなるべくがんばるから。拷問、そりゃ痛いし、どハマリはしないと思うけど、フェイの為ならちょっとくらい我慢するから」
「………………変態になたか、お前」
「いや、ちょ、勘違いしないでよ!やめてその憐れむような目!」
可哀想な子を見るような目でフェイタンは私を訝しんでいる。なんでだ。そしてこんなにも必死な女が面白いのか、彼はくつくつと肩を震わせるように笑った。
「な、何も笑わなくても、」
「勘違いするな、ギルル」
「え?」
「お前意味履き違えてるよ」
他者に痛みを与えることがオレの悦び、楽しみ、したい事。
けれどその中にお前はいない。
共に何もかもを分かち合いたいけれど、苦痛だけは与えられない。けれどその他のものは全部あげる。
「お前が痛みに引き攣らせる顔、またく唆られなかた」
なあ、それなのにどうしてこっちの顔はそんなにも俺を煽るんだ?
肌に指を滑らせると、頬を染めて、擽ったいのかそれとも気持ちがいいのか、むずかゆい顔をお前はするんだ。それは痛みを与えた時とは全く違う高揚を俺に齎す。そんな顔を見てるともっと意地悪く触ってやりたいと思うよ。「んっ」そう、その声。何回聞いても甘ったるく俺の脳髄をぶん殴る。ああ、挿れたい。けれどもう少し我慢だ。勿体ないから。その声が枯れて枯れてもう可哀想かなと思うくらいでこっちは果てたい。でも何回しても飽きないね。お前は唯一たった一人、俺のそういう人間。痛みに歪んだり、悲しくあったり、虚しい顔は、見ていたくない。
「だからお前にはもう拷問しない」
「ふぇいた、あっ、」
「それとこれとは話が別ね」
「んっ、んっ、んーっ」
馬鹿で可愛い女。
口を開けさせれば、親知らずのない歯たちが白く並ぶ。喘ぐその思った以上に小さい舌に、自分のそれを深く絡ませた。どうして舌を絡ませるのが好きなの、と聞かれたことがあったな。なんとなくイイんだよ。犯している感覚、蹂躙している感覚、征服している感覚。いつも自由に馬鹿やってるギルルはこの時間の間全て俺のものになるから。
「フェイ、ねえ、フェイっ」
「何ね」
「このままで、わたし、……いいの?」
二の腕の内側を舐めると、ギルルはそんなことを俺に問うた。
傷のないギルルの身体を組み敷いて、見下げる。細い矮躯に、俺の感覚に鳥肌を立てながら赤くなる肌。何もかもを俺に晒しながら、それに羞恥さえ感じながら、部分を少し隠しながら、それでも不安げに俺に聞くのだ。全部全部俺に与えながら、それでも与えようとしているこの馬鹿女を思うと、息が詰まりそうになって、そして堪え切れなくなりそうになるのだ。
ギルルの腰を掴んで、その入口に擦り付けた。何度しても慣れないくせに、そんな事ばかり気にしてる。何度しても頬を染める癖に、そんな事ばかり考えてる。今目の前にいる俺を見ていればいい。そして擦り合う身体だけ感じていればいい。
「んんんっ……んーっ……」
ああ、もう少しと思ったのに、我慢できなかった。
中のまとわりが俺を急かして苦しい。はじめは緩徐に、そして少しずつ速く。それに耐えようとするお前は口を隠して抑えようとする。いつもの癖だ。押し戻そうとする、けれどまた入れる。抜いては挿してを繰り返し繰り返し。その顔は苦しそうだけれど、そのうちに俺を求めてくる。
いいんだよ、それで。
この女の身体に傷が遺るのは思った以上に後悔が残った。この女が苦しんだり、痛がったり、顔が苦痛に歪む。それを見て楽しむことは出来ない。それは一体どういう事なのか、私の中で答えは既に得ていた。そういう意味で私はまだ人間だった。
「こうしている方がいい」
好きな人と好きなことをするのは楽しいけど其れが相手にとって苦痛となるのが楽しいかどうかはまた例外の話
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