本篇
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「たくさん買いましたね~」
「そうですね。手伝って頂いて助かりました。」
「いえいえ。鳩山補佐のお願いですから!」
土方から頼まれた買い出し。
山崎とまめ子…否、まめ男は両手に荷物を抱えて歩く。
「これで全部でしたっけ?」
「えっと…リストによると…あとは刀鍛冶ですねぇ。」
「じゃあ俺が行ってきますよ!」
「いや自分が…」
「でも、もうすぐ副長達が戻られるのでは?」
副長補佐の肩書きに気を遣ってか、屯所で副長を出迎えたほうがよいのではと山崎は進言する。
「あぁ…ですが自分が頼まれた事なんで。」
「では一緒に行きましょう!」
「気持ちはうれしいですが山崎さん、今日は西の方角はよくないですよ。」
「…いつも思うんですが…その占いはどこから…?」
「テレビと、独学です。」
「補佐の占い…謎の恐怖を感じますよね…」
「買い出しご苦労」
引きつった笑顔の山崎の肩越しに、パトカーが止まったのが見えた。
そちらへ二人が顔を向けると、運転席の窓から顔を出す土方と、その奥からこちらへ手を振る近藤の姿が見えた。
「局長!副長!」
「お疲れ様です。」
「おつかれ!ザキとまめ男も乗っていくか?」
「いいんですか!補佐、乗せてもらいましょう!」
嬉しそうに車へ走り寄る山崎。
まめ男はひとつ会釈をして山崎に続く。
「お前、歩きたくねぇだけだろ」
「だ、だって!副長のマヨネーズが重いんですよ!」
「マヨネーズの為だろ。文句言うなら叩っ斬る。」
「えぇ……」
納得のいかない顔の山崎はトランクへ荷物を積み込み、後部座席のドアを開けて車へ乗り込む。
まめ男も持っていた荷物をトランクへ入れ、後部座席のドアを閉めた。
「…乗らねぇのか?」
そう、まめ男は車の外。
車内から三人が不思議そうに様子を伺う。
土方の問いに、まめ男は縦に首を振った。
「はい。まだ一軒寄るところが」
「あっ、刀鍛冶!」
「おぉ、それなら皆で一緒に行こうじゃないか。」
「大丈夫です。荷物と山崎さんをお願いします。」
「”荷物の山崎さん”、だってよ」
「悪意しかない聞き間違いですね、副長」
「まぁまぁ。トシなりの愛情表現さ。なぁまめ男…あれ?おーい!」
まめ男は既に歩き始めており、
路地へ続く道の手前で三人へ一礼をし、角の向こうへ消えていった。
早く戻らなければ。夕食の手伝いもしなければならない。
焦る気持ちに任せて歩いていたが、はっと我に返り足を止める。
刀鍛冶の場所を思い出せない。
「あれ、どこだっけ。こっちだった気が…」
まだ歩き慣れていないこの町は、まめ男にとっては迷路のように見える。
刀鍛冶を訪ねたのも、土方が依頼に行くときについていった一度きりだ。
店を探してキョロキョロと辺りを見回していると、
後ろから声がひとつ飛んできた。
「町を見廻る人間が迷子たぁ、税金返せコノヤロー」
声の主を確認しようと振り返ると、そこには白髪頭の男。
一般市民とはどこか違う雰囲気を纏っている。
「…すみません、まだ不慣れなもんで…」
「…ん?アンタ、期待のルーキーじゃね?」
「は?」
「やっぱそうだ。テレビで観たぜ〜虫取り網持ってた奴だろ~」
興味津々といった顔で近付いて来たかと思うと、
「へ〜」とか「ほ〜」とか言いながら白髪頭の男はまめ男の周りをグルっと回る。
虫取り網…数日前の立て篭り騒動時のラッキーアイテムだ。
「ちょ、ちょっと…」
つま先から頭の先まで嘗め回すように視線を動かし、最後にまめ男の顔を見てニヤリと笑う。
まめ男も引きつった笑顔で一応返しておく。
「期待のルーキーの割にゃあ、鍛錬が足りねぇんじゃねぇの〜?」
「い、いや…」
「腕も鍛えちゃいるがまだ細ぇ。それに足腰!女子かアンタは」
腰をバシッと叩かれ、「いたっ」とまめ男は少しよろけた。
勘づいているのか、この男は。
死んだ魚のような目をしているが、観察眼は生きているようだ。
「…勘弁してくださいよ」
この男にはあまり関わらないほうがよい。
そう判断したまめ男は苦笑いを浮かべつつ、この男と距離を取ろうと後ろへ足を動かす。
しかし男はお構いなしに、前屈みになりググッと顔をまめ男の顔へと近付けてきた。
「っ!」
「なかなか綺麗な顔してんねぇ、ルーキー。」
「…んな事無いですよ」
「女装しても違和感無さそうだなぁ」
「何を言って…」
「アンタ、小遣い稼ぎしたくない?」
「…は?」
至近距離でニタァと笑う男に少し恐怖していると、
突然まめ男は、背後から襟を勢いよく引っ張られた。
「うぉっ…!?」
「うちの隊士にちょっかい出してんじゃねぇよ、万事屋」
「副長…!」
「少ーしお話ししてただけだろーが、鬼の副長さんよぉ」
嫌なものでも見たような顔で、白髪の男は体勢を元に戻す。
土方も眉間に皺を寄せ、お互いに睨み合っている。
そんな二人の下で、まめ男は首根っこを掴まれたままキョトンとしていた。
「…よろずや?」
「ああ、万事屋の銀さんとは俺の事よ。」
「何かと関わってくるが、無視すりゃいい」
「ひどいねぇ〜アンタの上司は。パワハラの相談も何でも乗るからよ、いつでも連絡ちょーだい」
そう言い万事屋は、まめ男に名刺を渡し、土方をもう一度睨みつけて去って行った。
「あの野郎…何がパワハラだ」
「万事屋、坂田銀時…」
「…そんな名刺さっさと燃やしとけ」
土方は不機嫌そうに名刺を睨みつけている。
仲が悪いんだな、と悟ったまめ男は深くは聞かないことにした。
「……ところで副長、そろそろ離してもらえません?」
依然として土方に捕まったままの状態だ。
そろそろ苦しい。
ちらりと土方を見上げると、少し呆れた眼差しでまめ男を見下ろしている。
「お前、刀鍛冶の場所覚えてんのか」
「…えっ」
「覚えてねぇのに一人で行くな阿呆」
一つ溜め息を付き、土方は襟から手を離した。
空いた手で懐を探り、煙草を取り出す。
「すみません…局長達は?」
「山崎に運転させて帰った。」
「なるほど…」
煙草に火をつけ、息を吐き出すと、
白い煙が、日の暮れ始めた空に漂った。
「覚えるまでは、俺の後ろを歩いてろ」
「…ありがとうございます。」
不愛想な口調にも、優しさが見える。
迷惑をかけたと申し訳ない気持ちもあるが、
なんだかあたたかい気持ちになれた。
土方の後ろを歩きながら、まめ子は、少し微笑んでいた。