本篇
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「…アンタ、どっかで見たことあるな」
「そそそそそんなわけナイデスヤン、ひじっ、ひじっかったさァん」
「動揺が激しすぎんだろ」
「ほ、ほんとですよね桃太郎ったら鬼の頭かち割っちゃって」
「いやそっちの童謡じゃねェから。マジで童謡が激しすぎるから。」
こちらに鋭い目線を向ける真選組副長・土方さんの正面で、私はストローでジュースをズズッと啜った。
き、気まずい…気まずすぎる…
「あ、あの…それでご用件は…」
「……」
近くのカフェに移動した私たち。
わざわざ副長さんが私に会いに来た用件を聞こうと思っていたのだが
副長さんは私の顔をじっと見るばかりで本題に入らない。
いや…確かにちらっと会ったことはあります。
だがそれは、あまり思い出していただきたくないことで…
「…あ」
「は、はい…?」
「先月、新月の日。お前、屋根の上にいなかったか」
うわあああいきなり核心をついてきたあああ
それ、わたしいいいいい
「…なにを言ってるんですか。やだなぁ副長さん。はじめましてですよ」
「そうか」
「そうですそうです」
「俺の思い違いか」
「そうですそうです」
「かき混ぜすぎだ」
「そうです、そうで…え?」
「飲み物、飛び散ってんぞ」
言葉では平静を装ってみたが手は正直。
ストローでかき混ぜたジュースはグラスから卓上へと飛ばされている。
「…知らないんですか副長さん。これ、最新の飲み方なんですよ。」
「んなわけねェだろ。テーブルに飲ませてるだけじゃねェか。今すぐやめろ、俺に飛んできてんだよさっきから」
「ほら、混ぜれば混ぜるほど美味しくなるって言うじゃないですか」
「納豆の原理を飲み物に当てはめんな。おいぃ!もう半分以上減ってんぞ!ストローから手をはな…っいって!氷飛んできたぞてめぇ!人生初だわ、氷を顔面キャッチしたの!!」
「す、すみません…!」
クールな表情だったかと思えばツッコミ侍になった副長さんは、何かブツブツ言いながらおしぼりで顔を拭いている。
まるでおじさ……言ったら終わる。私の人生。
「…で?」
「はっ、はい?」
拭き終わった副長さんは、おしぼりをテーブルに置き、再び私に視線を戻した。
「どうなんだ」
「どう、とは…」
「いただろ。俺たちが攘夷志士の隠れ家に押し入ってたのを屋根の上から見てたはずだ」
「えっ…と、」
「どー考えても納得がいかねェ。あんな夜に女が一人、屋根の上にいるなんてよ」
「あ、あ~あの日ですね!いや~月が綺麗だなぁと思って見てたんです!」
「新月だっつってんだろ」
「…あ…」
「加えてあの日、あの家ん中には人も、荷物も何もなかった。おかしいんだよ。前日まではその家に普通に出入りしてやがったのによ」
「……あの…」
「まさかお前」
副長さんが私を睨みつけながらこちらに身を乗り出す。
「夜逃げ、手伝ったんじゃねェか?」
冷や汗が背中を伝う。
ストローでかき混ぜる速度が上がる。
再び氷が飛びそうになったが、副長さんにグラスを奪われ阻止された。
無言のプレッシャーに耐えられなくなった私は恐る恐る口を開く。
「…話聞いてくれますか?」
「…あぁ」
「……あの家の人の引っ越しを手伝ったのは、確かに私で―」
「よーし逮捕だ」
「ええええええ!?」
テーブルに置いていた私の手をガシッと握り、副長さんは立ち上がる。
「いやいやいやいやいや!違う、話がちがーう!!」
「うるせェ!さっさと立て!」
「話聞くって言った!話聞くって言った!!」
「言い訳なんざみっともねぇ!詳しくは屯所で聞いてやる」
「いたたたた!引っ張らないでぇ!テーブルが!テーブルが体に食い込む!!鬼!鬼!!」
「あぁそうだよ、鬼の副長とは俺のことだ」
誰も真選組に逆らえる人はいない。
これだけ騒いでいても、全員見て見ぬふり。
助けてぇという私の声は店内に虚しく響く。
ズルズルと引きずられ始めたその時だ。
「真選組副長ともあろう奴が拉致ですかィ」
「あ?ってうおおおおおおお!!??」
私の手を掴んでいた副長さんの腕を切り落とす勢いで、刀が振り下ろされた。
咄嗟に私の手を離し、腕は無事だが。
「っ!危ねェだろうが総悟!!!!」
「いやァ、拉致問題で真選組の好感度が落ちたら困るんでさァ」
「俺の腕が落ちてもいいのか、俺の腕より好感度か!?」
「戻って来ねェからどこほっつき歩いてんのかと思いやしてね。そしたら犯罪現場に遭遇しちまって…」
「何が犯罪だ!俺はこの情報屋をしょっ引くところだったんだよ」
「この女性を?情報屋?」
栗色の髪の、"総悟"と呼ばれた隊士が、座り込む私の前にしゃがみ、私は咄嗟に後ずさる。
だが彼はまじまじと顔を覗き込んでくる。
近いよ、気まずいよ、顔が見れないよ。
「…あり?」
「へ?」
「あんた、鳩山まめ子か?」
「え?」
「なんだ総悟、知り合いか?」
「前に剣を交えたことがあるんでさァ。道場で」
「道場?総悟…?あ!沖田、沖田総悟!」
「おーやっぱりだ。あんた情報屋だったのか。」
久し振りの再会で感動している私の横で副長さんは立ち尽くす。
「え?なに?付いていけないんだけど俺」
「沖田さん、副長さんに言ってください。私は無実だと!」
「無実の人間捕まえようとしてるんですかィ土方このやろー」
「無実かどうかは屯所で聞く。それにだ、情報屋を近藤さんが待ってるだろ」
「…あーそうでしたねィ」
「いや!屯所にはいきませんっ!」
「まーまー情報屋のお嬢。これ以上近藤さんを待たせるわけにはいかないんでさァ」
突然沖田さんが私の腕をつかんだ。
「え?お、沖田さん?」
何事かと彼の顔を見上げると
「とりあえず、大人しくついてきてもらいますぜィ」
真っ黒な笑顔をこちらに向けていた。