萌えるゴミ
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「どうしてお前まで出ていったのか、理由を教えてくれるかい?」
その甘く白い指が、私を指し示す。言葉尻はとても優しい。けれどその裏に、狂おしさが詰まっているのが私にはわかった。きっと我慢している。本当は苛立って仕方がない癖に、兄としての尊厳を保つ為、その腹の中の魔物を堪えているに違い無かった。兄はもう一度、「言ってごらん」と私に促した。ああ、怖い。理由次第ではもうこの家から出させては貰えないだろう。嘘だと悟られたら、きっと、もう。二度と。
「心配、だったから」
「心配? どうして? キルには俺が付いて行くから心配いらないと言ったよね」
「でも、あんなに悲しそうな母さんの声を聞いてたら、居ても立ってもいられなかった。知らないでしょう、母さん、毎日泣いていたのよ」
「だからこそお前には冷静でいて欲しかったんだけどね。お前まで家を出たと連絡を受けた時、俺は肝が冷える思いだったんだよ」
「…………。」
「まさか、ってね」
何度言ったかわからない「ごめんなさい」を、私はまたここで呟いた。兄は何度目かわからない溜め息を漏らす。
「どうして俺がここまで言うのか、お前は理解していないね」
さあ、どうだろう。理解していないと頭ごなしに兄は言うけれど、私はわかっているつもりだ。だからこそこの家を出た。
「折角キルを連れ帰ったのに、また一人家族が欠けていた。……そんな俺の気持ちがわかるかい?」
真実、この家に縛られる前に。本当の意味で『家族』となってしまう前に。
「俺は悲しかったんだよ」
そう言って兄は、自身のそれと異なる私の白髪を撫でた。少し威圧的にも感じられる、大きな手。触れると存外にも兄の身体は温かい。何度その体温を感じただろうか。
「ん」
兄の手は髪を滑り、頬を撫で、少しずつ首筋を辿る。そこは頸動脈のある位置だ。少しだけ私の拍動を感じて、そして今度は肩甲骨にそっと触れた。下着のホックを外して、緩まった私の胸。大きく胸郭が拡がって呼吸がしやすくなった筈なのに、反対に私は、肺のなかの空気を全部吐き出した。それだけが些細な抵抗だ。
「周期は変わった?」
「……ううん」
「そう。じゃあ生理終わって数日だね」
それに応えなくとも、事は進んでいく。肩に吸い付くその冷たい唇が、少しずつ、下に、下に、這っていく。「ここだとしにくいな」と呟いたが次には、兄は私を抱きかかえ、手頃にも近くのソファに組み敷いた。いつもは大きなソファだけど、兄と二人ではとても狭いように感じるのが何故か辛かった。
「まさか、外でしてないよね。俺以外と」
「してない」
「そう。それじゃ確かめようか」
「わかるの?」
「まあね」
もししてたら少し感覚が違うから、と淡々と話すその抑揚が、やはり私には、少し怖かった。妹の身体の本当に全部を知り尽くす家族があるものか。キルアほど才能には恵まれなかったけれど、同じ髪色に産まれた私。でもそれがいけなかった。黒色だったら、どうだったのかな。それでも同じだったのだろうか。違う結果だったんじゃないかと思いたい。兄が私を抱くのは家族に対する執着の延長線上なのであって、私を見ているのではないと、そう思い込んでいたい。
「兄さん」
「違うだろ」
「…………。」
何度言わせるつもり、と言いたいのだろう。見下ろしてくる真っ黒な瞳。暗幕のように垂れる黒髪が身体中を擽るかのようで、痒い。思わず身体を疼かせると、それを抑え込むかのように余計力が強まった。
「イルミ」
そう呼ぶと、満足したかのように再び続きを始める。最近は行為以外の時も、兄と呼ぶのを彼は酷く嫌うようになった。それがどういう意味なのか。その危うさに気付いた時には、時は既に、もう遅かったのだ。
「挿れるよ」
「え……」
ただ、いつもと違うのはこの時だった。「ねえ、待って、」と静止すると、きょとんとした顔で首を傾げた。いつもならば必ず避妊具を着けるのに兄はその手間を行おうとしない。
「ゴムは、」
「ああ。もう必要ないと思って」
「どうして」
「俺達は『家族』だからね」
ああ。やっぱり、許してなかったんだ。離れようとしたこと。どんな理由があっても。
兄は、家族の枠を越えて、『家族』になろうとしている。それだけは越えたくなかった境界線。兄との行為で私が妊娠しても、それで構わないらしい。
「やだ、」
負けるのはわかっている。それでも受け容れていると思われたくなくて拒否をしようとしたが、声を出すよりも腰を引くよりも早く、その凶悪なモノが私の中に侵入した。薄皮一枚で張っていた均衡だったけれど、それで全て壊れた。何度も何度も出し入れを繰り返して、兄の精子が私の膣に注がれる。これで私は、もうこの家から出られない。いずれ私は妊娠する。兄の子を。ああ、もう兄じゃないのか。そして、家族なんかじゃない。私たちは『家族』になってしまったのだ。