萌えるゴミ
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「もう、いいんじゃないか」
それは、黄昏時の事だった。立ち込める分厚い雲の隙間から差し込む鮮烈な夕日が、酷く感傷を煽る。
クロロは私から携帯電話を取り上げ、そう言い放った。私は奪われたそれを取り戻そうと手を差し伸べたが、それはクロロに阻まれて為されなかった。クロロはそんな私をどこか愚かに、そして少し悲しそうに見つめている。携帯電話はコールを止めない。けれども、繋がることは絶対に無い。わかっている。
「人は死より避けられないものがある。生きる事だ」
それでも、どうしても私は諦められなかった。
ブランコに括り付けられて死んでいた、彼のことを。
彼の携帯電話に何度も電話をしては、もしかしたら繋がるんじゃないかと期待していた。どうしたの、っていつもの明るい声で言って欲しくて。この夕闇のような深い悲しみを、本当は生きてるんだよって、裏切って欲しくて。
「死んだ人間は二度と戻らない」
ねえ、どうすれば。
どうすればすべてを受け容れることができるのだろう。
彼の笑顔、声、温かさ、匂い、思い出、生きていた始まりから死まで、全部を。
どうしたら……。
「だから、いいんじゃないか。もう……」
クロロはその吐息のまま、傷物に触れるかのように私を抱き込んだ。嗚咽を漏らしながら縋り付くようにクロロの胸に額を擦り付けて、私は泣いて崩れる。クロロはそれでも私を抱き締めたまま離そうとはしなかった。