萌えるゴミ
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その銀髪を初めて撫でた時、どのような気持ちを抱いただろうか、今では思い出せはしない。その時お前は、手に収まるほどの幼子だった。
父親のキルアが事情により姿を消し、その娘である彼女は俺達一家に囲われることとなったのは自然な流れだった。それはキルアにとって不本意であったかもしれないが、その事実を今や知る由もないだろう。キルアは遠い場所へと行ってしまったのだから。針で操作していた事、弟のアルカの事、死んだゴトーの事、ーーー色々な事があった。そして最後までキルアは頑なに反発的だった。だからこそ、キルアの実娘が手に入った時は、まるで弟が戻ってきたかのような感覚さえあっただろう。
「ごめんなさい」
しかし予想に反して、彼女には暗殺のそれらしい才能の一欠片も無かった。何をやらせてもというが、正に不得手の多い人間であり、そして何より穏やかな気質の娘だった。直系の産まれでありながらゾルディック家の、ひいてはキルアの天才を享受出来なかった彼女。彼女の母親については、誰も知らない。彼女の産まれについてどのような背景があるのか、恐らくゴン=フリークスだけが知っていることだろう。しかし彼はきっと口を開く事は無い。彼もまた、俺達一家に反発的な男だからだ。
「ごめんなさい」
彼女は、いつものように頭を垂れた。俺が指示した訓練はやはり出来なかった。もう彼女を後継者の一人として数えるのは諦める頃合かもしれない。彼女が謝罪するのは、その罪悪感からだろう。天才の父親、その才を受け継ぐことが無かったという事実を幾度となく懺悔するその姿は、まるで滑稽だった。それでもその銀髪だけはまるで主張するかのように薄暗い地下でも輝くのだ。ゾルディック家の血を引いているのだ、と。それがどれだけ彼女にとって不本意だろうか。
「ごめんなさい、叔父さま」
冷汗を頬に流し、染まる頬色は青ざめている。唇は震え、何度も声を上げたために乾燥して艶もない。寒さに震え、それでも尚血を巡らせようと静脈が強く波打ち、より顔色を悪くさせる。毒に弱く、身体も強くはない。か弱い腕。力ない脚。治りも悪く、傷ばかり増えていく。その長い銀髪は、まるで萎びて折れ曲がった百合のようだ。
だが、それでも美しいと思った。いつからだろうか。
「もうやめようか」
俺は、だらし無く座り込む彼女に近寄り、そう言い放った。彼女はその一言に悲しそうに顔を上げる。その慰めを見出すように、愚かな姿をした彼女の頭を撫でた。
「イルミ叔父さま」
悲痛な声で彼女は俺を呼んだ。捨てられる猫のようだ。きっと見放されたと考えている。それでも俺は、彼女の髪を撫で付けた。
なあ、もうやめようか。何もかもやめよう。お前は、俺を叔父と呼ぶ事。そして俺は、いなくなった弟の影をお前に見出す事。
「もう俺を叔父と呼ぶな」
その銀髪を初めて撫でた時、どのような気持ちを抱いただろうか、今では思い出せはしない。
ーーーだが、今はどうだろうか。
美しいと思うのは、何故なのだろうか。
「もうお前は、俺の姪じゃない」
この関係を、そして血縁を断ち切るのは、言葉でしかない。それしか方法を知らない。
「いいね?」
銀色の髪を頬に添わせ、その小さな顔を捉える。頬はとても冷たかった。きっと彼女は何も理解などしていないだろう。その証拠に、その透き通った青い瞳は穢れなく潤っている。彼女がただただ小さく頷いて応えた事を確認し、俺は、弟の娘の唇にそれを重ねたのだった。
震える彼女の唇を味わいながら、何処か遠くで、微かに罪を感じた。しかしそれでも、その唇は甘かった。