本篇
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「やぁやぁよく来てくれた!君が情報屋か!」
副長と隊長に引っ張られて連れてこられた真選組の屯所。
初めて入る。
探検したい。
そんなことを考えてキョロキョロソワソワしていると副長さんに「おい」と言われ、私の気持ちは目の前に座る人物に戻る。
「は、初めまして·····鳩山まめ子と申します」
「俺は真選組局長、近藤勲だ。よろしく頼む!」
ニカッと笑う局長さん。なんとも親しみやすいゴリラ·····じゃなくて、お人だ。
「早速なのだが依頼の話だ。君には、上様の行進ルートを考えてもらいたい。」
「上様の·····行進ルート·····?」
頭にハテナを浮かべていると、局長さんの隣に腰を下ろしながら副長さんがすかさず詳細を教えてくれる。
「毎年、将軍が街ん中を行進すんだろ。町人に触れ合いたいとかいう迷惑な名目でよ」
「あぁ、そうか。もうすぐですよね」
「アンタ、この町のことにも詳しいだろ。持ってる情報使って最適な道順を決めてくれっつー依頼だ」
「私が、ですか」
「お前さんの活躍はよく耳にしている。ぜひお願いしたい!」
「…でも、あの行進ルートって5パターンくらいありますよね?それをランダムに設定しているのでは·····」
「バレちまったんでさァ。今年どの道を通るのか。」
「へ?」
何故か私の横に座った沖田さんの顔を見るととても眠そうな顔。
興味、ないんすね·····
そんな沖田さんの態度を気にも留めず、局長さんは話を続ける。
「いつもはテロ対策で前日の夜、警備体制を整えてから公表してたんだがなぁ。今回は何故かこんなに早くから知られてしまったんだ」
「そうなんですか·····」
「バレちゃいけねぇヤツらに情報が流れちまって、大変なんですぜィ。寝る暇もありゃしねェ」
「総悟、お前昼間何してた?寝てたよね?俺に怒られてたよね?」
「あれは寝てたんじゃなくて夢の中で土方さんを斬りまくってたんでさァ」
「なんつー夢見てんだ!つーか夢見てるってことは寝てんじゃねーか!」
「お客人の前でやめんかお前ら。いやーすまんすまん。どうだろうか、まめ子さん?」
三人に注目されると、かなり話しづらい。
完全アウェーな空間だと尚更。
「バレたのであれば·····別ルートに変えてみては?」
「それが出来りゃあ苦労はしねーよ」
副長さんが大きく溜息をこぼし、局長さんが苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「なんだかこだわりがあるみたいでなぁ。どうしても今年は現状のルートがいいらしいんだ」
「俺達の説得にも聞く耳を持たねえ」
「他のルートに変えるくらいなら、新しいルート考えてこいたァ…何様なんすかねェ」
「上様だよ。それに松平のとっつぁんもな」
「それで、現状のルートについてだが――」
「確かに今年は今のルートが良さそうですよね。川沿いの桜が一番綺麗に見えますから」
「「・・・・・」」
私の発言で静まり返る室内。
何か、まずいことを言ったか。
「·····何で今年の道順を知ってんだ?」
「え?」
やばい、副長さんの目が冷ややかなものに変わった。
「お、俺は喋ってないぞ!お妙さんにだって内緒にしてるくらいだ!」
「興味ねェんで話してやせんぜ」
「俺だって喋るかよ。他の隊士にも固く口止めしてあんだ。なのに、なんでアンタが知ってんだ」
「それは··········毎年の傾向と対策で」
「試験問題じゃねぇから!」
「いえ本当です!過去のルート選択傾向とか天気とかその年の桜の開花具合、新しく建設された建物、その他色々なことを併せて考えれば見えてきますよ!今まで外したことないですから!」
「へェ〜」
「さすが情報屋だなー!なぁトシ!」
「·····チッ。そういうことなら仕方ねーか」
副長さんはなんだか納得していないような表情だが、何とか切り抜けた。
あぶない。また逮捕とか言われるかと思った。
「それだけ情報持ってんなら、新しいルート開拓も出来そうですねィ」
「おぉ!確かにそうだな!」
「そこまでしてルート変えなきゃいけないような人に知られてしまったんですか?その辺の攘夷浪士であれば、そこまで問題なさそうな気も·····真選組なら·····」
「その辺の攘夷浪士なら、な」
部屋の空気が重くなり、
鋭い眼差しで、副長さんはこちらを見る。
私の背筋が自然と伸びたのが分かった。
「アンタも知ってるだろ。·····鬼兵隊 高杉晋助だ」
「た、かすぎ·····さん」
ドキッとした。
いやドキドキしている。
これはまた、私にはまずい流れになるかもしれない。
いや、まさか、、、
「江戸の街がめちゃくちゃになってもおかしくない相手でさァ」
「情報漏洩には気をつけていたんだがなぁ。どうしてバレたんだろうなぁ」
「んなこと今更考えたって仕方ねーよ。とりあえず道順を考え直さねーと」
「ん?どーしたんでィ、まめ子」
焦りながら考え込んでいると沖田さんに名前を呼ばれ、顔を覗き込まれる。普段の私なら慌てふためく距離感だ。
たが今の私にはそんな余裕は、ない。
「あ、あの·····」
「あ?」
怪訝そうな副長さんの目に負けそうになるが、私は大きく息を1つ吸って言葉を続ける。
「高杉さんって、お祭り好きですよね?」
「··········は?」
「好きですよね?好きですよね局長さん?」
「えっ俺!?いや、ど、どーだろうな·····」
「それがなんだ。ハッキリ言え」
イライラを募らせる副長さんを見て、私の心臓は鼓動が早くなる。
もちろん、ときめいたドキドキではない。
「私は、あの人はお祭りが好きだからどうしてもと頼まれて·····だから·····!」
「だから?」
「だ、だから·····お祭りの情報を·····行進の日に一番にぎわう場所を教えてくれって言われて·····」
「·····誰にだ」
「·····河上万斉さんです」
「よーしやっぱ逮捕だ」
「やっぱりそうなるの!?いや待って!話を聞いて!?」
「お前完全に攘夷浪士の仲間じゃねーか!さっきの件といい!」
勢いよく立ち上がり凄い顔でこちらに歩み寄ってくる副長さんから逃れるように、沖田さんの背中に隠れる。
「さっきのも誤解なんです·····!ね、沖田さん!」
「さすがにフォローはできねェや」
「沖田さん!?見捨てないで!」
沖田さんは私の腕を掴み、グイッと前に引っ張った。
その勢いで私は副長さんの足元に跪く形で飛び出した。
「観念しやがれ」
「まぁ待て待て!彼女も悪気があった訳ではないようだし!」
首根っこを捕まれる直前、救いの言葉を投げてくださったのは局長さんだ。
神·····ゴリラとか思ってごめんなさい·····
「悪気があろうが無かろうが関係ねぇ。少し考えりゃ分かるだろ。鬼兵隊のヤツらに教えちゃいけねーことくらい」
「そう言うなトシ!この子が教えたのであれば、情報漏洩の犯人探しなんかもしなくて済むんだ!これ以上話が外に流れることもない!」
「確かに、ここで白状するなんざ、なかなかの度胸ですぜィ」
「度胸があんのか、純粋に祭りの情報与えただけだと思ってるバカなのか分からんがな」
「私はてっきり高杉さんはお祭り男なのだと·····!」
「純粋すぎるわ!!バカだな、お前はバカ確定な!!」
「はぁ」と大きく溜息をつきながら、副長さんは私の前にしゃがみこむ。
私は咄嗟に後ろへ逃げようとするも、胸ぐらをグッと掴まれ、引き寄せられる。
「いいか、責任取って新しい道順を考えやがれ。それ以外お前に選択肢はない。
もし出来なければ·····そんときゃ分かってるよな?」
至近距離で副長さんにドスの効いた声で問われ、私は頷くことしかできなかった。
(こんな状況でも、綺麗な顔には見とれてしまうものなんだなぁ)
私のそんな気持ちを見透かしたように、副長さんは眉間に皺を寄せて私の頭を軽く叩き、局長さんの隣へ戻っていった。