土方十四郎
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今日も今日とて
タバコがうまい。
いつもの場所で味わうタバコは格別だ。
そう、格別だったのだ・・・
~いつもの場所~
「生きづらい世の中になったねぇ・・・」
"いつもの場所"に立ち寄った私は呟いた。
そこに見える光景が"いつもの場所"とは変わってしまっていた。
私の相棒、灰皿がいないのだ。
「ここにまで魔の手が及んでしまったのか」
灰皿があったはずの場所には違和感を覚える空間があるのみ。
禁煙が叫ばれる今のご時世。
町からは喫煙所や灰皿が撤去され続けている。
そして、私が通っていたこの場所も
ついに撤去の対象となってしまったようだ。
「あぁ…新しい場所を開拓しなければ…」
肩を落とし、溜息をこぼしていると、私の後ろで一つの足音が止まった。
「な、無くなってやがる…」
おぉ、私と同じ悲しみに暮れる同志がいるじゃないか。
この悲しみを一緒に分かち合おうじゃないか。
「ひどいですよね!喫煙者に対するこ、のし…う、ち……」
振り返った先を見て私は目を丸くした。
そこに見える黒い隊服。
腰の刀。
無造作な黒髪。
切れ長の目
…は今はこちらの姿を確認したためか大きく見開かれているが、私の知っている姿と同じである。
「ど、どうも…」
「……おう」
真選組 副長 土方十四郎である。
「……副長さんも、煙草ですか」
胸元から取り出そうとした箱をそっと戻した彼は、私の煙草仲間。
「あぁ…そのつもりだったが…」
こりゃダメだな、と副長さんはため息をついた。
煙草仲間といっても、お互い紫煙がのぼっている間、かるーい会話を交わすか交わさないか程度の関係で。
仲間と呼んでいいのか実際は怪しいところである。
「…どんどん我々の場所が失われていきますね」
「歩きながら吸うっつうのも、周りからの目が冷たくてできねェしな」
「…吸ってますよね?いつも。」
「…吸ってねェよ」
鬼の副長といえば、かなりのヘビースモーカー。
大抵咥え煙草で街を歩いている。
バツが悪そうに目を逸らす副長さんが何だか面白くて、私は彼に詰め寄った。
「吸ってますよね?」
「うるせェ」
「おかしいな~では街の人に聞いてみましょう。どなたかー!このひとが――」
「ばっ!やめろ大声出すんじゃねェ!」
「白状しないんですもん!ほら?ほら?素直になったらどうです??」
じりじりと詰め寄り、高身長の彼の目を下から覗きこむと、彼は一瞬目を見開き、直後に思いっきり顔を背けられた。
何故だと私が文句を言おうとする前に、副長さんが完全に開き直った。
「あーはいはい吸ってますよ!吸わなきゃやってらんねーの!」
「そうやって人間は煙草に逃げるわけですね!」
「ほっとけ!つーかお前そんなに喋るキャラだったか!?」
「仕方ないでしょ!こっちだって吸えなくてイライラしてるんですよ!それにむしろこっちが素なんで!!」
「だからって急に本性出すんじゃねーよ!困惑するわ!最後の最後になって!」
「さ、最後の最後って……そうか、最後、か…」
副長さんが発したフレーズが、私の中で重く響いた。
そうか。これからこの場所で煙草を吸うことはないのか。
そう思うと私の視線は自然と地面に落ちていた。
「…急に黙り込むんじゃねーよ」
あーくそっと髪をグシャッと掻き上げて、副長さんは、灰皿があった場所の隣に設置されている自動販売機で飲み物を買いはじめた。
「…ほらよ」
「っうお!?」
私に向かって声と一緒に飛んできたのは、缶コーヒー。
俺の奢りだ、と言いながら続いて自分の分を買っている。
鬼と呼ばれる副長さんだが、仕事の顔をあまり知らない私は恐ろしさを感じることはない。
むしろ、優しい。
「ありがとう…ございます」
「…まぁ…お互い、他の喫煙場所を見つけよーや」
「そう、ですね…」
私の様子をうかがいながら、優しい声色で話しかけてくれる。
他の場所…か。
やはり、いつもの場所はもう無くなってしまうんだな。
改めてそう思うと、かなり寂しい。
「…大丈夫か?」
俯く私の顔を、少し心配そうな表情で副長さんが覗き込んでくる。
突然目の前に現れた綺麗な顔に、私は心臓が止まりそうになった。
「っだ、大丈夫です!あ、あれっ、お仕事は?副長さんこそ大丈夫ですか?」
「…あぁ。そろそろ戻らねェとな。」
缶コーヒーをグイっと飲み干し、ゴミ箱へ放り込むと、じゃあなと副長さんは背を向けた。
副長さんが、行ってしまう。
副長さんと、お話しできなくなる。
去っていく彼の後姿を見て気付かされた。
この場所が無くなることだけが辛いのではないのではないことを。
ここで煙草を吸うとき、大抵となりに副長さんが立っていた。
新しい喫煙場所はすぐに見つかるだろう。
だけど、そこに副長さんがいないと意味がないのだ。
「ふ、ふくちょ――
「まめ子」
声が震えながらも副長さんを呼び止めようとしたが、先に彼の口から私の名が呼ばれた。
「え、私の名前…なんで知って…」
「まめ子、返事。」
「えっ、あ…はっは、はい!」
私の反応に対し、焦りすぎだろ と薄く笑みを浮かべながらこちらを振り返る姿は、また私の鼓動を不規則にさせる。
「そこの3つ目の角を曲がった先にある灰皿はまだ撤去されてねェから」
ん?灰皿?
「……はあ」
「んだよその気の抜けた返事は」
「いや、このタイミングで灰皿情報を提供されるとは」
「求めてた情報だろうが。明日から俺はそっちに行くからよ」
「そ、そうですか…」
「…意味、分かってんのか?」
「…俺の縄張りに入ってきたら叩き斬るぞ?」
「威嚇じゃねェよ!野良犬か俺は!」
発言の意図が分からず困惑の表情の私を見た副長さんは、大きくため息をついてまた背を向けて歩き出した。
「明日から、お前もその場所に来いってことだ。そのくらい察しやがれ。」
生きづらい世の中。
先ほどまで霞んで見えた未来が嘘のよう。
鬼の副長さんが私の新しい"いつもの場所"を作ってくれた。
~ fin ? ~
―後日―
「そういえば、私の名前、なんで知ってるんですか?」
「え…」
「教えてないですよね?」
「…別にいいだろ。お前だって俺の名前知ってるだろうが。」
「真選組 鬼の副長の名前を知らないほうが少ないですよ」
「いや、ほら…あれだ……部下が、勝手に調べたんだよ」
「はい?部下が??勝手に???」
「っるせえな!調べちゃいけねェのか!!気になったんだよ職業柄!!」
「…職業柄というのが納得いきませんが、知りたかったのなら、本人に直接聞けばよかったのでは…?」
「あ……」
タバコがうまい。
いつもの場所で味わうタバコは格別だ。
そう、格別だったのだ・・・
~いつもの場所~
「生きづらい世の中になったねぇ・・・」
"いつもの場所"に立ち寄った私は呟いた。
そこに見える光景が"いつもの場所"とは変わってしまっていた。
私の相棒、灰皿がいないのだ。
「ここにまで魔の手が及んでしまったのか」
灰皿があったはずの場所には違和感を覚える空間があるのみ。
禁煙が叫ばれる今のご時世。
町からは喫煙所や灰皿が撤去され続けている。
そして、私が通っていたこの場所も
ついに撤去の対象となってしまったようだ。
「あぁ…新しい場所を開拓しなければ…」
肩を落とし、溜息をこぼしていると、私の後ろで一つの足音が止まった。
「な、無くなってやがる…」
おぉ、私と同じ悲しみに暮れる同志がいるじゃないか。
この悲しみを一緒に分かち合おうじゃないか。
「ひどいですよね!喫煙者に対するこ、のし…う、ち……」
振り返った先を見て私は目を丸くした。
そこに見える黒い隊服。
腰の刀。
無造作な黒髪。
切れ長の目
…は今はこちらの姿を確認したためか大きく見開かれているが、私の知っている姿と同じである。
「ど、どうも…」
「……おう」
真選組 副長 土方十四郎である。
「……副長さんも、煙草ですか」
胸元から取り出そうとした箱をそっと戻した彼は、私の煙草仲間。
「あぁ…そのつもりだったが…」
こりゃダメだな、と副長さんはため息をついた。
煙草仲間といっても、お互い紫煙がのぼっている間、かるーい会話を交わすか交わさないか程度の関係で。
仲間と呼んでいいのか実際は怪しいところである。
「…どんどん我々の場所が失われていきますね」
「歩きながら吸うっつうのも、周りからの目が冷たくてできねェしな」
「…吸ってますよね?いつも。」
「…吸ってねェよ」
鬼の副長といえば、かなりのヘビースモーカー。
大抵咥え煙草で街を歩いている。
バツが悪そうに目を逸らす副長さんが何だか面白くて、私は彼に詰め寄った。
「吸ってますよね?」
「うるせェ」
「おかしいな~では街の人に聞いてみましょう。どなたかー!このひとが――」
「ばっ!やめろ大声出すんじゃねェ!」
「白状しないんですもん!ほら?ほら?素直になったらどうです??」
じりじりと詰め寄り、高身長の彼の目を下から覗きこむと、彼は一瞬目を見開き、直後に思いっきり顔を背けられた。
何故だと私が文句を言おうとする前に、副長さんが完全に開き直った。
「あーはいはい吸ってますよ!吸わなきゃやってらんねーの!」
「そうやって人間は煙草に逃げるわけですね!」
「ほっとけ!つーかお前そんなに喋るキャラだったか!?」
「仕方ないでしょ!こっちだって吸えなくてイライラしてるんですよ!それにむしろこっちが素なんで!!」
「だからって急に本性出すんじゃねーよ!困惑するわ!最後の最後になって!」
「さ、最後の最後って……そうか、最後、か…」
副長さんが発したフレーズが、私の中で重く響いた。
そうか。これからこの場所で煙草を吸うことはないのか。
そう思うと私の視線は自然と地面に落ちていた。
「…急に黙り込むんじゃねーよ」
あーくそっと髪をグシャッと掻き上げて、副長さんは、灰皿があった場所の隣に設置されている自動販売機で飲み物を買いはじめた。
「…ほらよ」
「っうお!?」
私に向かって声と一緒に飛んできたのは、缶コーヒー。
俺の奢りだ、と言いながら続いて自分の分を買っている。
鬼と呼ばれる副長さんだが、仕事の顔をあまり知らない私は恐ろしさを感じることはない。
むしろ、優しい。
「ありがとう…ございます」
「…まぁ…お互い、他の喫煙場所を見つけよーや」
「そう、ですね…」
私の様子をうかがいながら、優しい声色で話しかけてくれる。
他の場所…か。
やはり、いつもの場所はもう無くなってしまうんだな。
改めてそう思うと、かなり寂しい。
「…大丈夫か?」
俯く私の顔を、少し心配そうな表情で副長さんが覗き込んでくる。
突然目の前に現れた綺麗な顔に、私は心臓が止まりそうになった。
「っだ、大丈夫です!あ、あれっ、お仕事は?副長さんこそ大丈夫ですか?」
「…あぁ。そろそろ戻らねェとな。」
缶コーヒーをグイっと飲み干し、ゴミ箱へ放り込むと、じゃあなと副長さんは背を向けた。
副長さんが、行ってしまう。
副長さんと、お話しできなくなる。
去っていく彼の後姿を見て気付かされた。
この場所が無くなることだけが辛いのではないのではないことを。
ここで煙草を吸うとき、大抵となりに副長さんが立っていた。
新しい喫煙場所はすぐに見つかるだろう。
だけど、そこに副長さんがいないと意味がないのだ。
「ふ、ふくちょ――
「まめ子」
声が震えながらも副長さんを呼び止めようとしたが、先に彼の口から私の名が呼ばれた。
「え、私の名前…なんで知って…」
「まめ子、返事。」
「えっ、あ…はっは、はい!」
私の反応に対し、焦りすぎだろ と薄く笑みを浮かべながらこちらを振り返る姿は、また私の鼓動を不規則にさせる。
「そこの3つ目の角を曲がった先にある灰皿はまだ撤去されてねェから」
ん?灰皿?
「……はあ」
「んだよその気の抜けた返事は」
「いや、このタイミングで灰皿情報を提供されるとは」
「求めてた情報だろうが。明日から俺はそっちに行くからよ」
「そ、そうですか…」
「…意味、分かってんのか?」
「…俺の縄張りに入ってきたら叩き斬るぞ?」
「威嚇じゃねェよ!野良犬か俺は!」
発言の意図が分からず困惑の表情の私を見た副長さんは、大きくため息をついてまた背を向けて歩き出した。
「明日から、お前もその場所に来いってことだ。そのくらい察しやがれ。」
生きづらい世の中。
先ほどまで霞んで見えた未来が嘘のよう。
鬼の副長さんが私の新しい"いつもの場所"を作ってくれた。
~ fin ? ~
―後日―
「そういえば、私の名前、なんで知ってるんですか?」
「え…」
「教えてないですよね?」
「…別にいいだろ。お前だって俺の名前知ってるだろうが。」
「真選組 鬼の副長の名前を知らないほうが少ないですよ」
「いや、ほら…あれだ……部下が、勝手に調べたんだよ」
「はい?部下が??勝手に???」
「っるせえな!調べちゃいけねェのか!!気になったんだよ職業柄!!」
「…職業柄というのが納得いきませんが、知りたかったのなら、本人に直接聞けばよかったのでは…?」
「あ……」
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