萌えるゴミ
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父さんの瞳は黒色。
母さんの瞳も黒色。
僕の瞳は、ーーー。
「似てないね」
ある日、父さんはそう僕に突然言い放った。物言いは、どうだっただろう。抑揚の無い、思いやりの欠片の無い、けれどもいつも通りの声色だったかもしれない。湖面に落ちる水滴のように涼やかで、静かで、小さな一言。その真っ黒な瞳は、光を通さない深い深い森のようだ。そうして、その黒髪をたなびかせその場を終ぞ去っていく。その後ろ姿を、僕は唖然として見送った。まるで阿呆のような表情であったに違いないだろう。きっといつか告げられるであろう一言。僕はわかっていた。だけれど、ここでその一言を父が告げた事に驚いたのだ。突拍子もない父の性格。僕はそれをきっとわかっていなかった。何故父が今その言葉を口にしたのか、特に理由なんて無いのだろう。
傍にいた母はそれを耳にして、なぜか、辛そうに顔を歪めた。どうしてだろう。どうして母が父のその一言で深く傷付くのだ。まるで硝子に一線引いたかのような引っ掻き傷。壊れはしないけれど、明らかに傷が付いた。その一線は、僕に与えられた蔑みの筈だ。けれど、傷付いた母を見て漸く僕は全部を理解した気がした。
何に似てないのですか、とは一度たりとも尋ねる必要は無いだろう。その質問はきっと、誰も救わない一言。幸せになれない疑問。しかし家族の中で浮いた僕。その正体、きっと僕はそれを何とはなしに幼い頃から解っていた。それがその一線の傷で、全部繋がった気がした。硝子に刻まれていたたくさんの罅が繋がるように、点と点が一本に結ばれるように。
その証明として、僕の瞳は、父や母のそれではない。薄く金色に透き通っている。
『変化形なんだな。やっぱり、……』
叔父のキルアはそこまで言いかけて、水見式に立つ俺から目を逸らし、そして口を噤んだ。しかし次には、それを誤魔化すかのように『俺と同じだ。ラッキーだよ、お前』と、祖父譲りの銀髪を揺らせて太陽の様に笑った。しかし僕は新月のように笑みを隠した。それを叔父はどう捉えたか今ではわからないけれど、叔父はくしゃくしゃと不器用に僕の髪を強く撫で付けた。
『ねえ、叔父さん』
『オジさんって呼ぶな、俺まだ20代。何だよ、質問か?』
『あのさ……僕は、……』
一緒が良かったんだ、本当は。
でも、それは言えない。核心を晒すような気がしたからだ。僕はそれほどには、強くは無かった。
葉が一枚浮いたグラスの水を、人差し指で触れた。水は、僅かに粘り気を帯びているような感覚があった。僕はそれを親指と人差し指とで感触を確かめる。くっ付いては離れず、粘着質がある。ガムみたいで、ゴムみたいだ。気持ちの悪い性質だ。一体、誰に似たのだろうか。一体、誰の遺伝なのだろうか。一体、誰なのだろうか。
僕の父は、イルミ=ゾルディック。
たぶん血は、繋がっていない。
※おわり笑