本篇
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あの日、貴方に拾われて
私は自由を知った。
外の世界を、生きる実感を知ったのだ。
「ご覧ください!あちらのビルにテロリストが立てこもっているとのことです!こちらから中の様子を伺うことはできません。人質がいるとの情報ですが·····果たして無事なのでしょうか!?」
「ん?あ、あれは·····!」
マスコミと野次馬でごった返す現場に、サイレンを鳴らしながら複数の車が勢いよく停車した。
その車から続々と降りてくる人間達に、観衆の視線が一斉に集まる。
憧れのような、呆れたような、様々な視線の先に現れたのは·····
「·····今日は平穏な1日だと、テレビの占いは言っていました」
「んなもんアテになるか。その手に持ってるラッキーアイテムを今すぐしまえ」
「俺は最下位だったんだぞ!危ないことに巻き込まれると言われたんだぞ!どーすんのトシ!」
「知るかよ。絶賛巻き込まれ中じゃねーか」
「俺ァ運勢1位でさァ。なんでも願いが叶うらしいんでとりあえず土方死ね」
「物騒な願い事してんじゃねェ!」
「これ·····副長のラッキーアイテムです」
「いやいらねぇよ?ハチマキなんざ巻いて仕事しねぇよ?お前ラッキーアイテム過信しすぎじゃね?」
「来ました真選組です!何やら揉めているようですが、ようやく真選組が現場に到着しました!」
現場のピリピリした雰囲気など気にも留めず、なんだか脳天気な会話をしている彼ら。
泣く子も黙る真選組である。
「あのビルか·····なかなかデカいなぁ。何階にいるんだ奴らは?高層階だとキツイぞこりゃ」
ビルを見上げるのは局長 近藤勲。
「山崎の情報だと、奴らは2階にいる。ざっと30人程度だとよ」
煙草に火を付けながら答えるのは副長 土方十四郎。
「2階·····案外低い階にいるんですね」
その隣で虫取り網(ラッキーアイテム)を持っているのは副長補佐 鳩山まめ男。
「きっと昇るのが面倒だったんだぜ」
「てめぇと一緒にすんな」
やる気のなさそうに欠伸をする男は1番隊隊長 沖田総悟。
この4人が、現在の真選組の主要な幹部たちである。
他の隊士たちは周りの警備や情報収集等、慌ただしく動き回っている。
「何で立てこもってんだろーなぁトシ」
「どーせ幕府への不満だろ。詳しくはとっ捕まえて取り調べりゃ分かるこった。」
「とりあえず要求は·····真選組の局長、副長を連れてこい、でしたっけ」
「あれだ。目的は土方の抹殺に違いねェ」
「だからてめぇと一緒にすんじゃねェ!!」
「あーっと!飛び蹴りです!仲間割れです!テロリストと戦うどころか、なんと仲間同士で争いが始まりました!!真選組は一体何をしているのでしょ········きゃあっ!?」
テレビ中継をしているキャスターの顔に急に虫取り網がかかる。
驚いてマスコミ陣が振り返ると、そこには真顔で虫取り網を握りしめるまめ男の姿があった。
「すみません、暴れる副長を映す時には許可を取っていただけますか」
薄く唇に笑みを浮かべているが、全身からは真っ黒なオーラが滲み出でいる。
恐怖を感じたマスコミ陣は後ずさりをし、「すみませんでした」と頭を下げる。
それに満足そうな顔をしたまめ男だったが、後ろから土方に頭を叩かれ、自分も頭を下げる体勢になった。
「何やってんだお前はぁ!!」
「副長を世間の冷ややかな目から守らなければいけないのです·····!」
「余計そんな目で見られるわ!!」
土方はまめ男の手から虫取り網を奪って放り捨てた後、首根っこを掴んでズルズルと引き摺って歩き出す。
近藤、沖田の元へたどり着くと、近藤は大きく頷き、ビルへと視線を動かした。
「いくぞトシ、総悟、まめ男。目指すは奴らが待つ2階だ」
「人質としてそのフロアの職員、約10人がいる。気ィ引き締めてけよ。総悟、鳩山、くれぐれも暴れるな」
「「へーい/はーい」」
颯爽と歩き出す4人。
その後ろ姿はやはり頼もしいものである。
観衆の期待を背負い、彼らは敵の待つビルへと入っていった。
「やぁやぁ皆さん。お待たせして申し訳ない!」
『·········なに呑気な声出してんだ貴様ら』
2階にたどり着くと、フロアの中央に縛られた人質が集められており、その奥に武装した集団が確認できた。
近藤が気の抜けるような挨拶は完全に現場の空気に合っていない。武装集団はこちらの到着を待ちくたびれたのか、イライラを通り越して呆れているようにも見える。
『おい、俺たちが呼んだのは局長と副長だ。他の2人はなんだ』
「俺ァ近々、副長になる男だ。土方を殺すってんなら協力してやってもいいぜ」
「おい総悟。なんであちら側に入ろうとしてんだ。しょっ引くぞ」
『そっちの奴は』
「自分のことは気にしないでください。今のところは自分は無害な存在です故」
「コイツァ、トシのお供だ!気にしないでくれ!」
『いや気になるわ!壁に沿ってひっそり立つんじゃねぇよ何かこえぇよ!』
「自分は無害な存在です故」
『··········まぁいい。とりあえず貴様ら、その腰の刀を捨ててもらおうか』
「んな要求聞くと思うか。いいからテメーら降参しろ。痛い目見る前にな」
『はっ!いいのか、こちらには人質がいるのだぞ』
人質一人の髪の毛を掴んで引っ張りあげ、首元に刃を当てる。
その人質は涙目になり「ひぃっ!」と震えた声を上げた。
「やめろ!彼らには手を出さんでくれ!」
『だったら言う事を聞けぇ!!』
鋭い怒号が室内に響き渡った。
静まり返った空気の中、土方は「はぁ」と溜息をつき、面倒そうに頭を掻く。
「仕方ねぇ。捨ててやるか、近藤さん」
「そうだな、おい総悟、お前も刀を置け」
「ちっ。近藤さんが言うなら仕方ねぇ」
『·····おい、お前もだ、壁際の奴』
「自分は無害な存在です故」
『お前それしか言えねぇの!?いいから捨てろって!』
「·····鳩山」
「副長が仰るなら」
4人は腰の刀に手を添えてそれを抜き取り、床に置こうと腰を屈める。
それを見て武装集団はニヤリと笑い、斬りかかろうと体勢を低くした。
「·····なーんちゃって」
ニカッと笑って武装集団のほうへ顔を上げる近藤。
『なっ、』
「山崎ィイ!!」
土方の合図で、武装集団の上の天井を突き破り飛び降りてきたのは監察方の山崎。
集団の一人を押し潰す形で着地した。
「いててて·····意外と高さがあったんだな·····」
『て、てめぇ何処から·····!』
「おい」
距離があったはずの武装集団と真選組幹部。
声が聞こえて振り返った時には、すぐそこに沖田の姿。
「余所見はいけねェ。そんなんじゃその剣…近藤さんにゃ届かねェよ」
『き、貴様いつの間に·····ぐはっ!』
目にも止まらぬ早さで半数以上をなぎ倒した沖田の姿に、彼らの顔を冷や汗が伝う。
『くそ·····っ!局長か副長、どちらかだけでも切り殺せ!!』
『いや、狙うは真選組の頭脳、土方だぁ!!』
「·····今、なんて言いました?」
『えっ·····』と振り返ろうとするが、背中に鋭いものが当たっているのが分かった。
首だけを動かし、後ろを確認すると、殺気立っているまめ男が目に映る。
『お、お前ら人のバックをとる訓練でもやってんのかぁ!?』
『てめぇ·····無害な存在っつってただろ·····』
「併せて言いましたよ、"今のところは"と」
『は·····?なん―』
言葉を言い切れぬまま、まめ男の足元に次々と倒れていく。
「お二人に·····副長に刃を向けた貴方達は、排除対象です」
残りの敵を一瞬で片付け、刀をしまうまめ男。
こちらへ近付いてきた土方に向かって誇らしげな顔をするが、土方はまめ男の額を軽く小突いた。
「やりすぎだ、アホ」
「·····すみません」
「総悟、お前もだ」
「弱すぎて手加減出来なかったんでさァ」
土方は「あーあ、全員気絶してやがる」とボヤきながらしゃがみ込み、足元で伸びている者達の顔をのぞき込む。
「鮮やかな剣さばきだったなぁ、ザキ!」
「そうですね、さすが沖田隊長と鳩山補佐」
「さすがじゃねーよ。いいから山崎、仕事しろ。コイツらさっさと縛れ」
「はいはい」
「手伝います」とまめ男は土方の隣にしゃがみ、縄を手に取る。
そんなまめ男の顔を見て土方は一つ溜息を落としてから言葉を発した。
「鳩山、一人で突っ込むなと何度言や分かるんだ」
「で、ですが沖田隊長も····」
「総悟は言っても聞かねえから諦めた。だがお前は違う」
「何が違うんですか。自分は一隊士としてー」
「違うだろーが、根本的な部分が。お前は女だ。」
「性別なんて関係ないです」
「怪我なんざされちゃ困るんだよ、色々と。嫁入り前の女に傷付けて気分が良い訳がねーだろ」
「副長·····」
無表情で語る土方の言葉に優しさを感じ、まめ男は微笑んだ。
まめ男という名は隊士としての活動時に使っている偽名である。本名は鳩山まめ子、真選組唯一の女性隊士だ。女性であることは世間に隠し、男装している。
「くそ、縄が足りねぇ。·····確かハチマキがあったな。出せ」
「ほら、ラッキーアイテム」
「っるせぇ」
これは
真選組に拾われた
一人の女性の物語である。
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